〔翻刻〕
中納言長谷雄〔卿〕は學九流にわたり藝百家に通じて世におもくせられし人なり。
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〔現代語訳〕
中納言長谷雄卿は九流にわたる学問を修め、百家に及ぶ芸に通じ、朝廷の要職に就いていた。
〔解説〕
中納言長谷雄卿(紀長谷雄)は平安時代の実在の人物。(845-912)。菅原道真の門人。文章博士、大学弁となり、のちに中納言。遣唐副使に任ぜられるが、道真により遣唐使が894年廃止されたにともない渡唐も中止に。道真をして、白楽天の再来とまで言わしめた詩才らしい。
物語の長谷雄卿は、『今昔物語』巻二四・一、巻二四・二五、巻二八・二九に見える。巻二四・一では、朱雀門の精霊が心打たれて詩を誦するほどの詩人として描かれる。巻二四・二五では、三善の宰相に「無才の博士」と呼ばれるものの、善宰相という龍には及ばないが長谷雄もまた龍であると評される。巻二八・二九では、賢いが陰陽道にはうというっかりものとして描かれている。
また、『続教訓鈔』には『長谷雄草紙』と同内容の記述あり。
〔画像〕
門のそばには八葉の車。左手先(次のページ)では屋内で長谷雄と男が話している。轅の傍らには白丁が一人。
門前には武装した男と水干姿の少年。狩衣姿の男が馬を引く。
●凡例●
※翻刻中の記号について
・××〔ママ〕は、誤字・誤記・異体と思われるものも一般的な表記に改めず原文のママとしたことを表わす。(「おのこ」は「をのこ」と改めずに、「お〔ママ〕のこ」とした。)
・〔○○〕は判読不能の箇所。(例「腹巻を〔○○○〕て」)
・〔××〕は、判読不能だが文脈から補った文字・文章。または底本釈文を参照した部分。(例「そらを〔飛べり〕。」)
・××△△ は、見せ消ちだと思われる箇所。(例「のに」=「の」を消して「に」とあることを示す。)
・××〔補入(△△)〕は、補入。(例「かち〔補入(はて)〕にけり。)
※その他の凡例
一、変体仮名は現行の仮名に改めた。
一、漢字を正字体にするか新字・略字体にするかは割と恣意的です。(仮に原文に「尓《なんじ》」とあったとして、翻刻で「爾」にするか「尓」にするかは特に統一してない。ただし「爾《なんじ》」とあれば、「爾」と翻刻する。)
一、句読点は翻刻者が補った。濁点も。
一、踊り字は踊り字のまま表記した。(例えば「たヽずむ」を「たたずむ」とは書かない。)
一、会話文等は「 」でくくった。
一、翻刻、現代語訳:螢惑庵主人 天沢おきな。複製・配布なんでも自由。ただし翻刻の正しさは保証の限りではない。
一、著作権の切れた絵画の写真には、原画を所有している人物の所有権も、写真を撮った人物の著作権も存在しません。(彫像の写真には写真家の著作権が発生するそうです)。
一、底本には、中央公論社『日本の絵巻11』を使用した。