皇帝の密使
ジュール・ヴェルヌ
第一章 新王宮の祝宴
「陛下、お手紙です」
「どこからだ?」
「トムスクからです」
「トムスクから先は通信が断たれたのか?」
「はい、陛下、昨日から」
「トムスクへは常に電信していよ、将軍。起こったことはすべてをわたしに知らせるのだ」
「仰せのとおりに、陛下」キーソフ将軍は答えた。
これらの言葉は、夜半過ぎ約二時間にわたって交わされた。新王宮で催された祝宴が、たけなわのところだった。
プレオブラジェンスクとパウロヴスク連隊の楽団が夜通しで、レパートリーから選りすぐりのポルカ、マズルカ、ショッティーシュやワルツを休むことなく演奏している。無数の踊り手たちが、王宮の壮大な大広間のなかをぐるぐる回っていた。そこは「石造りの古き家」からほんの数歩のところに建っていた。かつて幾多の恐るべき事件のあったその壁は、今夜は楽団員の陽気な調べが響いていた。
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