半時間ほどひた走った頃、ジルベールは歓喜の叫びをあげた。四半里ほど先に、並足で坂を登る男爵の馬車が見えたのだ。
紛れもない誇りが湧き上がってくるのを自分でも感じていた。あるのは若さと体力と智力。ただそれだけで富と権力と階級に追いついたのだから。
タヴェルネ男爵なら路上でこうしたジルベールを見て哲学者呼ばわりしたかもしれない。杖を手にして、小さな荷物をボタン穴に引っかけ、急ぎ足でずんずん進み、距離を稼ごうと坂を越えたかと思えば、登るたんびに立ち止まり、得意になって馬に話しかけていた。
「ちょっと遅いんじゃありませんか。僕の方がそっちを待っているくらいだ」
哲学者! さよう、楽しみを否定し、安易さを拒むことを哲学と呼ぶのであれば、まさしくその通りだった。確かにジルベールは腑抜けた生き方には染まっていなかった。だが如何ほどの人間が愛にふやけさせられずにいられようか!
いや実際見事な光景であった。精力と智力に恵まれた人間の父たる神にこそ相応しい光景であった。ジルベールは埃にまみれて顔を上気させ、馬車に追いつこうと一刻ほども走り続けた果てに、馬がへとへとになっているのを見て大喜びで一服していた。我々と同じように目と心に寄り添って後を追うことの出来る者なら、この日のジルベールには感嘆の念を抱くほかなかっただろう。ことによるとあのアンドレとても、これを見たら心を動かされやしなかっただろうか? 怠け者だからと冷淡な態度を取ってはいたものの、この行動力を見れば打って変わって尊敬を抱いたりはしなかっただろうか?
一日目の昼はこのようにして過ぎた。男爵はバル=ル=デュックに一時間も留まり、追いつくどころか追い越す時間までジルベールに与えてくれた。金細工師のところに立ち寄るようにという指示を聞いていたので、ジルベールは町を一巡りして、馬車が来たのを目にすると藪に飛び込んでやり過ごし、またも追いかける側に戻った。
夕方頃には男爵の馬車もブリヨン(Brillon(-en-Barrois))の村で王太子妃の馬車に追いついた。村人たちが丘の上に集まり、歓喜の叫びと幸運を願う声をどよめかせていた。
その日を通してジルベールはタヴェルネから持ち出したパンしか口にしていなかったが、その代わり道を横切る綺麗な小川から水をたらふく飲んでいた。川は冷たく澄み、クレソンと黄睡蓮に彩られていた。アンドレは馬車を停めてわざわざ降り立ち、王太子妃の金器で水を汲んだ。これだけは売らずにほしいと男爵に頼んでいたのだ。
道路脇の楡に隠れて、ジルベールは何もかも見ていた。
そういうわけだから馬車の一行が立ち去るや、ジルベールはその場所に向かって歩いていた。アンドレが上っていた土手に足を踏み入れていた。タヴェルネ嬢が喉の渇きを癒したばかりのその流れに、ディオゲネスのように手を入れて、水を飲んだ。[*1]
やがて渇きが癒えると、再び走り出した。
ジルベールには一つだけ懸念があった。王太子妃は途中で宿を取るだろうか。宿を取るのであれば――その可能性は充分にある――タヴェルネで変調を訴えていたからには、休息が必要なのは確かだろう――王太子妃が宿を取るのであれば、ジルベールとしては大助かりだ。この分なら恐らくサン=ディジェ(Saint-Dizier)で車を停めるはずだ。納屋で二時間も眠れば充分だ。強張りかけていた足の痺れも取れるだろう。二時間経ったら旅を再開すればいい。一晩かけて少しずつ足を運べば、五、六里は縮まるはずだ。歳は十八、五月の良夜、足を運ぶには申し分ない。
夕暮れが訪れ、刻々と押し寄せる闇が地平線を浸食し、やがてその闇はジルベールのいる小径上にも及んだ。もはや馬車の在処を示すものは、左につけた大きなランタンだけ。その光に路上が照らされていると、白い幽霊が怯えながら道の裏を走っているように見えた。
夕暮れが終わり、夜が来た。ここまで十二里を走ってコンブル(Combles(-en-Barrois))に到着した。どうやら馬車が停まったようだ。やはり天は我にあり。ジルベールはそう思い、アンドレの声を聞こうと近づいて行った。四輪馬車は依然としてそこにあった。ジルベールは大門の陰に潜り込んだ。光に照らされたアンドレが見え、時刻をたずねるのが聞こえた。「十一時です」。もはやジルベールに疲れはなかった。馬車に乗るよう誘われても笑って拒んだはずだ。
想像力豊かな焼けつくような目には、既に金色に輝くヴェルサイユが見えていた。ヴェルサイユ。貴族と王たちの都。そしてヴェルサイユの向こうには、暗く翳る広大なパリ。人民の都パリが。
気の晴れるようなその空想と引き替えろと言われても、ペルーの黄金一片たりとも受け取らなかったはずだ。
二つのものがジルベールを夢想から引き剥がした。馬車が音を立てて動き出し、路上に置き忘れられた犂にぶつかり大きな音がした。
同時に胃袋も空腹を叫び始めた。
「お金があってよかった」
ご存じの通りジルベールには一エキュがあった。
真夜中まで、馬車は走り続けた。
真夜中、馬車はサン=ディジェに到着した。宿を取ってくれとジルベールが願っていた場所だ。
十二時間で十六里も走っていたのだ。
ジルベールは溝の外れに坐り込んだ。
ところがサン=ディジェでは馬を替えただけであった。鈴の音が再び遠ざかってゆくのが聞こえた。件の旅人たちは明かりと花に囲まれて喉の渇きを癒しただけだったのだ。
ジルベールは気力を振り絞らなければならなかった。十分前には足が萎えていたことなど忘れようと、足に再び力を込めた。
「さあ、進め、進むんだ! あとちょっとで僕もサン=ディジェに到着だ。そうしたらパンと脂身を買うぞ。ワインも一杯飲もう。五スー使ってしまえ。その五スーで『ご主人方(les maîtres)』より元気になれるんだ」
ジルベールがこの「ご主人」という言葉を、いつものように大げさに口にしたことは、その口調がどういうものかを明らかにするためにも是非ともはっきりさせておこう。
ジルベールは予定通りサン=ディジェに足を踏み入れた。王太子妃一行が通り過ぎてしまったので、住民たちも窓や扉を閉め始めていた。
哲学者殿は見映えのよい宿屋を見つけた。夜中の一時だというのに女中は一張羅で着飾り、下男も晴れ着を着てボタン穴に花を挿している。花柄の大きな陶製皿に鶏肉が盛られ、腹を空かせた随員たちがそこから莫大な十分の一税を取り立てていた。
ジルベールは思い切ってその宿屋に足を踏み入れた。鎧戸の閂が掛け終えられたところだったが、身体を屈めて調理場に足を運んだ。
そこに女将がいて、警戒怠りなく売り上げを数えていた。
「お邪魔します。パンとハムを一切れいただきたいのですが」
「ハムはないよ。鶏肉はいらないかい?」
「いりません。ハムが欲しいからハムを頼んだんです。鶏肉は苦手なので」
「そいつぁ困ったね。ここにゃあそれしかないんだよ。でもいいかい」と女将はにっこり笑った。「鶏肉ならハムほど高くないんだけどね。半分、いや十スーで丸ごと持ってきな。それで明日のご飯にはなるだろ。妃殿下は代官殿のところにお泊まりになるだろうと思ってたからさ、お供の方たちに売りたかったんだよ。ところが妃殿下は通り過ぎちまった。在庫はぱあさ」
うまい話だし、女将はいい人だし、立派な食事にありつける絶好の機会を逃すはずはないとお思いだろうが、ジルベールの性格をお忘れではないだろうか。
「ありがとうございます。でも必要なだけで結構です。僕は王様でも従僕でもありませんから」
「だったらやるよ、謹厳居士さん。神のご加護がありますように」[*2]
「僕は乞食でもありません」ジルベールはむっとして答えた。「お金は払います」
その言葉を証明するように、厳かにキュロットのポケットに手を入れ、すっぽり肘まで突っ込んだ。
ところがジルベールは真っ青になった。ポケットをくまなく捜しても捜しても、出て来たのは六リーヴル=エキュ貨を包んでいた紙だけであった。走っているうちに古くてよれよれの包みは擦り切れ、着古されたポケットの布にも穴が空き、とうとうエキュ銀貨はキュロットから滑り落ちて、留め金の外れた靴下留めから外に飛び出していたのだ。
少しでも足を楽にしようと思い、靴下留めを外していたのである。
エキュ銀貨は道の上だ。恐らくはジルベールをあれほど喜ばせた小川のほとりだろう。
この哀れな青年は、掌一杯の水に六フラン支払ったことになる。それはそうと、ディオゲネスが茶碗など無益だと悟った時には、穴の空くようなポケットも失くすようなエキュ銀貨も持ってはいなかったのだ。
恥ずかしさのあまりジルベールが真っ青になって震えるものだから、女将の方が心配になった。これがほかの者であったなら、思い上がった若造に罰が当たったのを見て溜飲を下げたことだろう。だがこの女将は、動顛した若者が顔色を変えて苦しんでいることに耐えられなかった。
「ほらほら、ここでご飯を食べて泊まってきな。どうしても出かけるっていうんなら、明日になってから旅を続ければいい」
「そうだ、出かけなくちゃ! 明日じゃ駄目なんです。今すぐに出かけなくては」
耳を貸そうともせずに荷物をひっつかみ、恥ずかしさと苦しみを闇に紛らせようと、外に飛び出した。
鎧戸は閉まっていた。村からは明かりがすっかり消え、昼間に思う存分吠えていた犬たちも吠えるのをやめていた。
ジルベールは一人きりだった。誰よりも一人きり。何しろ、最後の銀貨一枚とお別れして来たばかりの人間ほど孤独な者などいやしまい。ましてやこれまでの生涯で手にしたことのある銀貨はその一枚きりだったのだ。
闇が辺りを覆っていた。どうすればいい? ジルベールは躊躇った。銀貨を捜しに元来た道をたどっても、見つかるかどうか定かではない。捜しているうちに、永遠とまでは行かずともかなりの時間を費やし、追いつけないほど馬車から引き離されてしまいかねない。
決めた。走り続けよう、追跡に戻ろう。ところが一里も進んだところで飢えに襲われた。精神的なダメージのおかげで一時は飢えも和らいだ、というよりも、気にせずに済んでいたのだが、必死で駆けたせいで血の巡りが戻り、かつてないほどの凄まじい空腹感を目覚めさせてしまった。
それと同時に、飢えとは切っても切れない疲労も、ジルベールの手足を侵し始めた。粉骨砕身の末にようやく馬車に追いついたものの、まるで罠にでも嵌った気分だった。馬車は馬を替えるために停まっただけで、それも大急ぎでおこなわれたので、哀れな旅人は五分も休む暇を取れなかった。
それでも先を目指した。朝の光が地平線から覗き始めた。帯のように広がる薄暗い靄の上に、太陽が燦然と輝き、天を司る威厳に満ちた顔を現した。夏をふた月も先取りした、焼けつくような五月の一日になるであろう。果たしてジルベールは真昼の暑さに耐えられるや否や?
馬も人も神そのひともぐるなんだ。ちょっとだけそう思えば自尊心は慰められた。だがジルベールは、アイアースのように、拳を天に突き上げた。アイアースのように「神々であろうと俺に手を出せぬのだ」と言わぬのは、オデュッセイアのことを社会契約論ほど知らなかったからに過ぎない。[*3]
恐れていた通り、力及ばず苦境に立つ瞬間がやって来たのだ。無力と自惚れがぶつかり合う、恐怖の瞬間だった。ジルベールの気力が、いつしか絶望の力に裏書きされた瞬間だった。最後の力を奮い立たせ、姿を消していた馬車を追いかけると、充血した目のせいで異様な色に染まった砂埃の向こうに、再び馬車が見えたのである。耳に響く馬車の轟きが、どくどくと脈打つ血液の音と混じり合った。口は開き、目は動かず、髪は汗で額に貼りつき、まるで人間そっくりに作られたもののぎこちなさとかたくなさの目立つからくりのようだった。前夜から数えれば、もう二十里か二十二里は走っていた。ついに来た。足が萎え、立っていることも出来なかった。目の前の景色ももはや見えない。耳も聞こえない。大地が揺れ、めくれたように思えた。叫ぼうとしたが声は出なかった。倒れる! そう思い、こらえようとして気違いのように腕を振り回した。
ようやく声が戻った。悔しさと怒りの混じった叫びが喉からほとばしった。パリに向かって、正確に言えばパリに違いないと思う方向に向かって、自分の気力と体力を上回っていた者たちに激しい罵声を浴びせた。自覚はあった。だから慰めにはなった。古代の英雄のように死の間際まで戦ったのだ。
力つきて倒れながらも、両の眼はかっと見開き、両の拳はぐっと握り締めていた。
やがて目は閉じ、力も抜けた。ジルベールは気を失った。
「糞ッ! 危ねェ!」ジルベールが倒れた瞬間、しゃがれた叫びと共に鞭の鳴る音がした。
だがジルベールには聞こえない。
「危ねェってのが! 轢き殺されてェのか!」
鞭がしなり、力強く打ちつけられた。
よくしなる鞭の革紐がジルベールの腰に食い込んだ。
だがジルベールはもはや何も感じることもなく、馬の脚許に倒れたままだった。この馬はティエブルモン(Thiéblemont)とヴォクレール(Vauclère)を結ぶ本通りまで、間道を通って来たのであるが、錯乱していたジルベールは、その姿にも音にも気づかなかったのだ。
嵐に飛ばされた羽根のように馬に牽かれて来た馬車から悲鳴が聞こえた。
馭者の超人的な努力にもかかわらず、先頭の馬がジルベールを跨ぎ越えるのを避けることは出来なかった。だが後ろの二頭は何とかそれより手前で止めることが出来た。婦人が一人、馬輿(la chaise)から身を乗り出し、恐ろしげな声をあげた。
「ああ! 轢かれてしまったの?」
「さいですな!」馬の脚で巻き上げられた砂塵越しに、馭者はそれを確かめようとした。「どうやらそんな気がいたします」
「可哀相に! 進んじゃ駄目よ。止めて頂戴!」
乗っていた婦人が扉を開けて馬車から飛び降りた。
馭者は既に馬の下に潜り、血塗れで息絶えているに違いないジルベールの身体を、車輪の間から引き出そうとしていた。
ご婦人も力の限り馭者に手を貸した。
「悪運の強ェ野郎だ! かすり傷一つ、打ち身一つねェや」
「でも気を失ってるじゃない」
「吃驚したんでしょうな。お急ぎのようですから、そこの溝に寝かせて、行くとしましょうか」
「馬鹿言わないで! こんな状態の子を放っておける?」
「はあ。何ともありませんよ。ひとりでに気づきますって」
「駄目よ、駄目。こんな若くて可哀相な子! 学校から逃げ出して、限界まで旅を続けようとしたのね。こんなに顔色が悪くちゃ、死んじゃうわよ。駄目駄目、放っておくもんですか。馬車(berline)に運んで、前シート(la banquette de devant)に乗せて頂戴」
馭者は言われた通りにした。ご婦人は既に馬車に戻っていた。ジルベールは柔らかいクッションに横たえられ、四輪馬車のふかふかの壁に頭をもたせかけられていた。
「だけど十分も時間を食っちゃったわね。これから十分稼いでくれたら一ピストール出すわ」
馭者が鞭を頭上で鳴らすと、この威圧的な合図の意味を先刻承知の馬たちは、全速力で走るのを再開させた。
Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre XIX「L'écu de Gilbert」の全訳です。初出『La Presse』紙、1846/06/22、連載第20回。
Ver.1 09/01/03
Ver.2 16/03/16
[訳者あとがき]
・09/01/03 ▼次回は01/17(土)ごろ更新予定です。▼「ディオゲネスのように手を入れ水を飲んだ。」とあるのは、古代ギリシアの哲学者ディオゲネスに関する故事による。所有しているものは水を飲み用の茶碗だけだったが、子どもが手で水をすくって飲んでいるのを見て、その茶碗さえ捨ててしまったという。▼「une belle nuit」を「良夜」と訳してしまったが、日本語の「良夜」は「月の美しい夜」という意味らしい。▼「valets emmanchés et fleuris aux boutonnières」という箇所の「emmanchés」の意味がわからなかった。本義が「柄をつける」ということから類推するに、ボタン穴にピンか何かをつけていたということだろうか? ※01/31追記。何も難しく考えずに、花の「柄を差す」ってことかな。▼「アイアース」とは本文中にもあるように、『オデュッセイア』ほかに登場するギリシア神話の英雄。ちなみに原文では「Ajax」だが、これはローマ神話のアヤックスがアイアースと同一視されていたことによる。「神々であろうと俺に手を出せぬのだ」は、アテナの怒りに触れて船を沈められた際に、生き延びた小アイアース(アヤックス)が叫んだ言葉。この言葉によってポセイドンの怒りを買い、岩を砕かれ結局は溺れ死んでしまった。※ホメロス『オデュッセイア』第四章の該当箇所には「拳を天に突き上げる」という記述はない。19世紀の詩人カジミール・ドラヴィーニュ(Casimir Delavigne)の詩「La Dévastation du Musée」に「un bras dans les cieux」という表現がある。そもそも『オデュッセイア』では「神々の意に反して、俺は(海の水)から逃げられる(=俺を溺死させることはできないぞ)※呉茂一訳では『神々の御意向などは気にかけないで、大海の広い渡りを免れて出た』」と表現されており、「J'échapperai malgré les dieux」というのはドラヴィーニュの詩からそのまま借りた可能性がある。ちなみに、これも19世紀の Leconte de Lisle によるフランス語散文訳では「Il dit que, malgré les Dieux, il échapperait aux grands flots de la mer.」となっていた。もちろん『オデュッセイア』のフランス語版をくまなく調べたわけではないので何とも言えないが。
[更新履歴]
・16/03/16 改めて『Le Vasseur』版を底本と定めて初出も確認したところ、今まで「emmanchés」と読んでいたところは「endimanchés」だったため、「下男は紋章つきの上着のボタン穴に花をつけている」→「下男も晴れ着を着てボタン穴に花を挿している」に訂正。
[註釈]
▼*1. [ディオゲネスのように]。ディオゲネスは古代ギリシアの哲学者。所有しているものは水飲み用の茶碗だけだったが、子どもが手で水をすくって飲んでいるのを見て、その茶碗さえ捨ててしまったというエピソードがある。[↑]
▼*2. [謹厳居士さん]。原文は「mon petit Artaban」。「fier comme Artaban」=「アルタバンのように誇り高い」という成句がある。アルタバンは四人目の賢者。困っている人を見過ごすことが出来なかったため、キリスト生誕に立ち会えなかった。[↑]
▼*3. [アイアースのように]。アイアースとは『オデュッセイア』などに登場するギリシア神話の英雄。「神々であろうと俺に手を出せぬのだ」とは、アテナの怒りに触れて船を沈められた際に、生き延びた小アイアース(アヤックス)が叫んだ言葉。この言葉によってポセイドンの怒りを買い、岩を砕かれ結局は溺れ死んでしまった。
ただしホメロス『オデュッセイア』第四巻の該当箇所には「拳を天に突き上げる」という記述はない。19世紀の詩人カジミール・ドラヴィーニュ(Casimir Delavigne)の詩「La Dévastation du Musée」に「un bras dans les cieux」という表現がある。
岩波文庫の呉茂一訳では『神々の御意向などは気にかけないで、大海の広い渡りを免れて出た』」。[↑]