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1921 Adam and Eve and Pinch Me 『アダムとイヴとツネッテ
 ・コッパード第一短篇集。全12篇。
邦訳  短篇集としては未訳。収録作のいくつかは邦訳あり。


「シオンへの行進」(Marching to Zion)
 ――私は女に道を尋ねた。「私はもうどのくらい来たのでしょう?」人は誰もが旅をしている。私はいろいろな人に出会った。修道士は偉大だった。罪を犯している者に遭ったから、修道士が打ち殺した。土を汚さぬように死体は井戸に捨てた。それからマリアに出会った。死を恐れず、夢を見て祈る浄い心の持ち主だった。私はマリアがいなくなってしまうのが怖かった。

 『郵便局と蛇』(国書刊行会)[bk1amazon]に邦訳があります。

 誰もが〈シオン(=神の国)〉に向かって旅しているというのなら、それは死に向かって歩むこと――つまりは人生のことにほかならない。悟りとか成仏とかいう発想はキリスト教にはないだろうけれど、でも“神の国に召される”ことを目指すというか祈るというか、死を望んでいるわけではないけれど死ぬのであれば“神の国に召されたい”という発想はどの宗教に限らずごく自然なものでしょう。誰もシオンへの道筋など知るわけもないし、どこにあるのかわかるわけがない。どうすれば行けるのかもわからない。語り手のミカエル・フィオンギサ、修道士、マリアは、三人が三人ともまったく違う信念(信仰?)を持っています。マリアが召されたのは、正しい心を持っていたからなのかもしれないし、ただ単に寿命が来ただけなのかもしれない。そもそも召されたのではなく、幻を目撃してその後に消えただけなのかもしれない。それは誰にもわかりません。

 冒頭こそ「うすのろサイモン」のようなユーモア路線かと思わせますが、どんどんどんどん解釈しがたい奇妙な話になってゆきます。
 


「黒髪のルース」(Dusky Ruth)
 ――男が泊った宿屋には、美しい黒髪をした女性がいた。

 大人の恋愛譚といった趣の作品です。ボアズの衣で身を覆って足元に横たわったルツを一晩なにもせずに眠らせて帰した「ルツ記」をふまえているようでもあるのですがよくわかりません。
 


「泣くなわんぱく」(Weep Not My Wanton)
 ――丘は豚の鳴き声でやかましい。男が一人、それに男の子が歩いている。「この阿呆がきゃあ!」小柄な子どもを揺すって男は繰り返した。「阿呆んだらが! ほんに何さらすだか!」七、八歳だろう。少年は声を立てずに泣いていた。「六ペンス失くしてか。誰の世話になっとるつもりじゃ」

 コッパードの市井もの。父と息子と、母と幼い娘が、丘を越えて歩いている、ただそれだけの内容なのだけれど、貧しい人たちに温かい視線を注ぐコッパードらしい作品と言えるでしょう。少年の名はジョニー。この子もコッパードの分身なのです。
 


「ピフィングカップ」(Piffingcap)
 ――古い友人から別れの土産にと不思議な鉢をもらったピフィングカップ氏のまわりでは、次々と不思議なことが起こるようになって……。

 『新編 魔法のお店』(ちくま文庫)[bk1amazon]に邦訳あり。

 なかなか魅力的な女の子と、人のよさそうなピフィングカップ氏のお話です。
 


「」(The King of the World)
 ――

 
 


「アダムとイヴ」(Adam and Eve and Pinch Me)
 ――

 『怪奇小説傑作集3』(創元推理文庫)[bk1amazon]に邦訳あり。
 


「いまはなき王国の王女」(The Princess of Kingdom Gone)
 ――

 『幻想文学』第2号に邦訳があるが入手困難。『世界幻想文学大系35 英国ロマン派幻想集』にも別訳「過ぎ去った王国の女王」あり。
 


「」(Communion)
 ――

 
 


「」(The Quiet Woman)
 ――

 
 


「」(The Trumpeters)
 ――

 
 


「」(The Angel and the Sweep)
 ――

 
 


「アラベスク――鼠」(Arabesque --the Mouse,1920
 ――男は部屋で本を読んでいた。暖炉の前に鼠が一匹。男は鼠が嫌いだった。母もよく彼の恐がりを笑ったものだった。母のことが思い出されて仕方がなかった。悲しい記憶だ。そして、ふたたび鼠が現れたときに思い出したのはカーシャとの美しい思い出だった。

 このサイト[html]に邦訳あり。「鼠: その幻想」の邦題で『恐怖の一世紀2 悪魔の化身』にも収録。

 恋愛譚をロマンティックで幻想的に描きあげるのはコッパードのもっとも得意とするところです。けれどこの作品が他のコッパード恋愛譚と違っているのは、あまりにも完璧な構成を持っている点でしょう。「アラベスク」というタイトルどおり、ホラーありロマンスありとさまざまな思い出が去来し、さまざまな事物が複雑にリンクし合う幻想曲です。繊細でどこかあたたかい、そんなコッパードらしい作品。農夫の会話によるユーモアも忘れないあたりも、いかにもコッパードらしい特徴です。
 

 


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