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土蜘蛛草紙
―つちぐもざうし―

其の一

翻刻
みなもとの頼光、〔清和〕帝の御末ときこえて心たけくつはものと聞こえたり。神無月廿日あまりの比、きた山の邊りに行しけるに蓮臺野にいたりぬ。郎等に綱といふお〔ママ〕のこ有、是も余の人にまされりかしこき兵なりければ、あひしたがひけり。頼光、三尺の剣ひさげ、つなは腹巻を〔○○○〕て弓箭を左右にしたがへり。とかくたヽずむほどに一のどくろそらを〔飛べり〕。是を見るに風にしたがひて雲にいりぬ。綱云合てこの行方をたづねゆくに神楽岡と云ところにいたりぬ。どくろ見ず成りぬ。その所にふるき家あり。

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土蜘蛛草紙 


現代語訳
名高き源頼光は清和天皇の御子孫とて勇猛果敢な武将と御評判である。十月の二十日ごろ、北山付近の蓮台野までお出かけになった。郎等に渡辺綱という者あり、並ぶ者なき優れた武将ゆえお供に従う。頼光は三尺の剣を提げ、綱は腹巻鎧を身にまとい弓矢取りを左右に従えた。かくして歩きゆくほどに、一つの髑髏が空を飛ぶのを見る。風に吹かれて雲間に隠れたのを、綱と相談しつつ行方を追えば神楽岡という場所にたどり着く。髑髏はもう見えず、古い家があった。

解説
源頼光《みなもとのよりみつ》は、土蜘蛛退治のほか、酒呑童子や一条戻り橋の鬼退治でも有名。本文中にあるとおりの勇猛な武将というわけです。その部下、渡辺綱《わたなべのつな》も、頼光とセットで有名と言っていいと思います。頼光四天王の筆頭。
『平家物語』『太平記』『源平盛衰記』「剣巻」に、頼光が膝丸という名刀で土蜘蛛を退治して以来、その刀が蜘蛛切と呼ばれた、というエピソードがあります。本文中の「三尺の剣」が、その「膝丸(=蜘蛛切)」かもしれません。


画像
先頭の赤毛の馬に乗るのが頼光。わかりづらいが剣を差している。後ろの馬上が綱。鎧姿。矢を提げ弓を持っている。「弓箭を左右にしたがへ」という原文を「弓矢取りを左右に従え」と訳したが、綱が「弓矢を左右に持ち」という意味かもしれない。絵を見た限りでは後ろの二人のうち、手前の人物は弓矢を持っているが、奥の人物は花の枝しか持っていないのだから。
ちなみに綱のすね当て鎧の色は、この絵だけが白で、ほかは黒い。バックに位置する馬の鞍が黒いから、手前のすね当てを白く描いたのかもしれない。頼光の袖がないのも、馬の茶と袖の茶がかぶることを避けたのか。いずれにしろ絵師の意図的なテクニックだろう。


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凡例

翻刻中の記号について
・文字〔ママ〕は、誤字・誤記・異体と思われるものも一般的な表記に改めず原文のママとしたことを表わす。(「おのこ」は「をのこ」と改めずに、「お〔ママ〕のこ」とした。)
・〔○○〕は判読不能の箇所。(例「腹巻を〔○○○〕て」)
・〔文字・文章〕は、判読不能だが文脈から補った文字・文章。または『続日本の絵巻』の釈文を参照した部分。(例「そらを〔飛べり〕。」)
文字文字 は、見せ消ちだと思われる箇所。(例「に」=「の」を消して「に」とあることを示す。)


その他の凡例
一、変体仮名は現行の仮名に改めた。
一、漢字を正字体にするか新字・略字体にするかは割と恣意的です。(仮に原文に「尓《なんじ》」とあったとして、翻刻で「爾」にするか「尓」にするかは特に統一してない。ただし「爾《なんじ》」とあれば、「爾」と翻刻する。)
一、句読点は翻刻者が補った。濁点も。
一、踊り字は踊り字のまま表記した。(例えば「たヽずむ」を「たたずむ」とは書かない。)
一、会話・セリフは「 」でくくった。
一、現代語訳はあまり逐語訳ではありません。(完了形とか敬語とかはとりわけ厳密じゃない。)
一、翻刻、現代語訳:wilder。複製・配布なんでも自由。ただし翻刻の正しさは保証の限りではない。(『続日本の絵巻』の釈文を参考にしているのでアホみたいに的外れなことはしていないとは思うけれど。古文の「校訂」には著作権があるとの見解が主流です。どうしてもわからない部分は底本の小松茂美氏の解釈を参考にさせていただきましたが、翻刻自体はあくまでwilder個人が行ないました。)
一、著作権の切れた絵画の写真には、原画を所有している人物の所有権も、写真を撮った人物の著作権も存在しません。(彫像の写真には写真家の著作権が発生するそうです)。
一、底本には、中央公論社『続日本の絵巻26』を使用した。

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