二人の男、つまり一人の建築家と今一人の考古学者が、プライア・パークにある邸宅の石段の上で出会った。邸の主であるバルマー卿は熱心に、二人を引き合わせるのは当然のことだと考えた。打ち明けて申せば熱心どころか放心しているに違いなく、建築家と考古学者はどちらもカ行で始まるということ以外に、特にはっきりとつながりを感じていたわけではなかった。同じ理屈にしたがって鯨飲家に外交官を紹介したり殺鼠業者に算術屋を紹介したりしたかどうか、世間では温かく疑いを持ち続けているに違いない。バルマー卿は大柄、金髪、猪首の若者で、身振り手振りで忙しく、無意識に手袋をはためかせステッキを振り回している。
「お二人とも話すことがあるはずですよ」と陽気に言った。「古い建物とかそういったことをね。そういえばここはかなり古い建物だけど、いや僕が言うことじゃないな。ちょっと失礼させてもらいます。妹のやつが準備しているこのクリスマス騒ぎのために、カードを考えに行かなきゃならないんで。もちろん参加してくれるでしょうね。ジュリエットがやりたがっているのは仮装もので、僧院長とか十字軍とかいろいろです。僕の先祖たちじゃないですか、要するに」
「僧院長は先祖ではありますまい」考古学者はにやりとした。
「せいぜい大叔父さんか何か、ですかね」と答えてけたけたと笑い出した。それから家の前に設けられた景色に落ち着きなく目を走らせた。人為的な水の広がりの中央には古風なニンフ像が花を添え、周りを取り囲む庭園に生えた高い木々は今や灰と黒と霜に覆われていた。厳しい冬のさなかなのだ。
「冷え込んできましたね」とバルマー閣下が続けた。「妹が言うにはダンスもいいけどスケートもしたいんだとか」
「十字軍が完全武装して来たとしたら、気をつけないとご先祖さまを溺れさせてしまいますぞ」
「いや心配いりませんよ。この立派な湖の深さはどこも二フィートないんだから」
振り回すようにしてステッキを水に突っ込み、浅いことを確認して見せた。先端が水の中で曲がって見えた。そのため、巨体が折れた杖で支えられているように束の間思えた。
「運が悪くても、僧院長が尻餅をつくところを見られくるらいですよ」一言つけ加えると立ち去った。「じゃあ、オ・ルヴォワール。またあとで」
考古学者と建築家は広々とした石段に取り残されて笑みを交わした。だが仮に二人が同じことに興味を持っていたとしても、それはおのおの考慮すべき違いとなって現れていた。想像力のある人間なら、一つ一つを考慮のうえでいくつか相違点を見つけることもできただろう。前者のジェイムズ・ハドウ氏は、皮革と羊皮紙で埋もれた法曹学院の、眠気を誘うような穴ぐらからやって来た。というのも法律が専門であり、歴史は趣味であったのだ。何よりかによりプライア・パーク邸の事務弁護士で代理人なのである。だがハドウ自身は眠気とはほど遠い、冴えに冴えた人物であるらしく、青い目はぎょろぎょろと鋭く、櫛の通った赤い髪は整った服装と同じく整っていた。後者の名前はレナード・クレインといって、中心部からわずかにはずれたところにある、粗末で下町じみた建築家及び家屋周旋業者の事務所からまっすぐやって来た。てかてかした色の見取図やでかでかとした文字のビラが貼られた安普請の新築並びの末席にある、日にさんさんと照らされた事務所である。だがもう一度じっくりと観察してみれば、目のなかに洞察力と呼ばれる輝かしい眠りのようなものが見つかったかもしれない。黄色い髪は気取って短いながらも、気取らずこぎれいである。建築家は芸術家なりというのは嘆かわしい真実ではあるが明らかだった。だが芸術家肌と言っては間違いになる。はっきり何とは言えないが人によっては危険とすら感じるものを何か持っていた。夢見がちなくせに、芸術はおろか、前世の記憶でもあるものなのか、日頃からは想像もつかぬような体育会系の分野においても友人たちを驚かせることもあったはずである。にもかかわらずこのときは、話し相手の趣味には疎いことをあわてて弁明した。
「知ったかぶりをするわけにはいきません」と微笑むと、「考古学者とは何をする人なのかすらよく知らないんです。ギリシアのさびのついた遺物からすると、古いものを研究するんでしょうけれど」
「その通り」ハドウは断言した。「考古学者とは古いものを研究し、そこに新しいものを見つける人間のことだとも」
クレインはしばし相手を見つめてからふたたび微笑んだ。
「考えようによっては、ぼくらが話していたもののなかにも、古いものにまぎれて実は古くないものがあったってことですか?」
連れの方もしばし黙り込み、静かに口を開いたときには、険しい顔に浮かんだ笑顔も薄らいでいた。
「庭園を囲む塀は正真正銘に古いのだよ。出入り口の門はゴシック式で、破壊の跡も修復の跡も見られない。だが家や土地はだいたい――そうだな、そうしたものから読み取ることのできる作り物めいた発想というのは、たいていが最近になってからの作り事、流行りの小説みたいなものだ。例えば、ここの名前がそうだ。
見たところクレインは古遺物と新発見の講義に上の空だったが、その原因はすぐに明らかになり原因そのものが近づいてきた。バルマー卿の妹ジュリエット・ブレイがゆっくりと芝生を横切りやってきた。一人の紳士にエスコートされ、その後ろにはさらに二人いる。若き建築家の心は、一人よりは三人の方がいいという理屈に合わぬ状態であった。
ブレイ嬢の隣を歩いているのはほかでもない、かの著名なボロディノ公であり、少なくとも秘密外交なるものにとって、優れた外交官としてあるべきほどには有名であった。これまでさまざまな英国の郊外邸宅を訪れてきており、文字通りプライア・パークで行っている外交は、外交官として望めるかぎり完全に秘密が守られていた。外見についてはっきり言える点は、すっかり禿げてさえいなければ極めて立派だっただろうということである。だが実のところはこれ自体かなりハゲしさを抑えた言い方であろう。でたらめめいて聞こえるが、髪が生えているのを見たならびっくりしただろうというのが、この場合にはより相応しい言い方だ。びっくりの度合いでいえば、ローマ皇帝の胸像に髪が生えているのを見たときに匹敵しよう。背が高く、胴回りをきっちりとボタンで留めていたが、目立たなかった巨体をかえって引き立たせる結果となっていた。ボタンホールには赤い花を挿している。後ろを歩いている二人のうち一人も禿げていたが、まだ部分的なものでありまだそれほどの年でもない。というのも垂れ下がった口髭はまだ黄色く、目つきがいくらか重たげだとしてもそれは気怠さによるものであって年齢によるものではなかった。名前はホーン・フィッシャー。どんなことでも易々と力も入れずに話したが、どんな話題に興味があるのかは誰にもわからなかった。話し相手はさらに目を引く人物であり、さらに不吉な人物でさえあるうえに、バルマー卿の一番の旧友にして親友であるという付加価値までついていた。一般には単純簡潔にブレイン氏として知られていた。だがかつてはインドで判事と警察官僚をしており、敵が多いのは犯罪に対するほとんど犯罪的な対応のためだということは知られていた。暗く深く沈んだ目に、黒い口髭が口元の本心を隠す、茶色い骸骨である。見た目こそ熱帯病か何かに罹った人間であったが、身のこなしはだらけた同行者よりもはるかに機敏だった。
「やっと決まりました」声の届くところまで来ると、ブレイ嬢が元気よく発表した。「みんな仮装の衣装を着てくれないと。スケート靴も忘れずにね。公爵はミスマッチだなんて言うけれど。でも気にしないわ。すっかり凍っているんだし、イギリスじゃこんなことめったにないんだから」
「インドでも一年中スケートをしているわけではありませんぞ」とブレイン氏が言った。
「イタリアだって氷と関わりが深いわけじゃない」とイタリア人。
「イタリアと言えば
「密使や外交官でないとどうしてわかります?」公爵がさげすむような笑みを浮かべた。「一個連隊のオルガン弾きが手がかりをかき集め、客寄せの猿があらゆるものをかき集めているかもしれないのに」
「確かに
ジュリエット・ブレイは黒い髪に黒い眉に輝く目をした魅力的な女性であり、かなり態度は大きいなりに可愛いところもあれば優しいところさえあった。重大なのは兄を自由にできたという点である。あの貴族ときたら頭の弱い人たちの例に漏れず、追いつめられると威張り散らす
プライア・パーク、より正確にはホリンウォールの周辺地区は、有力者の土地から今や郊外地になっていた。かつては軒先に有力者頼みの村が一つきりだったのだが、今や軒並みロンドンが押し寄せてきたきらいがある。ハドウ氏は図書館と土地のふたつにわたって歴史の研究をしていたが、後者の助けはなかなか見つからない。すでに文献からわかっているのは、プライア・パークとはもともとプライア農園などと同じく地元の大物から名が取られたということであるが、新しい社会状況のせいで言い伝えに沿って物語をたどるのが難しくなっていた。根っからの田舎者が何人かでも残っていれば、あるいは求めてやまないプライア氏の言い伝えを見つけることもできただろうが、可能性は遠かった。だが事務員や職人からなる新しい遊牧の民たちは、定期的に郊外から郊外へと家を移し、学校から学校へと子を移し、共通する来歴のあろうはずもない。彼らは揃って、教育の普及とともにどこにでも足を伸ばす歴史健忘症にかかっていたのである。
とはいうものの、翌朝になって図書室から出てきて、冬枯れの木々がシュヴァルツバルトのように凍った池を取り囲んでいるのを見ると、ど田舎の奧にいるような気がしたものだ。庭園をぐるりと囲む古い塀は、今もその構内に田舎びて現実離れしたところを完全に残しており、暗い森の奧は何処とも知らぬ谷や丘のなかに消えているのだと思い描くのも難しくはないだろう。灰と黒と銀色をした冬の森は、すでに氷の上や周りに集まっていた色鮮やかな祭り人たちとは対照的に、ますます厳めしくどんよりとしていた。ホームパーティのため待つ間もあらばと誰もがとっくに仮装に駆り出されていたため、黒服と赤毛の弁護士ただ一人だけが一座の現代人であった。
「着替えるつもりはないんですか?」ジュリエットは憤然として、角あり塔あり十四世紀の青い頭飾りを振った。頭飾りがしかるべく顔をずいぶんと上品に、空想的に囲んでいる。「ここにいる人はみんな中世風でいなきゃ。ブレインさんだって茶色い部屋着を着て修道僧のつもりなんですよ。フィッシャーさんは台所にあった古い芋袋を手に入れて縫い合わせてました。やっぱり修道僧になるつもりだったんですよ。公爵ときたら本当に素敵、枢機卿みたいな深紅の礼服を着ているんです。誰彼かまわず毒殺してまわりそうじゃない。あなたも何かあるはずよ」
「一日が終わるまでには何かになりますよ。今現在は考古学者と弁護士以外の何者でもない。これからお兄さんに会って、頼まれていた法律関係の話と地域調査の話もしなくてはならんのでね。管財報告をすれば間違いなく管財人に見えるだろうし」
「でも兄は着飾っていたのに! ずいぶん念入りに。際限なくと言った方がいいくらい。ほら、得意満面でやって来たでしょう」
なるほど大貴族が歩いてくる。紫や金もまばゆい十六世紀の扮装に、金柄の剣に羽根飾り帽、いざ決闘にゆかんとばかりである。なるほど現在の様子を見るかぎり、普段以上に過剰な身振りであった。まるで帽子の羽根飾りに合わせて中身まで偉くなってしまったようである。豪華な金筋入りマントを、パントマイムの妖精王の翼のようにはためかせている。あろうことか剣を華麗に抜いてステッキのように振っていた。祭りのあとの明かりのなかでは、その派手やかさには何か異常で不吉なところが感じられた。「兆し」のようなものだ。そのときは、酔っぱらってでもいるのかと一人二人がふと考えただけに留まっていた。
妹の方に歩み寄ったとき、一番近くにいたのがレナード・クレインだった。深緑色の服を身にまとい角笛と剣帯と剣を身につけ、見るからにロビン・フッドである。ジュリエットのすぐそばに立っていたのだが、必要以上に時間を費やしていたのかもしれない。スケートの隠れた才能を披露していたのだが、スケートが終わった今もお相手をやめるつもりはなかったようだ。浮かれているバルマーはふざけ半分に剣を抜いて、フェンシングの要領で突きを繰り出し、齧歯類とヴェネツィアの貨幣に関する比較的有名なシェイクスピアを引用して、絡んできた。
おそらくクレインのなかにも興奮が眠っていたらしい。とにもかくにもやにわに剣を抜き攻撃をかわした。次の瞬間、誰もが驚いたことに、バルマーの武器が手から空中に跳ね上がったように見え、音を立てて氷の上に転がった。
「嘘でしょう!」バルマー嬢は当然と言わんばかりにお冠である。「フェンシングもできるなんて知りませんでしたよ」
剣を拾ったバルマーはいらだつというより戸惑っているようで、そのせいで目下のところやけっぱちであるらしい印象が強まっていた。するといきなり弁護士を振り返りこう言った。「晩飯後に土地のことで話をつけようじゃないか。実際問題スケートにはほとんど参加できなかったな。明日の夜まで凍っているかどうかは怪しいもんだし。早起きして一人でくるくる回った方がいいのかな」
「私はお邪魔しないことにしますよ」ホーン・フィッシャーが気怠げに口をきいた。「アメリカ式に氷で一日を始めるにせよ、できるだけ少ないに越したことはありません。十二月に早起きなんて私は願い下げです。早起きは三文の徳ならぬ風邪の引き損」
「はあん、風邪引きで死ぬつもりはないね」バルマーはからからと笑って答えた。
スケートに参加したのほとんどが泊まり客だった。残りの客たちは一人二人と徐々に家路につき、やがて泊まり客たちも寝室に収まり始めた。こういうときにはいつも招かれていたご近所の住人は自動車や徒歩で我が家に帰った。法律及び考古学徒は、先ほどの電車で法曹学院に戻っていた。依頼人との協議中に必要になった書類を取りに戻るのである。ほかの客たちのほとんどはぶらぶらだらだらと各階のベッドに潜り込むところだった。ホーン・フィッシャーは、早起きを拒む口実を自ら投げ捨てでもするように、真っ先に部屋に引っ込んでいた。だが眠たげに見えるわりには、眠れなかった。卓上から地方地誌の本を取った。ハドウが地名の起源を見つけるきっかけになったという本だ。何にでも興味津々という地味で風変わりな能力の持ち主だったため、ぐいぐいと読み始め、これまでの読書経験からすると目下の結論には疑わしいと思うところがあれば、どんなことでもメモを留った。その部屋も森に囲まれた池にいちばん近かったため、いちばん静かだった。最前までの夜祭りの残響もここまでは届かなかった。プライア農場と塀の穴についての起源の定説を丁寧に読み進めていたのだが、修道僧と魔法の井戸の空想から目覚めたのは、凍てついた夜のしじまから聞こえる物音に気づいたからであった。特に大きな音ではなかった。だがどうやら鈍く重い音、いわば人がなかに入ろうとして木のドアをたたく音に似ているようだ。やがて軋むような割れるようなかすかな音が聞こえた。障害がその扉を開いたのか、取り除かれたかしたような音である。寝室のドアを開けて耳を澄ました。だが階下で響き渡る話し声や笑い声が聞こえたため、声をかけても梨の礫だったり家が無防備なまま放っておかれたりする心配はなかった。開いた窓まで行き、森の中央にある凍った池と月に照らされた彫像を見晴るかし、ふたたび耳を澄ませた。だがその静閑な場所には静寂が戻ってきていた。かなりの時間にわたって聞き耳を立てていたものの、聞こえたのは遠くで列車が発車して鳴らした物寂しい警笛だけであった。それから、普段から眠れぬ夜には正体も分からぬ物音がいくつも聞こえているのを思い出した。そこで肩をすくめてぐったりとベッドに戻った。
不意に目が覚め、ベッドに起きあがったのは、雷鳴のような、張り裂けるような叫びがぐわんぐわんと響いて耳を聾したからだ。なおもしばらく体が動かなかったが、やがてベッドから跳ね起き、終日身につけていた布袋製のだぼだぼの部屋着を投げ捨てた。真っ先に行ったのは窓のところだが、窓は開いてはいたが厚いカーテンで覆われていたため、部屋のなかはまだ真っ暗だった。だが、カーテンをひっつかんで頭上にめくりあげると、灰色銀色の陽射しが、池を取り囲む黒い森の背後からとうに上っているのが見えた。そして、それが目に見えたすべてであった。物音は確かに窓越しにこっち方面から聞こえたのに、どこを見渡しても月光のような日光に照らされているだけで、音も姿もなかった。まるで震えを抑えようとでもするように、窓枠をつかんだ長くぶらりとした手にぎゅっと力が入った。見つめていた青い目に恐怖が翳った。昨夜の物音が気になったのを常識によってどうにか封じ込めたことを考えてみれば、こんな感情は大げさで無用なものであったかもしれない。だがあれはまったく違う種類の物音だった。木を切る音から壜を割る音まで、五十通りもの出所が考えられる。夜明けの家の暗がりに響き渡ったこの音を出せるものは、世界でたった一つしかなかった。ひどくはっきりとした人間の声だ。なお悪いことに、フィッシャーはその人間を知っていたのである。
さらにはそれが助けを求める叫びであることも知った。確かに言葉が聞こえたような気がした。だがその言葉はあまりに短く、口を開いたと同時に息が詰まったかひったくりに遭ったかしたように、呑み込まれてしまった。嘲るように反響だけが今も記憶に残っていたが、それでも声の持ち主を疑いようもなかった。間違いない。バルマー男爵フランシス・ブレイの胴間声が、今さっき暗闇と曙光のあいだから聞こえてきたのだ。
自分がどのくらいのあいだ立ちつくしていたのかはわからないが、ふと我に返ったのは、半ば凍った風景のなかに動くものを見つけたからである。池のそば、窓のすぐ下の小径沿いに、一人の人物がのんびりゆっくりどころか泰然自若と歩いていた――まばゆい緋色のローブをまとった堂々たる人物である。枢機卿の扮装を着たままのイタリアの大公であった。大部分の来客は、ここ二日間ばかりを扮装したまま過ごしていたし、かくいうフィッシャー自身もずだ袋製の僧服を便利な部屋着の代わりにしていたのだ。だがそれにもかかわらず、この豪華な赤インコにはただの早起き鳥にしては何か普通ではない洗練されたよそ行きのものが感じられた。まるでこの早起き鳥は一晩中起きていたようではないか。
「どうしました?」窓から身を乗り出して一言、フィッシャーはたずねた。するとイタリア人は真鍮の仮面のような派手な黄色い顔を上に向けた。
「その話は階下でした方がいい」ボロディノ公は言った。
フィッシャーが階下に急ぐと、派手な赤服の人物が戸口に踏み入れ巨体で入口をふさいでいるところに出くわした。
「あの悲鳴を聞きましたか?」
「音がしたから来たんだが」と答えた外交官の顔は、顔色が読めないほどに暗く曇っていた。
「あれはバルマーの声でした」フィッシャーは断言した。「絶対にバルマーの声でした」
「よく知っていたのかい?」
その質問は非合理とは言わぬまでも無意味なものに思えた。そこでフィッシャーは、バルマー卿のことはわずかしか知らなかったと取ってつけたように答えることしかできなかった。
「誰一人としてよく知らないんだ」イタリア人は声の調子を変えずに続けた。「誰一人、ブレイン以外はね。ブレインはバルマーよりかなり年上だけど、二人のあいだには秘密がたくさんあるんじゃないかな」
フィッシャーは一時的な昏睡から覚めたように急にびくりと動き出すと、うってかわって力強い声を出した。「でもいいですか、何か起こったのかどうか外に確認しに行った方がいいでしょう」
「氷が解けているようだね」と気のなさそうに公は答えた。
家から出てみると、灰色の氷原には黒い汚れや星ができており、前日に家主が予言したように氷が割れていることがわかった。まさにその前日の記憶が、目下の謎を引き起こした。
「解けることはわかっていたはずだね。わざわざ早めにスケートしに来たんだ。水に落ちて声をあげた、どうだい?」
フィッシャーは困惑しているように見えた。
「バルマーはブーツが濡れたからといって叫ぶような男には見えません。ここで起こることといったらそれくらいでしょう。バルマーほどの男ならせいぜい水もふくらはぎまでしかないんですから。薄い窓ガラス越しに見るように、池の底の水草がぺしゃんこになっているのが見えるでしょう。違いますね、氷を割っただけならバルマーはその瞬間にそれほど声を出したりはしないでしょう。あとからたっぷりならわかりませんが。この小径を文句たらたら踏み鳴らして、きれいなブーツを取りに行くバルマーに出くわしていたはずです」
「上機嫌で時間を潰している姿が見つかることを祈ろう」外交官が言った。「その場合、声は森から聞こえたことになるな」
「家から聞こえたのでないことは確かです」とフィッシャーは言った。そして二人は暁の冬の木立へ、ともに姿を消した。
燃えるような朝日を背景にして木々が黒い影となってそびえていた。黒い縁が羽のように柔らかに木々を包んで見え、そのときばかりは裸の森も無骨どころかその正反対であった。何時間も経ち、夕陽とは対照的な青々とした色を背景にして、同じく濃密だがうっすらとした縁が黒い影を見せたころにも、日の出とともに始まった捜索は終わりにたどりついてはいなかった。次第次第に、ゆっくりと人々が集まってくるにしたがい、そのなかにもっとも重要な人物が欠けていることが明らかになった。どこを探しても主のいる形跡は見つからなかった。使用人の報告によれば、ベッドには寝た形跡があり、スケート靴と仮装の扮装がなくなっていた。公言どおりに早起きしたように思える。だが家の天辺から床下まで、庭園を囲む塀から中心の池にいたるまで、生死に関わらずバルマー卿の痕跡は皆無だった。悪い予感を感じていたホーン・フィッシャーは、生きている人間が見つかる希望などとっくに捨てていた。だがフィッシャーは禿げた額に皺を寄せ、人間がどこにも見つからないというまったく別の不可解な問題に取り組んでいた。
何らかの理由でバルマーが自分の意思で立ち去ったという可能性も考えてみた。だがさんざん考え抜いたうえでその考えは退けた。夜明けに聞こえた間違えようもない声とも、ほかのさまざまな現実的問題とも、相容れなかったからだ。小さな庭園を囲む年経てそびえる塀には、門は一つしかなかった。門番は昼近くまで閂を掛けていたし、通り抜けた人間もいなかったという。ほぼ間違いない。目の前にあるのは、閉ざされた空間における数学的問題だ。本能的に初めから悲劇を覚悟していたため、死体が見つかりさえすれば一安心できるといってもよかった。絞首台からぶらさがるように貴族氏の死体が自宅の木からぶらさがっているのに出くわしても、あるいは青っ白い雑草のように池に浮かんでいるのに出くわしたとしても、もちろん悲しみはするだろうが、恐がりはしなかっただろう。恐ろしいのは、何も見つからないことだった。
やがてフィッシャーは、個人的で人知れぬ調査の最中ですら一人ではないことに気づいた。深閑として人跡未踏とも思える森の空き地や、周りを囲む古い塀の隅々にまで、影のようについてくる人影が何度も見えたのだ。黒い口髭の生えた口元は、あちこちを絶え間なく射すように動き回る険しい目つき同様に何も語ってはいなかったが、何のことはないインド警官ブレインが虎を追いかける老ハンターのように跡をたどっていたのだ。失踪者のただ一人の友人であることを思えば、それもさほど不思議ではないだろう。フィッシャーは真っ向から切り込むことに決めた。
「こうやって沈黙が続くと気が張っていけません。天気の話でもして緊張を解きほぐしませんか。解かすといえば、そう言えばとっくに氷は解けていましたっけ? 状況を考えると、解かすとはずいぶんと重苦しい比喩ではあるでしょうが」
「そうは思わんよ」ブレインはきっぱりと答えた。「氷は無関係じゃないのかね。どうなってたのか知らんが」
「これからどうするおつもりです?」
「そうだな、無論、警察は呼んであるが、その前に何か見つけておきたい」アングロ=インディアンが答えた。「この国の捜査方法にさほどの期待を抱いているとはいえんからね。お役所仕事にもほどがある。人身保護令状だか何だか知らんがね。本当なら逃げ出す奴がいないか見張っておきたいんだが。妥協して、全員を集めて人数確認というところかな。誰も立ち去った者はいない。古い時代をかぎ回っていたあの弁護士だけは別だがね」
「ああ、それは無関係ですよ。出かけたのは昨夜でしたから。列車に乗った弁護士をバルマーの運転手が見送った八時間後に、私はバルマー本人の声を聞いているんですからね。今あなたの声が聞こえるのと同じくらいはっきりしてます」
「霊魂は信じてないというわけだ?」インド帰りの男は一つ間をあけて付け加えた。「法曹学院にアリバイを確かめに行くより先に、会っておきたい奴がいる。あの緑の坊主はどうしたんだ。森林番みたいな格好をしていた建築家だよ。どこでも見かけなかったぞ」
ブレイン氏は警察が到着する前に取り乱した来客たちを集めることに成功した。ところが、いまだ顔を見せない若い建築家の件にひとたびコメントが及ぶや、まったく予期していなかったどうでもいい謎と精神的発達の存在に囲まれていたことに気づいたのである。
ジュリエット・ブレイは兄の失踪という惨事に直面してかちこちに固まっていたが、それは苦痛というより麻痺に近いものであった。ところが別の問題が浮上するや、苛立ちと怒りをあらわにした。
「何人に対するいかなる結論にも飛びつきたくない」ブレインは歯切れよく話していた。「だがクレイン氏についてもっとよく知ろうとすべきではないだろうか。詳しく知っている人間も素性を知る人間もいないようだ。昨日バルマーと文字通り剣を交えたというのはなかなか意味深ではないか。あの剣さばきからすれば、一太刀浴びせることもできただろう。無論、事故の可能性があるし、誰かに罪があるなんてことは言えんよ。だがそうなると、誰かが実際に犯した罪を裁くすべはない。警察が来るまでは、我々は一介の素人探偵集団に過ぎんのだ」
「そのうえ俗物集団ね」とジュリエットが言った。「クレインさんがクレインさんなりの道を歩んできた天才だからといって、遠回しに殺人犯だとほのめかそうとなさってるでしょう。手にしたおもちゃの剣の使い方をたまたま知っていたからといって、何の理由もなく血に飢えた狂人みたいに振り回したんだと信じ込ませたいようね。おまけに兄を襲った可能性も襲わなかった可能性もあるから、きっと襲ったですって? これがあなたの推理のやり方ですか。姿を消したという点についても、おんなじように間違ってます。だって姿を現わしたじゃない」
なるほど確かに、緑色した偽ロビン・フッドがゆっくりと、背にした灰色の森から離れ、ジュリエットの言葉通りにこちらの方にやって来た。
クレインはゆっくりと、だが平然と近づいてきた。とはいえ明らかに青ざめていたし、ブレインとフィッシャーはいち早くこの緑ずくめの人物のある点に目を留めていた。笛は今も剣帯から揺れていたが、剣は消えていた。
誰もが驚いたことに、ブレインはこんなにも暗示的な疑問を追求したりはせず、尋問に持っていこうという気配は漂わせながら、話題を変えるという挙にも出たのである。
「こうして集まっているのは、一つたずねてみたい質問があるからなのだ。バルマー卿の姿を今朝その目で見た者はいるかね?」
レナード・クレインは居並ぶ顔をぐるりと見回し、ジュリエットのところで青ざめた顔を止めた。それから軽く口唇を噛みしめて言った。「ええ、僕は見ました」
「生きてぴんぴんしていたか?」ブレインがすかさずたずねた。「どんな恰好をしていた?」
「びっくりするくらい元気に見えましたよ」クレインはおかしな抑揚で答えた。「昨日と同じ恰好をしていました。十六世紀のご先祖様の肖像画を真似た紫の衣装です。スケート靴を手にしていました」
「もちろん剣は腰につけていたんだろうね。君の剣はどこかな、クレイン君?」
「捨てちゃいました」
途端にたとえようもない静寂が訪れ、各々の心に浮かんだ様々な考えは我知らず色鮮やかな映像に変わっていた。
暗灰色とまばらな銀色に彩られた森から見れば明るくきらびやかに見える衣装もすっかり板についていたため、動き回るその姿形はステンドグラスの聖人が歩いているように輝いていた。これといった理由もなく司教や修道僧の恰好を真似ている人間が多かったこともあり、これがよりいっそうの効果をあげていた。だが記憶に残るもっとも鮮烈な振る舞いはといえば、とても修道士的どころではなかったのである。すなわちあの瞬間、緑に輝く人物と鮮やかな紫の人物がしばし剣を交え、銀色の十字架を形作っていた。たとえ冗談にせよ、あれには劇的なところがあった。どんよりとした夜明けの下で、同じ人物が同じ行動を悲劇のように繰り返したかもしれぬというのは、奇妙で不愉快な考えだった。
「君は彼とけんかしたのか?」ブレインが不意にたずねた。
「ええ」緑の男は微動だにせず答えた。「それとも彼が僕とけんかしたというべきでしょうか」
「彼が君とけんかした理由は何かね?」探偵はたずねたが、レナード・クレインは答えなかった。
ホーン・フィッシャーは奇妙なことに、この重大な反対尋問に半ば上の空であった。重たげに閉じたまなざしはボロディノ公の姿をだらだらと追っていたが、公は今では森の端に向かってすたすたと歩き去っており、考え込むように立ち止まってから森の奥深くへと姿を消していた。
フィッシャーが横道から我に返ったのは、覚悟したようにがらりと変えて怒鳴り散らすジュリエット・ブレイの声のせいだった。
「それが問題だというならはっきりさせるのが一番ね。わたしクレインさんと婚約してます。兄に話したら、難色を示された。それで全部です」
ブレインもフィッシャーも少しも驚きを見せなかったが、ブレインの方は穏やかに言葉を継いだ。
「全部、ではないでしょう。クレイン君とお兄さんは森に話し合いをしに行った――そこにクレイン君は置き忘れて来たんだ。剣だけじゃなく話し相手も」
「ちょっといいですか」クレインの青ざめた顔に嘲るような光がよぎった。「僕がやったと思われているのはどっちなんです? 僕が殺人犯だなんていう愉快な命題を採用してみましょう。僕が魔術師だということも証明されなくちゃなりませんよ。不幸なご友人の身体を突き刺したというのなら、その死体をどうしたんですか? 七匹の蜻蛉に運ばせましたか? それとも白い牝鹿に変えるだけで済んじゃったんですか?」
「皮肉を言っている場合ではないぞ」にこりともせずアングロ=インディアンの判事が言った。「人が亡くなったことを冗談にできるとは、君には不利なように思えるがね」
夢見がちなうえにゆるみがちなところさえあるフィッシャーの目は、背後に広がる森の縁に留まっていたが、荒れ模様の日暮れの雲のような赤黒い固まりが、まばらな木々が織りなす灰色の編み目越しに輝いていることに気づいた。枢機卿の法服姿をした公爵が、再び小径に姿を現したのだ。ブレインとしては公爵が消えた剣を探しに行ったらしいことに半ば気づいてはいたが、戻ってきたとき手に持っていたのは、剣ではなく斧だった。
仮装と謎のあいだに横たわるちぐはぐ感のせいで、心理的におかしな空気が生まれていた。第一に感じたことは、明らかになったのが喪を覚悟させる特徴ばかりだというのに、お祭りの馬鹿げた仮装をひっかけているのをひどく恥じる気持であった。たいていの人間ならとっくに部屋に戻って、もっと喪に相応しい恰好かもっと堅い恰好に着替えていたことだろう。だがどういうわけかそのときは、それが初めよりもさらにわざとらしくて軽々しい第二の仮装のように思えたのだ。馬鹿げた衣装にも諦めがついてきたころ、何人かの人間、とりわけクレインやフィッシャーやジュリエットのように感じやすい人間には顕著なことに、いや実際家のクレイン氏を除けば誰もが大なり小なり奇妙な感覚に襲われていたのである。まるで彼ら自身が、薄暗い森や陰気な池に出没し、ほとんど忘れてしまった古い役割を演じている先祖の幽霊そのものであるかのようだった。色鮮やかな彼らの動く姿は、無言の儀式のように、あたかも遙か以前に決められていたもののようにも見えた。振る舞い、態度、外見いずれも、要点はないのにどこから見ても寓話だった。とうに破滅が訪れたことはわかっていたが、それが何なのかはわからなかった。しかし公爵がわびしい木々のあいだに立っているのを見たとき、あらゆる物語が新たな恐ろしい局面を迎えたことを、どういうわけか潜在的に悟ったのである。公爵は荒々しい緋色のガウンに、褐色のしかめっ面、手には新たな死の形を持っていた。理由を述べることはできなかっただろう。だが二つの剣は結局おもちゃの剣になってしまったように感じていたし、あらゆる物語がおもちゃのようにぶちこわされ放り捨てられたように感じていた。ボロディノは深紅をまとい罪人を処刑する斧を携えた、大昔の首切り役人のように見えた。そして罪人とはクレインではなかった。
インド警官のブレイン氏は、新たに出てきたその道具をにらみつけていたが、一、二秒ほどしてから荒々しく、ほとんどかすれるような声を出した。
「そんなものを持って何をしているんです? 木こりの鉈のようですが」
「もっともな連想ですね」とホーン・フィッシャーが言った。「森で猫に出くわせば山猫だと思うものです。たとえ居間のソファから飛び出してきたばかりの猫だったとしても。実を言えば、ひょんなことからわかっているのですが、それは木こりの鉈ではないんですよ。台所用の鉈、いえ肉切り包丁、まあそんなものを、誰かが森に放り投げたわけです。中世の隠者を再現しようと芋袋を拝借した際に、私自身が台所で目にしたんですから」
「どちらにしても、無視はできないな」と言って公爵がフィッシャーに道具を渡すと、フィッシャーは手にとってじっくり調べていた。「肉を切るのに使った肉切り包丁だというのなら」
「犯罪の道具であることは確実ですがね」とフィッシャーはつぶやいた。
ブレインは鈍く青光りする斧の刃を魅了されたように荒々しく見つめていた。
「あんたの言うことはわからんな。何もない――刃には何の跡もないが」
「血は一滴も流れていません。それでも犯罪に使われたんですよ。この斧は、罪を犯したときに罪に至った犯人のようなものです」
「何だって?」
「罪を犯したときには現場にはいなかったんです」とフィッシャーは説明した。「現場にいないと人を殺せないんでは、殺人犯にしてはちょっと惨めですからね」
「ことを謎めかそうとしているだけに聞こえるがな」とブレイン。「役に立つことを知っているんなら、わかりやすく言ってくれ」
「私が教えられることで役に立つようなことは一つしかありません」フィッシャーは思案深げに答えた。「地元の地誌と名の由来について調べてみることです。かつてプライア氏がいて、このあたりに農場を持っていたことがわかるはずです。お亡くなりになったプライア氏の家庭生活の一つ一つが、この恐ろしい事件に光を投げかけてくれることでしょう」
「すると今すぐ役に立ちそうな助言とは、あんたの言う地誌ぐらいなのか」ブレインは馬鹿にしたような口をきいた。「友人の仇討ちに役立つのが?」
「そうですね。
その夜、霜が解けたのに続いて荒れ模様の黄昏空もなりを潜め強い西風の吹くなかを、森に囲まれたどこまでも高い塀に沿ってレナード・クレインがぐるぐると気違いじみた様子で歩き回っていた。顔に泥を塗ったうえに既に自由を脅かしている謎を独自に解決しようという絶望的な考えに駆り立てられていたのだ。現在取り調べに当たっている警察当局は彼を逮捕したりしなかった。だが現場から離れようとすれば即刻逮捕されるだろうことは充分にわかっていた。ホーン・フィッシャーが口にした断片的なヒントは、今のところその先の説明を拒んでいたとはいえ、建築家の芸術心をとっぴな分析へといざなっていたし、意味をなすまでは逆さにしてでもどんなことをしてでもこの象形文字を解読しようとクレインは決意したのである。塀の穴と何か関係があるのなら、塀の穴が見つかるだろう。だが現実には、塀にはどんなわずかな割れ目も見あたらなかった。専門家の目からは、この石造りは一つの技術を使って一度の期間で作られたことがわかる。謎解きには何の光も投げかけない通常の入口を除けば、身を潜めるような場所や脱出手段を示唆するような点は何一つ見つからなかった。灰色の羽毛めいた木々が東向きにひどく傾きしなっているのと風吹く塀とに挟まれた細い道を歩きながら、じわじわと消え失せた夕陽の輝きが空を吹き飛ばされた雷雲につれて稲妻のように瞬くとともに、背後でだんだんと力を増してきたばかりの青ざめた淡い月光と混じり合っているのを見て、自分の足が出口の見えない終わりなき垣根をぐるぐると回っているように自分の頭もぐるぐる回っているように感じ始めた。頭の端っこでいろいろ考えていたのは、何もかも隠してしまう穴そのものである四次元についての空想であり、さまざまな場所にある新しい窓から新しい角度であらゆる物事を見ることや、あるいは新しい化学光線のような謎めいた光や透き通ったもののことであり、森や塀の上空に燃え立つ光輪のなかに、恐ろしげに輝いて浮かんでいるバルマーの死体が見えるのではという考えであった。そしてまた、なぜかしら同じようにぞっとさせるような、すべてプライア氏に関係があるのだというあのヒントにも囚われていた。常に丁寧にプライア氏と呼ばれているという事実にしても、こんな恐ろしいことの種を探すため命じられたのが死んだ農場主の家庭生活のことである事実にしても、どことなく気味が悪いようなところさえある。だが結果的には、この地域を調査したもののプライア家のことは何一つ明らかになってはいないとわかったのである。昔風のシルクハットに、おそらく顎髭か頬髯姿のプライア氏を、かすかに思い描いた。だがその想像には顔がなかった。
月明かりが広々と輝き、風が雲を吹き飛ばすにつれてだんだんと弱まってきたころ、家の正面にある人工湖にふたたびたどりついた。どういうわけかどう見ても人工の池にしか見えなかった。事実、風景すべてがヴァトーの筆になる古典的な景色のようだった。月光に青ざめたパラディオ様式のファサード、そして同じく銀色に染められた、池の中央にある大理石製の異教の
「失礼ですが」クレインは目の前に立ちはだかった。「何でもいいのでこの事件のことを話してくれませんか?」
「近いうちにすべてのことを全員に話さなくてはならなくなるでしょうね。とはいえまずあなたに話すことに異存はありませんよ。ですがそれより先に、あなたの方に話すことがあるんじゃありませんか? 今朝バルマーと会ったとき実際に起こったのはどんなことだったんです? あなたは剣を捨ててしまった。バルマーを殺さなかったというのにね」
「剣を捨てたからこそ殺さずに済んだんです。捨てたのもそのためです。そうしていなければ、何が起こっていたかわかりません」
しばらくしてから静かに話を続けた。
「亡くなったバルマー卿はとても気さくな人でした、本当に気さくでした。目下の人間にもとてもよくしてくれていたからこそ、休暇や余暇のあいだじゅう自分の弁護士や建築家を家に泊めてくれたんです。でも彼には別の面もあったんです。目下の人間が同じ立場になろうとしたとき、それは明らかになりました。妹さんと僕が婚約したという話をしたとき、僕には簡単に説明できないししたくもないようなことが起こったんです。まるで何か恐ろしい狂気の発作のようでした。でも真相は痛いほどに単純なことのようです。紳士に潜む野蛮さとはああいうものなのでしょう。しかも人間性のなかで一番恐ろしいものです」
「ええ。チューダー朝のルネサンス貴族はそんなものでした」
「そんなことをおっしゃるとは不思議な暗合ですね。二人で話していると、以前あったのと同じ場面を繰り返しているような奇妙な感覚に襲われたんです。それも、僕が実際にロビン・フッドのように森に潜む無頼者で、彼が羽根飾りと紫の衣装をまとってご先祖の肖像画から実際に抜け出してきたような感覚でした。いずれにしてもあの人は財産家であり、そのうえ神をも恐れず人をも顧みない人間でした。もちろん僕は彼を無視して逃げ出しました。逃げ出さなければおそらく殺してしまっていたことでしょう」
「そうです」とフィッシャーはうなずいた。「彼の先祖は財産家であり、彼は財産家でした。これでこの話もお仕舞いです。すべては収まるところに収まりました」
「何に収まったというんです?」突然耐えられなくなったのか、クレインが叫びだした。「何がなんだかさっぱりです。塀の穴の秘密を探れとおっしゃったのに、塀に穴なんか一つも見つかりませんでしたよ」
「一つもありませんとも。それが秘密の鍵なのです」
少し考え込むようにしてから、フィッシャーは話を続けた。
「それをこの世の塀の穴と呼ぶのなら話は別ですが。聞きたいというのなら申し上げますが、一つ前置きがいるような気がします。現代人の心に巣食う罠について――ほとんどの人間が気づかないまま流されているある傾向について、ご理解いただかねばなりません。
「村外れや郊外には、聖ジョージと竜の看板を掲げた宿屋がありますね。では私が、そんなのはジョージ王と竜騎兵の誤伝に過ぎないと触れて回ったとしましょう。ほとんどの人は、確かめもせずに信じてしまうでしょうね。というのも、散文的であるがゆえにいかにもありそうな話だと感じるからです。空想的で伝説的なものも、わりと新しめのありがちなものに変えてしまうんですよ。しかも、合理的に立証されたわけでもないのになぜかしら合理的に聞こえてしまうんです。もちろん、古いイタリアの絵画やフランスの物語で聖ジョージを見かけたぞと、眉につばつけて思い出す人もいるでしょう。でもほとんどの人たちはそんなことを考えもしませんよ。懐疑的であるがゆえにその懐疑的な物事を鵜呑みにしてしまうというわけです。現代人の頭は権威的なものは何一つ受け入れません。ところが権威的でないものは何でも受け入れてしまうのです。それがまさしくここで起こったことなんですよ。
「一部の批評家か誰かが、プライア・パークというのは修道院《プライアリ》ではなくプライアという名の現代人にちなんで名付けられたのだと主張してみても、誰一人その理屈を確かめることもしませんでした。プライア氏がそこにかつていたのかどうか、かつて見たり聞いたりした人がいなかったのか、その話を繰り返して確かめようとする人が一人もいなかったのです。実際にはそこは修道院であり、多くの修道院と運命を共にしたのです。つまり、羽根飾りをつけたチューダー朝の紳士が、暴力によって奪い取り、自分の私邸にしてしまっただけなんですよ。これからおわかりになるでしょうが、彼はさらに悪いことをしました。ですがここで重要なのは、そこでどのような企みが働いているかということです。しかもその企みは、この物語の別の部分でも同じように働いているのです。この辺りの地名は学者が作った最良の地図にホリンウォルと印刷されていますし、無知で時代遅れの貧困層にはホリウェルと発音されているという事実についてにこりともせずほのめかされていました。ですが間違っているのは綴りの方で、発音の方が正しいんですよ」
「つまりこういうことですか」クレインが急くようにたずねた。「実際に
「現に井戸はあります。そして真実はその底に横たわっています」
話しながら手を伸ばし、目の前に広がる一面の湖水の方を指さした。
「井戸は、その水の下のどこかにあります。しかもこの井戸がらみの悲劇は初めてのことではありません。この家の創始者は、悪党仲間たちもめったにしなかったようなことをしたんです。修道院を略奪した混乱のなかでさえ揉み消さなければならなかったようなことをしたんです。その井戸はある聖者にまつわるものでしたが、それを最後まで守り抜いた修道院長はまさしく聖者のようでした。文字通り殉教者のようだったと言えるでしょう。略奪者に抵抗し、この場所を穢せるものなら穢してみろと逆らった結果、激怒した貴族に刺し殺され、井戸に放り込まれたのです。然るに四百年ののち、同じように紫の服をまとい同じように高慢に生きていた略奪者の跡継ぎが、同じ目に遭ったんですよ」
「でもそもそもバルマーが特定の場所に落ちるなんてことが起こりますか?」
「特定の場所の氷が解かされていたというだけですよ。実行した人物だけがそれを知っていました。通常とは違う場所にあった台所包丁で故意に割られ、私自身その打撃音を聞いたのに何の音なのかわかっていなかった。その場所は人の手になる池で覆われていました。それというのも、ありのままの真実が人の手になる伝説で覆われなければならなかった以上は。ですが正確には、その異端貴族たちがおこなったのは、異教の女神によって冒涜することだったのがおわかりになりませんか? ローマ皇帝が聖墳墓の上にヴィーナス神殿を建てたのと同じことです。ですが真実をたどろうと思った学者になら、今も真実をたどることができたんですよ。そしてこの男は、真実をたどろうと決意していました」
「どの男です?」漠然とした答えを胸に、クレインはたずねた。
「アリバイのあるただ一人の男ですよ。ジェイムズ・ハドウ、考古学好きの法律家。不幸の前の晩に立ち去りながら、氷の上に死の黒い星を残していったのです。予定では宿泊するはずだったのに、急に立ち去ったでしょう? 法律のことでバルマーと話し合いをした際に醜い場面を演じていたんじゃないでしょうか。あなたも経験したように、バルマーというのは人に殺意を覚えさせるようなところがありますから。私としてはむしろ弁護士の方に糺されるべき不正があって、それを依頼人から暴露されそうになったんじゃないかと思いますがね。ですが人というのは職業上で不正を働いても、趣味のうえでは不正を働けない、それが人間性なのだと私は思ってます。ハドウは不正直な法律家だったかもしれませんが、考古学者としては正直でいざるを得なかったんです。
「どうやってこの埋もれた歴史の手がかりを見つけたんですか?」若き建築家がたずねた。
ホーン・フィッシャーの顔に曇りが兆した。
「すでにあまりにも多くのことを知り過ぎました。そのうえかわいそうなバルマーのことを軽々しく話してしまいました。我々とは違って、とっくにつけを払っているというのにね。こう申し上げてよければ、私が喫っている葉巻も飲んでいるお酒も、直接間接を問わず、聖地を穢したり貧しい者を迫害したりして手に入れているんです。塀の穴、すなわち守りの堅い英国の歴史に断絶を見つけるには、過去を突っつき回す必要はほとんどありません。見せかけの情報と教育の薄い被膜の下に横たわっているんですから。どす黒く血にまみれた井戸が浅い水たまりとつぶれた雑草の底に横たわっているように。ああ、氷は薄い、ですが強い。私たちが修道僧の仮装をしてあの一風変わった中世の恰好で踊ったときも割れないくらい丈夫なんです。仮装するように言われたので、私も自分の趣味と好みに応じて仮装しました。我々の国家と帝国の歴史、繁栄と進歩、商業と植民地、成功と栄光の世紀について、私が少しばかり知っているのはおわかりでしょう。だから私は、仮装しろと言われたときに、あの古くさい衣装を身につけたのです。紳士の立場を受け継ぎつつ、紳士の感情も完全に無くしたわけではない人間に相応しいと思えるのは、身につけたあの衣装だけでした」
もの問いたげな視線に答えて、払うような下ろすような動作をして立ち上がった。
「芋袋(粗布)ですよ。禿げ頭に乗せて落ちずいるのなら、灰もかぶることにしたいのですが」
この翻訳は、G.K.Chesterton“The Man Who Knew Too Much”収録の第六話‘The Hole In The Wall’の全訳です。
Ver.1 03/04/29
Ver.2 03/07/07
Ver.3 09/01/08
[訳者あとがき]
・最後のフィッシャーの台詞はマタイ伝11章21節などより。粗布をまとい灰をかぶって悔い改めたことを示す。
・罪を憎んで人を憎まず――とは言いますが、イギリス帝国主義(的なもの)の罪を一人の犯罪被害者に重ね合わせてしまうような乱暴さ(あるいはアクロバット)が印象的な作品です。これまでの作品では個人の罪と国家の大義を秤に掛けるような印象のあったフィッシャーですが、実はもっとスケールの大きな話だったのかもしれません。
・ミステリとしては、トリックも逆接もチェスタトンにしてはやや小粒。とはいえ、溺れることのできない浅瀬の割れた氷、動機を持つ男が捨てた剣、血のついていない凶器の斧、など謎の一つ一つは面白いし、それが最後にすべてぴたりと嵌るのはさすがに見事です。
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・08/09/30 これを書いている時点ではすでに論創社からプロの訳本が出ているわけなのですが、まずは確認せずに改訳していこうと思います。訳し終わってから答え合わせ。冒頭〜。▼うわ。いきなり恥ズイ。「an architect and an archaeologist begin with the same series of letters」を「建築家と考古学者が同系統の学問に取り組んでいる」などと訳していた。正しくは「architect と archaeologist が一連の同じ文字で始まる」だろう。▼「the abbot was not an ancestor」がなぜか「十字軍が」になっていたので「僧院長は」に訂正。冠詞が「an」なのは、僧院長だから独身に決まっているとかいう含みなのかな?
・08/10/16 ▼ハドウの説明。「家屋敷に付き物」という訳が自分ながらよくわからないし、「recent romances」が「近年の伝承」になっていた。「slurred the name」をなぜか「その名を廃し」にしていたので、「不明瞭に発音する」という語釈をちゃんと活かす。「訛って」にしてみたけど、は違うかもしらん。
・08/10/24 ブレイ嬢登場。▼フィッシャー登場場面がグーテンベルク「and he was talking as easily and idly about everything as he always did.」、初版「and he talked so easily and idly about everything, that nobody had ever discovered his favourite subject.」だったので、初版に合わせて訂正。▼ブレイン氏が「単純無邪気」な人になっていたので「単純簡潔に(知られていた)」に訂正。▼「who had represented his measures against crime as themselves almost criminal.」が「自分の犯した罪で裁かれた犯罪者」とかよくわかんなくて適当にごまかしていたのを、「犯罪に対するほとんど犯罪的な対応のため」に直す。▼「It's all settled」は「準備できた」ではなく「決まった」だった。
・08/10/30 プライア・パークの歴史。▼「a country seat that had become a suburb」が「都市に隣接する貴族の邸宅が多い」という「?」な日本語だったので「有力者の土地から今や郊外地になっていた」に変えたが、うまく訳せないことには変わりがない。▼「having once had only a dependent village at its doors, it now found outside all its doors the signals of the expansion of London.」が「かつてこの地域は貴族の荘園だった。今ではロンドンが手を伸ばしてきた。」になっていた。ほかの誤訳はそれなりに当時の自分の考えを追うこともできたのだが、こればかりは我ながら意味不明だ。ここも日本語にしづらいんだけど、「かつては軒先に有力者頼みの村が一つきりだったのだが、今や軒並みロンドンが押し寄せてきたきらいがある。」にしといた。▼なぜ「corporate continuity」を「血のつながり」とやっちゃったんだろうな。「地域連続性」とか「集団連続性」とかいう用語もありそうな気はするが、今のところは意味を汲んで噛んで含めて「共通する来歴」に変更。
・08/11/08 翌朝〜スケート終了。▼いくつかある「steward」の訳語のなかからなぜか「執事」を選んでいたので「管財人」に直す。▼次の"Oh, but my brother has dressed up," cried the girl. "very much so. No end, if I may say so. Why, he's bearing down on you now in all his glory."が「えー、だって兄は仮装してるわよ!」女は叫んだ。「そらね。でもやりすぎ。得意絶頂で近づいてくるわ」となんだかよくわからなかい文章だったので、「でも兄は着飾っていたのに! ずいぶん念入りに。際限なくと言った方がいいくらい。ほら、得意満面でやって来たでしょう」に訂正。▼バルマー卿の仮装について。たぶん「manners to match」がわからなくて「様式通り」としていたので、「いざ決闘にゆかんとばかりである」に訂正。▼「he might have been found during a disproportionate part of the time.」の部分を噛み砕きすぎて(?)「クレインはジュリエットのそばに立っていた。ほとんどそばから離れなかったと言ってもいい」にしていたので「ジュリエットのすぐそばに立っていたのだが、必要以上に時間を費やしていたのかもしれない」にする。
・08/11/22 スケート終了〜バルマー不明まで。▼うわあ。「look here」を「ここを見てください」って書いてたよ。。。▼「and calling for clean boots」というバルマーの行動が、「目指すはきれいなブーツです」というフィッシャーたちの行動になっていたので訂正。
・08/12/06 ブレイン一堂を集める。まで。
・08/12/20 ブレイン、クレインを尋問す、まで。▼なぜか「horn」が「鞘」になっていたので「笛」に訂正する。▼ジュリエットの「that is all.」を受けてブレインは「Except,」と答えているので、それとわかるように敢えて直訳っぽくした。「それだけです」「それだけじゃないだろ」の方がいいかな。
・09/01/03 クレイン捜査から戻りフィッシャーと再会するまで。▼「lost rapier」を「失われた剣」なんて直訳していたので訂正。▼辞書に「only too=残念なことに」あるからといって、「by an event that had only too much the character of a funeral. 」を「悲しいことに告別式の登場人物に過ぎないのだ。」などとやってはいけない。「by an event」を無視してるし。▼「as near as」を「場所が近い」と捉えていたので「This is as near as the criminal came to the crime when he committed it.」を「犯人が罪を犯したとき、そのそばにあったのです」と訳していたけど、これだと「came to the crime」がわからなかったのでごまかしてある。今回は「罪を犯したときに罪に至った犯人のようなものです」と訳したが、これで前後のつじつまがあっているのかどうか自信はない。▼「it 〜 that …」構文ならぬ「it 〜 who …」構文を理解していなかったので、「It's a poor sort of murderer who can't murder people when he isn't there.」を「現場にいないと人を殺せない哀れな殺人者」と体言止めしていた。もちろんこれでは意味が通じない。▼初めに訳した当時はそうしなけりゃ駄目なんじゃないかという考えに囚われていて、「advice」を「アドヴァイス」と表記していた。vとbなら許容範囲かなあとは思うものの、外来語(つまり日本語)として定着しているものをことさらに「ヒューモア」とか「ボディ・ラングウィッジ」とか書かれてあるのを目にすると気持ち悪く感じることに気づいたので、同じく日本語として定着しているものについては無理にヴを使うことはしていない。だって「ヴァレーボール」とか書かれてもねえ。。。というかこの部分自体、「現実的なアドバイスがあるなら」と直訳調にしないで「役に立つことを知っているんなら」に変更した。▼うわあ、ひどい。「the masonry was all of one workmanship and one date, and, except for the regular entrance, which threw no light on the mystery, he found nothing suggesting any sort of hiding place or means of escape.」の部分が旧訳では「その石造りの塀が正門を除けば当時の最先端だと映ったが、謎に何の光も投げかけなかった。隠れている場所や消えた方法を示唆するものは何も見つからない。」になってました。「on date」だと思ったのかなあ。それにしたって「最先端」はないだろうし、「workmanship」がどこかに行ってしまった。そんなだから「regular entrance」の「regular」がどういう意味なのかがわかっていないし、「hinding place」や「means of escape」とのつながりも理解できていない。「この石造りは一つの技術を使って一度の期間で作られたことがわかる。謎解きには何の光も投げかけない通常の入口を除けば、身を潜めるような場所や脱出手段を示唆するような点は何一つ見つからなかった。」に訂正。▼次の部分からはやけに長い文章が続くのだが、改訳にあたり思い切ってむりやり原文通りに一文で訳してみた。読みづらい○| ̄|_。。。▼ささいなことだけど初版「windy wall」、アメリカ版「winding wall」だった。▼アメリカ版には次の箇所が抜けているので補った。「He dimly imagined Mr. Prior in an old top-hat, perhaps with a chin-beard or whiskers. But he had no face.」▼月明かりが池の石像を照らす場面ですが、日本語にすると「池の中央のあの異教の裸の大理石のニンフ」と修飾語がどこまでも重なってとんでもないことになってしまうので、窮余の策として「池の中央にある大理石製の異教の
・09/01/08 最後まで。▼「he neither feared God nor regarded man.」の動詞部分がなぜか形容詞になって「(彼は)恐るべき神でも尊敬する人物でもない」になっていたので「神をも恐れず人をも顧みない人間でした」に訂正。▼それ以降の終盤はめちゃくちゃだったので全体的に直しました。あとグーテンベルク版にない部分を、初版により補いました。