バスチーユのことは語る必要もあるまい。
老若男女を問わずその胸に永遠の像が刻まれているはずだ。
大通りから見ると、バスチーユ広場に面する双子の塔が見晴らせ、塔の側面は現在の運河の両岸に沿って並んでいる、と言うだけに留めておこう。
バスチーユの入口は第一に衛兵の身体で、第二に二列に並んだ歩哨たちで、第三に二つの跳ね橋で守られていた。
それを越えれば司令官室の中庭に到達できる。
中庭から、堀まで続いている通路がある。
堀に面したこの二つ目の入口には、跳ね橋、衛兵、鉄柵が設けられている。
一つ目の入口でビヨは止められそうになったが、フレッセルの通行許可証を見せると通された。
そこでふと、ピトゥがついて来ているのに気づいた。ピトゥには自主性こそないが、ビヨの行くところなら地獄であろうと月であろうとついて来るだろう。
「外で待ってろ。戻って来られないかもしれない。俺が入ったことをみんなに思い出させてくれる奴が必要だ」
「そうですね。どのくらい経ったらみんなに呼びかければいいでしょうか?」
「一時間後」
「あの小箱は?」
「そうだな。俺が戻って来なかったら――ゴンションがバスチーユを乗っ取れなかったら――いや、乗っ取ったとして、俺を見つけられない場合、ジルベール先生を見つけて伝えて欲しいことがある。五年前に預けられた小箱をパリから来た奴らに盗まれた。それを知らせるためすぐにパリに発ち、先生がバスチーユに入れられていると知った。バスチーユを破ろうと決めた。バスチーユを破るためなら、俺の命なんかどうでもいい。先生のための命さ」
「わかりました。でもビヨさん、長すぎて忘れちゃいそうです」
「今の言葉をか?」
「ええ」
「繰り返そうか」
「いや、書いた方がいい」そばで声がした。
「俺は読み書き出来ないんだ」
「俺は出来る。裁判所の人間だからな」
「裁判所の人間だって?」
「スタニスラ・マイヤール、シャトレの執達吏だ」
そう言ってポケットから取り出したのは、角製の細長いインク壺、羽根ペン、紙、インク、要するに書くのに必要なものすべてである。
四十代半ば、背が高く、痩せぎす、厳めしく、黒ずくめ。いかにも法律関係者らしい恰好だった。
――葬儀屋みたいな人だな、とピトゥは呟いた。
「ジルベール先生から預かった小箱をパリから来た奴らに盗まれた、と言ったね?」
「ああ」
「それは犯罪だ」
「あいつらはパリ警察の奴らなんだ」
「泥棒野郎め」マイヤールが吐き捨てた。
それからピトゥに手紙を手渡した。
「君が持っていなさい。これがさっきの言伝の内容だ。この人と君の二人とも死んでしまった時でも、この俺は死なないようにと祈っていて欲しい」
「死ななかったらどうするんですか?」ピトゥがたずねた。
「君がやるべきだったことをするまでだ」
「ありがたい」
ビヨはそう言って執達吏に手を差し出した。
細長い身体からは想像もつかないほどの力強い握手が返って来た。
「あんたを信じていいんだな?」ビヨが確認した。
「マラーを信じ、ゴンションを信じるように」
「三位一体ですね。天国でもありっこないほどの」ピトゥはそう言って振り向き、
「ビヨさん、無茶はしませんよね?」
「ピトゥよ」ビヨの言葉には説得力があった。こういう人間を田舎でもひょっこり見かけるから不思議である。「一つ覚えておけ。フランスにゃあ無茶しないことより無茶じゃないものがある。勇気だ」
ビヨは手前にいる歩哨の列を突っ切り、ピトゥは広場に戻った。
跳ね橋ではまたもや一悶着があった。
ビヨが許可証を見せると、跳ね橋が降ろされ、鉄門が開いた。
門の後ろに司令官がいた。
司令官が待ち受けていた内庭は、囚人の散歩する場所であった。塔という名の八つの巨人に囲まれている。頭上に窓は一つもなく、暗く湿った舗石に太陽が届くことはない。さながら広大な井戸の底と言えよう。
庭にある柱時計が鎖に繋がれた囚人に支えられて時を刻んでいる。独房の天井から滴る水が敷石を穿つように、ゆっくりと控えめな音を立てて時を穿っていた。
この井戸の底で、石の谷に埋もれている囚人は、生命のしるしもない石をしばし見つめ、やがて牢獄に戻った方がましだと思うらしい。
庭に面した鉄門の向こうには、前述の通り、ド・ローネー氏がいた。
ローネー氏は五十路近い男性で、この日は亜麻色の服を着ていた。サン=ルイ勲章の朱綬を身につけ、仕込み杖を手にしている。
ローネー氏は悪人であった。その悪名はランゲの回想録によって照らされ、囚人に劣らず憎まれていた。[*1]
父から子に封印状を受け継がせたシャトーヌフ家、ラ・ヴリリエール家、サン=フロランタン家と同様、ローネー家も父から子にバスチーユを引き継いでいた。
ご存じの通り、典獄を任命しているのは陸軍大臣ではない。バスチーユでは司令官の地位から見習いコックの地位に至るまですべては金で買えるのだ。バスチーユ司令官とは規模の大きな門番であり、肩書きを持った食堂の亭主である。六万フランの給料に加えて、六万フランを強請り取り、着服していた。
払ったお金を取り戻す必要があったのだ。
ローネー氏は先任者以上に貪欲であった。購入金額が先任者よりも高額であり、それほど長くは地位にしがみつけないと考えていたのだろう。
囚人を踏み台にして暮らしをまかなっていた。牢の暖房をケチり、家具の料金を二倍にした。
葡萄酒百樽を無関税でパリに入れる権利を有していたので、それを酒屋の亭主に売りつけ、旨い葡萄酒の十分の一の値段で酢を買って囚人に飲ませていた。
バスチーユに幽閉されている者たちにも一つだけ慰めがあった。稜堡の上に築かれた小庭である。囚人たちはそこで散歩を味わい、束の間の空気と、花と、光と、そして自然と再会していたのである。
ローネー氏はこの庭を庭師に貸して年に五十リーヴル受け取る代わりに、囚人たちから最後の楽しみを奪っていた。
一方で金を持った囚人にはたっぷりと心尽くしをした。囚人を家に連れて来られた愛人は、ローネーの懐を痛めることなく、家具を購入することも維持管理することも出来た。
バスチーユが日の下に晒されれば、こうしたことは無論のことまだまだ幾つもの事実が明らかになるだろう。
さらに言えばローネー氏は勇敢だった。
前夜から、身のまわりで嵐が吹き荒れ、暴動の波がひたひたと這い上って壁を叩いているのを感じていた。
それでも、青ざめてはいたが落ち着きは失っていなかった。
背後には四台の大砲がいつでも発射できるようにされている。周りにはスイス兵と傷病兵。目の前にいるのは、ただ一人丸腰の人間。
さよう、ビヨはバスチーユに足を踏み入れると、小銃をピトゥに預けていたのだ。
柵の向こう側では武器は身を守るのではなく身を滅ぼしかねないのだと気づいていた。
ビヨは一目ですべてを見て取った。挑発的なほどに落ち着いた司令官の態度。詰め所に居並ぶスイス人衛兵。砲座上の傷病兵。軍用車のタンクに薬包を詰め込む砲兵たちの無駄のない動き。
歩哨たちは銃を手に提げ、将校たちは剣を抜いている。
司令官が動かなかったため、ビヨの方から歩いていかざるを得なかった。不吉な音を軋ませ後ろで鉄門が閉まると、如何に勇敢なビヨとて、骨の髄まで凍えるのを避けられなかった。
「まだ何か用か?」ローネーがたずねた。
「まだ? 会うのは初めてだと思ったが。だったら俺を見てうんざりすることもあるまい」ビヨが応えた。
「市庁舎から来たのでは?」
「そうだ」
「やはりな。先ほど市庁舎の使節が来たばかりだ」
「何をしに?」
「砲撃するなという言質を取りに」
「約束したのか?」
「ああ。大砲を引っ込めろと言われた」
「それで引っ込めたのか。バスチーユ広場から見えたよ、動かしているのが」
「脅しに屈したと思っているんだろうね?」
「どう見てもそうだろう」
「言った通りだろう?」ローネーは将校たちを見て言った。「きっと臆病者だと思われると言ったはずだ」
それからビヨに向かい、「誰の代理だ?」とたずねた。
「民衆の代理だ!」ビヨは胸を張って答えた。
「なるほど。だがそれだけかな?」ローネーは薄笑いを浮かべた。「そんなものでは歩哨の防衛線を通り抜けられなかったはずだ」
「ああ、あんたの友人フレッセルさんの許可証がある」
「フレッセルか! 私の友人だと言ったな」ローネーは心の奥深くを読もうとでもするかのようにビヨを見つめた。「フレッセル氏が私の友人だと誰から聞いた?」
「そう思ったのさ」
「思っただけか。まあいい。許可証を拝見しよう」
ビヨは許可証を見せた。
ローネーは一読してから紙を開いて追伸が書かれていないか確かめ、行間に文章が紛れてないかと光にかざした。
「これだけか?」
「それだけだ」
「本当だな?」
「本当のこんこんちきだ」
「言伝もないのか?」
「ない」
「変だな」ローネーは銃眼からバスチーユ広場を覗いた。
「何か待っていたのか?」
ローネーは首を振った。
「特に何も。それより用件は? だが急いでくれ、忙しいんだ」
「よしわかった。俺たちにバスチーユを明け渡してくれ」
「え?」ローネーはよく聞こえなかったかのように聞き返した。「何と言った……?」
「民衆の名に懸けて、バスチーユの明け渡しを要求する」
ローネーは肩をすくめた。
「民衆とはつくづく変わった生き物だな」
「何だと!」
「で、バスチーユをどうしたいんだ?」
「ぶっ壊してやる」
「バスチーユと民衆の間には何の関係もあるまい? 民衆の誰かがバスチーユに入れられているとでも? むしろ積み上げられたバスチーユの石一つ一つに感謝してもらわなくては。バスチーユに入れられているのは、哲学者、学者、貴族、政治家、領主、要するに民衆の敵ばかりだ」
「民衆は自分のことばかり考えている奴らとは違うってことだな」
ローネーは憐れむような声を出した。「見たところ軍人ではないようだが」
「ああ、農場を経営している」
「パリの人間ではないのか」
「ああ、田舎者さ」
「バスチーユのことをよく知らないのだな」
「その通り。俺は見たものしかわからない。壁の外側しか知らないってことだ」
「来るがいい。バスチーユがどんなところかお見せしよう」
――ははァん、とビヨは考えた。
だが勇敢な農夫は、司令官の後からついて行くことにした。
「手始めに、ここにはフォーブール・サン=タントワーヌの半分とバスチーユを吹き飛ばせるだけの火薬があることを知っておいてもらおう」
「それは知っている」ビヨは落ち着いて答えた。
「ではこの四台の大砲を見給え」
「見ているさ」
「この大砲は、おまえが見ているこの廊下の端まで弾を飛ばせるんだ。そしてこの廊下の向こう端には衛兵が詰めており、その次には跳ね橋を使わないと通れない堀が二つあり、とりには鉄門が待ちかまえている」
「バスチーユの守りが甘いとは言わんよ」ビヨは動じなかった。「ただ、攻撃には弱いかもしれんだろ」
「先を続けよう」ローネーがうながした。
ビヨは同意の印にうなずいた。
「堀に開いているのが間道だ。壁の厚さは幾らあると思う」
「四十ピエはあるな」[*2]
「そうだ。地面近くは四十ピエ、頂上近くは十五ピエある。民衆がどれだけ鋭い爪を持っていようと、この石壁には歯が立つまい」
「バスチーユをぶち破る前にぶっ壊すと言った覚えはないぜ。ぶち破った後でぶっ壊すのさ」
「上に行くぞ」ローネーがうながした。
「上に行こう」
三十段ほど上ったところでローネーが立ち止まった。
「見ろ、ここにも入口がある。この通路を通って行きたいのだろう。ここを守っているのは小銃(fusil de rempart)だけだ。ただしちっとは名が知れているぞ。唄にもあるだろう」
ミュゼットよ慰めてくれ
ありったけの愛を込めて[*3]
「知ってはいるが、歌っている場合ではないだろう」ビヨが言った。
「まあ待て。サックス元帥がこの小砲をミュゼットと呼んでいたのさ。一番好きな歌を一番上手く歌えるからと言ってな。歴史の一断片というやつだ」
「何とね」
「上に行こう」
そのまま上ってゆくと、コンテ塔の砲台にたどり着いた。
「おいおい!」ビヨが声をあげた。
「どうした?」ローネーがたずねる。
「大砲を降ろしてないじゃないか」
「引っ込めただけさ」
「まだ大砲があるとみんなに伝えるぞ」
「言ってみるがいい!」
「降ろすつもりはないんだな?」
「無論だ」
「絶対にか?」
「国王陛下の大砲が国王陛下の命令によってここに置かれているのだ。国王陛下の命令がなければ降ろすことは出来ん」
「ローネーさんよ」ビヨは自分の声が大きくなり、自分だけでどうにか出来そうなほど高まっているのを感じていた。「あんたが従わなくちゃならない本当の王様はここにいる」
ビヨが指さして見せたのは、前夜の戦いでところどころを血に染めた灰色の群衆だった。堀を前にして蠢く人々の武器が、時折りきらりと光っている。
「いいかね」ローネーが偉そうに顎を反らして答えた。「おまえは王様を二人知っているのかもしらんが、バスチーユ典獄である私が知っているのは一人だけだ。ルイの名を戴く十六代目のお方のご署名を委任状の末尾にいただいている。この委任状を以て私は万物に対してここに命ずることが出来るのだ」
「あんたは市民じゃないのか?」ビヨは腹を立てた。
「フランス貴族さ」
「確かにあんたは軍人だよ。しゃべり方からして軍人だ」
「ありがとう」ローネーは頭を下げた。「軍人であるからこそ、命令を実行せねばなるまい」
「だが俺は市民だ。市民としての義務とあんたの軍人としての使命がぶつかる以上は、どちらかが死ななくちゃならんな。あんたが使命を貫けるか、俺が義務を果たせるか、だ」
「そういうこともあろう」
「俺たちを撃つつもりか?」
「そっちから撃って来ない限りは撃つつもりはない。フレッセル氏の使節団にもそう伝えた。大砲が引っ込められているのは見たはずだ。だが先に広場から城壁に発砲されたからには……」
「先に発砲されたからには?」
「あの大砲のところに行くというのはどうだ。私自身であれを銃眼まで運び、私自身で狙いを定め、私自身でここにある導火線に火をつけるとしよう」
「あんたが?」
「ああ」
「そんな風に思っていたら……あんたがそんな罪を犯す前に……」
「言ったはずだ。私は軍人、命令を実行するのみ」
「見てみろ」ビヨはローネーを銃眼まで引っ張り、フォーブール・サン=タントワーヌと大通りを交互に指さした。「これからあんたに命令を下すのはあいつらだ」
ビヨが指さしたのは遠吠えをあげる黒い塊だった。大通りに沿って進むしかないために槍のような形になり、巨大な
全身が光る鱗に覆われていた。
二つの部隊が約束通りマラーとゴンションに率いられてバスチーユ広場にやって来たのだ。
あっちでもこっちでも、武器を振り上げ、絶叫している。
それを見たローネーが杖を上げた。
「撃ち方、用意!」
それからビヨに詰め寄り、
「生憎だったな。話し合いに来たふりをして、ほかの奴らに攻撃させる魂胆だったのか? 死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」
それを見たビヨは稲妻の如き素早さでローネーの襟首とベルトをつかみ、床から持ち上げた。
「そういうあんたは、手すりから放り出されて堀の底で粉々になる覚悟は出来ているんだろうな? 安心しろ! 俺には別の戦い方があるんだ」
その瞬間、上から下まで、どよめきが広がって嵐のように通り過ぎ、バスチーユの将校、ド・ロスム氏が砲台に現れた。
「君、君、お願いだから姿を見せてやってくれ。君の身に何か起こったと思った人たちが、君を返せと喚いているんだ」
なるほどピトゥが人々に伝えたビヨの名がどよめきの中から聞こえている。
ビヨが手を離すと、ローネーは杖を鞘に押し戻した。
三人がにらみ合う。怒号が聞こえて来る。
「姿を見せてやり給え」ローネーが言った。「こんな怒号に屈したわけではないが、私が政府の人間だと知らせる必要がある」
そこでビヨは銃眼に頭をくぐらせ、手を振った。
それを見た人々の間から喝采が起こった。庶民で初めて堂々と砲台に足を乗せたことは、ある意味では、バスチーユの額から庶民の身体の中に生じた革命であったのだ。
「ではこれでお終いだ。もうここでやることはなかろう。向こうから呼ばれているんだ。降り給え」
ビヨは責任者と思しき人間の口から発せられた譲歩の言葉を理解し、上って来たのと同じ階段から降り始めると、司令官も後に続いた。
ロスム将校は司令官から小声で指示を受け、その場に留まった。
ローネーの望みは一つだけ。和平の使者が一刻でも早く敵になってくれることだった。
ビヨは何も言わずに中庭を横切った。砲手が見える。導火線が砲身の先からくすぶっている。
ビヨはその前で立ち止まった。
「覚えておいてくれ。俺は流血を避けるためにあんたらの大将に会いに来た。断ったのは向こうだ」
「国王の名に於いて告げる。ここから立ち去るがいい」ローネーが足を踏み鳴らした。
「言ったな。そっちが王様の名に於いて追い出すというのなら、こっちは人民の名に於いて戻って来てやる」
ビヨはスイス人衛兵たちを見た。
「あんたらは誰の味方だ?」
スイス人たちは答えない。
ローネーが鉄門を指さした。
ビヨはそれでも諦めきれなかった。
「国民の名に於いて! あんたの兄弟の名に於いて!」
「私の兄弟だと? おまえが兄弟と呼ぶのは、『バスチーユをぶっ壊せ! 司令官をぶっ殺せ!』と叫んでいる連中のことか。おまえの兄弟の間違いだろう。断じて私の兄弟などではない」
「人類の名に於いて!」
「十万人で寄ってたかって百人の兵士たちを塀の内側に閉じ込めて、喉を掻き切るそのために、おまえを送り込んだ人類の名に於いて、か?」
「だからこそ、バスチーユを人民に明け渡せば、兵士たちの命は助かるんだ」
「そして私の名誉は地に落ちる」
ビヨは言い返せなかった。軍人の理屈には勝てなかったのだ。だがそれでもスイス人衛兵と傷病兵にはなおも訴え続けた。
「降伏してくれ、まだ時間はある。十分後では遅すぎる」
「今すぐここを立ち去らないのなら、貴族の名に懸けて、おまえを撃ち殺す」
ビヨは一瞬立ちすくんだが、受けて立つように腕を組むと、最後にもう一度ローネーの目をねめつけてから、その場を後にした。
Alexandre Dumas『Ange Pitou』Chapitre XVI「La Bastille et son gouverneur」の全訳です。
Ver.1 13/11/23
[訳者あとがき]
[更新履歴]
[註釈]
▼*1. [ランゲの回想録]。
Simon-Nicholas Henri Linguet,1736-1794,Mémoires sur la Bastille。邦訳『バスチーユ回想』。[↑]
▼*2. [四十ピエ]。
約13m。1ピエ=約30cm。[↑]
▼*3. [ミュゼット]。
ミュゼットとはバグパイプの一種。またはそれで演奏される曲。この歌は、ミュゼットよ私の失恋の悲しみを歌ってくれ――というような内容。[↑]
▼*4. []。
[↑]
▼*5. []。
[↑]