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土蜘蛛草紙
―つちぐもざうし―
其の四
〔翻刻〕
夕やみの程、そらのけしきたヾならずなりぬに、〔夕〕ぐれにまがふ木の葉もいたくふりまさり、風を〔ママ〕びたヾしく吹きて、神なりいなづましげし。さらにいけるべき心地もせず、つながおもひけるは、こヽにとヾまりつる事はもしむらがれいるはけ物あらば両人のなかにとりこめて十方よりきりやぶるべし。〔○○〕らなかにとりこめられなば、さらに〔かなふべから〕ず。またさりとて一ところによるべきにあらず、又にぐべきにあらず。忠臣は両君につかへず、かうぢょはしゅに〔まみえ〕ず〔と〕いふことあり。いかでか命をそむきさらに恩をわするべき、とおもひて、雨にぬれ風にしほれてゐたり。頼光はこヽろをしづめてきくに、つヾみをうつ〔が〕ごとく足おとしていひしらぬいるいいぎゃうのものども、いくらといふかずをしらず、あゆみきたれり。〔はしらを〕中にへだてヽをの\/ゐぬ。すがたまち\/なり。頼光、とほし火のかたを見やるに、その眼、白毫のごとし。〔みな〕一度にどうとわらひて障子をひきたてヽさりゆきぬ。
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〔現代語訳〕
夕闇のころ、空がただならぬ様子となり、夕暮れに霞む木の葉もあまりに散り落ち、風が強く吹き、雷・稲妻が止まない。ますます生きた心地もせず綱が思うには、「ここに留まり続けるということは。もし化物の大群がいればふたりで囲みあらゆる方より切り捨てねば。囲めなければそれは無理なこと。だがそう言っても一つところに固まるべきでもなし、逃げるべきでもなし。忠臣は両君に仕えず、孝女は主に見えず、という言葉もある。指示に背いて恩を忘れるなどできるはずもない」と思い、雨に濡れ風に竦んで留まっていた。頼光は慌てることなく耳を澄ますと、鼓を打つのに似た足音がして、言いしれぬ異類・異形のものどもが数え切れぬほど歩を進める。柱を挟んでお互い射すくめ合うに、姿形はそれぞれ異なる。頼光が灯火の方を見やると、その眼は白毫のように輝いていた。みな、どうと笑うと障子を閉めて去って行った。
〔解説〕
〔画像〕
このシーンの絵は、山東京伝の読本『善知鳥安方忠義伝』の挿絵として、歌川豊国が模写しており有名(だと思います)。
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