「でね、あなた、父は冷静になり気を楽にしようとしたんだ、眠っているんじゃないかって二、三度思いました、外の重い大枝のなかを嵐が吹き荒れ軋ませ、お城の古いえんとつがひゅーひゅーと音を立てていなければね。で、一陣の突風が轟き吹くと、お城の壁が崩れ落ちんばかりなんです、壁はふるえていました。嵐はとつぜん止んだ、七月の晩みたいにすっかり静かになったんです。けど、あなた、止んでいたのはほんのわずか、そのわずかのうちに父はマントルピースからなにか聞こえたように思ったんだ。それで父さんは人生のほんの一端にしっかり目を向けたってわけです、年取った地主が絵のなかから抜け出したのを確かに見たんだ、どう見てもまるで乗馬服を脱ぎ捨てているみたいなのさ、マントルピースからすつかり出てきて、床に降り立つまではね。でね、そのにやけた老人――父は最悪の当番だと思いましたね――老人はとんでもないことをやり始めました、二人とも眠っているかしばらく耳を傾けていたのをやめると、すぐさまやってのけましたね、手を伸ばしてウイスキイの壜をつかむと、一パイントは呑みほした。ねえ、あなた、飲み終えると、えらく利口なことに完璧に元に戻した、以前とまるきり同じとこにね。で、部屋をあちこち歩き回り始めた、まるで少しも飲まなかったみたいに素面でしっかりしてましたよ。彼は父のところへやってきたけどつねに、強い硫黄のにおいがしていて、父はそれですっかり怖くなった。地獄で燃えてるのが硫黄だって知っていましたからね。