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土蜘蛛草紙
―つちぐもざうし―

其の六

翻刻
鶏人あかつきを〔唱〕へて忠〔臣〕あしたを待程になりぬれば、「い〔ま〕は何事か有べき」とおもふに、あやしき足おとにてむかひたる障子〔○○〕きお〔○〕五寸ばかりほそめてしば\/〔はた〕かくれたり。そのさま〔春〕の柳の風にみだれたるよりもこまやかなり。つく\/゛とたちてひきあくるを見るほどに、やう\/あゆみきたりていたり。けらべくはあらで、たヽみにゐこぼれたるほど、まづなさけあり。いはゆる〔あかぬり○○の○○〕ゆきをうちはらへるけしき〔也〕。楊貴妃、李夫人〔○○〕あらそふほどのかたちなれば、家あるじなどのよろこびおもひてきたれるかとまで思つヾけて見るに、かぜひやヽかにふきて、ひましらみゆけば、この女つ〔○〕たちてかへると見ゆる。た〔け〕こ〔ろ○○○○○○○〕なり。かみをまへヽかひとりて、ひをにらまへたる眼すきうるしを差るににたり。火の〔ひ〕かりにかヾやきあひたり。

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土蜘蛛草紙 


現代語訳
鶏人が暁を唱え忠臣が日の出を待つほどの時間になれば、「今度は何事が起こったのか」と思うと、奇怪なる足音が聞こえて向かいの障子が開き、五寸ほどの隙間からしばらく覗くとまた隠れた。その様子は春の柳が風に遊ばれるよりも繊細なものであった。力なく立って引き開けたのを見ているうちに、少しずつ歩み寄って近づいていた。上品な様子で畳に座りくずおれる様は、何よりも趣がある。言うなれば赤塗りの○○が雪を打ち払うような光景である。楊貴妃・李夫人が妬み合うほどの美貌であったため、家主が訪問を喜んでやって来たのだろうかと思いながら見ていると、冷たい風が吹き抜け時も白みゆけば、この女つと立って帰るようなそぶりを見せる。髪を前へはだけて火を睨みつけている目は、透き漆を注いだように炎に反射し輝いていた。

〔解説〕


〔画像〕

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