「『相手』のことは考えないの?
ぼくは問いつめた。「考えて
当然だろう――だってそうだろ、
人の好みはまったく違う、
それもなかんずく小人とは」
つと幻妖が笑顔で否定。
「考えるなんて? まるっきり!
子ども一人を喜ばすのは、
手にも負えない骨折り仕事――――
どれほどやってもきりがない!」
「それはもちろん、子ども相手に
自由にさせては駄目だけど。
ぼく同様に大人の場合、
『家主』自ら意見を述べる
権利くらいはあっていい」
「気にしたこともありませんとも――
人はあまりにも多種多様。
たった一日、訪れたあと、
幽霊たちが行くも残るも
環境次第でございます。
「『家主』のことは考えません、
手はずが整うときまでは。
持ち場を去ってばかりのやつや、
行儀の悪い幽霊ならば、
チェンジすることはできますが。
「だけど主人があなたのような――
つまり常識のある人で。
家がそれほど新しくなきゃ――」
「それが関係あるのかい、ねえ、
幽霊にとって便利なの?」
「新しいのはそぐわないので――
整えるような仕事には。
でも二十年ほど経ていれば、
羽目板などもガタつきますし、
ですから目安は二十年」
「整える」とは耳に挟んだ
覚えのまるきりない言葉。
「きっと気になどしないだろうね
どういう意味か教えてくれよ
残らずすっかりその言葉?」
「ドアをゆるめるということです」
幽霊が答え、微笑んだ。
「敷居や床のいたるところに
わんさわんさと穴を開けます、
よいすきま風を吹かすため。
「お気づきでしょう、一つか二つ
それで充分なわけですが
風をひゅーひゅーさせるためには――
だけどここにはしこたま予定!」
ぼくは息を呑む「なるほどね!」
「あともう少し遅かったなら、
危なかったのか」笑おうと
した(けどまるでうまくいかない)
「整えるのと装うのとで
忙しかったというわけか?」
「ええ、まあきっと、もう少しだけ
ここに留まっていたでしょう――
でも何にしろ、前置きなしに
ことを始める危険を冒す
幽霊なんぞはおりません。
「あなたが遅く帰っていれば、
ことは適切に進みました。
だけど道路がこんなですので、
一時間半は延びていい」
「無念夜警だって?」ぼくは叫んだ。
答える代わりにこう言った。
「まさかそいつを知らないなんて、
布団のうえで寝たことも、
食べ過ぎたこともないらしい!
「あちこち行って座るんですよ
夜に食い過ぎたやつの上。
やつの仕事はつねって突いて、
死にそうなほど締めつけること」
(「自業自得だね!」ぼくが言う。)
「こんなやつらが晩に摂るのが――
卵にベーコン――」口ごもる。
「伊勢エビに――鴨――あぶったチーズ――
それで苦しくならないのなら、
そいつはわたしの大誤算!
「やつはたいそう太っちょなので
こんな仕事にはうってつけ。
そういうわけで、ご存じでしょう、
ずっと前からこう呼んでます、
太った夜警と、どお巡り!
「やつが夜警に選ばれた日に
誰もがわたしに投票を
すると言ってたはずだったので――
やつは嘆いてのぼせあがって
煮えくりかえって大怒り。
「すぐ気が変わり、落ち着いてから、
王のお耳にと一走り。
痩せているとは反対ゆえに、
二マイルばかり駆け通すのは
なかなかどうして楽じゃない。
「そんなわけゆえ駆けた褒美に
(あたかも焼けつく暑さだし、
二十貫目は超えていたため)、
半ばふざけて王は直ちに、
無念流免許皆伝に」
「そりゃあなんとも好き勝手だな!
(ロケットみたいに噴火した)。
「しゃれを言うのが目的らしい。
ジョンソン曰く『しゃれを言うのは
人の懐を掏るやつさ!』」
「人と王とは違いますとも」
証明しようと全力で、
ぼくは議論を始めたけれど――
幽霊はただ聞いているだけ
馬鹿にしたように微笑んで。
結局ぼくは息切れをして、
一服しようと手を伸ばす――
「言いたいことはよくわかります。
だけど――議論とおっしゃるなんて――
むろん冗談でございましょ?」
冷やかな目でひとにらみされ、
ぼくはようやく奮い立つ。
「何はともあれ反対するぞ
団結こそが力である、を
否定するような懐疑派に!」
「その通りです。けれども待って――」
ぼくはおとなしく聞いていた――
「団結こそが力なりけり。
光みたいに明らかなこと。
だけど金欠は無力です」
"Phantasmagoria" Lewis Caroll, 1869 --CANTO 5 の全訳です。
Ver.1 05/12/22