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長谷雄草紙

―はせをさうし―


其の四

翻刻
うちける程に、中納言たゞかちにかちければ、おとこしばしこそよのつねの人のすがたにてありけれ。まくるにしたがひて、さいをかき心をくだきける程に、もとのすがたあらはれておそろしげなる鬼のかたちになりにけり。を〔ママ〕そろしとはおもひけれども、「さもあれ。〔かちだにしなば、かれ〕はねずみにてこそあらめ」とねむじてうちたる程に、つゐ〔ママ〕に中納言かち〔補入(はて)〕にけり。その時またありつる男のかたちになりて、「いまは〔申〕におよばず。『さりとも』とこそおもひ侍つれ。からくもまけたてまつりぬる物かな。しか\/その日わきまへ侍べし」といひてもとのごとくおろしてけり。

 

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長谷雄草紙1011


現代語訳
双六を打っているうちに、中納言がどんどん勝ち続けたところ、しばらくのあいだ男は普通の人間の姿をしていたのだが、負けるにしたがい賽を掻きむしり心乱れ、そのうち本来の姿が現れて恐ろしげな鬼の姿になったのであった。恐ろしいとは思ったけれど、「構うものか。勝ちさえしなければ、ただの鼠に過ぎないのだ」と自制しながら打っているうちに、結局最後まで勝ち続けてしまった。その時ふたたび元の男の姿になって、「ぐうの音も出ません。まさかこんなはずではなかったのですが。なんとも悔しいことに負けてしまいました。間違いなく約束の日にお届けいたしましょう」と言ってもとのように降ろしてくれた。

画像
 裾が気になる……。

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