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1952 Catch-As-Catch-Can(別題:Walk Out on Death) 『行き当たりばったり』
 ・短めの長篇。タイトル通り、出たとこ勝負の犯罪&逃亡サスペンス。
邦訳

 なし

あらすじ

 Dee Alisonは婚約者Andy Talbotを連れて、従姉妹のLaila Breenに会いに来ていた。Jonas老人の遺産は、ほとんどがフランス帰りのLailaのものとなっており、従兄弟のClive Breenはそれが気に食わない。

 翌朝、隣人のVaughn夫人が救急車で運ばれた。居合わせたStirling医師の見立てでは食中毒らしい。ほかに食べた者はいない。Lailaを除いては――。投薬が早ければ命は助かる。だがLailaは好意を持っていたAndyがDeeと婚約していると聞いて、ショックで家を飛び出していた。行き先は保護者のようなPearl Deanの宿泊先かと思われたが、Pearlに連絡がつかない。DeeとAndyはLailaを探しに行き、Stirling医師はタクシー無線やラジオ放送でLailaの人相書きを手配した。

 一方Lailaはお金を持たずに飛び出して来たことに気づき困っていたが、偶然出くわしたCliveに家からお金を持ってきてもらう。家で食中毒騒ぎを耳にしたCliveだったが、このまま放っておけばLailaが死に、遺産の分け前が増えることに気づく。事情を知らないPearlはLailaがDeeたちにいじめられたのだと誤解し、Cliveに言われるがままにLailaを匿い、海に向かう。

 Pearl家でAndy・Deeと鉢合わせしたCliveは、一緒にLailaを追うふりをして邪魔しようとする。意見の衝突したAndyを降ろしてCliveとDeeはLailaを追うが、Pearlの車とCliveの車が事故を起こし、DeeとPearlは病院に運ばれる。Lailaはラジオで医師が自分が探していることを知ったものの、Jonas老人に医療処置を施している医師を殺人犯だと勘違いしていたために、ヒッチハイクで逃げ出してしまう。

 一方、嘘がばれそうになったCliveは、目撃者を銃撃しようと考えたうえ、病院から抜け出したDeeを監禁してしまう。だが監禁場所には害虫駆除の撮影のため殺虫ガスがまかれようとしていた……。

解説

 アームストロング8作目のミステリ作品は、「行き当たりばったり」というタイトルのとおり、悪意のある計画的な犯罪ではありません。最初に起こった食中毒も初めこそ毒殺が疑われますが、結局は疑いは晴れますし、悪役であるCliveにしてからが、確かに嫌な奴ではありましたが、当初はLailaをどうこうするつもりは一切ありませんでした。Lailaの死を現実に願うようになってからも、飽くまで「放っておけば死ぬ」という消極的な殺意であり、そのままではたとえLailaが死んだところで罪には問えなかったでしょうし、途中までは何度も悩み続けます。ところが嘘がばれそうになったあげくに「行き当たりばったり」に嘘に嘘を重ねて、どんどん自分の首を絞めてしまいます。

 果ては目撃者を消せばLailaを殺そうとしたことはばれない、などという本末転倒とも思えるようなことまで考え始め、完全に泥沼に陥ってしまいました。

 それがタイトルになっているとはいえ、やはり行き当たりばったり感はぬぐえません。どのみちばれるような嘘をついても、証拠を問えないだけで、殺意はばればれですし。

 いくつかのアームストロング作品と同様、サスペンスの焦点が途中から移り変わるのも特徴です。本書の中心となるのはLaila救出には違いないのですが、結局Lailaは恋に落ちて自分から病院に向かい、そこからサスペンスの焦点は監禁されたDeeへと移ります。しかもAndyたちが監禁現場に駆けつけてからも、現場は害虫駆除のテレビ撮影のため進入禁止になっており、いましも殺虫ガスがまかれようとしているという、「そこまでしなくても」と思ってしまうようなサービスぶりでした。

 途中までは殺意のないサスペンス、というのは面白かったのですが、やはりあまりの行き当たりばったりぶりゆえ波に乗れず、アームストロング作品のなかでは中の下というところです。

  (※書影は Keyhole Crime 版) 


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