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1928年 Silver Circus 『銀色のサーカス』 
 ・コッパード第六短篇集。全16編。
邦訳  短篇集としては未訳。収録作のいくつかは邦訳あり。


「銀色のサーカス」(Silver Circus)
 ――虎に扮してライオンと戦うはめに陥った男が檻の中で出会ったのは……。

 『郵便局と蛇』(国書刊行会)[bk1amazon]に邦訳あり。

 おそらく日本では、コッパードの作品中もっとも知られた作品かもしれない。虎の皮をかぶりライオンと闘うはめになった男の物悲しくも滑稽なコキュ譚。
 


「」(Darby Dallow Tells His Tale)
 


「」(That Fellow Tolstoy!)
 


「」(Rifki)
 


「」(The Ape and the Ass)
 


「」(The Martyrdom of Solomon)
 


「」(Fine Feathers)
 田舎が舞台の人生悲喜こもごももの。

 一張羅のスーツを買って着るのが夢といういっぷう変わったこだわりを持つ男が主人公。父親の後を継いで庭師になるのを嫌がり事務員に憧れるというところに、何か屈折したコンプレックスのようなものを感じます。いつまで経っても買わないので母親からせっつかれたときの言い訳が、「着る機会がないから」。それでもとうとう購入しても、なかなか着ないのでまたせっつかれます。そのうち、なぜ教会に行かないんだ、という話になるのですが、そこで母親の言った台詞が笑えます。「あたしが教会に行くのは、牧師さんを元気づけるためさ」。これには息子も呆れかえってまた言い合いになるのですが、ここでまた息子が売り言葉に買い言葉という感じで、「俺が死んだらスーツを着せて埋葬してくれ」というからまた言い合いに。そんなこんなでいつしか中年になってしまうのですが、そんなある日、地主の娘から舞踏会に誘われます。とうとうスーツを着る機会が訪れた、と思うのも束の間、「お客さんが多くて大変だから、信頼できる人に執事の手伝いを頼みたくて」と言われてしまいます……。


「」(The Almanac Man)
 


「」(A Looking-Glass for St. Luke)
 


「」(The Birthday Party)
 


「」(The Third Prize)
 ――ネイバスとロビンズはアマチュアのランナーだった。チャンピオンではなかったが、走るのが好きだったのだ。あるとき都会のレースに出てみることにした。ロビンズが三位に入賞した。喜んでいると、チェンバーズという奴がからんできた。一位になりたくないかい? 二位の奴らをチクってやればあんたが一位になれるぞ。ふざけるな! 怒って相手にしないロビンズだった。表彰が始まった。「三位、バランタイン!」――? 戸惑うネイバスだったが、ロビンズはネイバスの帽子を借りて深々とかぶり、賞金を受け取った。その後、二人は女の子たちとカフェで一休みしたが、ふとロビンズが席を外した。戻ってきたロビンズの手には賞金が握られていた……。三位のロビンズだが賞金を貰っていないと委員会に名乗ったのだ。ショックを受けるネイバス。――間違ったのは委員会だ、選手だってチェンバーズのような奴といかさましてるのさ。それがロビンズの言い分だった。だが宿の前まで来ると、そのチェンバーズが大声でわめいていた。目の前には盲目の乞食たち。「こいつらを見てくれ……!」ロビンズは賞金の一ポンドをかごのなかに落とした。

 自身も優れたランナーだったコッパードによる、レースがらみの作品です。とはいえスポーツ小説というわけではなく、ほかの作品同様に良心とかそういった問題に焦点が当てられています。


「アイロンかけ」(The Presser)
 ――十歳のジョニー・フリンは母元を離れて伯母に預けられていた。貧乏なジョニーは学校にも行かず仕立屋で働いている。仕立屋にはサルキーというアイロンがけ職人がいた。ほかの従業員は女ばかり。ジョニーはヘレン・スミザースさんのことが好きだった。店主のアラバスターさんや従業員のグレンジャーおばさんがときどきくれるお駄賃で食べ物を買うのがジョニーのいちばんの楽しみだった。

 同姓同名ですが「さくらんぼの木」のジョニー・フリンとは別人のようです。ヘレンと娘のヘティーを暴力夫から救い出して幸せにするシンデレラ物語なのですが、悲しいことにジョニーにはお金も力も魔法もありません。救い出すヒーローは別の人間。少年にとってはほろにがい思い出です。槇原敬之「二つの願い」を思い出しました。「雨が止みますように 電話がきますように/二つの願いは必ずひとつしかかなわない」。アラバスターさんがお駄賃をくれるという願いはかないましたが……。それでもこの物語が心温まるのは、もうひとつの思いがけない贈り物が最後に待っているからです。
 


「」(Adolf Plumflower)
 


「」(Purl and Plain)
 


「」(Faithless Phoebe)
 


「ポリー・モーガン」(Polly Morgan)
 ――ある秋の朝、葬列がアガサ伯母の家の方へと近づいてきた。一人の会葬者の姿も見えない。哀れに思って伯母は菊の花束を捧げた。けれど、それはしてはいけないことだったのだ。死んだ男は花束などに浪費しないよう厳しく言いわたしていた。そのせいで、伯母が生前の死者の情婦だったという噂が立った。それ以来伯母の様子がおかしくなった。幽霊などいないと思う。けれど……。

 『郵便局と蛇』(国書刊行会)[bk1amazon]に邦訳あり。

 「高い煙突がわざわざ道行く人を不作法にしゃがんで眺めさせるほどの好もしさを持つのは何故だろう」「私は月光が人間を傷つけると思う」等々、印象的なフレーズでとめどなく綴られる幽霊譚&恋愛譚。コッパードの幻想体質をすべて注ぎ込んだかのような静謐なゴースト・ストーリーです。

 作中人物に倣っていうなら「憑かれると決めこむことはそれを望むのと同じこと」です。これは、アガサ伯母とポリーの、二つの罪と罰の物語。「月光が人間を傷つけると思う」のに理由はない。迷信は信じないけれど、「雷が鳴る時、鏡を覆う」し「梯子の下は歩かない」のと同じこと。罪を犯せば罰が下る。同じ罰なら「気持ちよく、それに納得できる」方がいい。ポリー・モーガンが決めこんだ憑かれ方は、その時点でできる精一杯の「納得できる」取り憑かれ方だったのでしょう。死者が戻っては来ない以上、ポリーに残された道は、自分の中で罰という折り合いをつけることしかなかったのだと思います。
 

 


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