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1923 The Black Dog: And Other Stories 『
 ・コッパード第三短篇集。全17編。
邦訳  短篇集としては未訳。収録作のいくつかは邦訳あり。


「」(The Black Dog)
 ――

 
 


「あなあはれボーリントン!」(Alas, Poor Bollington!)
 ――ボーリントンが酒場でターナーに聞かせたのは語るも涙の物語だった。ボーリントンは妻を愛していた。愛していたからこそ、妻を置いて去ったのだ。

 いい人すぎてうまくいかないというのはままある話です。けれどそれをただの哀れな話とか感傷的な話にはせずに、酔っぱらいのたわごとめかしているのはコッパードの韜晦でしょうか。雨の中を港にさまよい着くシーンが印象深い。男女の心の機微を扱った作品です。
 


「バレエ・ガール〜踊り子と少年〜」(The Ballet Girl)
 ――靴屋の小僧シンプキンズは大学に集金に向かったのだが、のらりくらりと払ってもらえない。あげくファズという変人のもとに押しつけられた。ファズはお金のことは取り合わず奇天烈な話ばかりを聞かせるのだった。戸惑いながらも、大学で勉強しないかというファズの言葉に心動かされるシンプキンズ。でも職人の子は職人。勉強なんてとんでもない。いろいろありすぎてくたくたになり、大学の一室で寝込んでしまった彼が目を覚ますと、隣の部屋では宴会が始まっていた。聞こえてくるのは踊り子の声……。

 ファズという変人が登場。強烈な印象を残します。変人だけど偉大な人。人の人生を変える力を持っている人です。コッパード作品に登場する数多い変人たちのなかでもひときわ忘れがたい人物でした。学生たちの馬鹿騒ぎや、踊り子ルルの奔放っぷり、シンプキンズの一本気など、見どころは多々ありますが、何と言っても面白いのはファズのたわごとです。使う比喩がいちいちおかしい(^^)。

 そして踊り子の女の子。シンプキンズはこの日、人生で重要な二つの出会いを経験しました。対等な大人と恋愛相手。これは小さな成長物語。そしてとても小さな恋愛小説。

 このサイトに邦訳があります→html
 


「うすのろサイモン」(Simple Simon)
 ――

 『郵便局と蛇』に邦訳あり。
 


「」(The Tiger)
 ――

 
 


「」(Mordecai and Cocking)
 ――

 
 


「キルシーランから来た男」(The Man from Kilsheelan)
 ――

 『怪奇幻想の文学 7 幻影の領域』に邦訳あり。
 


「」(Tribute)
 ――

 
 


「ハンサムなレディ」(The Handsome Lady)
 ――

 『イギリス怪奇傑作集』(福武文庫)に邦訳あり。
 


「」(The Cat, the Dog, and the Bad Old Dame)
 ――

 
 


「」(The Wife of Ted Wickham)
 ――

 
 


「」(Tanil)
 ――

 
 


「」(The Devil in the Churchyard)
 ――

 
 


「」(Huxley Rustem)
 ――

 
 


「」(Big Game)
 ――

 
 


「貧しき哀れな人」(The Poor Man)
 ――牧師の忠告にもかかわらず、飲酒も賭事も密猟もやめようとしない男はやがて……。

 「Poor Man」とは「貧乏な男」であり「心貧しき男」であり「哀れな男」のこと。コッパードの複雑な宗教観がよくあらわれている作品です。

 心から忠告をする牧師に向かって、「おれたちは貧乏なのに教会だけはいつだってものが溢れている」「酒を飲むのは楽しむためじゃない。臆病だからだ。怖さを忘れたいだけなんだ」「金持をやめようと思えばいつでもやめられる。でも貧乏と縁は切れないし、向こうからも切ってくれない」と叫ぶシーンが印象的。

 だからといって密猟していい理由にはならないんだよね。一面は正論なんだけれど半分は言い訳。やがて神の罰がくだるのです……。

 でも。すべてが終わったあとで、「貧しきものに必要なのはおごることではなく悔い改めることだ」と主人公が独白するあたり、非クリスチャン的には納得いかん。わたしなら悪魔に魂を売るね。こんなことがあったなら。この改心シーンの直前に、「かつて聞いた話を思い出した。耳も聞こえなくなり、口もきけなくなってなお回心しなかった男。」という、とてつもなく印象的なフレーズがあるのだが、わたしはモロこの「回心しなかった男」タイプ。

 たとえ不信心者であっても“神の存在は信じている”という了解が前提にないとピンと来ない。
 


「贅沢」(Luxury)
 ――アレクサンダー・フィンクルは鼻歌まじりに起床した。二年前までは壁紙工場で働いていた。地方紙にちょこちょこものを書いていたのだが、退職して田舎に引っ込み専業作家になった。五十ポンドの貯金があったのだ。だが貯金は底を突いた。半年ほど書けない状態が続いた。道ばたで農夫が夕食の肉の話をしている。冷蔵庫にある四本のバナナが、フィンクルの唯一の贅沢だった。

 どうしたってこれはコッパード自身のことかなぁと勘ぐってしまう。『郵便局と蛇』には西崎憲氏によるコッパード自伝からの要約が収録されていますが、それによれば、コッパードは鉄工所をやめて小説家になろうとし一人コテッジを借りたが二ヶ月間一行も書けなかったそうです。

 書けない作家自身の仕事ぶりを書くという筋立ては、コッパードファンにとっては興味深いものの、忌憚なく言わせてもらえばあまり出来のいい話だとは思いません。それでも、書けない悩みと、書けないことによる収入の欠乏、それによる一日一本のバナナという贅沢!をめぐるモノローグは、“生きることにとって重要なこととは何か?”という問いにとって無視できないものだと思います。
 

 


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