国王はいつものようにマルリーに戻って務めを果たしていた。
ルイ十四世は取り巻きに囲まれていても力を誇示する機会を求めていたが、十四世ほど作法には縛られないルイ十五世は、その輪の中で新しいものを貪欲に求めていた。なかんずく様々な顔を見ることに、それも笑っている顔を見ることに、このうえない気晴らしを見出していた。
先ほどお話しした会見と同じ晩、ベアルン夫人が今回は約束を守りデュ・バリー夫人の部屋に腰を下ろしていた二時間後、国王は青の間でカードをしていた。
左にはデヤン(d'Ayen)公爵夫人、右にはゲメネー公妃がいる。
国王は見るからに落ち着かなかった。そのせいで八百ルイ負け、負けたおかげで身を入れ出した。ルイ十五世はアンリ四世の後裔に相応しく、勝利をこよなく愛していた。九時になると席を立って前大法官の息子マルゼルブ(Malesherbes)と窓辺で話しに行くのを、モープーが反対側の窓辺でショワズールと話しながら不安そうに目で追っていた。
国王が席を立ってからは、暖炉の近くに人だかりが作られていた。庭の散歩から戻って来た〈マダム〉たちアデライード、ソフィー、ヴィクトワールが、侍女と侍従を付き従えてそこに腰を下ろした。
国王の周りには――マルゼルブが謹厳なことは知られていたから大事な話の最中なのだろうと見え――国王の周りには陸海軍の長、大貴族、領主、判事たちが集まっていたが、礼儀をわきまえ遠巻きに待機している。暖炉前で独り立ちしていた小宮廷では、前哨戦とも言うべき小競り合いを端緒にして、大層かまびすしいおしゃべりが始まっていた。
主立った顔ぶれは、三王女のほかに、グラモン夫人、ゲネメー夫人、ショワズール夫人、ミルポワ夫人、ポラストロン夫人。
折りしも司教が教区の贖罪師をやめさせたという話を、マダム・アデライードがしていたところだった。話の内容をここでは繰り返さない。あまりに、それも王女の話として下品に過ぎる。だがこうして書き綴ろうとしている時代には、まだ家庭の女神ウェスタの恩恵に与っていなかったのは、周知の通りである。
「まあ!」マダム・ヴィクトワールが口を開いた。「でもその司教って、ほんの一月前にここに坐ってた方じゃありませんか」
「陛下のところで会っていたなら、さらにひどいことになっていましたでしょう」グラモン夫人が言った。「そんな人たちが陛下に謁見していたら、これまで会ったこともないくせに、それからも会いたがっていたんじゃないかしら」
公爵夫人の最初の一言から、とりわけその口調から、夫人が話をしたがっていること、どんな話題であれ会話の主導権を得ようとしていることをその場の誰もが感じ取った。
「ありがたいことに、言うは易し行うは難しではありませんかな、公爵夫人?」会話に加わったのは、小柄な老人だった。七十四歳だったがまだ五十にしか見えず、身体つきは颯爽として声も若々しく、足も目もしっかりとして、肌は白く手は小ぎれいだった。
「あら、リシュリュー公爵さま。マオンの戦場のように梯子を使って、会話に乗り込んでらっしゃるおつもり? どうせ私たちはたかが擲弾兵というわけね」グラモン公夫人が言った。
「たかが? ああ、それは言い過ぎだ、わしを困らせんでくれ」
「それで、私が言ったのは嘘だと仰いますか?」
「いつの話かね?」
「さっきの話です」
「して、何と仰っただろうか?」
「国王の扉を力ずくで開こうとしてはなりません……」
「寝室の緞帳を力ずくで開こうとしてはならないように。そのご意見にはいつでも賛成いたしますぞ」
この言葉を聞いて何人かのご婦人が扇で口元を隠した。過去には公爵の機智も衰えたりと陰口を叩く者たちもいたが、これはいい出来だった。
グラモン公爵夫人は真っ赤になった。その皮肉は特に夫人に向けられたものだったのだ。[*1]
「皆さん、公爵にこんなことを仰られては、お話を続けることも出来ません。もう続きは聞けないのですから、せめて別のお話をしてくれるよう元帥にせがんで下さいな」
「確か、わしの友人の悪口を邪魔してしまったんでしたな? ではじっくり拝聴するとしましょう」
公爵夫人を中心にした人垣がぎゅっと小さくなった。
グラモン夫人は窓の方に目を遣り、王がまだそこにいるか確かめようとした。国王はまだそこにいた。だがマルゼルブと話しながらも、国王はこちらを見ていた。国王の目とグラモン夫人の目がぶつかった。
国王の目に浮かんだように見えた表情に怯んだものの、公爵夫人はもう歩き出しており、途中で止まるつもりはなかった。
グラモン夫人は、主に三王女に向かって話し始めた。「この間あるご婦人が――名前はどうでもいいですけど――私たちに面会を求めて来たことがありましたでしょう? 羨む気持すら失うような栄光に彩られている、主に選ばれし私たちに」
「面会を求めるとは、何処に?」
「もちろんヴェルサイユ、マルリー、フォンテーヌブローです」
「わかった、わかった、わかった」
「その女は晩餐でしか私たちを見たことがありませんでした。それも柵の後ろで陛下と来賓の食事を見物する人たちに混じってです。もちろん、守衛の杖に追われながら」
リシュリューが突然セーヴル製の箱から煙草を取り出した。
「無論、ヴェルサイユ、マルリー、フォンテーヌブローに面会に来るためには、誰かの紹介が必要だ」
「そうなんです。そのご婦人はそれを頼みに来たんです」
「お許しは出たのだろうね、国王は優しい方だ」
「生憎、国王のお許しだけではなく、人に紹介してくれる人間が必要ですから」
「ええ、そう」ゲメネー夫人も続けた。「例えば代母のような人が」
「でも誰も代母にはなりません」ミルポワ夫人も続いた。「ベル・ブルボネーズがいい証拠。探したって見つかりません」
そう言って口ずさみ始めた。
ラ・ベル・ブルボネーズは
気分があまりすぐれません。
「ああ、元帥夫人、どうか公爵夫人に話の続きをさせて下さい」リシュリュー公が言った。
「そうよ、そうよ」マダム・ヴィクトワール。「気を引いておいて、ほったらかしなんて」
「とんでもない。最後までお話しさせていただくわ。代母がいないので探したそうです。福音書にも『求めよ、さらば与えられん』とありますし。探したら見つかったんです。どんな代母のことやら! 無邪気な田舎のお人好しを鳩小屋から引っぱり出して、仕込んで、なだめすかして、着飾らせたってお話です」
「ぞっとするお話じゃございません?」とゲメネー夫人が言った。
「でも仕込まれた途端に、きっと階段から真っ逆さま」
「というと……?」リシュリューがたずねた。
足がぽっきり。
ああ!ああ!ああ!
公爵夫人はミルポワ元帥夫人の歌に合わせて口ずさんだ。
「では代母の件は……?」とゲメネー夫人がたずねた。
「影もなし」
「そんなことが!」リシュリュー元帥が両手を掲げて天を仰いだ。
「失礼ですけど」マダム・ヴィクトワールが口を挟んだ。「わたくしはその田舎っぺに同情いたしますわ」
「むしろ祝福して差し上げるべきですよ。二つの不幸のうち、被害の少ない方を選んだんですから」
公爵夫人は不意に黙り込んだ。またも国王と目が合ったのだ。
「ところで、誰の話だったのかな、公爵夫人?」リシュリュー元帥は、どうやら問題の人物が誰なのか探ろうとしているようだ。
「名前は聞いてませんわ」
「それは残念だ」
「でも見当はついてます。閣下もお考え遊ばせ」
「代母を頼まれたご婦人連が、そのかみのフランス貴族のように勇敢で道義に厚い方々でしたなら、足を折るという気高い発想を思いついたその田舎婦人のところに駆けつけているところですのに」ゲメネー夫人が苦い顔をした。
「なるほど、その通りですな。しかしそのご婦人は我々を危険から救ってくれたのだ、是非とも名前を突き止めなくては。何しろ、もはや恐れるものなどないのだから。違いますか、公爵夫人?」
「ええ、何一つ。その代母候補も足に包帯を巻かれて、一歩も動けずベッドで休んでいますから」
「でもね、ほかの代母を見つけようとしたら?……諦めるような人じゃないでしょう」ゲメネー夫人がたずねた。
「大丈夫。見つかりっこありませんから、代母なんて」
「したり! まあそうでしょうな」リシュリュー元帥はちびちびと飴をかじっていた。人が言うには、この飴こそが若さの秘密であるらしい。
この時、国王が近づいて来たため、皆が口を閉じた。
やがてよく知られた国王の声が、はっきりと部屋に響き渡った。
「では失礼、メダム。ご機嫌よう、メッシュー」
一同はすぐに立ち上がり、それが大きな波となった。
王は戸口に向かったが、扉から出しなに振り返った。
「ところで、明日はヴェルサイユで認証式がある」
この言葉に、誰もが雷に打たれたようだった。
国王が目を遣ると、貴婦人方は青ざめた顔を見合わせていた。
やがて国王はそれ以上は何も言わずに立ち去った。
国王がお供の侍従を引き連れて敷居を跨ぐや、後に残った王女たちは大騒ぎになった。
「認証式ですって!」グラモン公妃が土気色になって口ごもった。「陛下は何を仰りたかったんでしょう?」
リシュリュー元帥が、親しい仲でも許されないような笑いを浮かべた。「認証式というと、もしやあなたの認証式では?」
「そんな! あり得ません!」グラモン夫人は気が抜けたように答えた。
「するとどうやら今日は足が治ったようだ」
ショワズールが妹に近づき、腕を小突いて注意を引こうとしたが、あまりに大きな打撃を受けた公妃には何も聞こえてはいなかった。
「ああ憎たらしい!」
「ええ、憎たらしい人ね!」ゲメネー夫人も同意した。
すべきことは何もないと見て、ショワズールは立ち去った。
「ああマダム!」グラモン公妃が三王女に泣きついた。「もうほかに頼れる人はいません。マダムのように高貴な方々が、禁中奥深くにいながら、小間使いにも関わらせたくない身分の人間と交わるのを余儀なくされることに耐えられますか?」
だが王女たちは答える代わりに顔を伏せた。
「どうかお願いいたします!」
「決めるのは王様ですから」とマダム・アデライードが溜息をついた。
「その通り」リシュリュー公爵も言った。
「でもそれではフランス宮廷中が不面目に晒されることになります! ご家族の名誉が心配ではないのでしょうか!」
「皆さん」ショワズールが口を挟んだ。「話が陰謀めいて来たので、サルチーヌ氏と共にここらで失礼させていただきます。あなたはどうなさいます、公爵?」とリシュリュー元帥に話しかけた。
「いや、結構! 陰謀には目がないのでな、ここに残るとしよう」
ショワズールはサルチーヌを従えて席を外した。
三王女の許には、グラモン夫人、ゲメネー夫人、デヤン夫人、ミルポワ夫人、ポラストロン夫人、ほか十人ほどの婦人だけが残り、認証式についてかまびすしい議論を始めた。
残された男はリシュリューのみ。
婦人たちはギリシア軍の中にトロヤ人を見つけたような不安そうな目つきでリシュリューを見つめていた。
「わしのことは娘のデグモン夫人の代わりだと思っていただこう。さあ続けて」
「皆さん」とグラモン夫人が始めた。「こうした恥ずべき行いを防ぐ手だてが一つあるので、それを実行しようと考えております」
「どんな手だてです?」婦人たちが一斉にたずねた。
「先ほど『決めるのは王様です』と仰いましたね」
「そしてわしは『その通り』と答えた」
「確かに、ここで何かを決めるのは王様です。でも私たちの家でなら、決めるのは私たちです。今晩御者に『ヴェルサイユに』と言わずに『シャントルーに』と告げるのを、誰にも邪魔は出来ないでしょう?」
「それは確かだが、そんな抵抗してどうなると?」リシュリューがたずねた。
「皆さんよく考えたうえで、あなたに倣おうとなさるでしょうね、公爵夫人」とゲメネー夫人。
「公爵夫人を倣わない理由などありませんし」ミルポワ元帥夫人。
「ああ、どうか!」公爵夫人が再び王女たちに泣きついた。「フランス王女自ら宮廷にお手本をお示し下さい!」
「王様は立腹なさるわ」マダム・ソフィーが指摘した。
「そんなことはありません!」グラモン公妃は憎々しげに答えた。「それどころか、素晴らしい考え、またとない才覚だと感謝なさるでしょう。王様は誰にも乱暴はなさいません」
「それどころか」リシュリュー公爵がまたもやグラモン夫人の押しかけを当てこすった。「夜中に寝室で乱暴され、奪われたのは王様の方だったとか」
この言葉の威力たるや、貴婦人たちの中に、爆弾が破裂したような動揺をもたらした。
ようやく落ち着きが戻ると、その場の昂奮に後押しされるようにして、マダム・ヴィクトワールが口を開いた。
「私たちが伯爵夫人を追い返した時に、王様が何も仰らなかったことは間違いありません。でも公式の場の話となると……」
「ええそうだと思います」グラモン夫人は言いつのった。「欠席したのがマダムたちだけでしたら、恐らくそうでしょう。でも私たち全員が参加しなかったとしたら」
「全員ですって!」婦人たちが声をあげた。
「間違いなく全員だ」老元帥が答えた。
「ではあなたも陰謀に参加なさるの?」マダム・アデライードがたずねた。
「仰る通りです。である以上は一言申し上げたい」
「お話し下さい、公爵」グラモン夫人が言った。
「順番に始めましょう。『全員で!』と叫ぶだけがすべてではない。『こうしよう!』と言った人間が、いざとなると正反対のことをしたりするものです。今し方申し上げたようにわしも陰謀に加担する以上は、切り捨てられたくはありませんからな。前王や摂政時代には謀のたびにそうされたものでしたが」
グラモン公妃が皮肉った。「まさか何処にいるのかお忘れじゃありませんよね? アマゾンの国で大将を気取ってらっしゃるんですから!」
「お叱りを受けてしまいましたが、失礼ながらその地位を得る権利はあるものと思っております。あなたの方がデュ・バリー夫人を――いや、つい名前を言ってしまったが、聞こえなかったでしょうな? あなたの方がわしよりデュ・バリー夫人を嫌っているというのに、わしの方があなたより際どい立場にいるのですから」
「際どい立場ですか?」ミルポワ元帥夫人がたずねた。
「さよう、非常に際どい。わしは一週間ヴェルサイユを訪れておりません。昨日は伯爵夫人からアノーヴル邸に、具合が悪いのかと使いがあり、ラフテには、身体は悪くないが前日から戻っていないのだと答えさせてしまいました。だが権利など放棄しましょう、だいそれた望みもありません、大将の地位はお譲りしますよ、何ならここで。我々の心を動かした火付け役だ、あなたなら指揮杖で心に革命を起こせるでしょう」
「マダムたちがいらっしゃいますわ」公爵夫人は謙虚に答えた。
「あら、私たちは脇役で結構」マダム・アデライードが言った。「ルイーズに会いにサン=ドニに行くことにします。引き留められて戻っては来られないでしょうから、何か言う必要はありません」
「それで文句をつけるのは、よほどの根性悪でしょう」リシュリュー公爵が評した。
「私はシャントルーで干し草の用意を」とグラモン公妃。
「結構! 立派な口実です!」リシュリュー公が言った。
「子供が病気なので、世話をするため部屋から出られません」ゲメネー夫人はそう言った。
「今夜は頭がぼうっとしているので、明日トロンシャンに瀉血してもらわなくてはならないかもしれません」これはポラストロン夫人だ。
「私がヴェルサイユに行かないのは、行かないから行かないんです。自由意思が理由ですよ!」ミルポワ元帥夫人は厳かにそう言った。
「結構、結構。どれももっともらしいではありませんか。しかし誓う必要がある」
「誓うですって?」
「さよう、共謀には誓いがつきものです。カティリナの陰謀以来セラマレの陰謀――これにはわしも関わっておりましたが――そのセラマレの陰謀に至るまで、誓いが欠かされたことはありません。どちらの陰謀も失敗に終わってしまいましたが、しきたりに敬意を表して、誓いを立てましょう! 重大なことですぞ」[*2]
婦人たちに向かって手を突き出し、厳かに誓った。
「誓います」
婦人たちも誓いを繰り返したが、
「さあお終いです。共謀の誓いを立てたからには、もうやることはない」
「ふふ! 広間に一人きりだとわかったら真っ赤になって怒るでしょうね!」グラモン夫人が言った。
「ふむ! 国王はわしらをしばらく追放するでしょうな」
「あら! 私たちが追放されたら、宮廷はどうなります……? デンマーク王陛下がいらっしゃったら、いったい何をご覧に入れるつもり? 王太子妃殿下がいらっしゃったら、いったい誰に紹介なさるというのかしら?」ゲメネー夫人が言い返した。
「宮廷中を追放する訳にはいかないんですから、誰かが貧乏くじを引くことになるのでしょうね」
「よくわかっておりますとも」リシュリューが答えた。「いつもいつも貧乏くじを引く幸運に恵まれて来ましたからな。もう四度も引いて来た。これが五回目の陰謀という訳です」
「そんなことは考えないで下さいまし」グラモン夫人が言った。「見捨てられるのは私ですから」
「或いはショワズール殿ですかな。お気をつけなさい!」
「ショワズールも私と一緒。失脚には耐えられても、侮辱には耐えられません」
「公爵も、公爵夫人も、ショワズール氏も、追放されたりはなさいませんわ」ミルポワ元帥夫人が言った。「あるとすれば私でしょう。伯爵夫人のことを侯爵夫人よりすげなく扱えば、陛下はお許しにならないでしょうから」
「相違ない。
「追放される時はみんな一緒です」ゲメネー夫人が立ち上がった。「既に決まった取り決めを覆すようなことはありません」
「誓った約束を、ですぞ」
「それに、万が一の備えもしてありますから!」グラモン夫人が言った。
「あなたが?」とリシュリュー公爵。
「ええ。明日の十時にヴェルサイユにいるためには、三つのものが必要です」
「というと?」
「美容師、ドレス、四輪馬車」
「なるほど」
「どうでしょう?」
「なるほど! 伯爵夫人が十時にヴェルサイユにいなければ、国王は苛立って客を帰してしまう。王太子妃の到着も近いことから、認証式は無期延期になる」
この新たな展開に拍手喝采が起こった。だがひときわ大きな拍手喝采を送りながら、リシュリュー氏とミルポワ夫人が目を交わしていた。
二人の古参宮廷人の頭の中に、同じ考えが生じていたのだ。
十一時、共謀者たちは、見事な月に照らされたヴェルサイユとサン=ジェルマンの路上に姿を消した。
ところがリシュリューだけは馬丁の馬に乗っていた。四輪馬車がヴェルサイユの路上をこれ見よがしに走っている間、近道を通って全速力でパリに向かっていた。
Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre XXXVI「La cinquième conspiration du maréchal de Richelieu」の全訳です。
Ver.1 09/11/07
[訳者あとがき]
・09/11/07 ▼次回は11/21(土)更新予定。
▼*1. [その皮肉は……]。グラモン公爵夫人はショワズールの妹。国王の寵姫であるポンパドゥールの後釜を狙う。そのためデュ・バリー夫人は兄妹にとって政敵に当たる。[↑]
▼*2. [カティリナの陰謀、セラマレの陰謀。「カティリナの陰謀」は古代ローマの政治家カティリナによるクーデター計画、「セラマレの陰謀」は、1718年スペインによる摂政フィリップ・ドルレアン追放計画。[↑]
▼*3. [寵姫のお気に入り]。ミルポワ元帥夫人はかつての寵姫ポンパドゥール夫人のお気に入り。[↑]