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ファンタスマゴリア〜幽幻燈記〜

ルイス・キャロル

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作家略年譜・作品リスト

第六篇
手違ひ


小山を登る人間がいた

小山を登る人間がいた、
登山経験のない人だ。
しばらくすると気づき始めた、
見る見るうちに気高さが減り、
いやな雰囲気が漂った。

でももうすでに賽は投げられ、
冒険をやめることはない、
登りながらも目を凝らしたら
空の向こうに一軒の小屋
あそこで身体を休めたい。

心身ともにくたびれ果てて、
大きく乱れた息をつく。
それでも坂を登り続けて、
口もだんだん悪くなり出す、
息苦しいのが増そうとも。

登り続けてようやく着いた
上へと続いている道に。
ふらつきながら中に入ると、
顔にパンチをお見舞いされて
仰向けになって倒れ込む。

夢かうつつか、わからぬままに、
ふたたび下へと滑り落ち、
重さに引かれ、坂から坂へ、
目もくらむほど真っ逆さまに、
ふもとの野原に落とされた――

よし幽霊に罪の自覚を
植えつけなくちゃと決意した。
人間のする議論などとは
まるで違うとわかったけれど、
立場を退くことはない。

予定通りに終わらせようと
今でも希望を持ったまま、
ほんとなんだと証明しよう、
ありとあらゆる持てる知識を
原理原則に注ぎ込んで。

決まり文句の一語を使い 『ゆえに』や『だから』で始めるや、
わけもわからずふらつきだした、
迷路みたいにもつれた道を、
自分の居場所も知らぬまま。

幽霊が言う。「たわごとですね。
怒鳴り散らすのは止めましょう。
頭を冷やし、眠ることです!
こんなすっとこどっこいな人
今まで目にしたこともない!

「むかし会ってた人のようです、
議論をしていて怒り出し
気持が熱く高ぶるせいで
室内履きが焦げだしました!」
不可思議なこともあるものだ!

室内履きが焦げだしました!

「ええ、その通り、不可思議ですよ、
つまらない嘘のようですが。
でも本当に本当のこと――
あなたがまさにティプスのように」
「ぼくの名はティプスではないよ」

「ティプスではない!」――声の調子が
翳りを帯び出し、しょげかえる――
「ああ、違うとも。ぼくの名前は
ティベツさ――」「ティベツ?」「うん、その通り」
「ああ、じゃああなたは別人だ!

テーブルに手を打ちつけたので
グラスがいくつか震え出す。
「なぜそう言ってくれないんです?
四十五分、早かったなら
このおたんこなすおたんちん。

「この雨のなか四マイル来て、
夜を一服に費やして、
あげくにそれが無駄だったとは――
また最初からやり直しとは――
腹立たしいにもほどがある

この雨のなか四マイル来て

「何もしゃべるな!」と彼が叫んだ。
弁解しようとした途端。
「どんなやつでも我慢できない
こんな愚かな人がいるとは
鵞鳥頭より空っぽか?

「ここで時間をつぶさせないで、
直ちに教えてほしかった
ここは目当ての家ではない、と!
もうわかったよ――さあ寝てしまえ!
あくびをするのはやめてくれ!」

「そんな調子で非難するのは
別段かまいはしないけど!
なんで名前をたずねなかった
ここに到着したその時に?」
ぼくは熱くなり言い返す。

「それは大変だったんだろう
ここまではるばる歩くのは――
でもそのことでぼくを責めるか?」
「まあいいでしょう。確かにそれを
あまり責めるのは筋違い。

「それに確かにいただきました
おいしいワインと食べ物を――
ののしったのはどうかご容赦。
だけどこうしたアクシデントは
少しいらついてしまうもの。

「要はわたしの間違いでした――
握手をしましょう、とんまっぺ!」
その名はあまり好きじゃないけど、
真心なのは違いないから、
それに関しては考えない。

「おやすみなさい、このとんまっぺ!
わたしが帰れば、そのあとで
けちな小人が来ることでしょう、
そしていつでも脅しをきかせ
静かな眠りを妨げます。

けちな小人が来ることでしょう

「悪戯するなとお言いなさい。
横目で冷笑されたなら、
鞭を上手にお使いなさい
(とても硬くてごついやつです)
厳しくのめしてやりなさい!

「そしてこうです。『やあ洗い熊!
君らは気づいてないだろう
動かないなら、あともうすぐで
いやほど笑うはめになるから――
せいぜいたっぷり気をつけな!』

「これが小人の追い払い方
こうした怪しいふるまいの――
これはしまった! 夜明けが近い!
おやすみなさい、このとんまっぺ!」
一礼してから立ち去った。


"Phantasmagoria" Lewis Caroll, 1869 --CANTO 6 の全訳です。


Ver.1 05/12/23


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