〔翻刻〕
かくて八十日ばかりになりにければ、「いまは日數もおほくつもりぬ。かならず百日と〔しも〕さすべき事〔か〕は」と、たえがたくおぼえて、したしくなりたりたれば、すなはち女、水になりてながれうせにけり。中納言くひ〔ママ〕のやちたびかなしめどもさらにかひなかりけり。
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〔現代語訳〕
こうして八十日ほど経ったところ、「もう日もかなり数えた。絶対に百日ということもあるまい」と、耐え難く感じて懇意になると、女は水になって流れ去ってしまった。中納言は悔いに悔やんで悲しめども何の甲斐もない。
〔画像〕
御簾の隙間から画面手前まで溢れてきている水は、水というより煙のようでもあり、いかにも『この世ならざるもの』という雰囲気を漂わせている。
長谷雄は単姿。奥の戸に朱で描かれているのは松であろうか。