【社会主義予算】
[訳註]
後段で出てくる「別荘地改良計画」にしろ、この「大蔵大臣」による「社会主義」予算にしろ、どこか大戦時のイギリス蔵相ロイド・ジョージを思わせます。
【地割れとでも〜】
[訳註]
ここの部分、当初訳したときには具体的な地形が思い浮かばなかったのだけれど、ご指摘をもとに読み返してみると、たぶん↓こんな感じなのだろうと思います。
上から見ると細い裂け目みたいに見えるのに、下に降りると地下洞にいるみたい。
【パナマ帽】
【人前で魚が臭いと…】
[訳註]
原文「But it would be rather awkward to go about in society crying stinking fish.」
「cry stinking fish」で「魚が臭いと叫ぶ=自分の物を悪く言う」という意味の慣用語です。
【海月】
原文「seabeast」とは辞書にも載っていなかったのですが、ランプシェードになぞらえているからにはクラゲだろうなあ、と判断し、「クラゲ」と訳しておきました。
※ここはご指摘により解決済みです。
【何かが起こるはずの】
[訳註]
典拠不明。原文は引用符でくくられていなかったので、直接の引用ではないのだと思います。「スティーブンスン」とはおそらくR・L・スティーブンスンのことだと思うのですが。『宝島』、『ジキルとハイド』、詩集など読んでそれらしいところを探してみようと思います。
【新角度派の芸術家】
[訳註]
原文では「the new angular artists」。そのまま直訳して「新角度派の芸術家たち」としました。文脈からキュビストのことを指しているようですし、以前の拙訳では「立体派の芸術家」と意訳していました。吉田誠一による既訳も「立体派の画家」としています。
どうしようか迷ったあげく、「新角度派」と直訳しました。ほんとは「角度」というより「角《かど》・角《かく》」なんでしょうけど。
【放射する白光】
イギリスの詩人、パーシー・ビッシュ・シェリー(1792-1822)の詩「アドネース」より。本文に引用した部分は上田和夫訳より引用。
原文
Life, like a dome of many-coloured glass, stains the white radiance of eternity.
上田訳では「『生』は多彩なガラスの円蓋のように」「『永遠』が放射する白光をいろどる」となっている。
(引用者註。引用文中の「」を『』になおしたことをお断りしておきます。)
【フィッシャー】
[訳註]
「Fisher」とはもちろん「釣り人」のことです。
【別荘地改良計画】
[訳註]
第八話の註でも書きましたが、この「別荘地改良計画」というのは、ロイド・ジョージの「人民予算」を思わせます。
しかし1917年に書いた評論『高利貸しのユートピア』の中では、チェスタトンはロイド・ジョージに批判的なんですね。
【別荘でなければ〜】
[訳註]
ここの部分のせりふがわかりづらかったのですが、つまり以下のようなことなのだと思います。
1.18世紀からの農業革命により、家畜の品種改良がさかんに行われた(これは事実)。
2.品種改良の功績により、爵位を持たない地主階級や時の政治家に爵位が授与されたことがあったのでしょう(これは推測)。
【ところがまるで、〜】
[訳註]
ここの箇所も少しわかりづらい表現でした。いえ書かれてあることはわかるのだけれど、チェスタトン流の言い回しのせいでよくわからない。
ここはようするに「もう一人の自分」というか、まったく同じ姿の人間が世界のどこかにいるんだよ、とかいうような俗信を踏まえての表現だと思われます。ドッペルゲンガーというかクローンというか。その少し前に「全世界が裏返された」という記述があったので、これは裏返しというか、反転した鏡の世界かなにかかな、と解釈し、「世界が反転させられた」と訳しました。同じ理由で「on the other side of」も「と背中合わせに」と訳しています。書き割りの片側は現実世界で、反対側は現実を反転させた鏡の世界。
鏡の世界といえば、冒頭あたりでマーチが出くわした谷間は、上から見ると小人の世界みたいに見えて、下に降りると断崖で、といったあたりがアリス的かもと思いました。こじつけですが。
【だが間もなく〜】
[訳註]
うまく日本語で表現できないのですが、イメージとしてはこの写真のようなことだと思うのです。→ここ。
※リンク先が何のサイトかは知らん。危険ではないけれど、不安な人はクリックしないように。
壁一面が柱・窓・柱・窓・柱……と並んでいて、柱と柱の間のステンドグラスから色つきの淡い光が射し込み、光がしましまになっている状態。つまり原文は、柱・窓・柱……の代わりに、松の木・切れ目・松の木……となっているのだということを表現しているのではないかと考えております。
【老水夫のように】
[訳註]
サミュエル・コールリッジ「The Rime of the Ancient Mariner」(老水夫行・老水夫の歌)のことです。ミステリファンにはおなじみ、シャーロット・アームストロング「あほうどり」のあの詩です。
チェスタトンの原文では↓こうなっていて、
holding the man all the time with a glittering eye like the Ancient Mariner.
コールリッジの詩は↓こう、
He holds him with his glittering eye--
大和資雄氏の邦訳を参考に訳文をつくったことをおことわりしておきます。
【豚肉を詰めて〜】
[訳註]
ここの箇所がよくわかりません。
But he never learned to hold a gun when he was packing pork or whatever he did.
吉田誠一訳では「何をしてたんだか知らんが」となっています。おそらくそれが正しいのでしょう。ただ調べて確認がとれなかったので、とりあえず直訳しておきました。
【クリノリン】
19世紀頃に流行した、スカートをふくらませるための下着のこと。またはその下着を使ってふくらませたスカートのこと。
【平凡だ】
[訳註]
ジェンキンズが初登場したシーンに、ジェンキンズは「平凡な小男」だという記述あり。
【ジンクス】
[訳註]
ありふれているように見えるけれど、実はありふれていない名前というこの理屈に関して、面白い記述のあるメーリング・リストを見つけました。ここです。
「縁起の悪いこと」という意味の「ジンクス」の語源についての考察で、この「的の顔」を引用しています。その人は別の作品からも引用していて、そこでは「ブラウン、ジョーンズ、スミス」と並んで「ジンクス」が挙げられています。そのあとで「百年くらい前は今よりもジンクスという名前は一般的だったのだろうか?」なんて疑問を呈していました。
この人の言葉を信じるかぎりでは、少なくとも現在はジンクスという名前はありふれてもなければありふれていると思われてもいないということですね。日本で「鈴木太郎」という人が実際に何人いるかはともかく、“ありそうな名前”だと認識されている(であろう)のとはちょっと違う。※ただこの人はアメリカ人ぽいのでイギリスだとまた感覚が違うのかもしれませんが。
【『パンチ』】
[訳註]
『パンチ』はイギリスで発行されていた風刺雑誌です。カリカチュアされた風刺画が掲載されていました。日本人が眼鏡に出っ歯、みたいなイメージで、成金が派手な格好で描かれていたのでしょう。※以前の訳ではパンチとジュディのパンチかと思っていたのだけれどどうやら間違っていたようです。。
【袱紗に才能を〜】
[訳註]
ルカ福音書19:20に、主に預けられた金を失うのが怖くて袱紗に包んでしまっておいた男の話があります。また聖書では、そういう理屈をつけてやるべきことをやらない人のことをしばしば「偽善者」と呼んでいます。
【格子柄】
[訳註]
なんでここでいきなり格子柄が出てくるのかと思ったけど、よく確認するとジェンキンズは「派手なツイード」を着ていたと書かれてありました。どうもここで言う「ツイード」とは、「ツイード生地」のことではなく「ツイード柄」=「チェック柄」のことのようです。
【トゥールやちびのティッチ】
[訳註]
「Toole」は1830年生まれの喜劇役者。『クリスマス・キャロル』のボブ・クラチット役で当たりをとる。ボブ・クラチットは小柄という設定だし、少年役が多かったとも書かれているので、おそらく小柄な役者だったのでしょう。なにせ並べられているのが「Little Tich」だしジェンキンズも小柄だし。
「Little Tich」は1867年生まれの喜劇役者。本名Harry Relph。「Little Tich」とは、ある人物がTichborne卿の遺産を騙し取ろうとした当時の事件から取ってつけたようです。「Little Tich」で検索すると「リトル・ティッチとデカ靴」という映画がヒットします。スキーみたいに長い靴を履いてどたばたする芸風だったらしい。
【冠代を】
[訳註]
何となくはわかるんだけど、どう訳せばいいのかわかりません。
he'd be done for if Jink can't pay for his coronet.
【】
[訳註]