この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第百三十七章 アンドレの失神

 タヴェルネ男爵は落ち着いてから先ほどの悲劇についてつらつらと考えてみた結果、様々な不安の主たる原因と真剣に向き合うべき時が来たのだと悟った。

 そこでタヴェルネは怒りに身を震わせながら、アンドレの住まいに向かった。

 アンドレは身繕いの最後の仕上げに、腕を上げてまとまりづらい髪の房を耳の後ろで留めようとしているところだった。

 控えの間に父親の足音が聞こえると、腕に本を抱えて戸口を跨いだ。

「ご機嫌よう、アンドレ。出かけるのかね?」

「はい、お父様」

「一人か?」

「ご覧の通りです」

「そうか、まだ一人なのか」

「ニコルがいなくなってから、小間使いを使っておりませんから」

「それでは着替えも出来まい。それはいかんぞ。そんななりでは宮廷で出世できん。それはそれとして話したいことがあったのじゃが」

「申し訳ありませんがお父様、王太子妃がお待ちですので」

「悪いがの、アンドレ」タヴェルネ男爵は話しているうちに昂奮して来た。「そんな質素ななりでは、笑われるのが落ちじゃぞ」

「お父様……」

「何処であれ笑いものにされるのは死の宣告に等しいが、宮廷ではなおのことだ」

「覚悟はしております。ですが差し当っては、質素な身なりであれすぐにおそばに駆けつける方が妃殿下もお喜びになると思っております」

「では出かけるがよい。お許しが出たらすぐに戻って来てくれ。重大な話がある」

「わかりました、お父様」

 アンドレはそう言って先を急ごうとした。

 男爵はそれをまじまじと見つめていた。

「待ちなさい。そんななりで出かけてはならぬ。紅を忘れておるぞ。ひどく真っ青ではないか」

「そうでしょうか?」アンドレが立ち止まった。

「鏡を見てもそうは思わんか? 頬は蠟のように真っ白で、目には隈が出来ておる。そのまま出かけては、人を驚かせてしまうぞ」

「ですがやり直している時間はありません、お父様」

「ひどいもんじゃ!」タヴェルネ男爵は肩をすくめた。「世の中はこんな女ばかりで、それがわしの娘と来ておる! とことんツイとらん! アンドレ! アンドレ!」

 だがアンドレはとっくに階段の下まで行っていた。

 アンドレが振り返った。

「せめて具合が悪いのだと言い訳せい。めかし込む気はなくとも、気を惹ければそれでよい」

「そういうことでしたら簡単です。嘘をつく必要もありませんわ。実際に気分が優れないんですもの」

「左様か」男爵が唸った。「最悪ではないか……病気だとは!」

 そう言うと、歯の隙間から絞り出すように、

「貴婦人ぶりおって!」と吐き捨てた。

 男爵は娘の部屋に入ると、憶測を裏づけるようなものや閃きの参考になるようなものを見つけようと丹念に探り回った。

 その間にもアンドレは広場を横切り花壇に沿って歩き続けた。時折り顔を上げて、さらに大きく空気を吸い込もうとした。濃密な花の香りが脳を冒し、五感のすべてを揺るがしていたのだ。

 そのせいで陽射しに打たれて眩暈を起こし、何処か摑まるところが欲しかった。こうして経験したことのない辛さと戦いながらも、トリアノンの控えの間までたどり着くと、ノアイユ夫人が王太子妃の小部屋の前に立っている。その一言目を聞いただけで、アンドレは悟った。予定の時刻を過ぎ、待たせてしまっていたのだ。

 大公女付きの朗読係である×××司祭が妃殿下と朝食の席に着いていた。王太子妃は親しい間柄の人々をよくこうして招いていたのだ。

 ドイツの女将さんがミルク入りコーヒーカップの周りに器用に積み上げるバター付きパンが如何に素晴らしいかを、司祭は力説していた。

 司祭は朗読ではなくおしゃべりをしていた。情報屋や外交官から仕入れて来たウィーンの現状を王太子妃に残らず聞かせていた。というのもこの時代の政治というものは、大法官府の人知れぬ密室と同じくらい有意義に、開けた場所でおこなわれていたのだ。というわけでパレ゠ロワイヤルだったりヴェルサイユの植え込みだったりで貴族たちが推測したり、ひどいときにはでっちあげたりした情報を、政府中枢で耳にするのも珍しいことではなかった。

 司祭の話はもっぱら、表沙汰にはならなかったが小麦高騰に関する暴動があったという最新の噂に費やされていた。何でもその暴動は、サルチーヌ氏が悪質な買い占め業者五人をバスチーユ送りにしたことで速やかに収めたということである。

 アンドレが入室した。王太子妃にも気まぐれや苛立ちを覚える日はある。司祭の話が面白かったので、その話の後でアンドレの朗読を聴くのは退屈に思えた。

 故に王太子妃は時間に遅れないよう第二朗読係に伝えると、良いことというものは時機を合わせればさらに良ものなのだと言い添えた。

 アンドレは非難されたことに困惑したし、そこまで言わなくてもという思いも強かったが、言い訳は一切しなかった。父に引き留められていたことに加えて、体調が悪くて急ぐことが難しかった、と説明することも出来たのだが。

 何も言わず、困惑したまま悲しい気持ちで頭を下げると、そのまま息も絶えそうに、目を閉じてくずおれかけた。

 ノアイユ夫人がいなければ倒れていたところだ。

「お行儀がなっておりませんね!」とエチケット夫人が呟いた。

 アンドレから答えはない。

「具合が悪いのではなくて?」王太子妃はノアイユ夫人に指摘すると、立ち上がってアンドレに駆け寄ろうとした。

「大丈夫です」慌てて答えたアンドレの目には涙が浮かんでいた。「具合は悪くありません。いえ、よくなりましたから」

「そうは言うけど公爵夫人もご覧なさいな、この子の顔色と来たらハンカチのように真っ白じゃありませんか。わたしのせいね、この子を叱ったりしたから。ねえあなた、どうかお坐りなさい」

「妃殿下……」

「命令ですよ!……司祭、その折りたたみ椅子を譲って差し上げて」

 アンドレは腰を下ろした。王太子妃の気遣いのおかげで、少しずつ気持ちも穏やかになり頬にも色合いが戻っていた。

「では本を読んで下さるかしら?」

「ええ、もちろんです。どうかお願いします」

 アンドレは昨日の続きから本を開き、出来る限り聞き取りやすく耳に快い声を出そうとした。

 だが二、三ページほど目を通したところで目の前を小さな黒点が飛び回り、渦を巻いて震え出したので文字が読めなくなってしまった。

 再び顔が土気色になり、嫌な感じの汗が胸元から滲んで額にまで広がり、目許には男爵が厭うたような黒い隈がどんどん大きくなった。アンドレが言葉につかえたのに気づいて、王太子妃が顔を上げた

「まただわ!……公爵夫人、この子はやっぱり具合が悪いのよ。気を失っているじゃないの」

 王太子妃は気付け薬を朗読係に吸い込ませた。するとアンドレが意識を取り戻し、本を拾おうとしたものの、上手くいかなかった。手の震えがしばらく収まらなかったのだ。

「やはりアンドレは体調が悪いようね、公爵夫人」王太子妃が言った。「ここに引き留めてはさらに具合が悪くなってしまうわ」

「では直ちにお部屋に戻っていただきましょう」

「どういうこと?」

「恐らくこれは――」夫人は恭しく答えた。「天然痘の徴候でございますから」

「天然痘?」

「そうです、失神、人事不省、震え」

 ノアイユ夫人が仄めかした脅威にどっぷり巻き込まれてしまったと感じた司祭は、逃げの一手を打った。アンドレがぐったりしている隙を突いて忍び足で退散したのだ。巧く逃げ出したため誰にも気づかれることはなかった。

 アンドレは王太子妃の腕に抱かれるような恰好になっていることに気づいて、畏れ多くも大公女にそんな迷惑を掛けていると思うと申し訳なくなり、そのために体力――というよりは気力を取り戻した。そこでアンドレは窓辺に近寄り深呼吸をした。

「そんなんじゃなく、外の空気を吸った方がいいわ」と王太子妃が言った。「お部屋に戻りなさい、ついて行ってあげますから」

「そこまでしていただかなくとも、もうすっかり良くなりました。席を外すお許しをいただけるのでしたら、一人で戻れます」

「わかったわ、お大事にね。もう叱ったりはしません。これほど繊細な方だとは知らなかったものですから」

 アンドレはまるで姉妹のような心遣いに感激し、王太子妃の手に口づけして部屋を出た。王太子妃がそれを心配そうに見守っていた。

 アンドレが階段の下まで行くと、王太子妃が窓から大きく声をかけた。

「すぐに戻らずに花壇を少し散歩なさい。陽に当たれば良くなりますよ」

「何てお優しいんでしょう!」アンドレは呟いた。

「それから司祭さんに戻って来てもらって頂戴。向こうのオランダ・チューリップ畑で植物のお勉強をしているでしょうから」

 アンドレは司祭に会うため、道を逸れて花壇のあいだを縫って進んだ。

 アンドレは下を向いて歩いていた。朝から続く眩暈のせいで今もまだ頭が重い。花の咲いた生け垣や並木道の上を驚いて飛び回る鳥たちにも、タイムやリラの上でぶんぶんと羽根を鳴らす蜜蜂にも、まったく意識が向かなかった。

 だから少し離れたところで二人の男が話をしていて、そのうちの一人が狼狽え顔で不安そうにアンドレを見つめていることにも気づかなかった。

 二人はジルベールとジュシュー氏であった。

 ジルベールは鋤にもたれて著名な師匠の話に耳を傾けていた。草状の植物に水をやるとき、土壌に水が溜まってしまわぬよう上手く染み込ませるにはどうしたらいいかという内容だった。

 講義に耳を傾けるジルベールの様子は真剣そのものだったし、ジュシュー氏の方でも科学に興味を持つのは当然といった態である。実際、公開講座で同じ話をすれば、生徒席から拍手が巻き起こるのは間違いなかろう。貧しい庭師の青年が、自然という教材を前に、偉大な教師から教えを受けているのだ。これほどの幸運はあるまい。

「いいかい、ここには大きく分けて四種類の土壌がある」とジュシュー氏が説明していた。「私にはそれに加えてさらに十種類の違いを見分けられる。だが庭師の卵には難しい微妙な違いだ。それでもやはり、花を育てるなら土の味を知らなくてはならないし、庭造りをするのならその庭に実る果実の味を知らなくてはならない。わかるね、ジルベール?」

「はい、わかります」と答えたものの、ジルベールの目はよそに向けられ、呆けたように口が開いていた。アンドレを見つめていたのだ。それでもジルベールのいる位置からは、アンドレを目で追い続けていても、上の空で講義を聴いて生返事をしているとは気づかれずに済んだ。

「土を知るには――」ジュシュー氏はジルベールの生返事にまだ誤魔化されていた。「水切り籠に土を乗せて、優しく水を注ぐといい。水が土で濾されて籠の下から出て来たのを味わってごらん。しょっぱかったり、苦かったり、癖がなかったり、香りがしたり、育てたい植物の樹液に適した天然成分の風味があるはずだ。あなたがお世話になったルソーさんが言っていたように、自然界のあらゆるものには類似点があり、相手を取り込み、均質化してゆく傾向があるものだからね」

「大変だ!」ジルベールが腕を差し伸ばした。

「どうしたね?」

「気絶してしまいました!」

「誰のことだ? 大丈夫かい?」

「あの人です!」

「あの人?」

「ええ、ご婦人です」ジルベールは必死で訴えた。

 ジュシュー氏が指の先に目をやりジルベールから視線を外さなければ、『あの人』という言葉はもちろん、怯えて青ざめた表情から何もかもばれてしまっていたことだろう。

 だが指の先をたどってジュシュー氏もアンドレに気がついた。熊垂クマシデの向こうから辛そうな足取りで現れ、並木道までたどり着くとベンチに倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。最後まで残っていた意識の欠片が消え失せてしまったかのようだった。

 折りしも時刻は国王がふだん王太子妃を訪問する頃合いだった。とうわけで国王が、グラン・トリアノンからプチ・トリアノンに向かおうとして、果樹園から姿を現した。

 即ち、国王の出現は突然だった。

 国王は早なりの素晴らしい桃を手に、いかにもわがままな国王らしく、この桃は王太子妃が味わうよりも自分が味わった方がフランスの幸福のためには遙かに良いのではないか、と自問していたところだった。

 ジュシュー氏が慌ててアンドレに駆け寄るのを見ても、目の悪い国王には事情がよくわからなかった。だが胸を詰まらせたようなジルベールの悲鳴から、容易ではない事が起こったに違いないと察していたので、足を早めて現場に向かった。

「どうしたんだ?」ルイ十五世は熊垂の茂みに近づきながらたずねた。その頃には道を挟んだ反対側までたどり着いていた。

「陛下!」ジュシュー氏がアンドレを抱き起こしたまま声をあげた。

「陛下?」アンドレは囁いて気を失った。

「それは誰だね?」国王がたずねた。「ご婦人だな? 何が起こったのだ?」

「気絶なさったのです」

「何と!」

「意識を失っています」ジュシュー氏はベンチに横たえたアンドレを指さした。強張ったまま微動だにしない。

 国王はそばに寄ってアンドレに気づき、悲鳴をあげた。

「またか!……正気の沙汰ではない。それほど具合が悪いなら出歩いてはならん。四六時中こんな風に人前で死にかけるなどもってのほかだ」

 ルイ十五世はきびすを返してプチ・トリアノンに向かった。その間もアンドレに対する不満を山ほど呟いていた。

 ジュシュー氏はそれまでのいきさつを知らなかったので、しばらくぽかんとしていたが、ふと振り返ってジルベールがすぐそばで不安そうにしているのに気づいた。

「来てくれ、ジルベール。君なら力がある。タヴェルネ嬢を部屋まで運んでくれるかな」

「僕がですか!」ジルベールは震え出した。「僕が手を触れて運ぶんですか? いけません、そんなの絶対に許してくれません。絶対に出来ません!」

 ジルベールは慌てふためいてその場から逃げ出し、助けを呼びに行った。


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre CXXXVII「Les évanouissements d'Andrée」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年12月9日(連載第136回)


Ver.1 12/01/28
Ver.2 25/10/19

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[註釈・メモなど]

・メモ

[更新履歴]

・25/10/19 Taverney, lorsqu'il eut repris ses sens et approfondi ce qu'il appelait son malheur, comprit que le moment était venu d'avoir une explication sérieuse avec la cause première de tant d'alarmes. 「avoir une explication avec」で「〜と議論する」。「la cause première」はここでは「大義」ではなく「主たる原因」だろう。「le moment」は「la cause première」と対になっているわけではなく、avoir 以下の「瞬間が来た」。「タヴェルネが正気に戻って、災難の原因をじっくりと考えてみると、機会と大義が幾つもの警報を俎上にして深刻にぶつかり合っていたことに気づいた。」 → 「タヴェルネ男爵は落ち着いてから先ほどの悲劇についてつらつらと考えてみた結果、様々な不安の主たる原因と真剣に向き合うべき時が来たのだと悟った。」に訂正。

・25/10/19 La jeune fille donnait la dernière main à sa toilette, levant ses bras arrondis pour boucler derrière l'oreille deux tresses de cheveux rebelles. 「bras arrondis」とは「腕が丸い」のではなく、「腕を輪になるような形にする」。「cheveux rebelles(頑固な髪)」とは「(梳かしても収まりにくい)くせ毛,扱いにくい毛髪」のこと。「アンドレは身繕いを終えようとしていたところで、ふっくらとした腕を上げて頑固な髪を耳の後ろに留めようとしていた。」 → 「アンドレは身繕いの最後の仕上げに、腕を上げてまとまりづらい髪の房を耳の後ろで留めようとしているところだった。」に訂正。

・25/10/19 – Bien, grommela le baron. Il ne nous manque plus que cela… malade ! 「Il ne manquait plus que cela.」で「最悪だ」。「問題はそれだけだ……具合が悪いのだな!」 → 「最悪ではないか……病気だとは!」に訂正。

・25/10/19 L'abbé vantait l'excellence de ces pains au beurre que les ménagères allemandes savent entasser si industrieusement autour d'une tasse de café à la crème. 「vantait l'excellence」で「素晴らしさを褒める」。「les ménagères」はここでは「フォーク・ナイフ・セット」ではなく「主婦」であろう。「修道院長はバター入りのパンの出来に舌鼓を打っていた。ドイツ製の食器が綺麗に積み上げられた横には、クリーム入りコーヒーが置かれてある。」 → 「ドイツの女将さんがミルク入りコーヒーカップの周りに器用に積み上げるバター付きパンが如何に素晴らしいかを、司祭は力説していた。」に訂正。

・25/10/19 L'abbé parlait au lieu de lire et racontait à la dauphine toutes les nouvelles de Vienne qu'il avait recueillies chez les gazetiers et chez les diplomates ; car, à cette époque, la politique se faisait en plein air, aussi bonne, ma foi, que dans les antres les plus secrets des chancelleries, et il n'était point rare, au ministère, d'apprendre des nouvelles que ces messieurs du Palais-Royal ou des quinconces de Versailles avaient devinées, sinon forgées. 「la politique se faisait en plein air, aussi bonne, ma foi, que dans les antres les plus secrets」は、「穴蔵の中にある秘密と同じくらい安全」なのではなく、「屋外でおこなうのも、秘密の穴蔵の中と同じくらい安全」なのである。「修道院長は朗読ではなく、情報屋や外交官のところで仕入れてきたウィーンの現状を王太子妃に話していた。この時代には政治は屋外でおこなわれていた。屋外というのは穴蔵に隠してある大法官府の最高機密と同じくらい安全なのである。パレ=ロワイヤルの貴族たちやヴェルサイユの植え込みの陰から見抜いたりでっちあげたりした報せが内閣に報告されるのも、この時代には稀ではなかった。」 → 「司祭は朗読ではなくおしゃべりをしていた。情報屋や外交官から仕入れて来たウィーンの現状を王太子妃に残らず聞かせていた。というのもこの時代の政治というものは、大法官府の人知れぬ密室と同じくらい有意義に、開けた場所でおこなわれていたのだ。というわけでパレ゠ロワイヤルだったりヴェルサイユの植え込みだったりで貴族たちが推測したり、ひどいときにはでっちあげたりした情報を、政府中枢で耳にするのも珍しいことではなかった。」に訂正。

・25/10/19 En conséquence, elle dit à sa lectrice en second de faire en sorte de ne pas manquer l'heure, ajoutant que telle chose bonne en soi l'était surtout dans son opportunité. seconde ではなく second なので、「秒」ではなく「二番目」である。また、「faire sortir」ではなく「faire en sorte de」なので「〜するようにする」である。「そこで王太子妃は朗読係に速やかに出て行くように命じ、朗読のようなことには何よりも頃合いというものがあるのだと言い添えた。」 → 「故に王太子妃は時間に遅れないよう第二朗読係に伝えると、良いことというものは時機を合わせればさらに良ものなのだと言い添えた。」に訂正。

・25/10/19 – Et puis faites-moi le plaisir de me renvoyer l'abbé, qui fait là-bas son cours de botanique dans un carré de tulipes de Hollande./Oh, send me back my abbe, who is yonder among the tulips. 「faire son cours」で「講議をする」ではなく「講義を受ける」。しかし司祭はこのあと登場せずフェイドアウトしてしまう。「それから修道院長に戻って来てもらって頂戴。あそこのオランダ・チューリップの花壇で植物学の講義をしているわ」 → 「それから司祭さんに戻って来てもらって頂戴。向こうのオランダ・チューリップ畑で植物のお勉強をしているでしょうから」に変更。

・25/10/19 – Elle est sans connaissance, sire, ajouta M. de Jussieu en montrant la jeune fille étendue raide et immobile sur le banc où il venait de la déposer. monter ではなく montrer なので、ベンチの上に上げるのではなくベンチのアンドレを指さしたのである。「ジュシュー氏はぐったりとしたアンドレを、改めて腰掛けに横たえ直した。」 → 「ジュシュー氏はベンチに横たえたアンドレを指さした。強張ったまま微動だにしない。」に訂正。

・25/10/19 「」 → 「」

・25/10/19 「」 → 「」

 

[註釈]

*1. []
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*2. []
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*3. []
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*4. []
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*6. []
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