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 作品紹介
1846 Joseph Balsamo 『ジョゼフ・バルサモ』
 ・『ある医師の回想(Mémoires d'un médecin)』第一部。マケ共作。ルイ十五世時代。
邦訳 このサイト→html で読む

 1770年、フリーメーソンの会合で、大コフタジョゼフ・バルサモは絶対王制の転覆を誓った。数日後、錬金術師アルトタスとバルサモとロレンツァを乗せた馬車が落雷に遭う。そこに居合わせたのがルソーに私淑する哲学青年ジルベールだった。ジルベールの案内でバルサモはタヴェルネ邸で一泊する。主のタヴェルネ男爵は、落ちぶれた家の再興を夢見る老貴族だった。ジルベールが思いを寄せているアンドレ・ド・タヴェルネは自尊心が強く、ジルベールなど歯牙にもかけない。アンドレの小間使いニコル・ルゲはかつてジルベールに捨てられていた。美しいアンドレとある人に生き写しのニコルを見たバルサモは、ある計画を思いつく……。折りしもタヴェルネ家の息子フィリップが王太子妃マリ=アントワネットの寵を得たことで、王太子妃が城館を訪れる。一家は王太子妃に取り立てられ、一路ヴェルサイユに向かう……。一人残されたジルベールは徒歩でヴェルサイユに向かうが行き倒れになり、ある人物に助けられるものの、利用されることに耐えられなくなって逃げ出した。そこでジルベールはある植物学者に出会うのだが……。都では国王ルイ十五世の愛妾デュ・バリ夫人の承認式が近づいていた……。

 

 ・今はまだ少し遠い革命のため、ジョゼフ・バルサモが革命の種を植えつけるころの物語です。中心となるのは大きく分けて錬金術師バルサモ・ファミリー、デュ・バリ夫人とルイ十五世ら歴史上の人物たち、ニコルやジルベールらフィクション上の人物たち、です。

 ニコル・ルゲ――と聞いただけでピンと来た方はかなりの通でしょう。この実在人物の〈史実以前〉をフィクションとして自由に描くことで、本書がいっそう面白くなっています。何せニコルは栄耀を夢見る没落貴族の小間使いで、ルソーに傾倒している同僚の哲学青年に恋をしています。お家再興は王宮へと、ルソー讃美は革命へと、……史実とフィクションがいつの間にかぴたりと嵌ってゆく手際には舌を巻くしかありません。(この巧さは『王妃の首飾り』でも健在で、物語に花を添える恋バナや冒険バナだと思ってごく普通に楽しんでいたら、それがそのまま「歴史」だったりしてびっくりする場面が何度かあります。)

 さて『王妃の首飾り』を読んだ方なら、気が強くてちょっと意地の悪いニコルの魅力は先刻ご承知でしょう。ほかにも可愛さ満開のデュ・バリ夫人や、革命の理論的支柱を担った人物などなど、デュマの手にかかると実在の人物たちがほんとうに生き生きとしています。その他バルサモのかっこよさ、ジルベールの情けなさ、アンドレの面白味のなさ、タヴェルネ男爵の田舎者ぶり、ルイ十五世の鷹揚さ、リシュリューの駆引きぶり、ロレンツァの気丈さ、アルトタスのマッドっぷり……これだけの大長篇に、まだまだ書ききれないくらいたくさんの登場人物が出てきて、なのにその一人一人がそれぞれ忘れられない心に残るキャラクターで……つくづく凄い作家だと思います。



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