「何だ?」と悩む。「眠ってたのか?
いや酔っぱらっていたのかも?」
だけど間もなく気持が溢れ、
座ったままで涙を流す
またたくばかりの一時間。
「死者がそれほど急がなくても!」
ぼくはむせび泣く。「ほんとうに
出かけなければならないものか――
ティプスが誰か、それを知りたい、
こんなやり方でやるのかな?
「ティプスがぼくに似ているのなら、
あり得るだろうが」ぼくは言う。
「あまり嬉しく思わないはず
ひょっこり家に寄られるなんて
眠ったばかりの三時半。
「死者がいろいろ嫌がらせして――
鋭い叫びやなんやかや、
ここと変わらぬことをしたなら――
ほぼ必ずや議論になって、
ティプスの勝利に決まってる!」
泣いても二度と戻りはしない
あんな愛すべき幻妖は。
やるべきことはきっとあるはず
グラスを混ぜて、歌を歌おう
こんなお別れのメロディーを。
行っちゃったのか、ぼくの幽霊?
これ以上はない友だちよ!
それに、さらばだ、鴨の丸焼き、
さらば、さらばだ、お茶とトースト、
白亜のパイプと葉巻たち!
人生色は暗い灰色、
人生の味は何もない、
君が、夢幻が、立ち去ってから――
角はあるけど、言いかえるなら、
とっても四角いやつだけど!
三番の詞を歌おうとして、
ふと押し黙った――唐突に。
こんな素敵な言葉のあとに
さらに続きを歌おうなんて
馬鹿げたことだと思うのだ。
だからあくびをひとつしてから
ふかふか布団にたどり着き、
夜が明けるまで夢見て寝よう
騒がし霊や夜叉や仙女や
座敷童とか靴小人!
それからずっと来はしなかった
いかなる小人も幽霊も。
でも心には今でも響く、
真心のある、別れの言葉、
「おやすみなさいな、とんまっぺ!」
"Phantasmagoria" Lewis Caroll, 1869 --CANTO 7 の全訳です。
Ver.1 05/12/23
Ver.2 07/12/07
[更新履歴]
07/12/07 第七聯三行目・四行目「OLD BRICK〜」を改訳。「いいやつだけど、言いかえるなら/六面体ぽいやつだけど!」→「角はあるけど、言いかえるなら/とっても四角いやつだけど!」。
[参考]
底本『Phantasmagoria』Prometheus Book版
amazon.co.jp で詳細を見る。
『Lewis Carroll The Complete Illustrated Works』Gramercy版
amazon.co.jp で詳細を見る。
『The Complete Works of Lewis Carroll』Penguin版
amazon.co.jp で詳細を見る。