「なにも。おそらくあと少ししたら、公文書はもはやシベリアの国境を越えることはないでしょう」
「しかし、アムール地方やイルクーツク地方の軍隊も、トランス−バルカン地方の軍隊も、イルクーツクに直ちに進軍する指令を受けてはいないだろう?」
「指令は、バイカル湖の向こうからの最後の電報で送られてきました」
「エニセイスク、オムスク、セミパラチンスク、トボリスクの政府とは、反乱以前のように、まだ直接連絡しあえるのか?」
「ええ。公文書は彼らに渡しました。タタール人がイルチシ川とオビ川を越えて進まなかったことは、現時点では確実です」
「反逆者のイワン・オガリョフ、彼についての情報はないのか?」
「まるでありません」キーソフ将軍は答えた。「警備隊長は彼が国境を越えたのかどうかわからない状態です」
「ニジニ−ノヴゴロド、ペルミ、エカテリンブルク、カシモフ、チュメニ、イシム、オムスク、トムスク、まだ通信できるすべての電信所に、やつの人相書きを大至急で送らせろ」
「ご命令は直ちに実行させます」
「これについては堅く沈黙を守るように」
将軍は、恭しい承諾の合図を送ると深々とお辞儀をし、人混みの中に紛れると、ついには、誰にも咎められずにその部屋を去った。