この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東照《あずま・てる》
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アンジュ・ピトゥ

アレクサンドル・デュマ

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第六十四章 フォルチエ神父による君主制の本質とピトゥによる革命の本質を目の当たりにする次第

 その夜ピトゥはたまたま巡って来た栄誉に心を奪われていたせいで罠を見に行くのをすっかり忘れていた。

 翌日、ピトゥは兜と剣を身につけてヴィレル=コトレに向かった。

 村の大時計が朝六時を告げた時、ピトゥは城館広場(la place du Château 第1章参照)に到着し、庭に通じている門を控えめに叩いた。

 叩いた音は心を落ち着かせるには充分な強さであり、家まで届かぬには充分な小ささであった。

 出来うるなら十五分の余裕が欲しかった。フォルチエ神父を説得するため用意して来た演説を辯論の花で彩りたかった。

 ぎょっとしたことに、あれだけそっと叩いたというのに門が開いた。だがすぐに恐怖は止んだ。門を開いた人物の顔にセバスチャン・ジルベールを認めたからだ。

 セバスチャンは庭を歩きながら曙光の下で勉学に励んでいたところだった。正確に言えば励んでいるような行動を取っているところだった。というのも開いた本は手の先にぶら下がり、好きなことを考えて思いはあちこち駆け巡っていたからだ。

 ピトゥを目にしたセバスチャンが喜びの声をあげた。

 抱き合った後でセバスチャンがたずねた。

「パリから便りは?」

「何も。セバスチャンは?」ピトゥもたずねた。

「父から手紙が届いたよ」

「よかった」

「君にも託けがあるよ」

 セバスチャンは胸元から手紙を取り出しピトゥに見せた。

『追伸 ビヨからピトゥへ忠告がある。農場のみんなを困らせたり気が散るようなことをしたりしないこと。』

「嗚呼」ピトゥは溜息をついた。「無意味な忠告だな。農場の人たちに苦労をかけたりよそ見させたりすることなんてもうないのに」

 ピトゥは小声で呟いてから、さらに大きな溜息をついた。

「そんな言葉はイジドールさんに掛けてあげればいいんだ」

 だがすぐに元気を取り戻してセバスチャンに手紙を返した。

「神父は?」

 セバスチャンが耳をそばだたせた。中庭(la cour)と庭大半(une partie du jardin)の分だけ階段から離れているにもかかわらず、司祭の足の下で階段が軋んでいた。

「ほら、降りて来た」

 ピトゥが庭から中庭に進むと、その時になって初めて神父の重い足音が聞こえた。

 神父(Le digne instituteur)は新聞を読みながら階段を降りて来た。

 例の九尾鞭を将軍が太刀を佩くように腰から吊るしている。

 階段の段数も古い家の凸凹の場所も身体に染み込んでいたので、神父は紙面から顔を上げぬままアンジュ・ピトゥに向かって来た。ピトゥは精一杯堂々とした態度で臨もうとした。

 だが何よりもまず、この場面について説明しよう。他の箇所であれば冗長のそしりを免れ得ぬであろうが、この箇所であれば不自然とは言われまい。

 この説明によって、フォルチエ神父の家に三、四十挺の銃があることが明らかになるであろう。ピトゥと共犯者二人が欲しがっている銃のことである。

 以前お伝えする機会のあった通り、かつて城館の所属司祭もしくは副司祭だったフォルチエ神父は、時と共に、そして長く根を張るという聖職者の習いによって、舞台構成的に家の付属物と呼ばれるものの唯一の管理者となっていた。[*1]

 聖器、蔵書(la bibliothèque)、家具(le garde-meuble)に加えて、国王フィリップの父であり後にエガリテと呼ばれたドルレアン公ルイ=フィリップ二世の狩猟用具を預かっていた。この古い狩猟用具の幾つかはルイ十三世やアンリ三世にまで遡る。こうした道具類が神父によって城館の回廊に整然と並べられていた。そのために城館を任されていた。ひときわ見る者の目を惹くように、周りには円楯、狩猟槍、短刀、短剣、カトリック同盟時代に象嵌が施されたマスケット銃が散りばめられていた。[*2]

 回廊の扉はルイ十四世が王弟ムッシューに授けた銀張りの青銅の大砲二門にしっかりと守られている。

 さらにはウェサンの戦い(combat d'Ouessant)でジョゼフ=フィリップが戦勝記念に持ち帰った五十ばかしの小銃ムスクトンが、町に寄贈されていた。先述したようにフォルチエ神父に無料で宿を貸していた町としては、このマスケット銃の扱いにあぐねて神父の家(la maison collégiale)の寝室に預けたというわけであった。[*3]

 これこそがフォルチエという名の龍が守りアンジュ・ピトゥという名のイアーソンが狙っている財宝であった。

 この城館の小さな武器庫は、労せず武器を持ちたいと願う者にとってはよく知られたところとなっていた。

 だが眠らぬ龍たる神父には、このヘスペリデスの黄金の林檎を、如何なイアーソンにも易々と明け渡すつもりはないようだった。

 そういうわけで、ピトゥの話に戻ろう。

 ピトゥは愛想良くフォルチエ神父に挨拶しながら、咳払いをした。放心したり没頭したりしている人間の注意を引くように。

 フォルチエ神父が新聞から顔を上げた。

「ほう、ピトゥか」

「お役に立てることがあれば仰って下さい」ピトゥは恭しく応じた。

 神父は新聞を折り畳んだ。より正確に言えば二つ折りの書類入れのように新聞を閉じた。古き良きこの当時にはまだ新聞は冊子の形であったのだ。

 神父は閉じた新聞をベルトに通した。九尾鞭とは反対側だ。

「そうか。だが生憎だな」神父はからかうように言った。「役には立てまいよ」

「先生!(l'abbé !)」[*4]

「聞こえぬか、語形間違い(barbarismes)の名人よ?」

「先生!」

「聞こえぬか、偽善者殿?」

「先生!」

「聞こえぬか、革命家殿?」

「ちゃんと聞こえてますとも。話を始めてもいないのに怒り出して。そういうのは、拙い出だしなんじゃないですか」

 セバスチャンはフォルチエ神父が二日前から誰彼構わずにピトゥのことを話していたのを知っていたので、遠からず勃発するに違いない言い争いには居合わせぬが吉だと考え、そっと退出した。

 ピトゥはセバスチャンが立ち去るのを見て心を痛めた。強固な同盟関係ではなかったにしろ、同じ党派の子供だった。

 だからセバスチャンが戸口から姿を消すと、ピトゥは溜息をついて神父に向き直った。

「先生、なぜ革命家だなんて呼ぶんですか? 革命のきっかけがボクだとでも?」

「革命を起こした者たちと一緒にいたではないか」

「先生」ピトゥは「どんな考えを持つかはその人の自由です」

「そうだが?」

意思ト理性ヲ司ルハ人ナリEst penes hominem arbitrium et ratio

「ほう、ラテン語がわかるのか?」

「先生に教わったことはわかります」ピトゥは控えめに答えた。

「そうだな、語形間違いに改められ、歪められ、悪化させられ、彩られていたが」[*5]

「でも先生、誰にだって間違いはあるじゃありませんか」

「何だと?」神父は目に見えて傷ついた顔をした。どうやらピトゥは拡大解釈しようとしているらしい。「この私も語形間違いをすると考えているのか?」

「先生よりもラテン語に明るい人から見たらそうだと思います」

「それがどういうことかわからぬか?」怒りのあまり神父の顔から血の気が引いたが、理性という確かな力のおかげで落ち着きは失わずにいた。

 フォルチエ神父はうんざりしたように説いた。

「一言で言うと、ならず者の論理というやつだ。誰のために暴れているのか、自分でもわかっておらぬ。見も知らぬ誰かのためだ。いいかね落ちこぼれ殿、正直に言い給え。私よりもラテン語に明るい人間を誰か知っておるのか?」

「知りません。でもいるかもしれない。ボクが知らないだけで――ボクは何にも知りませんから」

「それにはクソほど同意する」

 ピトゥが十字を切った。

「何の真似だ?」

「先生が悪態をついたので十字を切ったのです」

「ほう、私を指弾するために此処に来たのか?」

「指弾するですって!」

「ほらわからぬだろう」

「そんなことはありません。先生のおかげで語根もわかります。『指弾するtympaniser』とは、ラテン語で『太鼓tambour』を意味する『tympanum』、ギリシア語の『tympanon』、即ち『太鼓』『撥』『鐘』由来です」

 神父は呆気に取られて何も言えずにいた。

「語根は『typos』、即ち『印』『痕跡』。ランスローが『ギリシア語根の庭(Jardin des Racines grecques)』で書いているところによれば、『typos:残された形』。この語を遡れば明らかに『tupto』即ち『叩く』にたどり着きます。以上です」

「たいしたものだ」神父はいよいよ仰天した。「まだいろいろ知ってそうだな。知らないことまで知ってそうだ」

「はあ」ピトゥはうわべだけ謙遜してみせた。

「此処にいた頃にはどうして今のような返答が出来なかったのだ?」

「だって此処にいた頃には、先生のせいでちゃんと考えられなかったからです。先生が高圧的だったせいで、自由になったら外側に出て来たものもみんな、頭脳や記憶の中に押し込められていたからです。自由ですよ、わかりますか?」ピトゥは調子に乗って続けた。「自由です!」

「愚か者め!」

「先生」ピトゥの声には警告の色が含まれていたし、脅迫の色さえ皆無ではなかった。「侮辱はやめて下さい。『Contumelia non argumentum』。辯論家も言っています、侮辱には論拠がないと」

「どうも此奴は自惚れているようだな。自分の言葉をわざわざ私のためにラテン語から翻訳する必要があると思っているらしい」神父が激怒して声をあげた。

「このラテン語はボクじゃなくてキケロの言葉です。先生だってキケロに鑑みればご自身の語形間違いに気づくはずです。ボクが先生のラテン語に照らして間違いに気づくように」

「私が君と議論するとは思わないで欲しいものだ」

「何故ですか? 議論によって閃きが生まれるのでは。燧石ノ徙移シメシ隠サレシAbstrusum versis silicum」[*6]

「情けない!」フォルチエ神父が叫んだ。「此奴が行っていたのは革命家の学校か」

「そんなことありません。先生は革命家が愚かで無智だと仰ってるんですよね」

「その通りだ」

「その理屈は間違ってます。三段論法の立て方が間違ってるんです」

「間違っているだと? 三段論法の立て方が間違っているだと?」

「そうです。ピトゥは論理的に考えて話すことが出来る。ピトゥは革命家の学校に通っていた。ゆえに革命家は論理的に考えて話すことが出来る。こんなの無理があります」

「人でなしのけだものの低脳めが!」

「言葉の暴力はやめて下さい。誹謗即チ閑カナル心ヲ明ラカニスObjurgatio imbellem animum arguit。怒るのは弱い証拠です」[*7]

 神父は肩をすくめた。

「答えて下さい」ピトゥが言った。

「革命家は論理的に話すことも考えることも出来ると言ったな。だったら教えてくれぬか。その連中の中から、読み書き出来る者を一人でよい」

「ボクです」ピトゥは安心して答えた。

「読みについては目をつぶろう。だが書くのはどうだ?」

「書けますとも!」

「正しい綴りでなければ書けるだろうとも」

「正しく綴れます」

「賭けるかね? これから口述する一節を四つ以上間違わずに書き取れると」

「賭けますか? ボクが口述する半節を二つ以上間違わずに書き取れると」

「やってみ給え」

「わかりました。いま分詞と再帰動詞を見繕いますから。そこにボクの知っている『que』を幾つか加えて、賭けに応じましょう」

「時間があればそうしたいところだが」

「どうせ負けますよ」

「ピトゥ、ピトゥ、諺を思い出し給え。ピトゥエウス・アンゲルスハ愚カナリPitoueus Angelus asinus est

「諺くらい誰にでもありますよ。通りすがりにヴァリュ(Wualu)の葦がボクに囁いた諺をご存じですか?」

「知らん。だが知りたいところだね、ミダス殿」[*8]

フォルチエルス院長ハ偶サカニ強シFortierus abbas forte fortis

「巫山戯おって!」フォルチエ神父が声をあげた。

「意訳してみます。フォルチエ神父は常に優れているとは限らない」

「幸いなことに、告発だけではなく、証明する必要がある」

「そんなの簡単なことです。先生は生徒に何を教えていますか?」

「いったい……」

「論証を続けます。先生が生徒に教えているのはどんなことですか?」

「自分の知っていることだ」

「いま仰ったことを忘れないで下さい。自分の知っていることですね」

「もちろん自分の知っていることだ」神父は狼狽えていた。どうやらピトゥはパリに行っている間に新たな攻撃を学んだらしい。「確かにそう言った。それで?」

「自分の知っていることを生徒に教えるというのでしたら、そもそも何をご存じなのですか?」

「ラテン語、フランス語、ギリシア語、歴史、地理、算術、代数、天文学、植物学、古銭学」

「まだありますか?」

「いったい……」

「考えて下さい」

「図画」

「ほかには?」

「建築学」

「ほかには?」

「力学」

「それは数学の一分野ですが、まあいいでしょう。ほかには?」

「はてさて、目的地は何処かな?」

「単純明快です。先生はいま知っていることをたくさん数え上げましたが、今度は知らないことを数え上げて下さい」

 神父は震え上がった。

「そうですね、お手伝いしなくてはなりませんよね。先生はドイツ語とヘブライ語とアラビア語とサンスクリット語という四つの祖語が出来ません。派生語族は無数にあるので言い切れませんが。先生は博物学と化学と物理学が出来ません」

「ピトゥ君(Monsieur Pitou)……」

「まだ話は済んでません。先生は物理学と平面三角法が出来ません。医学と音響学と航海術を知りません。運動競技(sciences gymnastiques)に関して何も知りません」

「何だって?」

「運動競技と言ったんです。ギリシア語で『gymnaza exercæ』、『gymnos』即ち『裸の』に由来します――というのも、古代ギリシアの陸上競技は裸でおこなわれたからです」

「どれもこれも私が教えたことではないか」神父もようやく立ち直りかけて来た。

「仰る通りです」

「事実を認めるのは良いことだ」

「ありがとうございます。でも今は先生が知らないことを……」

「もうよい。出来ぬこと以上に知らぬことが多いのは間違いなかった」

「では先生よりも物知りな人が幾らでもいるとお認めになりますか?」

「そういうこともあろう」

「そういう事実があるんです。知れば知るほど物を知らないことに気づく。キケロの言葉です」

「結論を言い給え」

「結論に移ります」

「確かめるとしよう。きっと滑稽な結論に違いない」

「誰かと比べて無智である以上、誰かと比べた他人の智識に対してもっと寛容になるべきというのが結論です。これは二つの美徳、つまり『virtus duplex』から成っていますが、これがフェヌロン(Fénelon)の持つ美徳だというのはつとに有名なところです。フェヌロンは先生と同じくらい物を知っていたんですけれどね。端的に言うと、キリスト教徒的な慈愛と慎みです」[*9]

 フォルチエ神父が憤怒の声をあげた。

「悪魔め! この蛇め!」

「侮辱するだけで反論しないんですね。これはギリシアの賢人の答えですよ。ギリシア語で言うことも出来ますが、もうさっき言ってしまいましたからね、つまりだいたいのことをラテン語で」[*10]

「なるほど、こんなところにも革命主義の影響があるようだ」

「影響?」

「そのせいで私と対等だと思い込んだのだ」

「そうだとしたら、先生はもう二度とフランス語を間違うことが出来なくなりますよ」

「どういう意味だね?」

「たったいま先生は重大な間違いをしたという意味です」

「それは面白い。例えば何処が?」

「先生は言いました、『革命主義のせいで私と対等だと思い込んだ』と」

「うむ」

「『étais』は半過去形です」

「そうだな」

「ここは現在形でなくてはなりません」[*11]

「あっ!」フォルチエ神父は真っ赤になった。

「この文章をラテン語に訳してみて下さい。そうしたらこの動詞を半過去にすることがどれだけ重大な文法間違いになるのかがわかるはずです」

「ピトゥ!」フォルチエ神父はピトゥの該博な指摘に超自然的なものを読み取ってしまった。「ピトゥよ、老人と教会を攻撃せよとそそのかしたのは、いったいどんな悪魔なのだ?」

「だけど先生」神父の言葉から紛れもない絶望の響きを感じ取り、ピトゥは胸が一杯になった。「ボクをそそのかしたのは悪魔ではありませんし、先生のことを攻撃したりもしていません。それよりも先生はボクのことをいつも馬鹿扱いしますけど、人間は平等にして対等なんだってことをお忘れですよ」

 神父はまたもや怒りに襲われた。

「もう我慢がならぬ。目の前で冒涜しおって。神と日々の研鑽によって六十年かけて作り上げられた人間と対等だと申すのか。あり得ぬ!」

「ラファイエットさんに尋いてみればいいんです。人間の権利を宣言した人なんですから」

「なるほど、国王の悪臣、反目の火種、裏切者を例に取るがよい」

「何ですって!」ピトゥは耳を疑った。「ラファイエットさんが悪臣? 反目の種? 裏切者? 冒涜しているのは先生じゃありませんか。三か月間、箱に閉じ込められてでもいたんですか? 先生の言う国王の悪臣が国王を助けたことを知らないんですか? その反目の火種が公共の平和を保証したことを知らないんですか? その裏切者こそが最高のフランス人だということを知らないんですか?」

「信じるしかあるまいな、王権はここまで落ちぶれているのか。こんな小僧が――」とピトゥを指さし、「アリステイデス(Aristide)やポキオン(Phocion)の名を引用するように、ラファイエットの名を引用するほどだとは」[*12]

「今の言葉を民衆(le peuple)に聞かれてなくて良かったですね」ピトゥは思わず言ってしまった。

「そうかね?」神父が勝ち誇って声をあげた。「とうとう正体を現したな、脅迫者め。民衆か、なるほど民衆だ。卑劣にも王国の軍人たちの喉をかっさばき、臟を引きずり出した者どものことだな。結構。ラファイエット殿率いる民衆、バイイ殿率いる民衆、ピトゥ殿率いる民衆。なぜ私のことを今すぐにヴィレル=コトレの革命主義者どもに密告しない? なぜプリューまで引きずって行かない? なぜ腕をまくって街灯に吊るさないのだ? さあピトゥ、勇気ヲ持テmacte animo、ピトゥ、心ヲ強クSursum ! sursum !、ピトゥ……さあ縄は何処だ? 絞首台は何処だ? 絞首人は此処だな。ぴとぅヨ、勇気ヲ持チテ気高クアレMacte animo, generose Pitoue」[*13]

然ラバ星々マデ至ランSic itur ad astra!」ピトゥがぼそっと呟いた。ピトゥとしてはこの成句を締めようとしただけで、非道い当てこすりを言ったことには気づいていなかった。[*14]

 だが神父が激怒しているのを見て嫌でも気づかされることになった。

「ほう、そう思うのか。では私はそうして星まで至るとしよう。絞首台を用意してくれ」

「そんなつもりで言ったわけじゃありません」ピトゥが声をあげた。議論の成り行きに不安を感じ始めていた。

「約束してもらおう。気の毒なフーロンやベルチエのいる天国に行かせてくれ」

「お願いです、先生」

「君はとっくに首吊り縄を手にしているではないか、絞首人君。市庁舎広場の街灯に上っていたのは君ではないのか? その蜘蛛のような醜い腕で生贄をおびき寄せていたのは君ではないのか?」

 ピトゥは憤怒の叫びをあげた。

「間違いなく君だ。君のことはよくわかっている」フォルチエ神父は予言をするヨヤダ(Joad)のように高揚していた。「君のことはよくわかっている。叛逆者カティリナ(Catilina)とは君のことだ」[*15]

「どれだけ許し難いことを仰ったかわかってるんですか? ボクを侮辱してるんですか」

「君を侮辱しているのだ」

「それ以上続けるつもりなら、国民議会に訴えますよ。だけど……」

 神父は突然ぞっとするような嫌らしい笑い声をあげた。

「告発するがいい」

「善良な市民を侮辱する不道徳な市民には罰が下されるんですよ」

「街灯かね?」

「先生は不道徳な市民です」

「縄だ、縄をくれ!」

 だが突然「待てよ?」と叫ぶと、何かを閃き義憤をほとばしらせるように激しく動いた。「兜だ、兜。此奴だ」

「ボクの兜がどうしたんです?」

「ベルチエから湯気の立った心臓を引きずり出し、血塗れのまま選挙人の机に運んだ人でなしが、兜をかぶっていた。兜をかぶった人間とは君だ、ピトゥ。兜をかぶった人間は君だ、化物め。立ち去れ、立ち去れ、立ち去るがいい!」

 まるで悲劇の台詞のように「立ち去れ」という言葉を口にしながら、神父が詰め寄ると、ピトゥは後じさった。

 読者諸兄はご存じの通りピトゥは潔白である。ところがピトゥは糾弾されてあれほど誇っていた兜を遠くに放り投げた。厚紙で裏打ちされた銅製の兜は、くすんだ音を立てて敷石の上に落ち傷だらけになった。

「ほら見ろ、認めおったな!」

 まるで手紙を見つけてザイール(Zaïre)を責める、ルカン(Lekain)演じるオロスマーヌ(Orosmane)の如き立居振舞であった。[*16]

「待って下さい」非難を受けてピトゥは我を忘れていた。「言い過ぎです、先生」

「言い過ぎだと? つまり少ししか人を吊るしていないし、少ししか腹を掻っ捌いていないと?」

「先生、ボクじゃないのはわかってますよね。ピットの仕業だというのはわかってますよね」

「どのピットだね?」

「ピット二世です。チャタム卿ピット一世の息子で、『金を使え、勘定は気にするな』と言って金をばらまいた人です。英語をご存じなら英語で言うところですけど、ご存じないようですから」【※小ピットの言葉と対仏政策については第44章「ピット親子」参照】

「君は知っているのかね?」

「ジルベールさんに教えてもらいました」

「三週間で? とんでもないペテン師だな」

 ピトゥはやり方を間違えたことに気づいた。

「わかりました、もう異を唱えたりはしません。先生には先生のお考えがありますから」

「まったくだ」

「ようやくわかりました」

「わかればいい。自分の意見を持つことを認めてもらえて感謝するよ、ピトゥ君」

「そうですか。まだ怒ってらっしゃいますね。こんな状態が続くようなら、いつまで経ってもボクが此処に来ざるを得なかった事情を説明できないじゃありませんか」

「では来ざるを得ない事情があったのだな? おおかた担ぎ上げられて送り込まれたのだろう」

 神父は嘲るように笑い出した。

「先生」議論を始めてからというものピトゥがたどり着きたかった地点に神父の方から進んでくれた。「ボクが先生のお人柄にどれだけ敬意を抱いているかご存じですよね」

「よかろう、その話をしようか」

「それに先生の智識にどれだけ感銘を受けているか」

「人たらしの蛇め!」

「ボクが? 何故ですか?」

「何を頼みに来たのだ? 此処に戻して欲しいということか? 絶対に駄目だ。生徒たちを蝕ませるつもりはない。冗談ではない。いつまでも毒液を撒き散らして、若い芽を侵蝕するつもりであろう。|毒液アリテ飼葉ヲ毒セシ《Infecit pabula tabo》」[*17]

「でも先生」

「どうしても日々の食事が欲しいのであれば、そんな頼み方はやめ給え。どうせパリの首吊り役人気取りどもも正直者と変わりなく物を食べるのであろう。まったく、何を食べるのやら。生焼けの肉を一切れ放って欲しいと頼まれれば、望み通りにもしよう。だが玄関前で、施しという形でだ。ローマの貴族が隷属民に与えたのと同じやり方で」

「先生」ピトゥが姿勢を正した。「食べ物は要りません。自分の分はありますから。誰の厄介にもなるつもりはありません」

「そうなのか」神父が目を瞠った。

「ほかの人たちと同じように生きるだけです。物乞いもしませんし、天から与えられた才覚で生きて行きます。ボクにはボクの務めがありますし、そもそも同胞(mes concitoyens)の厄介になることは無さそうです。その同胞たちから指揮官(chef)に選ばれたんですから」

「何ッ?」神父は驚きと恐怖の入り混じった声を出した。毒蛇を踏んづけてしまったような声だった。

「そうですよ、指揮官に選ばれたんです」ピトゥは悦に入って繰り返した。

「何を指揮するというのだ?」

「自由な人たち(hommes libres)の部隊です」

「可哀相に、気が狂いおったか」

「アラモンの国民衛兵を指揮するんです」ピトゥはうわべだけでも謙遜して見せた。

 神父はピトゥの顔を覗き込み、もっとよく表情を見て発言内容に間違いないか確認しようとした。

「アラモンに国民衛兵が存在するというのか?」

「その通りです」

「君がその指揮官だと?」

「そうです」

「君が? ピトゥが?」

「ボクが、ピトゥが」

 神父は大祭司ピネハス(Phinée)のように天に向かって腕を引き攣らせた。

「憎むべき荒廃だ(Abomination de la desolation)!」[*18]

「先生は知らないんです」ピトゥは慌てなかった。「国民衛兵は市民の生命と自由と財産を守るための組織ですよ」

「何てことだ!」神父はなおも絶望に沈んだ。

「それにそんなに力を持てる組織じゃないんです。特に田舎だと、部隊の問題もありますから」

「君が指揮する部隊かね。掠奪隊、火付け隊、殺人隊か」

「一緒にしないで下さい、先生。隊員たちを見てくれたら、みんなとても真面目な市民だと……」

「黙り給え」

「先生の方こそわかりませんか、ボクらは先生を普段から守っているんです(protecteurs naturels)。その証拠に、ボクは此処に真っ直ぐやって来たじゃありませんか」

「何故そんなことを?」

「そこですよ」ピトゥは耳を掻いて、兜を投げた辺りに目を遣り、大事な軍装の一部を拾い上げるために退路からあまり離れていないことを確かめた。

 兜が落ちているのはソワッソン街に面した大門からわずかの場所だった。

「何故そんなことをしたかと訊いたのだが?」神父が繰り返した。

「そうですね」ピトゥは後じさって兜の方に二歩進んだ。「ボクが此処に来た目的をお話しします。先生には説明するまでもないことかもしれませんが」

「前置きはいらぬ」

 ピトゥはさらに二歩兜に近づいた。

 だが同じような駆け引きがおこなわれ、ピトゥには安心できないことに――ピトゥが兜に二歩近づくたびに、神父も距離を保ってピトゥに二歩近づいていた。

「そうですね」防具に近づくにつれピトゥにも勇気が湧いて来た。「兵にはみんな銃が必要なのに、その銃がないんです」

「そうか、銃がないのか」神父は足を踏み鳴らして喜んだ。「銃がないのだな。選りに選って兵隊に銃がないとはな。立派な兵隊もあったものだ」

「でも先生」ピトゥはさらに二歩兜に近づいた。「銃がないなら探せばいいんです」

「うむ。探しているのか?」

 兜の届くところまでたどり着いたピトゥは、兜を足で引き寄せるのに夢中で返答が遅れた。

「探しているのか?」

 ピトゥが兜を拾い上げた。

「ええ、そうなんです」

「何処にあるのだろうな?」

「先生のところです」ピトゥは兜をかぶって答えた。

「私の家の銃だと?」

「ええ、余るほどお持ちです」

「私のものだぞ。収蔵品を掻っ払いに来おったのだな。こんなクズ共が歴戦の勇士の鎧を背負うというのか。ピトゥ君、先ほどお伝えした通りだ。気が狂っている。アルマンサの戦いの時のイスパニア兵の剣や、マリニャーノの戦いの時のスイス兵の槍を、ピトゥとその仲間たちの武器にするというのかね」[*19]】

 神父が呵々と笑い出した。そのあまりに人を見下した威圧感のある笑いが、血管という血管を通ってピトゥの全身をくまなく回り、ピトゥを芯から震え上がらせた。

「違うんです、先生。マリニャーノのスイス兵の槍もアルマンサのイスパニア兵の剣も要りません。そういった武器では役に立たないでしょうから」

「それをわかってくれるとはありがたい」

「そういった武器ではないんです」

「ではどんな武器だと?」

「海軍の銃です。罰としてよく磨かされていたあの海軍の銃です。あの頃は先生の規則に従いながら学んでいました。『がらてあニ縛ラレシ間dum me Galatea tenebat』」ピトゥはにこりとした微笑みを見せた。[*20]

「なるほど」神父はピトゥの微笑みを見て、まばらな頭髪が逆立つのを感じた。「なるほど海軍の銃か」

「つまりお持ちの武器の中で、歴史的価値がなくて戦いに使えそうなものだけです」

「ほう」神父は軍人(un capitaine)が剣のつかをつかむように九尾鞭のをつかんだ。「卑怯者が正体を現したな」

「お願いです先生」ピトゥの声は凄むような調子から懇願するようなものに変わっていた。「海軍の銃三十挺を渡して下さい」

「去ね!」神父がピトゥに一歩詰め寄った。

「自慢できますよ」ピトゥは一歩後じさりながら言った。「圧制者から国を解放することに貢献できるんですから」

「私と家族に弓引くための武器を差し出せというのか! 私を撃つための銃を手渡せというのか!」

 神父はベルトから鞭を引き抜くと、「冗談ではない」と言って頭上で鞭を振り回した。

「プリュドムさんの新聞にお名前が載りますよ」[*21]

「プリュドムの新聞に名前が載るだと!」

「模範的な市民として」

「むしろ待っているのは首枷とガレー船だ」

「どうして? お断わりになるんですか」猶も訴えるピトゥの声は弱々しかった。

「断るとも。出て行ってもらおう」

 神父は門を指さした。

「そんなことをしたら非道いことになりますよ。意識が低いだの不実だの言って罵られます。先生、どうかそんな真似はよして下さい」

「私を殉教者にするがいい、ネロめ! 喜んでなってやろう」神父の目は赤々と燃え上がり、受刑者というよりもむしろ死刑執行人のようだった。

 効果は絶大だった。ピトゥはさらに後じさった。

「先生」ピトゥは後じさりながら言った。「ボクは平和を愛する使者として、秩序をもたらす大使として、此処に来たんです……」

「君が此処に来たのは武器をくすねるためだ。お仲間が廃兵院からくすねたのと変わらぬ」

「あの人たちのしたことは称讃するに相応しいことでした」

「そして君には鞭の百叩きが相応しかろう」

「フォルチエ先生!」ピトゥは既知の道具を見て声をあげた。「そんな風に人間の権利を侵害することなんて出来ませんよ」

「余裕があるのも今の内だ、ろくでなしめが」

「先生、大使には手を出せませんよ」

「見ておれ!」

「先生! 先生!! 先生!!!」

 ピトゥは神父と向かい合ったまま門までたどり着いた。だが其処で追いつめられてしまい、後は戦うことを受け入れるか逃げるかするしかなくなった。

 だが逃げるには門を開けなくてはならず、門を開けるには後ろを向かなくてはならない。

 後ろを向けば、鎧に充分には覆われていない部分を神父に晒すことになる。

「銃が欲しいだと……銃を探しに来ただと……銃か死を選べと言うつもりか……?」

「そんなこと言うつもりはありません」

「銃の在処は知っているのだ、喉を掻っ切って奪って行けばよかろう。死体を乗り越えて運び出せばよい」

「出来るわけないでしょう」

 ピトゥは掛け金に手を掛け、神父が掲げている腕に目を注いだ。勘定していたのはもはや銃の個数ではなく、鞭の先の革紐がうなるかもしれない回数だった。

「では銃を渡して下さるつもりはないんですね?」

「そうだ、渡すつもりはない」

「そうする気はないんですね? もう一度確認します」

「ない」

「もう一度」

「ない」

「三度目の正直です」

「ないと言ったらない!」

「わかりました。だったら仕舞っておいて下さい」

 ピトゥは大急ぎで後ろを向いて、開いた門の隙間から擦り抜けた。

 だがそれでも間に合わなかった。唸りを上げて鞭がしなやかに振り下ろされ、ピトゥの臀部をしたたかに打ち据えると、勇敢なバスチーユの勝者と雖も思わず悲鳴をあげてしまった。

 この悲鳴を聞いて隣人たちが顔を出し、目を瞠った。兜と剣を身につけたピトゥが一目散に逃げ出し、門口に立ったフォルチエ神父が燃え立つ剣を振りかざす殺戮の天使のように鞭を振りかざしていたのである。


Alexandre Dumas『Ange Pitou』「Chapitre LXIV Où l'on voit en présence le principe monarchique représenté par l'abbé Fortier, et le principe révolutionnaire représenté par Pitou」の全訳です。


Ver.1 18/09/01

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[訳者あとがき]

 初出『La Presse』紙、1851年6月17日、及び6月18日。
 

[更新履歴]


 

[註釈]

*1. [かつて城館の所属司祭……]
 第1章によればフォルチエ神父は chapelain du château(城館の礼拝堂所属司祭)である。[]
 

*2. [国王フィリップの父であり……]
 Louis-Philippe II Joseph, duc d'Orléans, Philippe Égalité(1747-1793)は革命時にフィリップ・エガリテを自称した。その息子 Louis-Philippe(1773-1850)は7月王政で国王ルイ=フィリップとなる。[]
 

*3. [ジョゼフ=フィリップ]
 ジョゼフ=フィリップ。上記ルイ=フィリップ二世のこと。1778年のウェサンの海戦にて、当時シャルトル公だったルイ=フィリップは、司令官の命令を聞き逃し、退却するイギリス艦隊をみすみす逃してしまうというミスを犯した。必死で弁明したものの容れられず。[]
 

*4. [先生!/聞こえぬか、語形間違いの……]
 この二行は、底本・初出にはなし。[]
 

*5. [語形間違いに……]
 Est penes hominem arbitrium et ratio. est(〜である:三人称単数現在)、penes(〜に支配されて/〜で/〜に関して:前置詞[対格と共に用いる])、hominem(人:単数対格[〜を]) arbitrium(思惑:単数主格)、et(と)、ratio(理性:単数主格)。「意思と理性は人の支配下にある」。単数形「est」となっているが正しくは複数形「sunt」か。[]
 

*6. [燧石ノ徙移シメシ隠サレシ]
 「Abstrusum versis silicum」。ウェルギリウス「silicis venis abstrusum(燧石の石目に隠されし)」を誤って「Abstrusum versis silicum(複数の燧石の移されし隠されし)」としている。『農耕詩』1-135より、人間が経験によって技術を身につけてゆく描写。abstrusum(隠された:完了受動分詞or形容詞の単・中性・主格/対格/呼格 or 単・男性・対格)、versis(変わった・変えられた・移された:完了受動分詞・複・男/女/中性・与格/奪格)、silicum(燧石:複・属格)。[]
 

*7. [誹謗即チ閑カナル心ヲ…]
 Objurgātiō[Objurgatio](叱責:f・単・主格/呼格)、imbellem(平和的な:m/f・単・対格[〜を])、animum(心・魂・勇気・意思:m・単・対格)、arguit(示す・主張する・叱る・非難する:三・単・直説法・能動態・現在形)=「叱責は平和的な心を示す・非難する」。フランス語「la faiblesse se trahit par la colère.」の意味とは逆になるか?。[]
 

*8. [ミダス殿]
 「王様の耳は驢馬の耳」で知られる神話より。ミダス王はアポロンの演奏に異を唱えたため耳を驢馬のものにされた。ミダス王は耳を隠していたが髪を切る時それを見た理髪師が、秘密に耐えきれず穴を掘って真実をぶちまける。やがて穴の周りの葦がそれを口にし始めた。[]
 

*9. [フェヌロンは……]
 この段落で6/17連載分は終了し、次の段落からは翌6/18連載分に当たる。フェヌロン François Fénelon(1651-1715)はフランスの宗教家。[]
 

*10. [もうさっき言ってしまいました]
 「Contumelia non argumentum(侮辱には論拠がない)」のことか? ギリシアの賢人の答えについては不明。[]
 

*11. [ここは現在形でなくては……]
 「les doctrines révolutionnaires t'ont persuadé que tu étais mon égal.」。主節が大過去のため時制の一致が起こり従属節が半過去になるのは文法的には間違っていない。[]
 

*12. [アリステイデスやポキオン]
 アリステイデス。同名の人物は何人かいるが、ここで述べられているのはアテネの政治家である正義のアリステイデス(B.C.530-B.C.468)か。ポキオン(B.C.402-B.C.318)はアテネの政治家。[]
 

*13. [macte animo/Sursum !]
 ◆「macte animo」ラテン語。macte(1.崇拝された:形mactusの単数・呼格/2.恵まれた・神聖な・勇気に恵まれた・素晴らしい!:形・不変)、animo(1.元気づける:動詞・一人称・単数・主格/2.心・勇気:名詞animusの単数・与格/奪格)。「macte animo」=「勇気を持て」の意。
 ◆「sursum」(上に:副詞)。cf.corda(心・心臓:名詞corの複数・主格/呼格/対格)。「sursum corda」の形で「心を上に(=元気を出して・希望を持って)」の意。ミサの中で用いられる言葉。[]
 

*14. [この成句を……]
 ◆前段の「macte animo」は、通常「Macte animo generose puer, sic itur ad astra 」の形で用いられる。「子よ、勇敢に、気高く、さらば星々まで届かん」の意。フォルチエ神父は「puer」を「Pitoue」にもじっている。もともとはウェルギリウス『アエネーイス』第9巻641行「Macte nova virtute, puer, sic itur ad astra」より、アポロンがアエネアスの息子アスカニウス(ユルス)を励ます言葉。「Macte animo, generose puer,( sic itur ad astra)」の形でヴォルテールが好んで用いた。
 ◆puer(子ども:名詞・単数・主格/呼格)、sic(このように・そうすれば:副詞)、itur(行く・進む・起こる動詞eō・三人称・単数・現在形)、ad(〜まで・〜に:前置詞[+対格])、astra(星:名詞astrum・複数・主格/対格/呼格)。[]
 

*15. [ヨヤダ/カティリナ]
 ◆ヨヤダ:Joad。Joïada とも。ヨヤダまたはエホヤダ。旧約聖書『歴代誌(下)』等に登場する祭司。神殿の補修のため銀を集めたり(列王記(下)12:9-)、バアルの神殿でヨアシュ(ヨアシ)王を即位させアタルヤ(アタリヤ)女王を処刑し人々に神との契約を結ばせた(歴代誌(下)23:1-)。英訳では「Joab」になっている。
 ◆カティリナ:Catilina。ルキウス・セルギウス・カティリナ(Lucius Sergius Catilina,B.C.108-B.C.62)。共和制ローマへのクーデターを企てた。キケロ「カティリナ弾劾」で知られる。[]
 

*16. [ザイール/ルカン/オロスマーヌ]
 『ザイール(Zaïre)』は、ヴォルテールの戯曲。スルタンのオロスマーヌに愛されたキリスト教徒のザイールが、一通の手紙によって不実を疑われ、スルタンに刺されて命を落とす。あとで無実に気づいたスルタンも自殺する。ルカン(Lekain)は、オロスマーヌ役を演じたフランスの俳優(1729-1778)。[]
 

*17. [毒液アリテ飼葉ヲ毒セシ]
 ウェルギリウス『農耕詩』第3巻481行より。「かんかんと燃ゆる季節が、獣を打ち倒し、池を汚し、秣を毒した」。[]
 

*18. [ピネハス/憎むべき荒廃]
 「ピネハス」Phinée。ピネハス。『出エジプト記』『民数記』に出てくる祭司。また『サムエル記』にも同名の祭司が登場するが、引き攣った腕を天に向かって伸ばしたという記述はいずれにも見られない。/「憎むべき荒廃」Abomination de la desolation。聖書に見える表現。不敬や絶望を表す。文語訳「殘暴可惡者《あらすにくむべきもの》」、口語訳「荒らす憎むべきもの」、新共同訳「憎むべき荒廃をもたらすもの」。『ダニエル書』9:27、11:31、12:11、『マタイ福音書』24:15、『マルコ福音書』13:14など。『ダニエル書』12:11には、ダニエルからたずねられた人が天に向かって手を上げる場面がある。。[]
 

*19. [アルマンサの戦い/マリニャーノの戦い]
 それぞれスペイン継承戦争でフランス=スペイン軍がイギリス=オランダ=ポルトガル軍を破った戦い、イタリア戦争でフランス=ヴェネチア軍がスイス人傭兵を破った戦い。[]
 

*20. [海軍の銃/がらてあニ縛ラレシ間]
 「海軍の銃」ピトゥが欲しがっているのは、この章冒頭にあるように、ウェサンの海戦から持ち帰られた銃である。/「がらてあニ縛ラレシ間」ウェルギリウス『牧歌(選集)』第一歌31行「namque – fatebor enim – dum me Galatea tenebat,/nec spes libertatis erat nec cura peculi.」自分を束縛していたガラテアがいなくなったからローマに行くと話すティテュルスの台詞。[]
 

*21. [プリュドム]
 プリュドム(Prudhomme)の名は第62章にも見える。Louis Marie Prudhomme(1752-1830)はフランスのジャーナリスト。『パリの革命』発行人。バスチーユ襲撃を報じた。。[]
 

*22. []
 。[]
 

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