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翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第百二十五章 お喋り

 サルチーヌ氏はしばらく衝撃から立ち直れなかった。まるで拳銃の中を覗き込もうとでもしているように銃口を見つめていた。額に鉄の筒が押しつけられるひんやりとした感触すら覚えたような気がした。

 ついにサルチーヌ氏が口を開いた。

「失礼だが、手綱はこちらが握っている。あなたが何者か把握していたからこそ、そこらの悪党相手の対策を講じなかったのだ」

「ははッ! 苛立ってますね。悪党呼ばわりとはご挨拶だ。だがそれが言いがかりだとはわかっていただけないらしい。私は手助けをしに来たんですよ」

 サルチーヌ氏が身じろぎした。

「手助けです」バルサモは続けた。「あなたはそこを誤解している。陰謀家呼ばわりは非道いじゃありませんか。むしろ陰謀を告発しに来たというのに」

 だがいくら言葉を尽くされようと、これまでのところサルチーヌ氏の心が動くことはなかった。普段であれば食いつきそうな「陰謀」という言葉にも、耳をぴくりと動かしただけであった。

「私が何者かをご存じなのであれば、どんな任務でフランスにいるのかもおわかりのはずだ。フリードリヒ大王陛下から遣わされた、いわばプロイセン王の私的大使のようなものです。そして大使とは好事家のようなものでしてね。好事家たる者、どんな出来事も聞き逃しはしませんし、そんな中でもとりわけ詳しいのが穀物の独占についてなんです」

 バルサモは最後の一言を何気なく口にしたのかもしれないが、それはほかの何よりも効果的だった。サルチーヌ氏はその言葉に反応を示した。

 サルチーヌ氏がゆっくりと顔を上げた。

「穀物問題?」この会見を始めた時のバルサモ同様に落ち着いて見えるよう努めた。「今度はこちらにご教示いただきたい」

「構いません。簡単なことだ」

「では聞かせてもらいましょう」

「とは言え、申し上げるまでもなく……有能な投機家たちがフランス国王陛下に働きかけ、飢饉に備えて国民のために穀物倉庫を造るべきだと訴えて来た歴史があります。遂に倉庫が建てられましたが、その過程で、大きければ大きいほどいいと考えたわけですな。そこで石材も切石も惜しみなく用いられ、出来上がったのは巨大な倉庫でした」[*1]

「ええ、それで?」

「次は中身を詰め込まなくてはならない。空っぽの倉庫など意味がありませんからね。そこで倉庫が満杯にされました」

「つまり?」サルチーヌ氏には、バルサモの言わんとしていることが今以てよく見えない。

「つまり、大きな倉庫を満杯にするには、山ほどの小麦を入れなくてはならない。違いますか?」

「異存はない」

「そこでです。小麦の流通が絶たれれば、国民は飢えてしまう。わかりませんか? 流通が絶たれるというのは、凶作も同然なんですよ。倉庫に穀物を千袋保管すれば、市場からは千袋消える。この千を十倍にしてご覧なさい、それだけで小麦はたちまち高騰してしまいます」

 サルチーヌ氏が苛立たしげに咳払いした。

 バルサモは話をやめて、咳が治まるのをじっと待った。

 落ち着くと、バルサモは話を続けた。「高騰すれば、倉庫に賭けた投機家さんは大儲けだ。火を見るよりも明らかではありませんか?」

「明らかですな。しかしどうも、陛下が引き起こした陰謀や重罪を告発せよと言われているように聞こえますが」

「その通りです。わかっていただけたようだ」

「大それたことを。告発を聞いた陛下が何と仰るのか考えると、何だか楽しくなってしまいましたよ。あなたがいらっしゃる前にこの小箱に入った書類に目を通して出した結論があるんですがね、もしかすると陛下も同じ結論に達するような気がして来ました。お気をつけなさい、いずれの結論もバスチーユ行きですからな」

「ああ、まだわかってはいただけないようだ」

「というと?」

「勘違いなさっている、誤解されているということですよ。どうやら私のことを馬鹿だと思ってらっしゃるようだ! 国王を非難しに来たとでも思っているんですか? 大使である私が? この好事家が?……あなたの仰っていることこそ頓珍漢というものですよ。どうか最後までお聞きなさい」

 サルチーヌ氏は首を縦に振った。

「フランス国民に対するこうした陰謀を暴いた者たちは……貴重な時間を割いていただいて申し訳ありませんが、無駄な時間にはしませんよ――さて、フランス国民に対する斯かる陰謀を暴いた経済学者たちは、ありったけの執念と注意力を惜しまず、この不正行為に探究のルーペをかざした結果、事を演じているのは国王だけではないことを突き止めたんです。陛下が市場ごとの穀物相場を正確に記録させていることもわかっています。相場が上がって一万エキュほどの利益が出た時に陛下が揉み手をして喜ぶこともわかっています。その一方で、国王のおそばには、そうした取引を助ける立場の人間がいることもわかっています。その地位を利用して――濁さず言えば役人というわけですが――買い付け、仕入れ、現金化を監督している人間、つまり国王の仲介をしている人間がいることもわかっているのです。ですから虫眼鏡越しににらめっこしている経済学者という連中もですね、国王を非難するつもりなどないんですよ。そこまでの阿呆ではありません。そうではなく、国王の代わりに不正を働いている人間を、役人を、代理人を非難しているんです」

 サルチーヌ氏はずれかけた鬘を直そうとしたが、上手くいかなかった。

「では本題に入りましょう」とバルサモは続けた。「警察の長であるあなたは、私がフェニックス伯爵であることを知っており、私は私であなたがサルチーヌ殿であることを知っています」

「どういうことかな?」警察長官はまごついた様子を見せた。「サルチーヌであることに間違いはないが、それがどうしたと?」

「わかりませんか? このサルチーヌ氏こそが、帳簿や不正や現金化に関わっている人間なんですよ。国王も承知なのかどうかはともかく、本来ならば二千七百万のフランス人の胃袋を満たす義務があるというのに、むしろもてあそんでいる人間なんです。こんなことが明らかになったらどうなるでしょうね? あなたは国民に好かれてませんし、国王はそれほど優しくはありませんよ。飢えた国民があなたの首を求めて声をあげれば、陛下はどうするか。陛下が共犯なら、共犯を疑われないために、共犯ではないなら、正義をおこなうために、即座にあなたを縛り首にするでしょうね。アンゲラン・ド・マリニー(Enguerrand de Marigny)の先例はご存じでしょう?」[*2]

「詳しくは知りませんが」サルチーヌ氏は真っ青になっていた。「私のような地位の人間に縛り首の話をするとは、随分と悪趣味なお方ですな」

「こんな話をするのも、あの気の毒なアンゲランをまた目にしているような気がするからですよ。ノルマンディの旧家に生まれた申し分のない貴族で、王室の侍従にしてルーヴルの宝物管理者であり、財務官でもあり建築官でもあったうえに、ロングヴィルの伯爵で、ダルビーのあなたの領地より大きな伯爵領の持ち主でした。それだけの人物が吊るされるのを、この目で見たのです。本人が造らせたモンフォーコンの絞首台の上でした。『アンゲラン、そんなに財政を刈り込んでは、シャルル・ド・ヴァロワに目を付けられるぞ』と繰り返し忠告していたのですが、耳を傾けてはくれなかったせいで、不幸にも命を落としてしまったのです。これまでにどれだけの警察長を見て来たかおわかりいただけないでしょうな。イエス・キリストを磔にしたポンティウス・ピラトゥスのことも、あなたの前任者であり街灯を整え贅沢を禁じたベルタン・ド・ベリル氏、ブルデイユ伯爵にしてブラントーム領主(M. Bertin de Belle-Isle, comte de Bourdeilles, seigneur de Brantôme)のことも、この目で見た来たのだ!」

 サルチーヌ氏が立ち上がった。渦巻く動揺を隠そうと努めていた。

「非難したいのなら非難してもらって結構。あなたのような人間の言葉など痛くもかゆくもない」

「ひとまず落ち着いたらどうです? 無関係に見える人たちが繫がっているなんてのはよくある話ですよ。この私が小麦独占の一切合切を、手紙のやり取りをしているフリードリヒ大王に書き送ったらどうなるか。哲学者として知られるフリードリヒ陛下がそれに論評を加えてアルエ氏ヴォルテールに急ぎしたためたらどうなるか。ヴォルテールが恐らくあなたもご存じだろう評判の筆を揮って『四十エキュの男』のようなスタイルで喜劇をものしたらどうなるか。優秀な数学者であるダランベール氏が計算して、あなたが国庫からくすねた小麦だけで一億人を三、四年は養えるという結論をはじき出したらどうなるか。エルヴェシウスが、その小麦の価値を六リーヴル゠エキュに換算して積み上げれば月まで行けるし、紙幣なら並べればサンクト゠ペテルブルクまで届くと証明したらどうなるか。その計算が明らかにされることで、ラ・アルプ氏に出来の悪い芝居を思いつかせ、ディロドに『一家の父』との対話を思いつかせ、ジュネーヴのジャン゠ジャック・ルソーには論評を加えたその対話の翻案を思いつかせたらどうなるか。ルソーはやるとなったら容赦ありませんよ。カロン・ド・ボーマルシェに回想録を思いつかせたらどうなるか。踏みつけられないことを願ってますよ。グリム氏に短い手紙を、ドルバック氏に見事な警句を、マルモンテル氏に道徳的物語を思いつかせたらどうなるか。あなたを辯護するふりをして切り刻むことでしょうよ。こういったことがカフェ・ド・ラ・レジャンスやパレ゠ロワイヤル、オーディノの劇場や、ニコレ氏が主催する王室大舞踏家劇場で話題にのぼったらどうなるか。ねえダルビー伯爵、あなたは警察長官だ。アンゲラン・ド・マリニーより遙かに非道い状況になりますよ。あなたが聞きたがらなかった、絞首台に立たされて非道い状態だったマリニーよりもね。何せマリニーは無実を訴えていたし、そこに胸に迫るものがあったからこそ私は、あだやおろそかではなくその主張を信じたのですから」[*3]

 その言葉を聞いたサルチーヌ氏は、これ以上は作法に構っていられなくなったらしく、鬘を取って汗まみれの頭をぬぐった。

「結構。考えを改めるつもりはない。破滅させるというのならすればいい。お互い証拠は握っているんだ。そっちは秘密を、こっちは小箱を預かるとしよう」

「おやおや、勘違いが続きますね。あなたほどのお方がこうも考え違いをなさるとは。この小箱を……」

「この小箱を?」

「あなたが預かることはありませんよ」

「そうでしたな」サルチーヌ氏は自嘲するように笑った。「フェニックス伯爵が武装した連中から金を巻き上げる胡麻の蠅だということを忘れるところでしたよ。拳銃が見えないものだからうっかりしていました。拳銃をポケットに戻しているせいで、とんだ失礼をいたしました、大使殿」

「今さら拳銃でもありますまい。まさか力ずくで小箱を奪うつもりだとは思ってらっしゃらないでしょう。そんなことをすれば、階段まで辿り着きもしないうちに、泥棒を知らせる呼び鈴の音と叫び声を聞く羽目になる。問題外だ。小箱がそちらに渡らないというのは、あなたが自らの意思で進んで返してくれるはずだという意味なんですよ」

「進んで?」サルチーヌ氏は壊してしまいそうな力を込めて件の小箱に拳を乗せた。

「ええ、進んで」

「冗談じゃない! この命と引き替えでなければ、小箱は渡せませんな。この意味がわかりますか? これまでに何千回、命を賭けて来たと思ってるんです? 血の最後の一滴がなくなるまで、陛下のために命を張る覚悟がないとでも? 殺せるものなら殺せばいい、主導権はそちらだ。だが物音を聞いてすぐに部下が駆けつけるし、死ぬ前にあなたを告発する声くらいは出せる。小箱を返すだと!」サルチーヌは苦笑いした。「地獄の悪魔に脅されようとお断わりだ!」

「地の底の力を借りるまでもない。いま中庭の門を叩いている人の力だけで充分ですよ」

 バルサモの言葉通り、ノッカーを三度叩く音がはっきりと響いていた。

「馬車の音もする」とバルサモが続けた。「中庭に入って来たようだ」

「いらしたのはあなたのご友人のようですな」

「仰る通り私の友人です」

「そのご友人に小箱を返すことになるとでも?」

「ご名答、サルチーヌ殿、そうして下さい」

 警察長官が馬鹿にしたような仕種をしかけたところで、従僕が慌てて扉を開けて、デュバリー伯爵夫人が面会を求めていることを告げた。

 サルチーヌ氏は息を呑み、啞然としてバルサモを見つめると、バルサモは必死になって笑いをこらえていた。

 そこに従僕の後ろから、一人の女性が香水を漂わせていそいそと入って来た。自分には入室するのに許可など必要ないと信じているのだ。スカートの襞が扉にぶつかりかすかな衣擦れの音を立てた。

「伯爵夫人でしたか!」サルチーヌ氏は怯えたように、開いたままの小箱を両手でしっかり摑んで胸に押し当てた。

「ご機嫌よう、サルチーヌ」伯爵夫人が朗らかに微笑みかけた。

 それからバルサモにも「ご機嫌よう、伯爵殿」と声をかけた。

 するとバルサモは差し出された白い手に親しげに顔を寄せ、国王の口づけを何度も受けているであろうその場所に口づけした。

 口づけしながらバルサモが伯爵夫人に耳打ちしていたが、サルチーヌ氏には内容までは聞き取れなかった。

「あら本当! あたくしの小箱ですわ」

「あなたの小箱ですと!」サルチーヌ氏にはそれしか言えなかった。

「ええ、あたくしの。あら、開けてしまったのね、お気になさらずに!」」

「ですが伯爵夫人……」

「やっぱり凄いわ。思っていた通り……小箱が盗まれた時、『サルチーヌのところに行けば見つけてくれるだろう』と考えていたのだけれど、頼まれるまでもなく見つけて下さっていたのね。感謝しますわ」

「だがご覧の通り、中まで開けてしまったようです」バルサモが言った。

「ええほんと。まさかそんなことするなんて、ひどいじゃありませんの、サルチーヌ」

「失礼は重々承知で確認いたしますが、強いられているわけではないのですね?」警察長官が念を押した。

「強いるだって!」バルサモが言った。「それは私に対する当てこすりですか?」

「自分が何を判っているかぐらいは判っているのでね」サルチーヌ氏が言い返した。

「あたくしには何が何やら判りませんわ」デュバリー夫人がバルサモに囁いた。「何があったんですの、伯爵殿? その時が来たら望みを叶えるようにと、あなたが約束させたんじゃありませんか。男じゃないけど二言はありません。せっかくここにあたくしがいるんですから、どうぞ何なりと仰って下さいまし」[*4]

「伯爵夫人」バルサモはサルチーヌにも聞こえるように言った。「数日前にこの小箱と中身をお預け下さったのを覚えておいでですか?」

「もちろんですわ」デュバリー夫人はバルサモの眼差しに目顔で答えた。

「もちろん⁉」サルチーヌ氏が声をあげた。「『もちろん』と仰ったのですか?」

「もちろんと仰ったんですよ。伯爵夫人はあなたにも聞こえるようにはっきり口に出されたと思いますがね」

「箱に入っていた覚書には、陰謀と思われるものが幾つもあったんですぞ!」

「ああ、サルチーヌ殿がその言葉をお嫌いなのはわかっていますよ。ですから繰り返さずとも結構。伯爵夫人が小箱の返却をご所望なのですから、お返しすればいいんです」

「返却をご希望ですか、伯爵夫人?」サルチーヌ氏は怒りで震えていた。

「ええ、長官さん」

「ですが、せめておわかりいただきたいのですが……」

 バルサモが伯爵夫人に目配せした。

「わからないことはわからないままにしておきたいの。小箱を返して下さる? 無駄足を踏ませないで頂戴な」

「現人神たる国王陛下の御名とご厚意に免じて、どうか……」

 バルサモが急かすような動きを見せた。

「小箱をこちらに!」伯爵夫人がきっぱりと口にした。「ウイかノンです。ノンと言うつもりならようく考えてからになさいまし」

「仰せの通りに」サルチーヌ氏が折れた。

 サルチーヌ氏は伯爵夫人に小箱を手渡した。机の上に散らばっていた書類は、既にバルサモによって小箱に仕舞われていた。

 デュバリー夫人がバルサモに向かってにっこりと微笑みかけた。

「伯爵殿、この小箱を馬車まで運んで下さらないかしら? それに控えの間にはぞっとするような顔つきをした人たちが並んでいるでしょう、一人で通りたくないので腕を貸して下いません? ご機嫌よう、サルチーヌ」

 バルサモが伯爵夫人と戸口に向かっていると、サルチーヌ氏が呼び鈴に駆け寄るのが見えた。

 バルサモは目顔でそれを制し、「伯爵夫人、サルチーヌ殿に仰っていただけませんか。小箱を返してくれと頼んだことを根に持っているんですよ。警察長官殿の行動如何で私に何か起こりでもしたら、あなたがどれだけ悲しむか、それにあなたからどれだけの不興を買うことになるのかを、教えて差し上げて欲しいんです」

 伯爵夫人はバルサモに微笑みで応えた。

「今のをお聞きになりましたでしょう、サルチーヌさん? 嘘じゃありませんわ。伯爵殿はあたくしの素晴らしい友人ですもの、何か困らせるようなことでもあれば、あなたのことは許しませんよ。さようなら、サルチーヌ」

 そして今度こそ、小箱を持ったバルサモに手を預けて、デュバリー夫人は執務室から立ち去った。

 サルチーヌ氏は二人が出て行くのを黙って見守っていた。怒りを爆発させるのではないかというバルサモの読みは外れた。

「まあいい!」サルチーヌ氏は呟いた。「小箱はお前のものだ。だが女は私がいただく!」

 腹いせに、千切れそうなほどの勢いで呼び鈴を鳴らした。


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre CXXV「Causerie」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年11月16日(連載第125回)


Ver.1 11/10/29
Ver. 25/02/15

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[註釈・メモなど]

・メモ
▼あなたの前任者であるベルタン・ド・ベル=イル氏、ド・ブルデイユ伯爵、ブラントーム領主(M. Bertin de Belle-Isle, comte de Bourdeilles, seigneur de Brantôme)

▼ラ・アルプ(La Harpe)。ディドロ『一家の父(Père de famille)』。グリム氏(Friedrich Melchior, Baron von Grimm)。ド・マルモンテル氏(Jean-François Marmontel)。

 

[更新履歴]

・25/02/15 – Qu'est-ce que l'affaire des grains ? dit-il en affectant autant d'assurance que Balsamo lui-même en avait déployé au commencement de l'entretien. Veuillez me renseigner à votre tour, monsieur. 「affectant」なので、〝自信がある〟のではなく自信がある「ふりをしている」のである。「穀物がどうしたと仰いましたか?」会話を始めた時のバルサモのように揺らぎがなかった。「今度はこちらが教えていただきたい」 → 「穀物問題?」この会見を始めた時のバルサモ同様に落ち着いて見えるよう努めた。「今度はこちらにご教示いただきたい」に訂正。

・25/02/15 – Eh bien, monsieur, dit Balsamo, voilà encore une profonde erreur dans laquelle je suis étonné de voir tomber un homme de votre force ; cette cassette… この文章の「tomber」は「倒す・負かす」という意味ではなく「une profonde errerr dans laquelle」に係って「間違いに陥る」の意味になるので、「おやおや、それも大間違いですよ。あなたほどの方が負けるのを目の当たりに出来るとは驚きましたね。この小箱は……」 → 「おやおや、勘違いが続きますね。あなたほどのお方がこうも考え違いをなさるとは。この小箱を……」に訂正。

・25/02/15 「」 → 「」

 

[註釈]

*1. [穀物倉庫を造るべきだと……]
 バルサモが説明しているのは、第123章で触れられていた飢餓協定のことである(123章註釈2)。[]
 

*2. [アンゲラン・ド・マリニー]
 Enguerrand de Marigny(1260-1315)。フィリップ四世の重臣だったが、フィリップ四世の死後、政策に反対していた王弟シャルル・ド・ヴァロワらの告発を受けた。告発のなかには魔術師だという荒唐無稽なものも含まれたが、新王ルイ十世は反対派の声に逆らうことが出来ず、フィリップ四世時代の寵臣たちを見殺しにした。[]
 

*3. [『四十エキュの男』/エルヴェシウス/ラ・アルプ氏/『一家の父』/グリム氏、ドルバック氏、マルモンテル氏/カフェ・ド・ラ・レジャンス/オーディノ/ニコレ氏、王室大舞踏家劇場]
 『四十エキュの男』 L'Homme aux quarante écus (1768)。ヴォルテールの哲学コント。四十エキュの土地収入を持つ男が二十エキュの税金を払えず投獄され、動産の相続人が課税されずに裕福に暮らしていることに疑問を持ち、教えを請うたり議論をしたりした末にひとまずの成功を勝ち取る。
 エルヴェシウス Claude-Adrien Helvétius (1715-1771)。エルヴェシウスは、フランスの哲学者。ヴォルテールやダランベールとも交流があった。
 ラ・アルプ Jean-François de La Harpe (1739-1803) はフランスの作家・批評家。文学史家・批評家として評判を得たものの、劇作家としては成功しなかった。
 『一家の父』 Le Père de famille (1758)。ディドロによる戯曲。息子の結婚に反対する父親との騒動を描く。巻末に演劇論「Le Discours sur la poésie dramatique(劇詩に関する論述)」を併録する。「ある父親と子供たちとの対話」 Entretien d'un père avec ses enfants (1773)。父親と子供たちの対話、及び訪問客からの相談を通して、軽率な法運用に疑問を呈する。
 グリム Friedrich Melchior, Baron von Grimm (1723-1807) は、ドイツ生まれのフランスの美術評論家。ドルバック Paul-Henri Thiry, baron d'Holbach (1723-1789) は、ドイツ生まれのフランスの哲学者。マルモンテル Jean-François Marmontel (1723-1799) は、フランスの作家。『Contes moraux(道徳的物語)』という作品集がある。
 カフェ・ド・ラ・レジャンス café de la Régence, au Palais-Royal。カフェ・ド・ラレジャンスは1681年パレ゠ロワイヤルに建てられ、18世紀にはチェス・プレイヤーの溜まり場として知られるようになった。
 オーディノ Nicolas-Médard Audinot (1732-1801) は、フランスの俳優・劇作家。
 王室大舞踏家劇場 Le théâtre des Grands Danseurs du Roi は、俳優であり舞台監督でもあるニコレ Jean-Baptiste Nicolet によって1753年に建てられたパリの劇場。ただし「du Roi」の名が付くのは、1772年にルイ十五世とデュバリー夫人が観劇してからのことである。[]
 

*4. [あなたが約束させた……]
 デュバリー夫人とバルサモの約束については、第38章()、第81章()に見える。バルサモは数年前にデュバリー夫人の未来を予言した報酬をいつでもどこでも受け取りに行くと約束していた。。[]
 

*5. []
 。[]
 

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