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1937年 Ninepenny Flute: Twenty-One Tales  
 ・コッパード第十短篇集。
邦訳  なし。


「九ペンスのフルート」(Ninepenny Flute)
 ――ハリー・ダニングから九ペンスでフルートを買った。ひびが入っているけど音は出るから大丈夫って言われたんだ。ママは音楽好きだったから、ぼくにも音楽をやらせたがった。スクレイズさんのバンドに入れてもらった。スクレイズの奥さんは太っちょだから、ドラムと一緒だと楽屋が狭い。ぼくらは演奏をした。楽譜は読めないけど、聖歌隊にいたから音感はある。なのにスクレイズさんは言ったんだ。「半音ずれている。ひびが入っているじゃないか」大丈夫って言ってたのに! 楽器を買うお金はなかった。ママは音楽よりももっと、神さまのことを敬っていた。あるとき教会に連れて行かれると、軍の楽隊が壮大な葬儀をしていた。すごかった! 音楽が好きだと聞いて、軍曹が楽隊に誘ってくれた。ラッパを試した。吹けなかった。フルートを試した。吹けなかった。「若すぎるんだよ」ぼくはがっかりして家に帰った。

 途中で兵隊が酔っぱらって道行く人にからんでいた。「俺は世界一強いんだ! 誰かかかってこい!」人混みのなかにはダミーもいた。ダミーは唖で聾だった。でも兵隊はそのことを知らない。ダミーに向かってからみはじめた。ダミーは少しも動かなかったし、何も言わなかった――聾唖なんだから。でも兵隊は知らなかった。とうとう怒り出して、ダミーを殴り始めた。血塗れになったダミーをみんなしてパブに運んだ。パブにはアーサー・ラークがいた。アーサーは客室清掃係だ。事情を聞いたアーサーは兵隊の一人をぶん殴り、みんなでもう一人の後を追った。警官がいたので事情を話すと、居場所を教えてくれた。警官はもちろん逮捕しようとしたけれど、アーサーは止めたんだ。「その代わり、これから起こることは見なかったことにしてくれませんか?」アーサーは兵隊にパンチを浴びせた。そんなことがあってから、ぼくは音楽をあきらめた。オーボエを見せてくれた人もいたけれど、高すぎる。第一ぼくには吹けないだろう。だから音楽はあきらめて、兎を一匹買った。ぼくにボクシングという自己防衛を教えてくれた人に贈るためだ。

 ながながとあらすじを書いてしまいましたが、それというのもファンタジー要素のないコッパード作品のなかでは、今まで読んだなかで一番好きな作品だからです。上記あらすじには太っちょのおばさんの話を紹介しましたが、ほかにも「パパ、ママ」の合図でドラムを練習させたりとか、マウスピースを新しくすればちゃんと音が出ると言いくるめられて変えたらますますひどくなったとか、細部が面白いんです。コッパードは少年のあこがれを描くのが上手いですし、わりと寂しい印象の強いコッパード作品のなかではハートウォーミングなところも胸に迫ります。コッパード自身が子どものころに父親を亡くしたからでしょうか、この作品でも母親の姿がずいぶんと目立っています。
 


「」(Jove's Necter)
 


「」(The Gudgeon and the Squirrel)
 


「」(The Philosopher's Daughter)
 


「」(His Worship Receives)
 


「」(The Deserter)
 


「」(Speaking Likenesses)
 


「」(The Abbotts)
 


「」(Jack and the Giant Killer)
 


「」(Sofa One, Sofa Two)
 


「」(The Chronicles of Andrew)
 


「」(Good Samaritans)
 


「」(Six Sad Men)
 


「」(All the World a Stage)
 


「」(The Landmark)
 


「」(Life is Like That)
 


「」(Some Talk of Alexander)
 


「」(The Badge)
 


「」(Hannibal's Bust)
 


「」(Were Deceivers Ever)
 


「」(The Halfyard Ham)
 

 


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