この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第百八章 人と業績

 マラーが有意義に時間を使い、意識や二重写しの生命について哲学的に思い悩んでいた頃、プラトリエール街に住むもう一人の哲学者もまた、昨晩の出来事を一つ一つ組み立て直し、自分が大罪人なのかどうか問い直すことに余念がなかった。ルソーは両肘を力なく机に突き、首を左に傾げて考えを巡らせていた。

 目の前には政治と哲学に関する自著『エミール』と『社会契約論』が広げられていた。

 時折り、思いついたことがあると本に覆いかぶさるようにして、隅々まで知り尽くしているはずのページをめくった。

「恐ろしい!」信仰の自由に関する『エミール』の一節を読んで、ルソーは声をあげた。「こんな過激な文章を書くなんて。何てことを考えるんだろう。いまだかつてこれほど挑発的な人間がいただろうか?[*1]

「それなのに――」ルソーは天を仰ぐように両手を掲げた。「玉座と教会と社会に対するこうした爆弾を投げつけたのは、このわたしなのだ……。

「暗く澱んだ情熱の幾つかがわたしの詭弁に当てられて、言葉遊びの花びらを撒かれた小径に迷っても驚くまい。わたしは社会を乱す人間だったのだ…」

 ルソーは落ち着きを欠いて立ち上がり、狭い部屋をぐるぐると歩き回った。

「これまでに作家を弾圧する権力者を批判して来たが、あろうことか人でなしはわたしの方で、向こうの方が何倍も正しかったのだ。

「わたしは国家にとって危険人物でしかないのか? 民衆を照らそうとして言葉を投げかけて来たのに、少なくとも自分ではそう思おうとして来たというのに、そんなわたしの言葉が世界を燃え上がらせる火種だったというのか。

「不平等な境遇についての論考や、博愛という構想や、教育に関する絵図を種蒔いて来たというのに、そうして収穫できるのは、社会の意義を反転させるほどの驕りであったり、人口が減るほどの内戦であったり、文明を千年も後退させるような乱れた風俗でしかないとは…………わたしはとんでもない犯罪者だ!」

 ルソーは『サヴォワの助任司祭』を読み返した。

「確かにそうだ。『幸福のために協力しよう……』と書いている! 『不徳のために使う力を美徳のために使おう』とも書いているじゃないか」[*2]

 ルソーは絶望に追い立てられて取り乱した。

「わたしのせいで、今や同胞たちは顔を合わせてしまった。ああした地下集会のどれかは、いつか警察に踏み込まれるだろう。裏切りがあれば仲間であろうと片づけると誓った一団が捕まるのだ。そうすると中でもひときわ図太い者がポケットからわたしの著作を取り出して言うのだ。

「『何が悪い? ルソーに私淑している人間が、哲学談義をしていただけだというのに』。

「そんな事態になればヴォルテールに笑われる。あの不埒者ならこんな窮地に気を揉むこともあるまいに」

 ヴォルテールに嘲笑されると考えて、このジュネーヴの哲学者に激しい怒りが湧き起こった。

「わたしが陰謀家? こんな老いぼれにまともな陰謀が企てられるとでも?」

 ルソーがそんなことにかまけている内、知らぬ間にテレーズが朝食(déjeuner)を運んで来ていた。

 『孤独な散歩者の夢想』の一くさりに耽っているルソーを見て、テレーズが声をあげた。

「参ったね」と言いながら、開いてある本の上に荒々しくホットミルクを置いた。「鏡に見入っている自惚れ屋さんがいるよ。ルソー殿と来たら、自分の本を読んで自画自賛しているんだからねえ!」

「ああ、テレーズ。放っておいてくれないか。冗談を言う気分じゃないんだ」

「そりゃご立派ですこと」テレーズは鼻で笑った。「自分に酔っちゃってまあ! 物書きってのは虚栄心と欠点だらけのくせして、あたしたち女にはそれを許さないんですからね。あたしが鏡を覗こうとしたら、ぶうぶう文句を言ってあばずれだとか言うくせに」

 テレーズはこんな調子でルソーをどん底に落とし続けた。これまでの人生で降りかかった不幸ではまだ足りないとでもいうように。

 ルソーはパンを浸さずに牛乳を飲み、とっくりと考え始めた。

「また考え込んでるんですか。またぞろ汚らわしいことばかりの本を書くつもりなんでしょうけど……」

 ルソーが身震いした。

「いもしない理想の女を夢見て、若い娘さんには読めたもんじゃない本を書いたり、拷問官に燃やされるような冒瀆的な代物を書いたり……」

 ルソーの震えが大きくなった。テレーズに痛いところを突かれたのだ。

「いや、悪心を起こさせるようなものはもう何も書かないよ……それどころか、善良な人たちが歓喜して読むような本を書くつもりだ……」

「つもりねえ」テレーズがカップを下げた。「無理ですよ。嫌らしいことしか頭にないんですから……いつだったかも、わけのわからない文章を読み上げて、崇拝する女の話をしていたじゃありませんか……色気違いの妖術使いのくせして!」[*3]

 この『妖術使い』というのはテレーズ渾身の罵倒語であり、聞くたびルソーは震え上がった。

「まあ待ってくれ、今にわかるよ……これから起こる変革の中でも、誰一人苦しませずに社会を変える方法を見つけたと書つくもりなんだ。そうだ、この着想を煮つめようと思ってる。騒乱はごめんだよ。嗚呼テレーズ、革命など起こさせやしない」

「そのうちわかるでしょうよ。おや、誰か来ましたよ」

 テレーズは呼び鈴に応えた後すぐに戻って来て、美麗な若者を入口近くの部屋に待たせておいてルソーのところに引き返した。

 部屋に入ると、ルソーはいつの間にやら筆を取っていた。

「そんなものはさっさと片づけて下さいな。お客様がいらしてますよ」

「どなただい?」

「貴族の方ですよ」

「名乗らなかったのかい?」

「あのねえ、誰なのかわからない人を家に入れると思ってるんですか?」

「だったら教えてくれよ」

「コワニー様です」

「コワニー様だって! 王太子殿下の侍従(gentilhomme)のかい?」[*4]

「そうじゃないですかね。感じのいい人でしたよ」

「今行くよ、テレーズ」

 ルソーは慌てて鏡を覗き、服の埃を払い、靴を履き潰したに過ぎないつっかけを綺麗に拭ってから食堂に向かうと、そこには件の貴族(gentilhomme)が待っていた。

 坐らずに立ったままで、ルソーが乾燥させて紙に貼り付け黒枠の額に入れていた植物標本を、興味深げに眺めている。

 その貴族はガラス戸の音に反応して振り返り、極めて鄭重にお辞儀をすると、口を開いた。

「ルソー殿でいらっしゃいますか?」

「ええ、そうです」ぶっきらぼうな口調ではあったが、見惚れるほどの美しさと嫌味のない気品を前にしては、感嘆めいた響きを隠しきることは出来なかった。

 事実、コワニー氏ほど洗練された眉目秀麗な男はフランスにもそうはいなかった。この時代の服装は氏のために考案されたと言っても過言ではあるまい。見事なまでにほっそりした足首とふっくらしたふくらはぎを際立たせ、広い肩と厚い胸の大きさを十二分に魅せ、整った頭に厳かな雰囲気を与え、美しい手に象牙のような白さを授けることに一役買っていた。

 ルソーはこの観察結果に大いに満足した。如何なる場合であろうと美を讃美する真の芸術家であったのだ。

「失礼ですが、どういったご用件でしょうか?」

「改めましてコワニー伯爵と申します。用件というのはほかでもない、王太子妃殿下からの遣いで参りました」

 ルソーが顔を上気させてお辞儀をした。テレーズは食堂の隅でポケットに手を突っ込んだまま、フランス一の姫君から遣わされた美丈夫に好ましげな目を向けていた。

「妃殿下がわたしに……どういうことでしょうか? いや、それよりもどうか椅子にお掛け下さい」

 と言ってルソー自身が腰を下ろすと、コワニー氏もそれに倣って藁敷き椅子に腰掛けた。

「事の経緯を申しますと、先日陛下がトリアノンでご会食の折りに貴殿の楽曲をお褒めになり、サビを口ずさんでいらっしゃったのです。あらゆる方面から陛下に楽しんでいただこうとなさっていた王太子妃殿下は、トリアノンの舞台で貴殿の喜歌劇オペラ・コミックを上演すれば陛下もお喜びになるのではないかとお考えになりました……」

 ルソーは深々と頭を下げた。

「それでこうして王太子妃殿下のお申しつけにより、お願いに参ったという……」

「それには及びません」ルソーが遮った。「わたしの許可など不要です。戯曲もその劇中歌も上演した劇場のものです。お願いするなら俳優たちですが、妃殿下のご提案を断るはずもありません。陛下や貴族の方々の御前とあらば大喜びで歌い演じることでしょう」

「実のところそのために遣いに参ったというわけでもないのです。これまでにないほど素晴らしくまた珍しい演し物を国王陛下にご覧いただきたい、というのが妃殿下の思し召しなのです。陛下は貴殿のオペラはすべてご覧になっていらっしゃいますし……」

 ルソーはまたも深々と頭を下げた。

「よく口ずさんでいらっしゃいますから」

 ルソーは口許がほころびそうになるのを堪えて、

「大変光栄なことです」と、もごもご呟いた。

「宮廷には楽才もおありで歌もお上手な貴婦人方が何人もいらっしゃいますし、音楽で御名を知られた貴族の方々も何人もいらっしゃるので、妃殿下の選ばれたオペラをそうした方々が歌い演じることになるでしょうし、主役は殿下ご夫妻が演じられる予定なのです」

 ルソーは椅子から飛び上がった。

「身に余る光栄です。どうか感謝の言葉を妃殿下にお伝え下さい」

「いやいや、まだ話は終わっておりません」コワニー氏が微笑んだ。

「これは失礼」

「こうして集められた劇団が何処よりも豪華なのは間違いありませんが、如何せん経験が足りません。専門家の眼識と助言が不可欠なのです。何しろ王室桟敷席(la loge royale)のやんごとなき観客や著名な作者に相応しい舞台にしなくてはなりませんから」

 ルソーは頭を下げようと立ち上がった。今回恭しく頭を下げたのは、コワニー氏の讃辞に感激したからだった。

「ですから妃殿下のお願いというのは、トリアノンにいらして皆さまに稽古をつけていただきたいということなのです」

「まさか……よもや妃殿下がそんなことを……わたしをトリアノンに?」

「いかがですか……?」コワニー氏は何食わぬ顔でたずねた。

「見識も教養もおありで、誰よりも頭の切れる方だとお見受けするので、どうか率直にお答え下さい。哲学者ルソー、追放者ルソー、人間嫌いルソーが宮廷に伺えば、嫌というほど笑いものにされるのではないですか?」

「愚かな者たちからの嘲笑や中傷に対して、誠実にして王国一と目される著述家の方が怯える必要などないではありませんか」コワニー氏はあっさりとそう答えた。「どうしても弱気を拭えない時でも、顔や態度には出さぬことです。多くの人々の笑いを誘うのは、その弱さにほかなりません。それから、言うまでもなく発言には誰もが気を遣うはずです。何しろことは王太子妃殿下、即ちフランス王国の次期後継者のお楽しみやお心向きに関わることなのですから」

「そうですね」ルソーも同意した。「確かにそうです」

「遠慮でもなさっているのですか?」コワニー氏が微笑んだ。「王たちに厳しかったからには自分に甘くするわけにはいかないと? ルソーさん、貴殿が人類を教導して来たのは、嫌っているからではないのでしょう?……仮にそうだとしても、皇室の血を引くご婦人たちは例外なのではありませんか」

「親切なお言葉、痛み入ります。ですがわたしの立場をお考え下さい……隠退して一人きりの……つまらない人間です」

 テレーズが顔をしかめた。

「つまらない人間ねえ……気難しいったらありゃしないんだから」

「ただ楽しみたい、満足したいと思っている国王陛下や王族の方々の目には、何をしたところでわたしの表情や態度に不快な痕跡を認めてしまうでしょう。そんな場所で何を話し、何をすればいいというのですか……?」

「何が不安なのです? 『新エロイーズ』や『告白』を書いたともあろう方が、我々の誰より話すのも行動するのも下手だと仰るのですか?」[*5]

「絶対に無理です……」

「王家の辞書には無理という言葉などありません」

「であればこそ伺いたくはありませんね」

「どうかお願いです、妃殿下に喜んでいただくという使命に臆せず挑んだこの遣いを、恥ずべき敗者としてヴェルサイユに戻らざるを得ぬようなつらい目に遭わせないで欲しいのです。そんなことになれば耐え切れずに国を出ざるを得ません。だからルソーさん、あなたの著作に大いに感銘を受けた人間のためだと思って、王家の方々に請われても断ろうと思っていることを、寛大な心でやっていただきたいのです」

「過大なご親切、痛み入ります。心に響くお言葉でした。それに、あなたの声には人を感動させる不思議な力がある」

「では引き受けていただけると?」

「いえ、それは……やはり駄目です。こんな健康状態では、旅には耐えられません」

「旅? 何を仰るのですか! 馬車で一時間十五分ですよ」

「あなたや、元気な馬とってはね」

「馬なら何頭でもお使い下さい。それに妃殿下からのお申しつけにより、トリアノンにお部屋をご用意しております。夜遅くパリに帰らせるつもりはございません。そのうえ王太子殿下はご著書をすっかり究めてらっしゃるくらいですから、ルソー殿が泊まった部屋を廷臣に見せるのが楽しみで仕方がないと仰っていました」

 テレーズが声をあげた。ただしルソーに感心したのではなく王太子に感激したのだ。

 ルソーとしては斯ほどの厚意の印を示されてはいよいよ抗えなかった。

「参りました。見事な一手です」

「心は摑めても、魂まで奪えるとは思っておりませんよ」

「こうなったからには妃殿下のお申しつけを承りましょう」

「それはありがたい! これは私からの感謝の言葉です。妃殿下からのお言葉は此処ではお伝えしますまい。感謝のお気持ちはご自身でお伝えしたいでしょうから、先走ってはご機嫌を損ねてしまいます。それにそもそも、若く素敵な女性に口説かれたなら感謝するのは男の方ですからね」

「まったくです」ルソーも微笑んだ。「とは言え老人には美女と共通点がありましてね、お呼ばれするのも特権なんです」

「では時間を教えていただけたら、馬車を迎えに寄こし――いえ私自身で迎えにあがってご案内いたしましょう」

「いやいや、お構いなく。トリアノンには参りますが、これ以上のお心遣いは無用です。こちらで勝手に参りますから、お時間だけ教えていただけますか」

「断られてしまいましたな。確かに取り次ぎ役になれるほどの身ではありませんし、貴殿ほどのご高名ならそもそも取り次ぐ必要もないわけだ」

「あなたは何よりもまず宮廷の方ではありませんか。それに引き替えわたしは何処にも居場所のない人間です。だからあなたに問題があってお申し出を断ったのではなく、肩を凝らさず過ごしたいだけ――散歩にでも行くような感じでお伺いしたいのです。つまりはこれが……ぎりぎりの妥協点です」

「仕方ありませんね。拒まれては元も子もありませんし。稽古は今晩六時からです」

「わかりました。では六時十五分前にはトリアノンに参ります」

「失礼ながら、移動の当てはあるのですか?」

「お気になさらず。馬車ならほら」

 そう言ってルソーは、つっかけを履いたまだ形の崩れていない足を、芝居がかった様子で指さした。

「五里ですよ!」コワニー氏が啞然とした顔を見せた。「へとへとになって到着なさっては、夜の稽古なんて出来ませんよ」

「そういうことなら馬車と馬もあるのでご心配なく。同胞の車であり庶民の馬車である、空気や太陽や水と同じくわたしのものでもあり誰のものでもある、十五スーしか掛からない馬車が」

「まさか乗合馬車ですか! どうしてそんなものに」

「あなたには固すぎる座席も、わたしにとっては道楽者の寝床も同然。羽毛か薔薇の花びらでも入っているような坐り心地なのです。ではまた夕方に」

 コワニー氏はその挨拶を受け入れ、感謝の言葉や役立ちそうな情報を幾つも伝え、考え直すよう何度も繰り返した後、暗い階段を降りた。ルソーが玄関先まで見送り、テレーズがその階の半ばまで見送っていた。

 コワニー氏は通りに待たせておいた馬車に戻り、内心で快哉を叫びながらヴェルサイユに引き返した。

 戻って来たテレーズが荒々しく扉を閉めたのを見て、ルソーは一雨ありそうな気配を感じ取った。


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre CVIII「L'homme et ses oeuvres」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年10月21日(連載第108回)。


Ver.1 11/07/23
Ver.2 23/09/24

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[註釈・メモなど]

・メモ
▼『サヴォワの助任司祭(の信仰告白)』(Profession de foi du Vicaire savoyard)は『エミール』第四編の一部だが、「Réunissons-nous pour nous occuper de notre bonheur……」「Donnons à nos vertus la force que d'autres donnent à leurs vices.」ずばりの表現は見つからなかった。

▼テレーズがド・コワニー氏を待たせておいた「le première chambre」(英訳 the outer apartment)とは?

[更新履歴]

・23/09/18 「A-t-il jamais paru dans le monde un boute-feu pareil à moi ?」の「le monde」は「世間」ではなく「この世」、「paraître」は「思われる」ではなく「現れる」なので、「世間からはこんな煽動者に思われていたのか?」 → 「いまだかつてこれほど挑発的な人間がいただろうか?」に訂正。

・23/09/18 五段落目を訳し洩らしていたので追加した。「「それなのに――」ルソーは天を仰ぐように両手を掲げた。「玉座と教会と社会に対するこうした爆弾を投げつけたのは、このわたしなのだ……。」

・23/09/18 「– Voilà donc par ma faute, dit-il, les frères mis en présence des frères ; quelque jour un de ces caveaux sera envahi par la police ;」の「mis」は過去分詞(Voilà+過去分詞)であり、「sera envahi」は前未来なので、「わたしの過ちのせいで、同胞《ブラザー》たちが顔を合わせ、いつか地下集会の最中に警察に踏み込まれるのではないか。」 → 「わたしのせいで、今や同胞たちは顔を合わせてしまった。ああした地下集会のどれかは、いつか警察に踏み込まれるだろう。」に訂正。

・23/09/18 「– Conspirateur, moi ! murmura-t-il ; je suis en enfance, décidément ; ne suis-je pas, en vérité, un beau conspirateur ?」の「être en enfance」とは「耄碌する」の意なので、「要するにわたしは悪巧みしてばかりの、いまだに子供なのだ。そのうえ、よい策士とは言えまい?」 → 「わたしが陰謀家? こんな老いぼれにまともな陰謀が企てられるとでも?」に訂正。

・23/09/23 「Rousseau se hâta de donner un coup d'œil au miroir, épousseta son habit, essuya ses pantoufles, qui n'étaient autres que de vieux souliers rongés par l'usage, et il entra dans la salle à manger, où l'attendait le gentilhomme.」。「qui n'étaient autres que de vieux souliers」の部分は、「古い靴しかない」のではなく「古い靴でしかない」ということなので、「履き古してぼろぼろの、一つしかない古いつっかけを拭いて、食堂に向かうと、そこには侍従が待っていた。」 → 「靴を履き潰したに過ぎないつっかけを綺麗に拭ってから食堂に向かうと、そこには件の貴族が待っていた。」に訂正。

・23/09/23 「」 → 「」

・23/09/23 「」 → 「」

・23/09/23 「」 → 「」

[註釈]

*1. [信仰の自由に関する『エミール』の一節]
 後段に出て来る「サヴォワ叙任司祭の信仰告白」のことであろう。[]
 

*2. [幸福のために協力しよう……]
 デュマの原文ではそれぞれ「Réunissons-nous pour nous occuper de notre bonheur…」「Donnons à nos vertus la force que d'autres donnent à leurs vices.」だが、ルソーの著作にそのものずばりの文章はない。とは言え例えば『エミール』第四編には「すべての人に美徳の仮面で不徳を装うことを教える。ほかの人間はみんなその幸福を犠牲にしてわたしの幸福につくしてもらいたい。(中略)それが論理的に考える不信者のすべての内面の声だ。」(岩波文庫『エミール(中)』今野一雄訳,p.145)という文章があり、それを裏返せばこの章の台詞のような意味合いになろうか。ただしこれは「サヴォワの助任司祭の信仰告白」より後の箇所である。[]
 

*3. [崇拝する女]
 『エミール』のなかでルソーは理想の女性ソフィーについて記述している。[]
 

*4. [コワニー様]
 少し先で「コワニー伯爵」と名乗るが、1770年当時のコワニー伯爵は Augustin Gabriel de Franquetot de Coigy(1740-1817) だが、ここではその兄であり後にマリー゠アントワネットの愛人とも噂されたコワニー公爵 Marie François Henri de Franquetot de Coigny(1737-1821)を差すと思われる。1770年現在33歳。また、コワニーの名は第92章にも見える。[]
 

*5. [『告白』]
 『告白』の出版自体はルソーの死後だが、生前に一部を朗読会で読み上げていたことは、当の『告白』にも書かれてある。[]
 

*6. []
 。[]
 

*7. []
 。[]
 

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