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 作品紹介
1854 Catherine Blum 『カトリーヌ・ブルム』
 ・帯に曰く、「フランス初の推理小説」。
邦訳 『カトリーヌ・ブルム』小川節子訳(近代文芸社)。→[bk1amazon楽天

 ・カトリーヌがパリから戻って来る! おじのギヨームもおばのマリアンヌも、もちろん従兄弟のベルナールも大喜びだった。カトリーヌは誰からも愛されていた。“パリジャン”というあだ名の伊達男も、カトリーヌを愛する一人だった。マリアンヌはすっかりパリジャンとカトリーヌを結婚させるつもりでいたし、どんなにいい娘であってもプロテスタントのカトリーヌと我が子ベルナールを結婚させるなど大反対だった。それがすれ違いの始まりだった……父に裏切られたと思い込んだベルナールは家を飛び出し、浮浪者のマチューからカトリーヌの不貞を吹き込まれる。やけ酒をあおったあと酒場を出たベルナールは、マチューの奸計により呼び出されたカトリーヌとパリジャンの二人を目撃し……。

 

 ・帯には「フランス初の推理小説」「名探偵登場!!」とありますが、正直そんなに期待してはいませんでした。ところが読んでびっくり、意外と面白かったです。

 劇作家だったころの初期作品というわけでもないのに、かなり演劇的な作品でした。舞台となる場所もかぎられていますし、場面に動きが少なくシチュエーションと台詞のやりとりで話の大半が進みます。物語自体も、愛し合う男女、恋敵、結婚に賛成の父親、反対する母親たちが織りなす、すれ違いによる運命悲劇的なもの。さらに悪意をもって陰謀を画策する狂言廻し的な小悪党!

 とくれば、あわれ運命に導かれ悲劇の主人公は……という完全に悲劇一直線の内容なのですが、なにしろ陽気なデュマですから、悲劇のままでは終わりません。

 事件が起こり、主人公が無実の罪に問われて悲劇に終わりそうになった瞬間、名探偵の登場です。

 登場のタイミングからして探偵もののツボを押さえているうえに、探偵ぶりもこれがまたけっこう本格的。もちろん今の目でミステリとして読んで大傑作というわけではないのですが、基本を踏まえてきちんとツボを押さえた論理的な推理でした。

「だが、どんな風に事が起こったのか、どうして君に分かるのかね?(中略)事件はここから半里ほどのところで起こっていて、君は私達から離れなかったのに」「ですが、私が、あそこに猪がいて、それが雄か雌かを、三歳の猪か、二歳の猪か、老いぼれの離れ猪かを言うとき、私はその猪を見たでしょうか? いいえ、私はその跡を見たので、それが私に必要なすべてです」
というように、町長や憲兵たちのように状況や疑わしさで決めつけるのではなく、手がかり・痕跡をもとに推理によって真相を導き出すのです。探偵役は狩りの名人という設定なので、足跡からすべてを見抜いてしまうという、どちらかといえばホームズが依頼人をびっくりさせるときのような素朴なものではありますが、そういうのもまた楽しいのも確かです。

「夜なのにそれがどうやって見えたのかね?」「そう、ですが月明かりです! 月は犬共を吠えさせるためだけに昇っているとお思いなのですか?」だなんて、ただの当たり前のことも途端に名ぜりふに。

 コテコテの悲劇をむりやりハッピーエンドにしようとして、悲劇をひっくり返すために探偵役を持ってきた――いわば結果的にミステリになった作品のような気もするのですが、それにしては探偵役が狩りの名人だという伏線(?)もあるし、推理もかなり論理的で本格的だし、村祭りの章にもさりげなく伏線があるし、意外としっかりしていてあなどれません。

 すっかり忘れていましたが、本書の舞台となっているのは、デュマの生まれ故郷ヴィレル=コトレで、語り手が我が子に語り聞かせるという形が取られています。そのため第一章ではちょこちょこ村のエピソードが語られ、『ジョゼフ・バルサモ』『王妃の首飾り』の続編『アンジュ・ピトゥ』のこともちょろっと顔を出してたりします。

邦訳『カトリーヌ・ブルム』(近代文芸社)小川節子訳
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