極めて綿密に『孤独な散歩者の夢想』の文章を数ページ綴った後で、ルソーは質素な朝食を済ませた。
ジラルダン氏からエルムノンヴィルの庭園で隠遁生活をしてはどうかと招かれていたにも関わらず、常日頃から人間嫌いをこじらせていたために権力者の奴隷に身をやつすことを潔しとせず、いまだにプラトリエール街の侘住まいで暮らしていた。
一方テレーズは家事を済ませた後で、籠を取って買い物に出かけようとしていた。
時刻は朝の九時。
テレーズはいつものように、夕飯は何がいいのかとルソーにたずねた。
ルソーが夢想から醒め、ゆっくりと顔を上げて夢うつつで妻を見つめた。
「何でも好きなものを買っておいで。さくらんぼと花がありさえすればいい」
「わかりましたよ。そんなに高くなけりゃね」
「もちろんだ」
「それにしてもねえ、あなたの仕事の価値なんか知りませんけどね、昔ほど払っていただいてないんじゃありませんか」
「そんなことはないよ、テレーズ。同じだけもらっているとも。だが疲労のせいで昔ほど仕事が出来ないしね。それに本屋の仕事もページ数の半分ほど遅れているんだ」
「どうせまた破産させられるんでしょう」
「そうならないことを願うしかない。誠実な人だからね」
「誠実な人、誠実な人ですか! そう言っておけばすべて言い尽くしたと思ってるようですね」
「すべてではないにしろ、あらかたは言い尽くしているつもりだよ」ルソーが微笑んだ。「誰彼の区別なくそう評しているわけではないからね」
「そうでしょうとも。あなたは気難しい人ですからね!」
「テレーズ、話が逸れているよ」
「そうでしたね、さくらんぼが欲しいですって、食いしん坊さん。花が欲しいって言うんですか、女たらし!」
「何を言うんだ!」ルソーは辛抱強く答えた。「胸も頭も苦しくて外に出られないから、せめて気晴らしをしたいだけじゃないか。神様はがたくさんの
言われてみればルソーは顔色も悪く身体もぐったりとしていたし、本をめくる手もぎこちなく、目は文字を読んでいなかった。
テレーズが頭を振った。
「わかりましたよ。一時間くらい出かけて来ます。鍵は玄関マットの下ですからね。何かあった時には……」
「出かけたりはしないよ」
「出かけないことはわかってますよ。具合が良くなったりはしないでしょうから。そうじゃなくてね、誰かが来るかもしれないからそのためですよ。呼び鈴が鳴ったら扉を開けて差し上げること。呼び鈴を鳴らすってことは、あたしじゃないってことですからね」
「すまないね。いってらっしゃい」
テレーズはいつものようにぶつくさ言いながら家を出たが、重く引きずるような足音だけは、しばらく階段から聞こえていた。
それでもやがて門が閉まるのが聞こえると、ルソーは一人きりとなって椅子の上で寛ぎ、窓辺でパンをついばむ鳥を見つめ、立ち並ぶ隣家の煙突を縫うように降り注ぐ陽の光を満喫した。
若々しく軽やかなルソーの心は、自由を感じ取るとすぐに、楽しい食事を終えた雀のように翼を広げた。
ところが不意に玄関扉の蝶番が悲鳴をあげ、ルソーをまどろみから引き離した。
――おや、もう戻って来たのか!……夢想していたつもりだったが、いつの間にか眠っていたらしい。
今度は書斎の扉がゆっくりと開いた。
ルソーは扉に背を向けていた。テレーズが戻って来たのだと思い込んでいたので、身じろぎさえしなかった。
束の間、静寂が生じた。
その静寂のなか、
「お邪魔いたします」という声が聞こえて、ルソーは飛び上がり、慌てて振り向いた。
「ジルベール!」
「そうです、ジルベールです。改めて、お邪魔いたします、ルソーさん」
間違いない、ジルベールだ。
だが顔は青白く、髪は乱れ、襤褸服の下の手足が痩せ細り震えているのも隠しようがなかった。一言で言えば、ジルベールの外見はルソーをぞっとさせた。憐れみというよりは怯えに近いような叫び声がルソーの口から洩れた。
ジルベールの目は飢えた猛禽類のようにギラギラとして動かなかった。不安そうな不自然な笑みとは対照的だった。そのせいで、鷲のように厳かな頭部と、狼や狐のように冷笑的な顔を持つように見える。
「何をしにいらしたのです?」ルソーはだらしないのを嫌っていたし、だらしがないのは悪意の証拠だと見なしていた。
「お願いです、お腹が空いているんです」
ルソーはその声の響きを聞いて震え上がった。その声が発したのは、およそ人語の中でももっとも恐ろしい言葉だった。
「どうやってここに入り込んだのですか? 扉は閉まっていたはずです」
「テレーズさんがいつも玄関マットの下に鍵を仕舞うことは知っていましたから。テレーズさんが出て行くのを待っていたんです。僕は嫌われてますから、二度と敷居を跨がせてくれないだろうし、あなたのそばに近寄らせてもくれないでしょうから。そこであなたが一人きりになったとわかってから家に近づき隠し場所から鍵を取り出して、ここまで来たんです」
ルソーが椅子の肘掛けに手を突いて立ち上がった。
「少しでいいので聞いて下さい。少しだけでいいんです。僕は耳を貸していただくに値する人間です」
「いいでしょう」ルソーは愕然としていた。ジルベールの顔には、いつの時代のどんな人間にも備わっている感情を示すような、如何なる表情も浮かんでいなかったのだ。
「初めに申し上げておいた方が良いでしょうか。僕は窮地に追い込まれていて、盗みを働くべきなのか、自殺すべきなのか、もっとひどいことをすべきなのか、それすらもわからないんです……ああ、心配しないで下さい」ジルベールの声は飽くまで穏やかだった。「じっくり考えてみたら、自殺する必要なんかない、そんなことをしなくてもちゃんと死んでしまうでしょうから……トリアノンを逃げ出してから一週間というもの、野生の草と果実のほかは何も食べずに森や野原をうろつき回っていました。もう力もありません。疲労と飢えで死んでしまいそうなんです。盗むにしても、あなたの家から盗むつもりはありません。あなたのご家庭が大好きでしたから。三つ目のことに関しては、実行するためには……」
「つまり?」
「つまり、僕には答えが必要で、此処にはそれを見つけに来たんです」
「頭がどうかしてしまったのですか?」
「そうではありません。ですが僕は不幸のどん底で絶望にまみれていました。ある考えを思い出さなければ、今朝はセーヌ川で水死体となっていたことでしょう」
「ある考えとは?」
「あなたが書いたことです。『自殺とは人類からの搾取だ』」[*1]
ルソーは物問いたげにジルベールを見つめた。
――私がそれを書きながら考えていたのがあなたのことだったと思うほど自惚れているのですか?
「ええ、わかってますよ」ジルベールは呟いた。
「そうは思えません」
「『何者でもなく、何も持たず、何のしがらみもない、僕のような人間が死んだところで、それが大事件だと言えるだろうか?』と仰りたいのでしょう?」
「そんなことはありません」ルソーは言い当てられて赤面した。「お腹が空いているのではなかったのですか?」
「ええ、そう言いました」
「でしたら、扉のある場所もパンのある場所もご存じなのだから、戸棚に行ってパンを持って出て行きなさい」
ジルベールは動かない。
「パンではなくお金が必要だと言うのでしたら、あなたが悪人だとは――あなたをかばって隠れ家を提供した老人を虐げるほどの悪人だとは――思いませんから、僅かな額で満足していただけますね?……お受け取りなさい」
ルソーはポケットを探って小銭を幾つか差し出した。
ジルベールがその手を押し留めた。
「ひどいじゃありませんか!」その声は苦痛に歪んでいた。「お金でもパンでもないんです。自殺の話をした真意をわかってもらえなかったんですね。自殺しないのは、今や生きていれば人の役に立てるかもしれないからで、死ぬことが他人の命を奪うことに繫がるからです。社会の仕組みも自然の摂理もご存じのあなたなら、わかっていただけるはずです。この世には死にたがっている人間の命を繫ぎ留める絆があるのではないでしょうか?」
「幾らでもありますとも」
「父親であるということも、そうした絆の一つですよね? 答える時には僕を見てくれませんか。そうすれば、あなたの目を見て答えがわかりますから」
「そうですか」ルソーは口ごもった。「ええ、もちろんそうしますが、こうした質問に何の意味があるのでしょうか?」
「あなたの言葉は、僕にとっては絶対的な判決なんです。ですから真面目に答えて下さい。僕は死のうとした哀れな人間です。ですが……ですが、僕には子供がいるんです!」
ルソーはあまりの衝撃に椅子から飛び上がった。
「からかわないで下さいね」ジルベールはおずおずと言葉を継いだ。「あなたはただ引っ搔いただけのつもりでも、僕の心はナイフで刺されたようにぱっくりと傷が開いてしまいますから。繰り返しますが、僕には子供がいるんです」
ルソーは何も答えずに見つめていた。
「子供がいなければ、とうの昔に死んでいました。こうしたにっちもさっちも行かない状況でも、あなたなら役に立つ助言を与えてくれるだろうと考えて、此処に来たんです」
「なぜ私の助言を? 過ちを犯した時には相談に来てくれなかったというのに?」
「その過ちというのが……」
ジルベールは何とも言えぬ表情をして、ルソーに一歩近づいた。
「はい?」
「その過ちというのが、世間では犯罪と呼ばれる類のものなのです」
「犯罪! だったらなおさら私に話すべきではないでしょう。私はあなたと同じ人間であって、懺悔を聞く僧侶ではないのですから。もっとも、何を聞いても驚きませんよ。いつか過ちを犯すのではないかと思っていましたから。あなたには性格の悪いところがある」
「違うんです」ジルベールは物悲しげに首を振った。「僕の心は確かに偽善的だし歪んでいます。たくさんの本を読んで、身分の平等、精神の優位、本能の気高さを学びました。その本のどれにも、著名な方の署名がありました。その本のおかげで僕みたいな馬鹿な農夫は惑わされ……堕落したのです」
「ああ、何を仰りたいのかわかりましたよ」
「え?」
「私の思想を非難しているではありませんか。あなたには自由意思がないのですね?」
「非難ではありません。読んだことをお伝えしただけです。非難するなら何でも真に受ける自分を責めます。僕は信じて、間違ったのです。僕が罪を犯したのには二つの理由がありました。一つ目はあなたです。だから僕は此処に来ました。二つ目についてもいずれ話しますが、それは時機が来たらその時に話すつもりです」
「つまり何がお望みなのでしょうか?」
「お恵みでも隠れ場所でもパンでもありません。見捨てられ、飢えていても関係ありません。あなたにお願いするのは精神的な支えであり、思想を承認してもらうことであり、一言で僕の力を取り戻してくれることです。飢えのせいで手足から奪われたのではなく、疑いのせいで頭や心から奪われた力を取り戻して欲しいのです。ルソーさん、一週間前から僕が感じていたものが、胃腸を形作る血肉に蠢く飢えの苦しみなのか、思考を司る器官に巣食う悔恨の痛みなのか、どうか教えていただけませんか。罪を犯した結果、僕には子供が出来ました。絶望にまみれて髪を引きちぎるべきなのか、『許して下さい!』と泣き喚きながら砂の上でのたうち回るべきなのか、教えて下さい。それとも、聖書に出て来る女のように『みんなと同じことをしただけです。皆さんの中に私より優れた人間がいるのなら、どうか石を投げて下さい』と言って泣き叫ばなきゃならないんですか? 僕の気持ちと同じ気持ちを抱いたことがあるはずのあなたに、答えて欲しいんです。父親が子供を捨てるのは当たり前のことなのでしょうか?」
ジルベールがそう言った途端、ルソーはジルベール以上に真っ青になり、完全に取り乱していた。
「どんな理由があってそんなことを仰るのですか?」ルソーはもごもごと呟いた。
「宿泊場所として与えてくれたこの屋根裏部屋で、まさにその問題について書かれたあなたの著作を読んだからです。貧乏な生まれの子供たちは国が面倒を見るべきだとあなたが仰っていたからです。自分が生ませた子供を見捨てるのを躊躇いもしなかったにもかかわらず、それでもなお自分のことを誠実な人間だと考えているからです」[*2]
「どうかしています。私の著作を読んだうえで、そんな言葉を伝えに来たとは!」
「それが何か?」
「あなたという人は、性格はもちろん心までねじ曲がっているだけの人間ということですよ」
「ルソーさん!」
「あなたは人生を誤読するように、私の著作を誤読したのです! 顔の上っ面だけ眺めるように、ページの上っ面だけしか眺めなかったのです! 私の著作から引用し、『ルソーがやったと告白していたのだから、自分が同じことをしてもいいはずだ』と主張して、私を共犯者に仕立て上げようとしたのでしょう――ですが生憎と、あなたが知らないこと、あなたには読めなかったこと、あなたが見抜けなかったことがあるのですよ。あなたが例に出した人物の人生――惨めで辛い人生を、輝きと喜びに満ちた享楽的で黄金色の暮らしに置き換えることだって私には出来ました。私にはヴォルテール氏ほどの才能がないのでしょうか? 同じだけのものを生み出すことは出来なかったのでしょうか? 今ほど熱を入れなくても、同じ値段で本を売ることは出来なかったのでしょうか? 出版社が自由に出来るように常に中身の入った金庫を手許に置いておけば、金の方から金庫に転がり込んだりはしなかったのでしょうか? 金は金を引き寄せます。そうではありませんか? 今頃は宮殿を建てていてもおかしくはなかったし、元気な馬を何頭も飼っていてもおかしくはなかったし、若く美しい愛人と連れ立つための馬車を手に入れていてもおかしくはなかったでしょう。それにまた、ここが大事なところですが、それだけ贅沢をしたとしても、尽きることない詩作の泉が涸れることはなかったでしょう。私からはもう情熱が失われたと思いますか? さあ、どうです? 私の目をようく見て下さい。六十歳になってもなお、若さと希望に輝いているのが見えませんか? 私の本を読んだり書き写したりしたのなら、年齢による衰えがあろうと、深刻な病と向き合っていようと、心はまだ若いままで、むしろさらに苦悩するためにほかの器官から力という力を引き継いだように見えることを、忘れてはいませんか? 歩くのも難しいほどの病魔に苦しめられながらも、人生の盛りに神から受けた滅多にないほどの幸福を受け入れるための体力や気力よりも、その苦しみを受け止めるための体力や気力の方が強いと、今の私は感じているのです」
「それはわかっています。あなたのことをそばで見て来て、どういう方なのか理解していますから」
「そばで見て理解しているというのなら、私の人生というものも、他人にとってはいざ知らずあなたにとっては意味があるのではありませんか? 本来の自分を捨ててまで自己犠牲を払っているのは、償おうとしていたからだと思わないのですか……」
「償うですって!」ジルベールが口ごもった。
「わかりませんか? そもそも貧しさのせいで常軌を逸した決意をせざるを得なかったのだし、そうなると今度はその決意を正当化するために、貧しいまま自己犠牲を払って耐えるよりほかなかったのです。わかりませんか? 屈辱に甘んじることで自らの精神を罰したのです。そう、罪を犯したのは精神でした。正当化のために精神が詭弁を弄していた一方で、私は絶えず悔いることで心を罰していたのです」
「わかりました。それが答えですか! それがあなたがた哲学者ですか! 人類に向かってもっともらしい教えを投げつけておいて、僕らが腹を立てればそれを咎めて、僕らを絶望の淵に放り込むというわけですか。屈辱も後悔も、表に出さずに隠されているのなら僕には何の関係もない! 災いあれ、あなたに災いあれ! あなたの名に於いて犯された罪の数々が、巡り巡ってあなたの頭の上に降りかかればいいんだ!」
「私の頭上にと言うのなら、呪詛だけでなく罰も忘れないで下さい。あなたの頭からは罰が抜け落ちている。それはあんまりです! あなたも同じ罪を犯したのであれば、どうして同じように容赦なく自分を責めないのですか!」
「さらに容赦ない罰を受ける覚悟があるからです。僕への報いは恐ろしいものになるでしょう。もう信じるものは何もありません。相手方に、というよりもはや仇敵ですね、会うことがあれば黙って殺されるつもりです。苦しみが自殺を囁いていますが、良心もそれを許してくれるはずです。だから今の僕なら、自殺しても『人類から搾取した』ことにはなりません。あなたが書いた文章には、あなたの思いも及ばなかったことも含まれていたんです」
「おやめなさい。愚かさゆえに傷ついただけでは飽き足らず、懐疑的な態度を取ってさらに傷つくつもりですか? 子供と仰いましたね? 父になっただとかこれから父になるのだとか仰っていたような気がしますが?」
「確かにそう言いました」ジルベールは答えた。
「それはつまり――」ルソーがぼそぼそと語り始めた。「母の胎内から生まれたすべての人間に神は貞節という持参金を与えましたが――そうした貞節に満ちた空気を、人間という生き物は生まれながらに好きなだけ自由に吸い込むことが出来るというのに――あなたの仰ったことは、そんな生き物を死ではなく恥辱に引きずり込むということなのだということはわかっているのでしょうね? お聞きなさい、私の境遇がどれほど非道いものなのかを。子供たちを捨てた時に、わかってはいたのです。世間というものは優れたものに劣等感を抱くものなのですから、あられもない非難を込めてそんな侮辱を顔に投げつけられることになると。だから逆説を弄して自己正当化したのです。だから父親であるとはどういうことかわからない私のような人間が、子供たちの教育のため母親に助言を与えることに、この人生の十年間を費やして来たのです。弱くてだらしのない私のような人間が、強く誠実な市民を育てるため祖国に助言を与えて来たのです。ところがある日、世間、祖国、みなし児の復讐をするため処刑人が現れました。ですが処刑人は私を非難することが出来なかったため、私の著作を非難して、そんな本はこの国の生き恥だ、毒を撒き散らしている、と言って燃やしてしまいました。どうすればよかったでしょうか? 想像を働かせ、判断して下さい。私は正しい行動をしていたのでしょうか? 間違った教えを信じていたのでしょうか? 答えませんか。神ご自身でも悩んでしまうでしょうね。ぶれることのない正義と不正の秤を手にしている神でさえ。そこで私が心に問いかけると、心は胸の奥深くでこう答えたのです――『お前などくたばってしまえ、己が子らを捨てたゴミのような父親め。四つ辻で夜ごと春をひさいでいる若い女に会ったなら地獄に堕ちればいい。そいつはお前が捨てた娘なのさ。飢えをしのぐために恥辱に堕ちたのだ。捕まった泥棒を道で見かけたらザマを見るがいい。盗みに顔を紅潮させたままのそいつはお前が捨てた息子だよ。飢えに勝てずに罪を犯したのさ!』」
立ち上がっていたルソーだったが、この言葉と共にまた椅子に沈み込んだ。
「ですが――」弱々しい声には祈るような響きがあった。「人から思われているほど悪いことなどしておりません。半ば共犯者である母親が、冷酷にも、動物のように忘れてしまったのを見て、こう思ったんです。『神は母が忘れてしまったのを許し給うた。母には忘れる権利があるのだ』。ですがあの時の私は間違っていました。それにあなたには、これまで誰にも言わずにいた話をこうして聞かせたのです。それを聞いた以上、あなたはもう自分を誤魔化すことは許されません」
「つまりあなたは――」ジルベールが顔をしかめた。「養えるだけのお金があったら、子供を捨てたりはしなかったと仰るのですか?」
「最低限のお金さえあれば、もちろん、捨てたりしませんでした!」
ルソーは震える手を厳かに天に掲げた。
「二万リーヴルあれば、子供一人を養うには足りますか?」ジルベールがたずねた。
「ええ、充分です」
「そうですか。ありがとうございます。自分がやるべきことを知ることが出来ました」
「どんな事情があろうと、あなたのように若い人なら、働いて我が子を養うことが出来ますよ。それよりも罪を犯したと仰っていましたね。恐らく居所を探され、追われているのでしょう……」
「そうなんです」
「では此処に隠れるといい。屋根裏ならいつでも空いています」
「何ていい人なんだ! 本当に助かります。隠れ場所よりほかには何も欲しがりませんから。パンなら手に入れてみせます。僕が怠け者ではないことはご存じでしょう」
「そうと決まれば――」ルソーが不安そうに言った。「お上がりなさい。此処でルソー夫人と出くわしてはいけません。屋根裏には上がって行くことはないでしょう。あなたがいなくなってからも片づけてはいません。藁布団もそのままです。過ごしやすいように自由になさい」
「ありがとうございます。身に余る光栄です」
「では、これで望みはすべてですね?」ルソーは目顔でジルベールに部屋から出て行くように促した。
「後一言だけお願いします」
「お言いなさい」
「以前リュシエンヌで、裏切者だと言って僕を非難なさいましたよね。僕は誰も裏切ったりはしていません。愛する人を追いかけていたんです」
「その話はもういいでしょう。これで終わりですね?」
「はい。ところでルソーさん、パリの何処に住んでいるか知らない人の住所を知ることは出来るものなのでしょうか?」
「有名な方なら出来るでしょうね」
「とんでもない有名人です」
「お名前は?」
「ジョゼフ・バルサモ伯爵」
ルソーが震え上がった。プラトリエール街の会合を忘れていなかったのだ。
「どういったご用があるのですか?」
「簡単なことです。あなたには僕の犯した罪の道義的な責任があると非難したのは、僕が自然法に従っていただけだと信じていたからです」
「誤解を解くことは出来たのでしょうか?」責任という言葉にルソーは震え上がった。
「少なくとも道を照らしたのは確かです」
「それはどういうことでしょうか?」
「僕の犯罪には道義的な責任だけではなく、実際的な責任も発生しているということです」
「このバルサモ伯爵に実際的な責任があると言うのですね?」
「そうです。僕はお手本を真似し、機会に乗じました。そういう点で、自分が人間ではなく野蛮な獣のように振る舞ってしまったことが、今ならわかります。お手本というのがあなたのことで、機会がバルサモ伯爵です。何処にお住まいかご存じではありませんか?」
「知っていますよ」
「それでは教えていただけませんか?」
「マレー地区のサン゠クロード街です」
「ありがとうございます。すぐに訪ねてみようと思います」
「気をつけなくてはなりません」ルソーがジルベールを引き留めて声をかけた。「あの方は恐ろしくて底の見えない人間ですから」
「心配いりません、ルソーさん。もう覚悟は決めましたし、自制するすべならあなたから教わりました」
「急いで! 早くお上がりなさい! 外の門が閉まる音が聞こえました。ルソー夫人が戻って来たのです。此処に上がって来るまで屋根裏に隠れておいでなさい。その後で出かければいい」
「鍵はどうすれば?」
「今まで通り台所の釘に掛けておいています」
「では失礼します」
「パンをどうぞ。今晩は仕事を用意しておきましょう」
「ありがとうございます!」
ジルベールは音も立てずに忍び出て、テレーズが二階にたどり着く頃にはとっくに屋根裏に入り込んでいた。
ルソーから貴重な情報を得たジルベールは、いつまでもぐずぐずとはしていなかった。
屋根裏の戸口からテレーズの動きを追い、テレーズが自分の部屋に入ったのを見るや、長いこと物を食べずに衰弱しているとは思えぬ速さで階段を駆け降りた。期待や恨みで頭を一杯にしながら、その裏では不満や呪詛に駆り立てられた復讐の影が飛び回っていた。
ジルベールは形容しがたい精神状態のままサン゠クロード街にたどり着いた。
中庭に入ると、挨拶のために邸を訪れていたロアン公を、バルサモが出口まで案内して来たところだった。
ロアン公が門を出てから今一度立ち止まって感謝の意を表したのに乗じて、襤褸を着たジルベールは目を眩ませられないように辺りを見もせずに犬のように滑り込んだ。
馬車が大通りでロアン公を待ち受けていた。ロアン公が馬車まで素早く通りを横切り扉を閉めると、馬車はあっと言う間に立ち去った。
バルサモはそれを機械的に目で追っていたが、馬車が見えなくなると家に戻ろうと踵を返した。
石段の上に乞食かと紛うような青年がいて、祈るような恰好をしていた。
バルサモがジルベールに近づいて行った。いくら口が閉じられていようとも、その目が雄弁に問いかけている。
「十五分だけお話を聞いていただけませんか、伯爵閣下」襤褸を着た若者が口を利いた。
「どちらさんだったかな?」バルサモの声は驚くほど穏やかなものだった。
「僕に見覚えがありませんか?」
「いや。だが構わぬ。おいでなさい」目の前の青年の異様な顔色にも、服装にも訴えにも、バルサモは不安も表さずに答えた
そうして先に立って歩き、一番手前の部屋まで連れてゆくと、声も顔色も変えずに腰を下ろした。
「見覚えがないかという話でしたな?」
「そうです、伯爵閣下」
「そう言われると何処かで会ったことがあるような気もする」
「タヴェルネです。あなたがいらっしゃったのは、王太子妃がお立ち寄りになった日の前日でした」
「タヴェルネで何をしていた方だったかな?」
「住んでいました」
「使用人として?」
「違います。同居人としてです」
「タヴェルネを出たわけですか」
「そうです。三年近くになります」
「そして……」
「パリに来て、初めはルソー氏のところで学びました。その後、トリアノンで庭師見習いとして働いていました。その際はジュシュー氏にお世話になりました」
「素晴らしいお名前が二つも出て来ましたが、私になど何をお望みだと?」
「これから申し上げます」
一つ息をついてから、ジルベールはバルサモをしっかとした目つきで見据えた。
「大嵐の夜にトリアノンにいらしたのを覚えていませんか? 六週間前の金曜日です」
真面目な顔をしていたバルサモが顔を曇らせた。
「ああ、覚えているとも。見られたのかな?」
「お見かけしました」
「内密にしておくから言うことを聞けとでも?」バルサモの声が厳しさを帯びた。
「違います。むしろ内密にしておいて貰いたいのは僕の方です」
「もしやジルベールと呼ばれてないか?」
「そうです、伯爵閣下」
恐ろしい告発の対象となった名前を持つ青年を、バルサモは射抜くような目で焼き尽くした。
人間をよく知るバルサモは、ジルベールの自信に満ちた立ち居振舞い、威厳の備わった言葉の端々に驚きを隠せなかった。
ジルベールはテーブルの前に坐っていたが、寄りかかってはいなかった。野良仕事をしている割りに細く生白い手の片方は胸元に隠れ、片方は傍らに優雅に垂れている。
「その態度を見て、此処に来た理由がわかったよ。タヴェルネ嬢から告発されたことはわかっているんだろう。俺が科学の助けを借りて真相を聞き出したんだ。そのことで俺を責めに来たんじゃないのか? 俺がいなくては暴露されることもなく、墓のように暗い闇に葬られたままだったろうからな」
ジルベールはただ首を横に振っただけだった。
「だがお門違いだ」バルサモが続けた。「もしも告発された俺が我が身可愛さにお前を告発しようとしていたとしても――もしもお前を敵視して、身を守るだけでなくお前を攻撃していたとしても――もしもすべてがその通りだとしても――お前には何も言う権利はないはずだ。卑劣なおこないをしたのは事実なのだから」
ジルベールは爪で胸を掻きむしったが、それでも口は開かなかった。
「兄から追われ、妹に殺されるぞ。そんな風に不用意にパリの街中を歩き回っているようではな」
「そんなのたいしたことじゃありません」
「たいしたことじゃないだと?」
「ええ。僕はアンドレ嬢を愛していました。誰にも負けないほど愛していました。なのに向こうは、僕のことを蔑んだんです。あれほど敬意を払っていた僕のことを、蔑んだんです。この腕に二度までも抱きながら、服の裾に口唇を近づけることさえ控えていたというのに」
「だから敬意のツケを払わせてやったということか。蔑まれた復讐をしたということか。その手段が、罠に嵌めることか」
「違うんです! 罠を仕掛けたのは僕じゃありません。罪を犯す機会が用意されていたんです」
「誰が用意したと?」
「あなたです」
バルサモは蛇に咬まれたように身体を強張らせた。
「俺が?」
「そうです。あなたなんです。あなたはアンドレ嬢を眠らせたまま、立ち去ったではありませんか。あなたが遠ざかるにつれ、アンドレ嬢の足は萎え、とうとう倒れてしまったんです。それを僕が抱え上げて、部屋まで運び入れたんです。肌と肌が触れ合うのを感じました。大理石が生命を持っていたらあんな感じでしょうか。愛する人を目の前にして、その愛に身を任せてしまったのです。それでも僕は罪人と呼ばれるのですか? あなたにおたずねしたいんです。僕の不幸の原因を作ったあなたに」
バルサモは悲しみと憐れみを湛えた眼差しをジルベールに向けた。
「その通りだな。お前の犯罪と娘さんの不幸の原因を作ったのは俺だ」
「それなのに、あなたは対策を採らなかった。あなたほど力もあって善良であるべき人間が、アンドレの不幸をさらに抉り、罪人の頭上に死をぶら下げたんです」
「それも間違いない。お前は賢いな。俺はしばらく前から呪われているようだ。頭に浮かんだ計画がどれも邪悪で有害な結果を招いてしまう。それも俺が経験した不幸のせいだ。お前にはわかるまい。だが、だからと言って他人を苦しめていい理由にはならん。望みは何だ? 言ってみろ」
「すべてを贖う方法です、伯爵閣下。罪も不幸もすべて」
「あの娘を愛しているのか?」
「そうです」
「愛にはいろいろな形がある。どのように愛しているんだ?」
「ものにする前は焦がれるほどに愛していました。今では狂えるほどに愛しています。腹を立てられたら苦しくて死んでしまうし、足に口づけさせてくれたら嬉しくて死んでしまうでしょう」
「貴族の娘だが貧乏だったな」バルサモが考え込んだ。
「ええ」
「だが兄は優しい男だ。貴族という無意味な特権にはこだわらないのではないか。妹と結婚したいと兄に申し入れたらどうなると思う?」
「殺されてしまいます」ジルベールは震え上がった。「でも、もしかすると僕は死ぬのを恐れてはいずに望んでいるのかもしれません。だからやってみろと言われるのならやってみようと思います」
バルサモが考え込んだ。
「お前は賢いだけでなく、優しい人間でもあるようだな。やったことが本当に罪深いのは間違いないにしても。それに俺にも罪の一端があるのも間違いない。よし、息子のフィリップではなく父親のタヴェルネ男爵の方に頼んだらどうだ。娘さんとの結婚を許してくれたら、持参金を用意する、とな」
「そんなこと言えませんよ。無一文なんですから」
「持参金なら十万エキュ俺が用意してやる。お前がさっき言ったように、不幸と罪に対して償うためだ」
「きっと信じてくれません。僕が貧乏なのは知ってますから」
「信じないのならこの銀行手形を見せてやれ。これを見れば疑うこともあるまい」[*3]
バルサモは抽斗を開け、一万リーヴル相当の銀行手形を三十枚数え、ジルベールに手渡した。
「これがお金なんですか?」
「見てみろ」
ジルベールは手渡された手形を貪るように見つめ、バルサモの言葉を確かめた。
目に喜びがはじけた。
「噓ですよね! なにもここまでしていただかなくても」
「何でも疑ってみるのはいいことだ。だが疑うべきものとそうでないものを見分けられるようになれ。この十万エキュを持ってタヴェルネ邸に行くがいい」
「これほどの大金を口約でいただいても、とても現実だとは信じられません」
バルサモは羽根ペンを取って文書をしたためた。
ジルベールがアンドレ・ド・タヴェルネ嬢との結婚宣誓書に署名する日、申込みがうまくいくことを願って事前に手渡していた十万エキュを持参金として与えるものとする。――ジョゼフ・バルサモ
「この紙を持って行け、これで不安はあるまい」
文書を受け取るジルベールの手は震えていた。
「こんなに大きな借りをいただいては、あなたよりほかにこの世に神などいらっしゃいません」
「崇めなくてはならぬ神は一つしかない」バルサモは重々しく答えた。「そしてそれは俺ではない。わかったら行け」
「最後に一つだけお願いします」
「何だ?」
「五十リーヴルいただけないでしょうか」
「その手に三十万リーヴル持っているというのに五十リーヴルを?」
「この三十万リーヴルは僕のものではありません、アンドレ嬢が結婚に同意してくれるまでは」
「五十リーヴル必要な理由は?」
「男爵家を訪問するのに相応しい服を買うためです」
「いいだろう。持って行け」
バルサモはジルベールの望み通り五十リーヴルを手渡した。
そうしてから首だけ動かしてジルベールにいとまを告げ、ゆっくりとした悲しげな足取りのまま部屋へと戻った。
Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre CLI「Le cas de conscience」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年12月28日(連載第149回)及び1847年12月29日(連載第150回)。
Ver.1 12/06/02
Ver.2 26/06/19
[註釈・メモなど]
・メモ
連載時は「ジルベールは音も立てずに忍び出て、テレーズが二階にたどり着く頃にはとっくに屋根裏に入り込んでいた。(Et Gilbert s’esquiva si légèrement, qu’il était déjà dans son grenier avant que Thérèse eût monté le premier étage.)」までが1847年4月28日掲載分、「ルソーから貴重な情報を得たジルベールは、いつまでもぐずぐずとはしていなかった。(Muni du précieux renseignement que lui avait donné Rousseau, Gilbert ne fut pas long à exécuter son projet.)」からが1847年4月29日掲載分となる。
[更新履歴]
・26/06/20 Quoiqu'une retraite lui eût été offerte par M. de Girardin dans les délicieux jardins d'Ermenonville, Rousseau, hésitant à se soumettre à l'esclavage des grands, comme il disait dans sa monomanie misanthropique, habitait encore ce petit logement de la rue Plâtrière que nous connaissons. 「dans sa monomanie misanthropique(人間嫌いの偏執狂の中で)」とは、何もそういうタイトルの著作の中でという意味ではなく、「そういう状態で」という意味なので、「ド・ジラルダン氏からエルムノンヴィルの庭園に保養地を用意してもらったにもかかわらず、大人物の傘下に入るのを潔しとせず、人間嫌いの中で言っていたように、いまだにプラトリエール街の侘住まいで暮らしていた。」 → 「ジラルダン氏からエルムノンヴィルの庭園で隠遁生活をしてはどうかと招かれていたにも関わらず、常日頃から人間嫌いをこじらせていたために権力者の奴隷に身をやつすことを潔しとせず、いまだにプラトリエール街の侘住まいで暮らしていた。」に訂正。
・26/06/20 – Eh quoi ! se dit-il, déjà de retour !… me serais-je endormi quand je croyais rêver seulement ? から5行を訳し洩らしていたので、追加した。
・26/06/20 Gilbert avait le regard fixe et lumineux des oiseaux de proie affamés ; 「oiseaux de proie」で「猛禽類」なので、「ジルベールは獲物に飢えた鳥のように、目を動かさずに爛々と光らせていた。」 → 「ジルベールの目は飢えた猛禽類のようにギラギラとして動かなかった。」に訂正。
・26/06/20 – Vous voulez dire : « Est-ce que votre mort, à vous, misérable qui n'êtes rien, qui ne possédez rien, qui ne tenez à rien, serait un événement ? » 疑問形なので、「何者でもなく、何も持たず、何のしがらみもない惨めな僕にとって、死ぬことだけが大事件だと仰りたいのでしょう?」 → 「『何者でもなく、何も持たず、何のしがらみもない、僕のような人間が死んだところで、それが大事件だと言えるだろうか?』と仰りたいのでしょう?」に訂正。
・26/06/20 J'aurais eu aussi un palais, moi ; j'aurais eu aussi des chevaux fringans, j'aurais eu une voiture pour promener une jeune et belle maîtresse, このうち前半部分「J'aurais eu aussi un palais, moi ; j'aurais eu aussi des chevaux fringans,」は初出のみに見られる。初出により補った。「若く美しいご婦人の許に出かけるために馬車を一台持ってもおかしくなかったでしょうし、」 → 「今頃は宮殿を建てていてもおかしくはなかったし、元気な馬を何頭も飼っていてもおかしくはなかったし、若く美しい愛人と連れ立つための馬車を手に入れていてもおかしくはなかったでしょう。」。
・26/06/20 「」 → 「」
・26/06/20 「」 → 「」
[註釈]
▼*1. [自殺とは人類からの搾取だ]。
『新エロイーズ』第三部 22番目の手紙(『Julie ou la nouvelle Héloïse』Troisième partie、Lettre XXII.)より。 Réponse。Apprends qu'une mort telle que tu la médites est honteuse et furtive ; c'est un vol fait au genre humain.。[↑]
▼*2. [その問題について書かれたあなたの著作…]。
教育論『エミール』でも有名なルソーだが、その実、我が子は自分では育てず孤児院に送っていた。『告白』によれば、「わたしはわが子を自分の手で育てることができなかったので、彼らの教育を社会施設に託し、将来、ごろつきや山師などよりも、労働者か百姓になるようにしておけば、それで市民および父親にふさわしい行為をなすことになると信じていた。そして自分をプラトンの国家の一員と思っていたのである。そのとき以来、一度ならず、心のいたみによって、自分がまちがっていたことを教えられた。しかし理性はそんな注意をあたえてくれなかった。それどころか、自分の処置によって子供たちをその父親の運命から守り、また彼らをみすてなくてはならなくなったとき彼らをおびやかすにちがいない運命から、彼らを守ってやったことを、天に感謝したことがたびたびあるくらいだ。」「(孤児院に入れるのは)たいへんよく、道理にかない、また正当であるように思えた」「その行為をすこしも悪いと思っていなかった」(第八巻)。「こんな育ちの悪い家族に子供らをまかせて、彼らよりもっと育ちが悪くなったら、と思ってぞっとした。孤児院の教育のほうが危険がずっと少なかったのだ。」(第九巻)等とある。[↑]
▼*3. [銀行手形]。
銀行手形(bilettes de caisse)については第118章註2参照。[↑]
▼*4. []。
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▼*5. []。
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