「まず始めに」と、彼は始めた、
「謎かけなどではないですが――
目指す〈相手〉がベッドにいれば、
枕のそばの天幕じゃなく、
真ん中あたりをつまむこと、
「手当たりしだい引っ張りながら、
ゆっくりあちこち揺らします。
あっという間に、必ず彼は、
頭を起こしきょろきょろと
不機嫌ながらも不思議顔。
「何よりここでおざなりじゃなく
観察しなけりゃなりません。
開始するのは相手待ちです。
幽霊なんかいるわけないと
誰もが思って口をきく。
「『どうやって来た?』と言われたときは
(あなたとおんなじタイプです)
そんなときには言うのはひとつ――
これが正しい答え方です
『
「そのあと何も言われなければ、
要らぬ努力など端折るのが
一番でしょう――ドアを揺すって、
それでイビキをかかれたときは、
縮尻ったというわけですよ。
「昼の日中に一人っきりで――
お家で過ごすか散歩なら――
虚ろな声を出すだけでいい、
声の調子に思いを込めて
話があるぞと言うばかり。
「でも友だちと一緒のときは
ことは果てしなく難しい。
そんな場合にうまくやるには
必要なのはちびた蝋燭、
冷蔵庫にあるバターも良し。
「これを使ってつるりとひとつ
(一番いいのはそりゃ脂)、
足のすべりをなんとか良くし、
あとは左右に揺れ動くだけ――
こつは簡単に学べます。
「第二の法を教えてくれる
唱えて吟ずる公式は――
『まず青・赤の光を燃やし、
(今夜はまるで忘れてました)、
『次いでドア・壁をかきむしれ』」
「ガイ・フォークスを真似る気ならば、
もう二度とここに来ちゃだめだ。
床で火をたくつもりはないよ――
ドアをキーキー引っ掻くのなら、
やってるところを見てみたい!」
「さて第三に書かれてるのは
〈相手〉の権利を守ること、
その戒めを思い起こせば、
敬意をもって扱いたまえ、
ゆめゆめ反抗するなかれ」
「重さを量る数式みたいに
ぼくにもすっきりよくわかる。
ただ願わくば幽霊たちが
君の話したその原則を
忘れず覚えていてほしい!」
「どうもあなたのもてなし方は
のっけからすでに違います。
幽霊たちが本能的に
嫌がるものは、真心こめた
もてなし方さえ出来ぬやつ。
「霊に向かって『もの!』と呼んだり
斧をふりかざすつもりなら、
王に許しの出ているとおり
形式的な会話をやめて――
必ずや罰を与えます!
「さて第四は、
宿を侵したりするなかれ。
罪の宣告受けた奴らは
(王の赦しが出ない限りは)
逃げるひまもなくメッタ斬り。
「つまり『微塵にメッタ斬り』です。
幽霊はすぐによみがえる。
痛みはとんとないも同然――
せいぜいがとこ、いわくいわゆる
評論家たちに『メッタ斬り』。
「第五番目は残らずすべて
聞きたいのではと存じます。――
王を『陛下』とお呼びすること。
これは忠義な廷臣により、
法の要求とするところ。
「だけどまだまだ徹底的に
礼を尽くさんとするのなら、
『わが魔王さま!』とお呼びすること。
答えるときはいつも決まって
『黒王陛下』と応うこと。
「残念ですが喉がからから、
あんまり話をしすぎかな。
どうですあなた、よろしかったら、
ビールを一つ交わしませんか――
こいつはずいぶん美味しそう。」
"Phantasmagoria" Lewis Caroll, 1869 --CANTO 2 の全訳です。
Ver.1 05/08/30
Ver.2 05/09/20