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翻訳:東 照
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プロジェクト杉田玄白 正式参加テキスト

シルヴィーとブルーノ完結編

ルイス・キャロル


第十七章
救いに!

「寝る時間じゃないよ!」という眠たげな声がした。「フクロウはベッドにいかなかったし、ぼく歌ってもらわないとねむれないもん!」

「まあブルーノ!」シルヴィーが声をあげた。「梟はたったいま起きたところじゃないの。でもはとっくの昔に寝ていますからね」

「んん、ぼくカエルじゃないし」

「何を歌えばいい?」シルヴィーがうまく言い争いをかわしてたずねた。

「あなたさんにきいてよ」ブルーノはめんどくさそうに答えた。両手を巻き毛頭の後ろに回して、羊歯の葉っぱに仰向けに寝そべっていたために、葉っぱは重さですっかりしなっていた。「このはっぱねころちよくないや、シルヴィー、もっとねころちいいの探してきてよ!」シルヴィーがいい加減にしなさいというように指を立てたので、ブルーノは少し考えてから、「あしのほーが高いのイヤなんだもの!」とだけつけ加えた。

 それは何とも素敵な光景だった。妖精の子どもが母親のように弟を腕に抱きしめ、もっと丈夫な葉っぱの上に寝かしつけた。シルヴィーが軽く触れて葉っぱを揺らすと、秘密の仕掛けでもあるのだろうか、ひとりでにゆらゆらと揺れ続けた。風でないのは確かだった。夜風はさっきまでと同じくきれいに止んでいたし、頭上には揺れている葉っぱは一枚もなかった。

「どうしてほかの葉は動いていないのに、この一枚だけ揺れているんだろう?」とぼくはたずねたが、シルヴィーはにっこり微笑むんで首を横に振るだけだった。「どうしてなのかはわかりません。でもいつもそうなんです、妖精の子どもが動かしたときには。必ずそうなんですよ」

「だけど葉っぱが揺れているのは見えるのに、その上に妖精がいるのは見えないのかな?」

「それはそうですよ! 葉っぱは葉っぱで、誰にでも見えますから。でもブルーノはブルーノ、あなたのように〈あやかし〉状態じゃないと見ることはできないんです」

 それでぼくは得心した。静かな夜に森を歩いていると――羊歯の葉が規則正しくひとりでに揺れている――そんな光景をときどき目にするのはそういうことだったのだ。そんな光景を一度くらい見たことはないだろうか? 今度そういうことがあったら、その上で妖精が寝ていないか確かめようとしてみるといい。でもいかなるときでも葉を摘んではいけない。小人さんは寝かせておいてあげよう!

 だがそうこうしているうちにブルーノはどんどん眠たそうになっていった。「うたって、うたって!」とぶつぶつ言い出したので、シルヴィーが助言を求めてぼくを見つめた。「何がいいのかしら?」「前に言っていたわらべ歌を歌ってくれるかい?」とぼくは言ってみた。[*1]「しわ伸ばし器を通したやつだよ。『ちっちゃな銃持つちっちゃな男』だったかな」[*2]

「ああ、教授の歌だ!」ブルーノが叫んだ。「ぼくちっちゃな男がすきなんだ。くるくる回され方がすきなの――ひできゴマみたいに回っちゃうのが」と言って、傍らの老紳士を温かく見つめた。葉のベッドの向こう側に座っていた老人は、すぐに遠つ国アウトランドのギターをつま弾いて歌い始めた。尻に敷いている蝸牛が、音楽に合わせて角を揺らす。

教授と蝸牛


チビの背丈は小人なみ――
筋骨隆々の巨人にあら〜ず。
チビ妻がお茶請けに用意した
軟骨唐揚は見るのもうんざり。[*3]
「塵子や、チビ銃を取ってくれ
幸運のチビ靴を放っとくれ。
急いでチビ川に出かけたいんだ、
雌鴨を撃ってきてやるよ!」

妻は小ぶりのチビ銃を手渡し、
幸運のチビ靴を放ってよこした。
今はチビパンを焼きながら
おみやげの雌鴨を待っている。
チビ気になることはあるものの
無駄なチビ口を利きもせ…ず、
チビ鳥の小わめく場所まで
チビ男は大急ぎ。

堅苦しい挨拶

身を潜めているチビ大海老がいるぞ、
寝ぼけてのろのろ這いずるチビ蟹がいるぞ。
自宅にいるイルカがいるぞ、
堅苦しい挨拶をするチビ鰈がいるぞ。
チビ蛙に見つかったチビ虫がいるぞ。
雌鴨に追いかけられた蛙がいるぞ。
チビ犬に追われたチビ鴨がいるぞ――
こいつはなんて幸運だ!!

チビ男は弾丸と火薬を籠めた。
そよ風みたいに忍び歩いた。
だが声はどんどん大きくなる、
うおう、う゛お゛お゛、ぐぎゃぎゃぎゃあ。
前から後ろから毛羽立たせ、
上から下から羽ばたかせ、
キーキーとした不器用な笑いに、
オンオンと不気味な嘆き!

ひねりゴマのように

外から中から声は響く。
頬髯と顎鬚を通って震える。
ひねりゴマのようにチビ男を回し、
空前絶後のあざ笑い。
「復讐だ、チビ仇め!
不当な仕打ちにこの小男に泣いてもらおう!
チビ頭のてっぺんからチビ足の先まで、
わらべ歌に漬けちまえ!

「『えっさか! ほいさ!』口ずさむ
月を乗りこえた雌牛の上。
猫とヴァイオリンに夢中になって、
お皿はスプーンと一緒におさらばさ。
蜘蛛の代わりに悲しんだ、
マフェットのお嬢さん、お水を飲んだら、
お隣にそっと座り込んだ、
お嬢さんは一目散![*4]

蜘蛛と男

「真夏のマジキチ小唄が
ちくちく噛みつき続けるのさ、
乱痴気な悲しみの極みに、
チビ男がどんより喜んでうめくまで。
朝靄のようにまとわりつき続けるのさ、
甘くてしなびていつも変わらず、
デッキのように、尽きることなく飾り立てるのさ、
小海老の歌が!

「チビ鴨の運命が決まったからには、
とっととチビ男を家まで転がそう。
明らかに準備されていた夕飯は、
薔薇のつぼみとライスになるだろうね。
チビ男は実用新案の炎のなか
運命と取っ組み合い、支配下に治めることだろう。
だがおしゃべりするような友人もない、
だからもう一度チビ男を襲ってしまえ!」

チビ男は雌鴨を撃った、ヘイ!
するとがやがやわめく声が止んだ。
女房のため鴨を持って帰っても、
笑いや唸りのざわめきもない。
そこで奥さんが上手に焼いた
チビパンを元気よく平らげると、
またもやチビ川に大急ぎ、
今度は雄鴨を捕ってきてやるよ!


「もう眠ったようです」シルヴィーはいそいそとスミレの葉にくるまった。すでに毛布代わりにブルーノに掛けてあげていた。「おやすみなさい!」

「おやすみ!」ぼくも繰り返した。

「『おやすみ』でもかまいませんよ!」ミュリエル嬢が笑った。立ち上がってピアノの蓋を閉めている。「こくり――こぐ――舟を漕いでいらっしゃるんですもの、せっかくあなたのために歌っていたのに! いかがでしたか?」質問は容赦なかった。

「雌鴨のことですか?」ぼくは当てずっぽうを言ってみた。「ええとつまり、そういいった鳥のことでしょうか?」どうやら読みが外れたことに気づいて、ぼくはあわてて言い直した。

そういった鳥のことですって!」と繰り返したミュリエル嬢の顔には、優しい顔で表現できるかぎりの呆れた表情が浮かんでいた。「シェリーの『雲雀』のことを話していたと仰りたいんですよね? 具体的には『ようこそ、陽気な魂よ! 汝は鳥などではない!』ですけれど」

 ミュリエル嬢を先頭にして喫煙室に向かうと、社交のしきたりも騎士道的な精神もなげうって、三人の造物主は安楽椅子にくつろいで深々と座り込み、女性が一人紛れ込んでいるのを咎めはせ…ずに、冷たい飲み物と煙草と火という形でぼくらの欲求を満たしてもらった。いや、三人のうち一人だけは、「ありがとう」という陳腐な言葉では足りないだけの騎士道精神を持っていたので、ゲライントがエニードに世話になったときどれほど心動かされたかを謳った、美しい詩人の言葉を引用した。


「その手が皿の上に動かされしとき、
ゲライントは顔を降ろし、親指に口づけしたき」[*5]


伯爵家での団欒

 そして言葉どおりに行動した――そうした大胆な振る舞いは、お伝えしておかねばなるまいが、決して咎められはしなかった

 特に話題を切り出す者もいなかったし、ぼくら四人は気の置けない間柄(親密という言葉に相応しい友情が持てるかぎりに親密な、唯一無二の間柄)であり、会話のための会話など少しの必要もない間柄だったので、しばらくのあいだは無言のまま座っていた。

 とうとうぼくが沈黙を破って質問した。「港町から熱病のことで何か新しい報せはありませんでしたか?」

「今朝から何もないんだ」伯爵はかなり深刻な顔をしていた。「だがだいぶ危険な兆しだよ。熱病は瞬く間に広がっている。ロンドンの医者は恐れをなして現地を去ってしまったし、今のところただ一人頼れるのが一般医ではないんだ。薬屋と医者と歯医者と、ほかにも何かやっているのかもしれないが、とにかくそうした一切合財をひっくるめて請け負ってる人でね。漁師たちにとっては明るい話ではないよ――女性と子どもの先行きはさらに暗い」

「そこには何人くらい暮らしているんでしょうか?」アーサーがたずねた。

「一週間前は百人近くいた」伯爵が答えた。「だがそれから二、三十人が死んでいる」

「教会からはどういった奉仕がおこなわれているんですか?」

「勇敢な方たちが三人向こうに行っている」伯爵の声は感動で震えていた。「十字勲章に値する勇者たちだよ! 三人のうちの誰一人として、自分の命を惜しむばかりにその場を離れたりはしないに違いない。牧師補が一人。奥さんも同行している。子どもはない。それにローマ・カトリックの神父。そしてメソジスト派の牧師。主としてそれぞれの宗派の信徒と交わっているそうだ。だが死にかけている人たちが会いたがるのは、三人のうちの特定の誰かではないと聞いている。生の真実と死の現実に否応なく向き合わざるを得なくなると、キリスト教徒同士を隔てている障壁などわずかなものになるのだろうね!」

「そうに違いありませんし、そうであるべき――」アーサーが話しかけたところで、不意に玄関のベルが荒々しい音を立てた。

 あわただしく玄関の開き、外から声が聞こえた。やがて喫煙室のドアがノックされ、家政婦がどことなくびくびくしながら姿を見せた。

「お二人の方が、フォレスター博士にお話があるそうです、旦那さま」

 アーサーはすぐに部屋を出た。元気な声が聞こえてくる。「どうも、ご用件は?」だが返答の声はほとんど届かず、ほんの一言二言しかはっきりとは聞き取れなかった。「今朝から十人、それに今にも二人が――」

「でも向こうに医者がいるのでは?」アーサーがたずねると、聞き取りづらい低い声が答えた。「亡くなりました。三時間前に亡くなったんです」

 ミュリエル嬢が身体を震わせ、両手で顔を覆った。だがちょうどこのとき玄関のドアが静かに閉まり、ぼくらには何も聞こえなくなった。

 しばしぼくらは無言で座っていた。やがて伯爵が部屋を出て、すぐに戻って来ると、アーサーが二人の漁師と出かけてしまったこと、一時間ほどで戻るという伝言を残していったことを告げた。そして確かにそれだけの時間が過ぎると――そのあいだはほとんど口も利かなかった。ぼくらの誰一人として口を開く勇気がなかったのかもしれない――玄関の錆びた蝶番がふたたび軋りをあげ、廊下を歩く足音が聞こえたが、それはとてもアーサーのものだとは思われない、盲人が道を確かめるようなゆっくりと不確かな足取りだった。

 アーサーが入ってきて、片手をテーブルにぐったりと乗せたままのミュリエル嬢の前で立ち止まった。夢遊状態のような不思議な目つきをしている。

「ミュリエル――愛してる――」言葉が途切れ、唇が震えた。だがすぐにしっかりとした口ぶりで話を始めた。「ミュリエル――愛してる――みんなが――港に――来てほしがっている

「行かなきゃならないの?」立ち上がってアーサーの肩に手を置くと、涙のあふれた瞳でその顔を見上げた。「あなたが行かなきゃならないの、アーサー? それって――死を意味するかもしれないのに!」

 アーサーはひるむことなくミュリエル嬢の視線を受け止めた。「死を意味しているんだ」と言うささやきはかすれていた。「それでも――ミュリエル――みんなが呼んでいるんだ。たとえぼく自身の命が――」そこで声が途切れ、もう一言も出て来なかった。

 しばらくのあいだミュリエル嬢は何も言わずに立ちつくしていた。見上げる目つきは無力で、どれほど祈ろうとも今は何の役にも立たないことがわかっているようだった。顔は悲痛に耐えてぷるぷると震えていた。やがて何か思いついたようにぱっと顔が明るくなり、不思議な笑顔が灯った。「あなたの命ですって? 捧げるのはあなたのものじゃないのに!」

 アーサーはすでに落ち着きを取り戻していたので、きっぱりと答えることができた。「本当だね。ぼくのものじゃない。今は君のものだ、ぼくの――妻になるはずの! それで――行かせてはもらえないのかい? ねえどうか大目に見てくれないか?」

アーサーとミュリエルSylvie and Bruno

 アーサーにしがみついたまま、ミュリエル嬢は胸に顔をうずめた。ぼくの目の前でそんなことをするのは初めてのことだったので、その衝撃の大きさがまざまざと理解できた。「大目に見ることにするわ」静かな落ち着いた声だった。「神かけて」

「そして神の慈悲にかけて」アーサーはささやいた。

「そして神の慈悲にかけて」ミュリエル嬢は重ねてたずねた。「いつなの、アーサー?」

「明日の朝。それまでにやらなくてはならないことがたくさんある」

 それからアーサーは、出かけていたあいだ何をしていたのかを説明した。牧師館にいて、明日の朝八時に結婚式を挙げる手続きをしていたのだ(前もって特別結婚許可証を手に入れていたので、法的な問題はなかった)。場所はぼくらのよく知っている小さな教会だ。「ここに友人がいるから」とぼくを指さし、「『付添人』の役をやってくれるよ。お父さんが君を引き渡してくれる。それから――それから――花嫁の付添人はなくてもかまわないね?」

 ミュリエル嬢がうなずいた。言葉はない。

「これでぼくも――神から与えられた仕事をしに――心おきなく出かけられる――ぼくらは一つだと――肉体がそこになくとも、は一緒だと――それも二人で祈れば一緒になれるとわかっているから! ぼくらの祈りは一緒になって――」

「ええ、そうね!」ミュリエル嬢は涙ぐんでいた。「でもあんまり長いすべきじゃないわ! 家に戻って休んでちょうだい。明日はたいへんなんだから――」

「じゃあ行くよ。明日の早朝にここで。おやすみ、ミュリエル!」

 ぼくもアーサーに倣って一緒に家を出た。下宿に戻る道すがら、アーサーは何回か深いため息をついて、何か言いたげなそぶりを見せた――だがようやく口を開いたのは、家に入って明かりをつけて、寝室の戸口に立ったときだった。そのときアーサーはこう言った。「おやすみなさい! 神のご加護を!」

「神のご加護を!」ぼくは心の底から繰り返した。

 朝の八時までに館に引き返すと、ミュリエル嬢と伯爵、それに年老いた牧師がぼくらを待っていた。教会までの行き帰りは何かしら悲しみと静けさに覆われて、結婚式というよりは葬式の行列を連想せ…ずにはいられなかった。ミュリエル嬢にとっては確かに結婚式というよりは葬式にほかならず、(あとで聞いた話によると)新郎が死に赴くことになるのではという重苦しい予感に押しつぶされていた。

 それからぼくらは朝食を取った。やがて早すぎる瞬間がやってきた。アーサーを迎えに来た車が家の前に停まった。まずは下宿に寄って携行品を回収し、それから安全だと思われるぎりぎりのところまで、死で覆われた村を目指すことになっていた。何人かの漁師が道の途中まで会いに来て、そこから先は荷物を運んでくれるはずだった。

「必要なものは間違いなく持った?」ミュリエル嬢がたずねた。

医者として必要になりそうなものはね。個人的に必要なものはほとんどない。洋服すら持ってない――出来合いの漁師服が宿に用意されているんだ。持っていくのは時計と、本を何冊か――待ってくれ――追加したい本がある、小型聖書を――病気で危篤になった人の枕元で使わな――」

「私のを持ってって!」ミュリエル嬢はそう言って、階上に走っていった。「『ミュリエル』とだけしか書かれてないの」聖書を手に戻ってきた。「何か書いた方が――」

「いや、ぼくのものだ」アーサーは聖書を受け取った。「それ以上にいい言葉を書けるかい? ぼく個人のものだとはっきりさせるために、ほかにどんな名前を記せるというんだい? はぼくのものじゃないのか? 君は――」(あのからかうような調子で)「ブルーノならこう言うだろうね、『ぼくのとってもなもの』じゃないのか?」

 伯爵とぼくに心のこもった長いお別れの挨拶をすると、アーサーは妻と二人きりで部屋を出た。ミュリエル嬢は気丈にも耐えていたし――少なくとも表面上は――父親ほどがっくり来てはいなかった。ぼくらが部屋でしばらく待っていると、やがて車輪の音が聞こえ、アーサーが出かけたことがわかった。そのときになってもぼくらは黙って待っていた。ミュリエル嬢の足音が階段を上って部屋に向かい、徐々に小さく消えていくまで。いつもなら軽やかで楽しげな足音が、今は重苦しく引きずるように聞こえ、どうにもならない悲劇を背負い込んでいる人が歩いているようだった。どうにもならない気持や、腸を断ち切られるような思いは、ぼくも同じくらい感じていた。「ぼくら四人は、いつかふたたびこの世で会える運命なのだろうか?」ぼくは家に戻りながら、そんなことを考えていた。遠くで鐘がぼくに答えるように鳴っていた。「否! 否! 否!」


Lewis Carroll "Sylvie and Bluno Concluded" -- Chapter XVII 'To The Rescue!' の全訳です。

Ver.1 03/08/29
Ver.2 03/08/31
Ver.3 11/05/21


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[註釈]
*註1 [前に言っていた]。「前に」とは正編214ページ、教授が童謡を引き伸ばしてしまった、という場面です。[
 

*註2 [ちっちゃな銃持つ]。マザー・グースより。下に引用したのは谷川俊太郎訳。この歌が「引き伸ばされ」て九聯の歌になりました。

ちいさなおとこがおりまして
ちいさなてっぽうもっていた
たまはなまりで できていて
おがわにでかけ ちいさなめすがも
あたまのまんなか みごとにいっぱつ
にょうぼのジョーンに もってかえって
あぶりやきする ひをおこさせて
こんどはおすがも うちにでかけた[
 

*註3 [軟骨唐揚]。原文では「And he wearily gazed on the crawfish」、見ているものは「ザリガニ」です。なにゆえ「ザリガニ/crawfish(クローフィッシュ)」なのかと言えば、「小さい/dwarfish(ドウォーフィッシュ)」と韻を踏むためにほかなりません。訳文では「筋骨隆々」と韻というか語呂というかパッと見を合わせて「軟骨唐揚」にしました。かくして軟骨唐揚に飽き飽きしたチビ男が、鴨の炙り焼きを求めて猟に出かけます。[
 

*註4 [えっさか! ほいさ!]。一つ目の本歌は、講談社文庫のしおりでお馴染み「えっさか ほいさ/ねこに バイオリン/めうしがつきを とびこえた/こいぬはそれみて おおわらい/そこでおさらはスプーンといっしょに おさらばさ」です。

 二つ目も同じくマザー・グースより、「マフェットのお嬢さん」。「マフェットのおじょうさん/じめんにすわって/おやつたべてた/そこへおおきな くもがきて/となりに すわりこんだので/マフェットのおじょうさん/びっくりぎょうてん いちもくさん」。いずれも谷川俊太郎訳より。[
 

*註5 [その手が皿の上に……]。テニスン『国王牧歌』「ゲライントの結婚」より。

 邦訳は → 「こちら」。

テニスン原典「Geraint had longing in him evermore/To stoop and kiss the tender little thumb,/That crost the trencher as she laid it down:」
キャロル引用「To stoop and kiss the tender little thumb/That crossed the platter as she laid it down」[
 

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