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長谷雄草紙

―はせをさうし―


其の五

翻刻
 中納言あさましとおもひながら、たのめし日になりにければ、したまたれつゝさりぬべき方とりしつらひてまちゐられたり。夜ふくる程に、ありし男ひかるがごとくなる女ぐしてきてわきまへにけり。中納言めもめづらにおぼえて、「これはやがてたまはるか」といへば、「さうにをよばず。まけたてまつりてわきまへぬるうへは、かへし給べきやうなし。但こよひより百日をすぐしてまことにはうちとけ給へ。もし百日がうちにをかし給なば、かならずほいなかるべし」といへば、「いかにものたまはせんまゝにこそ」とて、女をばとゞめておとこをばかへしつ。夜あけてこれをみれば目も心もおよばず、「このよにかゝる人ばやあるべき」とあやしきことかぎりなし。やゝ日を〔ふ〕るまゝ、心ざまもなつかしくいとゞそひまさりして、かた時もたちさるべくもおぼえざりけり。

 

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長谷雄草紙121314


現代語訳
 中納言は馬鹿らしいとは思いながらも、来たる日がやって来ると、心待ちにしながら然るべき点をぬかりなく整えじっと待ち続けていたのだった。夜更け頃、あの男が輝かんばかりの美女を連れてきて献上した。見るも素晴らしく、「つまりこの方をいただけるのかな」とたずねると、「無論です。負けてしまって差しあげるからには、返していただく必要もありません。ただし、今夜から百日経ったあとで懇意になさいませ。もし百日中に契りを交わしたなら、必ずや残念なことになりましょう」と答えた。中納言は「確かに仰るとおりに」とおっしゃって、女を残して男を帰した。夜が明けて女を見ると、目も心も信じられぬほどの美しさゆえ、「この世にこんな人がいるはずもない」と不思議に思うことしきりだった。だんだんと時の経つままに、愛しくてますますそばにいることが増えて、片時も離れようとは思わなかった。

画像
 女は裳・唐衣の正装。直衣姿の長谷雄も烏帽子ではなく冠と、かなりフォーマルである。
 よく見ると、女は御簾の外にいるのがわかる。室内手前にある楕円形の水色部分は何だかよくわからないが、どうやら霞のよう。

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