この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第九十九章 姿を消したと思われていたものの残念には思われていないであろう昔なじみに、読者が再会を果たす次第

 読者の方々は疑問に思われるのではないだろうか。これから極めて重要な役割を果たすことになるフラジョ先生が、どうして辯護士ではなく代訴人と呼ばれていたのか。読者の疑問はもっともなので、そのおたずねに応ずることにしよう。

 しばらく前から高等法院はしょっちゅう休廷され、辯護士はほとんど仕事をしていなかったので、お伝えするような出来事もないような状態だった。

 フラジョ先生は辯護の仕事が一切なくなることを見越して、代訴人のギルドゥ先生と何度か話し合いを持ち、二万五千リーヴルと引き替えに事務所と顧客を譲り受けていた。これがフラジョ先生が代訴人になっていた事情である。如何にして二万五千リーヴルを支払ったのかと問われたならば、マルグリット嬢との結婚によってとお答えしよう。マルグリット嬢はショワズール追放の三か月前、一七七〇年の暮れ頃にそれだけの金額を相続していたのだ。

 フラジョ先生は昔から筋金入りの野党支持者であった。代訴人になるとその傾向に拍車が掛かり、それが理由で評判となった。デギヨンとラ・シャロテの対立に関する扇情的な意見書の刊行に加えてこの評判が、高等法院の情勢を詳しく知りたがっていたラフテ氏の目に留まった。

 だが新たな地位といや増す威光を手に入れたというのに、フラジョ先生はプチ=リヨン=サン=ソヴール街を離れなかった。マルグリット嬢にとって、隣人からフラジョ夫人と呼ばれずにいたり、ギルドゥ先生から引き継がれた書生たちから敬意を払われなかったりするのは、さぞかしつらいことだったに違いあるまい。[*1]

 言うまでもないことだがパリを移動中のリシュリュー氏は顔をしかめていた。吐き気のするような地区を通らないと、パリの役人が街路の名を冠したそのごみ溜めには近づけないのだ。

 フラジョ邸の前まで来ると別の馬車が停まっていたためリシュリュー氏の馬車も停車を余儀なくされた。

 馬車から降りようとしているご婦人の髪飾りが見えたので、七十五歳とはいえまだ紳士のたしなみを失くしてはいないリシュリュー元帥は、慌てて真っ黒なぬかるみの中に足を踏み入れ、一人で降りようとしていたご婦人に手を貸そうとした。

 ところがこの日のリシュリューはつくづくついていなかった。踏み台に降ろされた足はざらざらと干涸らびており、明らかに老婦人のものだった。紅の引かれた皺くちゃのくすんだ顔を見れば、この婦人が年老いているどころか老いさらばえているのがはっきりとわかった。

 だが今さら後には引けない。歩み寄るのも見られている。そもそもリシュリューも若くはない。だがこの訴訟人は――というのも訴訟人でないならご婦人がこんな路地に馬車でやって来るだろうか?――ともかくその訴訟人はリシュリューのように躊躇ったりはせず、恐ろしい笑みを浮かべてリシュリューの手に腕を預けた。

 ――何処かで見たことのある顔だな、とリシュリューは胸の内で呟いた。

 それから声に出してたずねた。

「奥さまもフラジョ先生のところにおいでですかな?」

「ええ、公爵閣下」

「わしのことをご存じでしたか?」リシュリューは不安におののいて薄暗い並木道の入口で立ち止まった。

「元帥リシュリュー公爵閣下を知らぬ者などおりましょうか? そんな者は女ではございませんよ」

 ――するとこの雌猿は自分が女だと思っておるのか? とマオンの勇者は呟いた。

 それでもリシュリューは出来うる限り愛想佳くお辞儀をした。

「ぶしつけながら、どなただったでしょうか?」

「ベアルン伯爵夫人と申します」老婦人はぬかるんだ並木道の上で宮廷にいるようにお辞儀をした。それが地下酒蔵の揚げ蓋が開いているところからほんの数プスの場所だったので、三度目に膝を折ってそのまま落ちてしまえばいいとリシュリューは意地悪なことを考えていた。

「これは痛み入ります。ではあなたも訴訟を抱えているのですかな?」

「一つきりでございますけどね。でもそんじょそこらの訴訟じゃございません! 噂を聞いていらっしゃらないんですか?」

「ああ、そうでした、そうでした。大変な訴訟です……そうでした。いやはやどうして忘れておったのか」

「サリュース家が相手なんです」

「そう、サリュース家が相手でしたな。その訴訟を歌った小唄が作られておりましたっけ……」

「小唄が……どんな歌でございましょう?」老婦人の顔が険しくなった。

「お気をつけ下さい、ここに段差があります」当然のことながら老婦人が穴に飛び込むつもりはないとわかり、リシュリューは声をかけた。「この手すりにおつかまりなさい……そう、このロープです」

 老婦人の後からリシュリューも階段を上った。

「さよう、ほんの戯れ唄です」

「私の訴訟のことを謡った戯れ唄なんですか……?」

「それはご自分で判断なさるといい……ですが恐らくご存じでは?……」

「とんと存じません」

「ラ・ブルボネーズの調べに乗せて、こんな唄です、[*2]

 

伯爵夫人、
お助け下さい、
あたくし困っておりますの。

 

 あたくしというのはもちろんデュバリー夫人のことですぞ」

「あの方に失礼じゃございませんか……」

「何を今さら。小唄の作者に……敬意なんぞあるわけがない。それにしてもこのロープは汚れておるな。ともかくそれに対するあなたの答えというのが、

 

私は老いた頑固者。
訴訟で死にかけ。
誰か勝たせてくれないかしら?

 

「信じられません! 貴婦人を何だと思ってるんでございましょうね」

「調子外れはご容赦を。この階段はけっこう骨ですな……ああ、やっと着きました。では呼び鈴を引かせてもらいますぞ」

 老婦人はぶつぶつ言いながらリシュリューに道を譲った。

 呼び鈴を鳴らすと、フラジョ夫人が――代訴人の妻になったというのに門番の役も料理番の役も続けていて――扉を開けた。

 二人が書斎に通されると、フラジョ先生は恐ろしい形相で羽根ペンをくわえ、一心不乱に反駁文を書生頭に書き取らせているところだった。

「どうしたんです、フラジョ先生?」伯爵夫人の声に、代訴人が振り返った。

「これはこれは伯爵夫人。ベアルン夫人に椅子をご用意しろ。お連れ様ですか?……驚いたな、リシュリュー公爵ではございませんか!……ベルナルデ、椅子を一つ追加だ」

「フラジョ先生、失礼ですけど訴訟はどうなっているのでしょうか?」ベアルン伯爵夫人がたずねた。

「ちょうど取り組んでいたところです」

「それはようござんした」

「しかも大々的に行こうと思っております」

「どうか慎重に……」

「いやいや、今さら遠慮している場合ではありません……」

「私に割く時間があるんですから、公爵閣下にお時間を割いていただくことも出来るんじゃあございませんか」

「これは公爵閣下、失礼いたしました。ですがご理解いただけるものと……」

「わかっておる」

「つきましては何なりとお申し付け下さい」

「そう気張るな、つけ込むつもりはない。此処に来た理由はわかっとるでしょうに」

「過日ラフテ殿から手渡された書類入れの件ですね」

「その中にあった訴訟書類だ……わしのあの……例の……どの訴訟の話かはおわかりですな、先生」

「シャプナ(Chapenat)の土地についての訴訟ですね」

「そんなところですかな。勝てるのでしょう?……となると、心尽くしに感謝しなくてはなりませんな」

「公爵閣下、あれは無期限で延期になりました」

「何ッ! 何故だ?」

「少なくとも一年は辯論はおこなわれません」

「理由を聞いておるのだ」

「いろいろな事情があるのです……陛下のお達しはご存じでしょう?……」

「だと思うが……どれのことだ? 陛下の出しているお達しはたくさんある」

「我々の判決を破棄するというお達しです」

「なるほど。それで?」

「我々としては船を燃やして応じるまでです」

「船を燃やす? 高等法院の船をか? まるで見えて来んな、高等法院が船を持っていたとは知らなんだ」

「もしや第一審理部が受理しようとしないのですか?」ベアルン夫人がたずねた。リシュリューの話をしているからといって自分の訴訟を忘れたりはしなかった。

「それだけではありません」

「第二部も?」

「たいしたことは起こりません……国王がデギヨン氏を更迭しないうちは第一部も第二部も一切の審理をおこなわないことに決めたのです」[*3]

「そう来たか!」リシュリューが手を叩いた。

「審理しない?……何をですか?」ベアルン伯爵夫人が狼狽え声を出した。

「そりゃまあ……訴訟ですよ」

「私の訴訟もですか?」ベアルン夫人は不安を隠そうともしなかった。

「公爵閣下も奥さまも変わりありません」

「そんなの理不尽ですよ! 陛下のご命令に背く行為じゃございませんか」

「奥さま」フラジョ先生は焦らずに言い返した。「国王は我を忘れてらっしゃったのです……我々も利害を忘れようではありませんか」

「フラジョさん、あなたはバスチーユに入ることになりますよ。断言いたしますとも」

「喜んで参りましょう。仮にそんなことになっても、同輩たちが殉教者を弔むように後に続いてくれるでしょうしね」

「気違いですよ、この人!」伯爵夫人がリシュリューに訴えた。

「我々みんなそうですよ」代訴人が言い返した。

 ――ほほう! 面白くなって来たわい、とリシュリューが呟いた。

「ですけど先ほど仰ったじゃありませんか。私の訴訟に取り組んでいたところだって」ベアルン夫人も反論した。

「確かにそう申し上げました……陳述部の中で最初に引用したのがあなたの事例でしたから。あなたに関する部分を読み上げましょうか」[*4]

 書生の手から書きかけの覚書を取り上げると、眼鏡をしっかりと鼻梁に押しつけ、しかつめらしく読み上げた。

「『身を落とされ、財産を脅かされ、尊厳を踏みにじられた方々……その苦しみの如何ばかりかは陛下にあられてもご推察いただけましょう……此処に於きまして、請願の申請子の手許には、王国有数の名門一家の運命を左右する或る重要な案件が預けられております。恐れながら申し上げますと、配慮と技術と智恵を尽くした結果、この案件は順調に進んでおりましたし、いと気高くやんごとなき貴婦人、アンジェリク=シャルロット=ヴェロニク、ベアルン伯爵夫人の権利がまさに認められ、広く明らかにされんとするその折り、不和の風が……吹き込み……』

 取り敢えず此処までです」代訴人は胸を張ってみせた。「なかなかいい文章だと思うのですが」

「フラジョさん、最初にお父様に依頼したのはかれこれ四十年前になりますけどね、それは立派な方でしたよ。あなたのことも贔屓にさせてもらって来ましたけど、今まで私の訴訟の件で一万リーヴル以上は稼いだでしょうに、まだまだ稼げそうじゃありませんか」

「書き留めろ、すべて書き留めるんだぞ」フラジョは直ちに書生に命じた。「証言だ、証拠だ。これは確証部に差し挟むことにしよう」

「悪いんですけどね」と伯爵夫人が口を挟んだ。「訴訟書類を返していただこうかしら。もうあなたは信用できません」

 フラジョ先生は降って湧いたように馘首を言い渡されてしばし呆然としていたが、神への信仰を告白する殉教者のように衝撃を受けながらも立ち上がった。

「そうですか。ベルナルド、訴訟書類をお返ししろ。そうして請願の申請子は財産よりも信念を選んだと書き留めておくように」

「失礼だが伯爵夫人」ここでリシュリュー元帥がベアルン夫人の耳許に囁いた。「やや感情的になってらっしゃるのではありませんか」

「どういうことですか?」

「訴訟書類を返すように仰ったのは何故ですか?」

「別の代訴人なり辯護士のところに持って行くからですよ!」

 フラジョ先生は自分を殺して事実を潔く受け止めたように、悲しげな笑みを浮かべて天を仰いだ。

「しかしですな」リシュリュー元帥はなおも伯爵夫人の耳許で話しかけた。「法廷で一切の審議がおこなわれないと決まった以上は、ほかの代訴人もフラジョ先生と同じことしか出来ないのでは……」

「みんな一枚岩だと?」

「いやはや! まさかフラジョ先生が一人だけで抵抗を試み、自分一人だけ事務所を危険に晒すほどの間抜けだと思っているのですか? 同業者も足並みを揃えている、言い換えるなら先生を支持していないわけがない」

「ではあなたはどうなさるんですか?」

「フラジョ先生は誠実な代訴人ですからな、訴訟書類が先生のところにあれば我が家にあるのも同然だと申し上げておきましょうか……ですからもちろん、書類は預けたままにしておき、訴訟が続いている時と同じように費用は払い続けるつもりです」

「評判通りの太っ腹ですなあ」フラジョ先生が喜びの声をあげた。「ひとつ私もその高評を広めるといたしましょう」

「それは痛み入る」リシュリューは頭を下げた。

「ベルナルデ! リシュリュー元帥閣下への讃辞を結論部分に書き加えておきなさい」

「いやどうかご勘弁を……」リシュリューが慌てて止めた。「そんなことをしてどうするつもりです? いわゆる善行なるものは伏せてこそ……わしを困らせんで下され。否定できたらよいのですがな、生憎と謙遜は苦手でして。どう思いますか、伯爵夫人?」

「決まってるじゃありませんか、ちゃんと裁判はおこなわれますよ……審理してもらわなくちゃ困りますし、判決まで漕ぎ着けてみせますとも」

「こちらも断言いたしましょう、裁判がおこなわれるとしたら、それは国王がスイス人衛兵と近衛聯隊と大砲二十門を裁判所の大広間に派遣した時だと」フラジョ先生は挑発的な物言いで老婦人にとどめを刺した。

「陛下が切り抜けられるとは思わんのですか?」リシュリューが低い声でフラジョにたずねた。

「あり得ません。初めての事態ですからね。フランスから正義が消えました。消えたのはパンだけではないのです」

「そうでしょうか?」

「すぐにわかりますよ」

「国王の逆鱗に触れますぞ」

「覚悟のうえです!」

「たとい追放されても?」

「たとい死んでも! 法服を着ても、心は失っておりません」

 フラジョ氏は力強く胸を叩いた。

「なるほど内閣は窮地に立たされましたな」リシュリューは連れの老婦人に話しかけた。

「ほんとですよ」絶句していたベアルン夫人が声をあげた。「蚊帳の外に置かれたまんまこんないざこざに巻き込まれるなんて、悲劇と言っても言い足りないじゃありませんか」

「失礼ながら、この問題に手を差し伸べてくれそうな方も世の中にはいらっしゃるのではありませんか。それもかなりの権力者が……そうは言っても、ご本人にその気があるかどうか?」

「その方のお名前を聞かせていただくわけにはいきませんか?」

「あなたの代子ですよ」

「まあ、デュバリー夫人ですか?」

「まさしく」

「言われてみればそうですね……いいことを教えていただきました」

 リシュリュー公爵は口唇を咬んで感情を押し殺した。

「リュシエンヌに行かれるおつもりですか?」

「すぐにでも」

「だがデュバリー夫人とて高等法院の叛乱を挫いたりしますかな」

「裁判を始めて欲しいとお話しするだけです。私の頼みを袖には出来ませんよ、この間は助けて差し上げたんですからね、夫人ご自身も同じ意見だと国王に話して下さいますとも。陛下は大法官にお話しするでしょうし、大法官は多くの方々に顔が利きますもの……フラジョ先生、しっかり検討しておいて下さいよ。先生が思っているより早く訴訟事件目録に載ることになると思いますから。ちゃんとお伝えしましたからね」

 フラジョ先生は疑わしそうに顔を向けたが、伯爵夫人は意見を変えようとしなかった。

 その間にリシュリュー公爵はじっくりと策を立てていた。

「リュシエンヌにいらっしゃるのでしたら、わしがよろしく言っていたとお伝えして下さいませんかな?」

「もちろんでございますとも」

「お互い不運な者同士。訴訟が宙ぶらりんにされたのはわしも同様です。ついででよいのでわしのこともお願いしておいて下され……その際には、高等法院の石頭どもにどれだけ悩まされているのかも伝えて下さるでしょうな。それから最後に、リュシエンヌの女神に助けを請うよう助言したのはわしだということも申し添えていただけると幸いです」

「必ずやお伝えいたします、公爵閣下。ではご機嫌よう」

「馬車までお手をお貸しいたします。では改めてご機嫌よう、フラジョ先生、後はよろしく……」

 リシュリュー元帥は伯爵夫人を馬車まで送って行った。

「ラフテは正しかったな。フラジョたちは革命を起こすつもりだ。幸いわしはどちら側の人間でもあり――宮廷と高等法院いずれにも属しておる。デュバリー夫人は政治に嘴を入れて自滅するだろうが、踏ん張るなら踏ん張ったで、わしにはトリアノンに秘蔵っ子がおる。やはりラフテはわしの流儀を心得ておるな。大臣になった暁には官房長官にしてやるとしよう」


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre XCVIX「Où le lecteur retrouvera une de ses anciennes connaissances qu’il croyait perdue, et que peut-être il ne regrettait pas」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年10月7日(連載第98回)。


Ver.1 11/04/30
Vier.2 20/05/24

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[更新履歴]

・20/05/24 「Maître Flageot depuis longtemps s'était fait remarquer par sa persévérance à tenir le parti de l'opposition.」。「le parti de l'opposition」とは「野党・反対派」なので、「フラジョ先生は敵対者に食らいつくそのねばり強さによってしばらく前から注目されていた。検事になるや激しさを募らせ、そのおかげで幾ばくかの評判を得た。デギヨン氏とド・ラ・シャロテ氏の対立に関する煽動的な文書の公刊にからんで、その評判がラフテ氏の注意を引いた。そこでラフテ氏は高等法院の出来事を詳しく知っておく必要があると考えた。」 → 「フラジョ先生は昔から筋金入りの野党支持者であった。代訴人になるとその傾向に拍車が掛かり、それが理由で評判となった。デギヨンとラ・シャロテの対立に関する扇情的な意見書の刊行に加えてこの評判が、高等法院の情勢を詳しく知りたがっていたラフテ氏の目に留まった。」に訂正。

・20/05/24 「Il eût été trop cruel à mademoiselle Marguerite de ne pas s'entendre appeler madame Flageot par les voisines,」。隣人達がcruelなのではなく、Margueriteにとってcruelなので、「隣人たちからフラジョ夫人と呼ばれるのを聞いたことがないと言ってはマルグリット嬢を責め、ギルドゥ先生から引き継いだ見習いから尊敬されないと言っては辛く当たった。」 → 「マルグリット嬢にとって、隣人からフラジョ夫人と呼ばれずにいたり、ギルドゥ先生から引き継がれた書生たちから敬意を払われなかったりするのは、さぞかしつらいことだったに違いあるまい。」に訂正。

・20/05/24 「demanda madame de Béarn, que le procès de M. de Richelieu ne distrayait en aucune façon du sien.」。que 以下はベアルン夫人の様子なので、「ベアルン夫人がたずねた。「どんなことがあってもリシュリュー様の訴訟が邪魔にならないように」」 → 「ベアルン夫人がたずねた。リシュリューの話をしているからといって自分の訴訟を忘れたりはしなかった。」に訂正。

・20/05/24 「que dites-vous ?」は「何を言う?」ではなく「どう思う?」なので、「はて、伯爵夫人、何と仰いました?」 → 「どう思いますか、伯爵夫人?」に訂正。

・20/05/24 「Maître Flageot tourna la tête avec une incrédulité qui ne fit pas revenir la comtesse.」。訳し洩れがあったので「フラジョ先生は疑わしそうに顔を向けたが、伯爵夫人は意見を変えようとしなかった。」を挿入。

・20/05/24 「si elle résiste, j'ai ma petite mine de Trianon.」。「avoir la mine de qn」で「〜に似ている」、「avoir une petite mine」で「やつれて見える」だが、ここでは王妃に瓜二つのニコルの顔のことを指していると解釈した。「踏ん張るようなことがあれば、トリアノンに顔を出すことにしよう。」 → 「踏ん張るなら踏ん張ったで、わしにはトリアノンに秘蔵っ子がおる。」に変更。

[註釈]

*1. [プチ=リヨン=サン=ソヴール街]
 rue du Petit-Lion(-Saint-Sauveur)は、現在の rue Tiquetonne の東端で rue Saint-Denis とぶつかる。リシュリューはこの場面でヴェルサイユの自宅からパリのフラジョ宅に向かっている。[]

*2. [ラ・ブルボネーズの調べ]
 こんなサイトがありました。
 →http://corpsyphonie.free.fr/wiki/pmwiki.php/Chant/La-belle-Bourbonnaise
 「La belle Bourbonnaise」のインスト音源を聞くことも、譜面を見ることも、歌詞を見ることもできます。[]

*3. [デギヨン氏を更迭しないうちは……]
 史実上のショワズールの罷免と時期が前後しているか? 1770年6月27日、親裁座によりデギヨン裁判の停止を命ずる。7月2日、パリ高等法院はデギヨンの権利剥奪を可決。同3日、国王は裁判を停止。12月7日、親裁座により高等法院の団結を禁止。同10日、高等法院はそれを拒否してストライキを開始。同24日、高等法院とも繋がりの深いショワズールが罷免される。[]

*4. [陳述部]
 弁論の基本的な構成として「序論(exorde)、提題(proposition)、陳述(narration)、division(区分)、confirmation(確証)、péroraison(結論)」などで組み立てられる。[]

*5. []
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*6. []
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