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長谷雄草紙

―はせをさうし―


其の七

翻刻
 かくて三月ばかりありて、夜ふけて中納言、内よりいでられたる道に、ありし男きあひて車のまへのかたよりきて、「君は信こそおはせざりけれ。心にくうこそおもひきこへしが」とて、気〔色〕あしくなりて、たゞよりにちかづきければ、中納言心をいたして、「北野天神たすけ給へ」とねむじ侍ける時、そらにこゑありて、「びんなきやつかな。たしかにまかりのけ」と、おほきにいかりてきこえたる時、男かきけつごとくうせにけり。

 

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長谷雄草紙171819


現代語訳
 そうして三カ月ほど経った頃、夜更けに内裏から退出する途上、あの男と出くわすと、男が牛車の前方から近づいてきた。「貴殿は信義をお持ちではなかったのですなァ。素晴らしい方だとばかり思っていたのですが」と言うと、顔つきが険しくなり、まっすぐ近くに寄ってきたので、中納言が心を込めて「北野天神、助けたまえ」とお祈りになったところ、空から声がした。「哀れなやつよ。しかと去るがよい」と、恐ろしいほどに猛々しく聞こえた途端、男は掻き消えるように逃げ出した。

画像
 朱雀門上の絵では赤い顔の人間に見えなくもなかったのだが、ここに描かれたのは完全に人外のものである。車中の長谷雄にまっすぐ向かっている。供のものは為すすべもない。太刀を佩いた馬上の男も、一見すると馳せ参じたようにも見えるが、実は驚いて引き気味のよう。
 後ろの二人がのんびりと緊張感がないのは、実は彼らは次のシーンの登場人物だからである。絵巻物ならではの表現といえよう。

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