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ファンタスマゴリア〜幽幻燈記〜

ルイス・キャロル

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作家略年譜・作品リスト

第三篇
小競り合ひ


「だけどほんとにこんな雨夜に、
とことこ歩いてきたのかい?
霊は飛べると思っていたよ――
空高くとは言わないまでも、
かなりの高さを飛べるとね」

「王にとっては何事もなし
地上をふわりと飛ぶことは。
でも幻妖は羽根が必要――
楽しいことはどれでも同じ――
必要以上に金を食う。

幽鬼たちなら金持だから
精霊たちから羽根を買う。
でも我々は地上を好む――
彼らは嫌な奴らなんです、
ほかのみんなからしてみると。

「なにせ驕りはないと言いつつ
幻妖と会った時なんて
頭ごなしに軽蔑してる――
チャボのことなど歯牙にもかけぬ
七面鳥かと思うほど」

「きっと驕りが強すぎるから
こんな住まいには来ないんだ。
ねえ、どうやって、そんなに早く
『場所は低い』し、『ワインはみんな
腐っている』ってわかるのさ?

不明 挿絵09

ロンドン警視庁ヤードの鬼のコボルトが来て――」
幽霊のやつが言いかけた。
ちょっと待ってよ――「ヤードの鬼が?
鬼警部とは変わった霊だ!
詳しい話を聞きたいな!」

「やつの名前はコボルトといい、
幽鬼一族の一人です。
見かける時はいつも同じ、
黄色いガウン、真っ赤なベスト、
横縞模様の就寝帽。

「やつの任地はブロッケン山、
けれどたいそうな風邪をひき。
イギリスに来て療養中に、
喉が渇いて仕方がなくて、
ぶつぶつ文句を言うのです。

「風邪が治ると、曰くワインが
骨を温める秘酒代わり。
三食つきの宿がやつには
願ってもない憩いの住処、
ゆえに人呼んで宿の鬼

喉が渇いて仕方がなくて

我慢だ我慢――男らしくね――
こいつは苦しいシャレだなあ!
このうえもなくご機嫌だった
ぼくの気分も、霊が無礼な
批評を始めるまでのこと。

「コックが手抜きしたわけじゃない。
けれども教えた方がいい
料理の味は濃い方がいい。
どうして薬味を手の届かない
ところに仕舞って置くのかな?

「ここの下男は給仕のように
金を稼ぐのは無理でしょう!
焦がしちゃっても妙じゃないでしょ?
(限度を超えた下手くそなので
人事担当も要りません。)

「鴨は柔らか、でもおつまみは
とんでもないほど古びてる。
よけりゃ覚えておいてください、
今度チーズをあぶったときは、
冷やさないように頼みます。

「いい小麦粉をぐんと使えば
素晴らしいパンもできるはず。
ここに置いてるインクのような
飲み物ですが、まさかあなたは
酸っぱくないとか言うつもり?」

興味深げに見回してから、
「なんてこったい!」とつぶやくと
すぐに批評の続きを始め――
「あなたの部屋は勝手が悪い。
居心地も悪くゆとりなし。

「あんな小さい窓ならきっと、
夕陽の射すのが関の山――」
「だけどいいかい」僕がさえぎる。
「設置したのはあのラスキン
信頼している建築家!」

「誰であろうと、どこぞの誰を
信頼しようと存じません!
どんな決まりによるものであれ、
お化け暮らしをしてきたなかで
見たことないよなヘボ仕事。

「こいつは旨い葉巻ですねえ!
一箱おいくらするんです?」
僕はうなった。「どうでもいいさ!
いつのまにやら従兄弟みたいに
馴れ馴れしいにもほどがある!

我慢するのももうこれまでだ、
この際はっきり言っとこう」
「あはっ、愉しくなって来ました!」
(ワインボトルを手に持ちながら)
そんなのどうにもなりますよ!」

ここぞとやつが狙いをつけて、
陽気に叫んだ「そら食らえ!」
ぼくはなんとか避けたかったが、
途端に鼻の真ん真ん中に、
どうしたわけやら大当たり。

ほとんど何も思い出せない
覚えているのはこんなこと、
床に座って繰り返してた、
「二ぃたす五ぉは、四なんだけど、
五ぉたす二ぃだと、六なのだ」

経験したり、空想したり
したことすらない時が経つ。
わかってるのは、気がついたとき、
置きっぱなしのランプがぽつり――
炎がだんだん弱くなる――

湧き出る霧の向こうでやつが
微苦笑するのが見えるよう。
気づいてみれば、子どもみたいに
ぼくはあいつの一生涯に
ついての授業を受けていた。


"Phantasmagoria" Lewis Caroll, 1869 --CANTO 3 の全訳です。


Ver.1 05/11/07
Ver.2 07/12/15


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[更新履歴]

・07/12/15 19聯目「I tried to dodge it as it came」の「it」が何なのかよくわからなかったので適当にお茶を濁していたのだけれど、18聯の「a bottle」のことだと気づいたのでそれに合わせて前後の訳を修正。

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