翻訳(不定期)日記〜2004年〜

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翻訳作品について
原書の感想・翻訳がらみの話・連絡


04/09/13 贋作展覧会』より「ナイチンゲール邸の謎」ナルスジャック
 ホームズ・パスティーシュ「ナイチンゲール邸の謎」をアップ。贋作といえばドイルのホームズは定番だけど、ナルスジャックはアイリッシュやチェスタトン、セイヤーズといった珍しい作品のパスティーシュも書いている貴重な存在です。

 最近になって早川書房が〈クラシック・セレクション〉と称して、ポケミスや他社単行本の文庫落ち古典ミステリシリーズを開始したので、『贋作展覧会』も復刊されないものでしょうか。

 いやしかしハヤカワ文庫といえば、『鎮魂歌』以来ぷっつりと音沙汰の途絶えてしまった〈プラチナ・ファンタジイ〉シリーズをもっと出してほしい。
04/08/24 長谷雄草紙
 併録の『絵師草紙』はつまらんかったけど、この『長谷雄草紙』はなかなかに格調も高くて面白い。しかし美女の肉体を集めて理想の女を作る、なんて『占星術殺人事件』じゃありませんか。
 何なんでしょうこの展開。鬼が豪傑に勝負を挑み、やがて退治される、という展開こそよくあるパターンだけど、一転『占星術殺人事件』。いろいろ詰め込みすぎて何だかよくわからん話になってます――

 「起」―男が長谷雄に双六勝負を挑む。
 「承」―賭に負けた男が約束通り長谷雄に美女を与える。
 「転」―約束を破って女に手を出すと、女は水になって消えてしまった。
 「結(と思いきや)」―男(実は鬼)が約束破りの復讐に長谷雄を襲うが、退治される。
 「結2(まだまだ続く)」―美女の正体は死体を組み合わせたゴーレムだったのだ。
 「結3(やっとお終い)」―美女を失ったショックで長谷雄はいつまでも嘆き悲しむ。

「結1」で終わればごく普通の英雄譚だし、「結2」なら怪談奇譚、ところが「結3」で悲恋譚となってしまうのでした。「結2」を書かれたあとで悲恋の話にされてもなぁって感じです。

 これも『伊勢物語』の「鬼一口」みたいに、長谷雄と敵対する者を「鬼」と表現したのでしょうか。すると、鬼は美女を利用し、長谷雄に対して美人局やら囮セクハラスキャンダルでも目論んだということになりますか。長谷雄は政敵に打ち勝ったものの、元来スパイだった美女は長谷雄の元から去ってしまった、と。う〜んでもこれだと『占星術』の説明がつかん。

 なんにしろ面白い話なので、そのうち翻刻、翻訳したいものです。
04/08/12 Blue Moon’ Rodgers & Hart
 ウールリッチが大好きです。少しでもあの雰囲気に浸ろうと、ウールリッチ作品に出て来るジャズのスタンダード・ナンバーを聴いて、さらに歌詞を読んでみよう、と計画中です。第一弾は『黒衣の花嫁』第一章のエピグラムより、ロジャース&ハート「ブルー・ムーン」。「蒼い月よ、見ていたねおまえは」ってやつです。
『黒衣の花嫁』の冒頭に使われるくらいだから、てっきり悲劇的な歌だと思っていたのですが、歌詞の内容はハッピー・エンドじゃありませんか。メロディこそ物悲しい雰囲気が漂っていますが、恋人を見つけて空を見上げると、寂しい蒼い月が金色に変わっていた、という幸せな歌です。
 しかし「もうひとりじゃない」なんて歌を『黒衣の花嫁』の冒頭に引用するとは、おそろしく皮肉な――いや、皮肉というより悪意といってもいいほどの――やり方じゃないでしょうか。結局『黒衣の花嫁』という物語は、最後まで月の色は蒼いままだったのですから。
04/06/19 『ブラウン神父の童心』第3話「奇妙な足音」チェスタトン
 やっと翻訳が完了したのでした。こまかい手直しはまだまだあるけどさ。翻訳の期間が空くと、最初のほうに訳したところと最後に訳したところの雰囲気が全然違ったりしてしまう。この話に関して言えば、もともとの原文が、最初は幻想的で、最後はあっさりとしてるんだけどもさ。

 以前に掲示板にも書いたけれど、李三宝さんが「創作翻訳」って概念を提唱されていて、これが面白そうなんで、ブラウン神父は落語調にでもしてみたい。

「だぁさま、懷に銀貨がおありじゃございませんか?」
 これを聞きますと、背の高い殿方はキッと睨みつけまして、「なんだい、金貨じゃ不満かい?」と、こうです。
「ぁ、いえね。金貨よりも銀貨のほうが――ってときも――えぇまあ、たくさんあったりなんかすると」
 と、こう言いますと、見知らぬお方はじっっっっっと神父を見つめまして、次に玄関、廊下、また神父、それから嵐が来そうな夕焼けで真っ赤に染まった窓を睨みつけたんですネ。何か考えていたんでしょうな。よし、と思ったのかどうか、いきなり番台をひらりと飛び越えまして、この大きな手を、神父の襟首にグッと押しつけたんでございます。

 だめだ……神父とフランボォが、幇間と若旦那みたいになってしまった。

 でも憧れますね。最近『伝奇の匣 ゴシック名訳集成』なんてのも出版されたりもしていて。擬古文に訳すため古典怪談を片っ端から読んだという平井翁のエピソードなど、そういう姿勢自体に憧れます。
04/01/07 『知りすぎた男』第八話「像の復讐」チェスタトン
 第四話「底なしの井戸」には「トルコ・アラブ連合軍」という記述があるので、これはアラブと協定を結ぶまえの出来事――1914、5年だと考えていいと思います。第八話にはロイド・ジョージの戦時小内閣を思わせる五人組が登場しますが、戦時小内閣が始まったのが1916年12月。これだけを考えても、wilderが第八話に使った「開戦前」という訳語は不適切だと判明。

 以前に調べたときには、イギリスで本土戦が行なわれた形跡はなさそうと述べたのですが、とあるサイトで、「1916年、初めてイギリス本土にドイツ軍の空爆がある」という記述を見つけました。この記述が正しければ――と、1916年あたりを重点的に調べているのですが、「イギリスの」「近代史だけ」をまとめた本にも、この辺のことは詳しく載っていません。どうもどの本も歴史を見下ろして書いているから、現代的意義がどうとかいうことばかり書いてあって、資料としてはちっとも役に立ちません。
 英文の歴史の一時資料に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教唆ください。

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