この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
ご意見・ご指摘などは
メール
まで。
New  リンク  翻訳連載blog  読書&映画日記  掲示板  仏和辞典
HOME  翻訳作品 詩集目次  戻る  進む

アルフレッド・テニスン「F・D・モーリス師に」(1854年)

急ぎの仕事がなければ、来てもらえないか、
名付け親よ、息子に会いに来てほしい。[*1]
あなたはきっと、喜びに向かって
跳躍する、冬の太陽になる。

みずからを犠牲にして悪魔にあがなえる 5
数少ない正直者だからといって、
八万の大学評議会が
友よ、あなたに、「破門」を叫ぶだろう。

司祭たちはみな憎しみに泡を飛ばし
権利に気を配りすぎるといってあなたを責めるけれど、 10
よろこんで迎え入れる家庭もあるのだから
ワイト島まで(我慢して来てほしい)。

町の喧騒や人煙から離れた、ここでなら、
神々しい高原の尾根にほど近い
手入れも怠られた庭一面に 15
夕焼けが茶色いとばりを降ろすのが見えるし。

誹謗にわずらわされずに夕食をとり、
誠実な会話と健康的なワインを肴に、
田舎の松屋根の下で
とりとめのないうわさ話に耳を傾けていればいい。 20

周りには松の木立が、
冬の突風を避けるために立っているから。
そして遙か先まで、白い水路が
白亜と砂の上まで波をかぶせているから。

ここでなら、ミルクのような坂の下に 25
戦艦がゆっくりと忍び寄って、
光と影の重なる場所を抜けて
孤独な海の奥に向かいちかちかと遠ざかっても、

自分勝手な戦争を始めさせた
北国の罪を論じていることができる。 30
意見を交わし、可能性を考えてみる。
皇帝が、トルコ人が、勝つだろうか。

それとも、復讐の杖を振って
ヨーロッパを血に染めるだろうか。
いつかあなたはもっと大事なことに目を向けるべきだ、 35
神にとって大事な人間にとって大事なことに。

乏しき蓄えを助け、
貧しき者たちの家を修繕し
よりよき人生を獲得させるには、
さらなる勇気と慈善が必要なのだから。 40

来てもらえないか、モーリス、芝生はまだ
白い霜に覆われ、じっとりと濡れているが。
三月の花冠がクロッカスや、
アネモネや、スミレを花開かせたときには、

それともあとで、ここを訪れてほしい、 45
わたしたちにとって大事なことはそれくらいしかないのだから。[*2]
一度だけではなく、何度でも来てほしい、
何年も何年も、幸せな年月のあいだ。


HOME  翻訳作品 詩集目次  戻る 進む  TOP
New  リンク  翻訳連載blog  読書&映画日記  掲示板  仏和辞典

[註釈]
*註1 [名付け親よ]。F・D・モーリス師は、テニスンの息子の名づけ親だった。[

*註2 [わたしたちにとって……]。ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ完結編』19章に引用された箇所。→こちら。[

HOME  翻訳作品 詩集目次  戻る 進む  TOP
New  リンク  翻訳連載blog  読書&映画日記  掲示板  仏和辞典