この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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序之二 …という者

 葉の落ちた白樺の老木に取り囲まれるようにして、崩れ落ちた城館の一階部分が聳えていた。かつて十字軍から戻った封建領主たちがこうした城館を欧州中に撒き散らした。

 城門の一つ一つには細密な彫刻が施されていたが、門の壁龕にあるべき彫像はばらばらになって城壁のかたわらに転がり落ち、代わりにヒースと野の花が生い茂っていた。門のオジーヴは崩れてぎざぎざになり、その影が青白い空に浮かび上がっている。

 緻密な彫刻が施された城門には壁龕が備わっていたが、そこにあるべき彫像は、ばらばらになって城壁のかたわらに転がっていた。ヒースや野草が青白い空を背景にして生い茂り、ぼろぼろに崩れたオジーヴを覆っている。[*1]

 目を開けると正門の階段があった。じめじめと苔むしている。階段の一段目には、ここまで案内して来た骨と皮ばかりの手を持つ亡霊が立っていた。

 屍衣で全身がすっぽりと覆われている。襞の奥から虚ろな眼窩が燃え、痩せ細った手が廃墟の中へと動いた。目的地を告げるかのようなその手の先にはホールがあった。床近くこそ壁で隠れて見えなかったものの、崩れた円天井には怪しげな光がかすかに揺れているのが見えた。

 旅人は了解したしるしにうなずいた。亡霊が一段ずつゆっくりと、音も立てずに階段を上り、廃墟の中に消えた。旅人は足取りを乱すことなく、これまでのように静かで厳かな足つきで後に続き、亡霊に倣って十と一つの段を一足ずつ踏み、中に入った。

 背後で、よく響く青銅の壁のような大きな音を立てて、正門の扉が元通り閉まった。

 丸いホールには家具も何もなく、黒張りされた壁が、三つの洋燈ランプの投げかける鈍い緑に照らされている。亡霊はホールの入口で足を止めていた。

 その後ろで旅人も立ち止まる。

「目を開けよ」亡霊が言った。

「見えている」と旅人が答えた。

 亡霊が威厳たっぷりに両刃の剣を屍衣から滑らせ、青銅の柱に打ちつけると、金属がうなりをあげた。

 時を移さず周辺の敷石が跳ね上がり、似たような姿の亡霊たちが無数に現れた。皆一様に両刃の剣を携え、ホールと同じ円形をした階段席に着いた。三つの洋燈が発する緑光を受け、石の如く冷たく微動だにせず、まるで台座に立つ彫像のようであった。

 こうした生身の彫像たちが、前述の壁を覆った黒幕を背に、不気味に浮かび上がっていた。

 七つの椅子が一段目の手前に置かれ、代表者らしき六人の亡霊が腰を下ろしていたが、空席が一つある。

 中央に坐していた亡霊が立ち上がった。

「兄弟たちよ、我らの数は?」出席者たちの方を向き、たずねた。

「三百」亡霊たちの没個性な声が揃ってホールに轟いたかと思う間もなく、声はたちまち壁の弔幕に吸い込まれた。

「三百」議長が繰り返した。「その一人一人が一万人の同胞たちの代表としてここにいる。三百の剣が揃えばナイフ三百万も同然なのだ」

 今度は旅人に向き直り、たずねた。

「何が望みだ?」

「光を」

「火の山に至る道は辛く険しい。恐れはせぬのか?」

「怖くなどない」

「ここより先にひとたび足を踏み入れてしまえば、もはや引き返すことは出来ぬ。よく考えるがいい」

「目的地まで足を止めるつもりはない」

「誓いの用意はいいか?」

「唱えてくれ。繰り返す」

 議長は手を掲げ、重々しく誓いの文句を唱えた。

十字架に架けられし御子の名に於いて、父と母と兄弟姉妹はらから、妻、二親、友、恋人、王、恩師、服従と奉仕を誓いしすべての者に結びおりし世俗の絆を、断ち切ることを誓え

 旅人が唱えられた文句をよどみなく繰り返すと、議長は第二条に移った。第一条と変わらぬ、重々しくどっしりとした声だ。

汝この瞬間より、国と法に立てし偽りの誓いを捨てよ。これまでに見しこと行いしこと読みしこと聞きしこと学びしこと考えしことを新たな主君に伝えんこと、及びかつて目に映らざりしことを求め探らんこと、これを誓え

 議長が言葉を切ると、旅人は聞いた通りに繰り返した。

毒薬アクア・トファナを敬い讃えよ」変わらぬ口調で議長は続けた。「真理を貶め我らの手から奪わんとする者どもを、死や狂気に追いやり世界を浄めるために、迅速・確実・必須のすべなるがゆえなり

 こだまには誓いの言葉を旅人ほど上手く繰り返すことは出来なかった。議長が先を続ける。

イスパニアを避けよ、ナポリを避けよ、呪われし地を避けよ、見聞きせしことを洩らさんとする誘惑を避けよ。何となれば、稲妻の一閃もナイフの一閃には及ばぬ。何処にいようとも目に見えず避けることも適わぬと思え。

父と子と精霊の名に於いて生きよ

 脅しの含まれた結びの言葉を聞いても、旅人の顔に感情がよぎることはなかった。初めとまったく変わらぬ穏やかな声で、誓いと祈りの復唱を終えた。

「よかろう。新入りの頭に聖帯を巻け」

 二体の亡霊が近寄ると、旅人は頭を垂れた。一人が額に帯を押し当てた。金地に銀の文字があしらわれ、ロレートの聖母図が織り込まれている。もう一人が首の後ろで帯の両端を結んだ。

 それが済むと二人とも旅人一人を残して退いた。

「望みは何だ?」議長がたずねた。

「三つある」新入りが答えた。

「それは?」

「鉄の手、火の剣、金剛の秤」

「なにゆえ鉄の手を望む?」

「圧政を破るため」

「なにゆえ火の剣を望む?」

「地から不浄なものを薙ぐため」

「なにゆえ金剛の秤を望む?」

「人類の運命を計るため」

「審査の覚悟は出来ているか?」

「勇敢であればどんな覚悟も出来る」

「審査だ! 審査だ!」無数の声があがった。

「後ろを向け」

 振り返ると目の前に、死人のように青ざめた男が縛り上げられ猿ぐつわをかまされていた。

「何が見える?」

「悪人か生贄」

「裏切者だ。貴様と同じように誓いを立てた後で、結社の秘密を洩らしたのだ」

「では悪人だ」

「ならば如何なる罰をもって償うべきか?」

「死を」

 三百の亡霊が繰り返した。「死を!」

 死刑宣告を受けた男は必死で抗ったが、部屋の奥へと引きずられて行った。執行人の手の中で身をよじりもがくのが見える。猿ぐつわ越しに洩れるうめきが聞こえる。ナイフが一閃し、稲光のように洋燈の光を照り返すと、鈍い音が聞こえ、身体がどさりと倒れるくぐもった陰気な音がこだました。

「裁きは為された」旅人がそう言って振り返ると、屍衣越しに今の出来事を見つめる貪欲な眼差しがあった。

「では貴様はこの処刑を受け入れるのだな?」議長がたずねた。

「ああ。殺されたのが本当に罪人だったのなら」

「杯を受ける覚悟はあるか? 彼奴のように結社の秘密を洩らす者共の死を祝して」

「無論」

「その中身にかかわらずだな?」

「かかわらず」

「杯を持て」

 執行人の一人が新入りに近づき、生温い赤い液体を差し出した。杯は青銅の脚のついた頭蓋骨であった。

 旅人は執行人の手から杯を受け取り、頭上にかざした。

「結社の秘密を洩らす者共の死を祝して――乾杯」

 杯を口元まで下げて最後の一滴まで空けてから、動じる様子もなく執行人に突き返した。

 驚愕に満ちた囁きが駆け巡る。そしてどうやら屍衣の奥から視線が行き交っているようだ。

「よかろう。拳銃を!」

 亡霊が議長のそばに寄る。片手に拳銃、片手に弾丸と装薬があった。

 旅人はほとんど目を向けもしなかった。

「結社に対する盲従を誓うか?」

「無論」

「その結果が貴様自身に及ぼうともか?」

「ここに入る者は一個の人間ではなく一つの集団だ」

「では、如何なる命令にも従うのだな?」

「従おう」

「今この瞬間も?」

「今この瞬間も」

「躊躇うことなく?」

「躊躇うことなく」

「銃を取って装填しろ」

 旅人は拳銃を取り、銃身に火薬を詰めておくりで塞いでから、弾丸を入れて再びおくりで固定させ、最後に雷管を取り付けた。[*2]

 それを見つめる亡霊たちはむっつりと押し黙ったまま声もあげない。沈黙を破るものは、崩れたアーチの角にぶつかって砕ける風の音だけであった。

「装填した」旅人は事務的に伝えた。

「間違いないな?」

 旅人の口唇に笑みがよぎった。かるかを引き抜いて銃身に滑り込ませると、棒の先が二プスだけはみ出た。

 議長は納得のしるしにうなずいた。

「うむ。間違いない」

「これをどうすれば?」旅人がたずねた。

「撃鉄を起こせ」

 旅人は撃鉄を起こした。受け答えのたびごとに訪れる深い静寂のさなか、その金属音が響いた。

「銃口をこめかみに押しつけよ」

 旅人は躊躇なく言う通りにした。

 これまでにも増した静寂が亡霊たちを覆った。洋燈が色をなくし、亡霊たちはまさしく亡霊にしか見えなかった。現に息をしている者などいないではないか。

「撃て!」

 引き金が引かれ、撃鉄が雷管を叩いた。だが燃えたのは火皿の火薬だけであり、それに伴うはずの銃声はなかった。

 ほとんどの胸という胸から感嘆の声が洩れ、議長は思わず旅人に手を伸ばした。

 だが二つの審査を経ても、疑り深い者たちにはまだ足りなかったらしく、幾多の声が飛んだ。

「ナイフだ! ナイフを!」

「それを望むのだな?」議長がたずねた。

「そうだ! ナイフを!」

「ではナイフを持ってこい」

「無駄だ」旅人は蔑むように首を振った。

「馬鹿な。無駄だと?」亡霊たちが吼えた。

「ああ無駄だ」旅人はその声をかき消すように答えた。「繰り返そう。無駄だ。どうせ貴重な時間を浪費するだけだ」

「何が言いたい?」議長が声をあげた。

「お前らの秘密などすべて知っていると言いたいのだよ。俺にやらせた審査など子供騙しではないか。まともな人間が相手をする価値もない。処刑された男は死んじゃいないのだろう。俺が飲んだ血はワインだった。薄っぺらい革袋に入れて、あらかじめそいつの胸元に隠されていたのだ。この銃の火薬と弾丸は撃鉄を起こして跳ね蓋を開くと銃床に落ちるようになっている。この役立たずは返すぜ。臆病者をびびらせるにはいい代物かもな。もう起きたらどうだ、死体役者さんよ。勇敢な人間には通用せんぞ」

 恐ろしい悲鳴が円天井を揺るがした。

「我らが秘儀を知っているとは!」議長が叫んだ。「さては千里眼か裏切者か?」

「何者だ?」三百の声が和すと同時に、二十の剣が間近にいた亡霊たちの手にきらめき、統率の取れた軍隊のように一糸乱れぬ動きで振り下ろされ、旅人の胸元で交差した。

 だが旅人は静かに微笑み、豊かな髪を揺らして顔を上げた。髪には髪粉もつけず、頭に巻いた一本の紐でまとめられているだけであった。

「『我は在りて在るもの』、俺は俺という者だよ」[*3]

 旅人は隙間なく取り巻いている人垣を睨みつけた。その威圧するような目つきに押されて剣が降ろされたが、その動きは先ほどまでのように統率の取れたものではなかった。瞬時に屈した者もいれば、抗おうとした者もいたからだ。

「不用意な口を利きおったな。どれだけ重要な言葉なのかを知っておれば、口になどせぬものを」議長が言った。

 旅人は笑みを浮かべてかぶりを振った。

「言うべきことを言ったまでだ」

「何処の人間だ?」

「光が昇るのと同じ地の者だ」

「待て、スウェーデンの人間だと聞いておるぞ」

「そのスウェーデンの人間がオリエントの人間だったらどうする?」

「やはり貴様のことは知らぬ。何者だ?」

「俺が誰かだと!……いいだろう、じきに教えてやる。とぼけやがって。だがまずはお前らが何者なのかを教えてやろう」

 亡霊たちはおののき、左手に持っていた剣を右手に持ち替え、音を立てて再び旅人の胸元に突きつけた。

「まずはあんただ」旅人は議長に向かって手を伸ばした。「神様気取りのただの予言者。スウェーデン諸部の代表。あんたの名前さえずばり言っておけば、ほかの奴らの名前を挙げる必要もあるまい。スヴェーデンボリ、仲のいい天使たちは、待ち人発てりと告げなかったか?」[*4]

「何故それを――」議長は屍衣をめくり上げ、旅人のことをもっとよく見ようとした。「確かにそう告げられたが」

 結社のしきたりに反して屍衣がめくり上げられると、八十歳ほどになる、白い顎髭の生えた厳かな顔が現れた。

「さて次だ。あんたの左にいるのがイギリスの代表、カレドニアの支部長だな。今晩は、閣下ミロード。貴殿に流れている父祖の血が甦ったのなら、イギリスから消えた光も再び灯ると思っていいんじゃないのか」

 剣が降ろされ、怒りが驚きに変わり始めた。

「おや! 艦長殿じゃないか?」旅人は議長の左端にいる人間に声をかけた。「恋人のように慕っているあの艦船は何処の港に置いて来たんだ? フリゲート艦プロヴィダンス神のお導き号。アメリカにツキを呼んでくれそうな名前じゃないか?」

 次に議長の右にいる人物に顔を向けた。

「あんたの番だ。チューリヒの予言者殿。俺の顔を見たらどうだ。観相学を予言にまで高めたあんたのことだ、教えてくれ、俺の顔相からやるべき使命が読み取れないか」

 話しかけられた相手が後じさる。

「続けよう」旅人は今度はその隣に話しかけた。「ペラーヨの末裔よ。再びイスパニアからムーア人を一掃せねばならんな。カスティーリャ人どもがシドの剣を失わずにおれば、容易いことであったろうに」[*5]

 イスパニアの代表は物も言わず不動のままだった。よもや旅人のひと声で石と化したわけでもあるまいに。

「では私のことは?」六人目が先回りしてたずねた。「忘れてはいまいか? 私には何も言うことはないのか?」

「そう思うか?」旅人の千里眼がきらめいた。この鋭い眼差しが五人の心を読んできたのだ。「あんたに言うことがあるとすれば、イエスがユダに言った言葉だよ。じきに教えてやる」

 六人目はそう言われて屍衣よりも真っ白になった。恐ろしい告発の意味をたずねているかのようなささやきが交わされた。

「フランス代表を忘れておるぞ」議長が言った。

「ここにはいないからな」旅人は言い捨てた。「わかっているだろう、椅子が空なんだ。いい加減に悟ったらどうだ。闇の中でもものが見えて、どんな条件であろうと動き回り、死んでも生きているような人間には、笑える罠ばかりだぞ」

「貴様は若い。しかも神威を借りて話しておる……よく考えるのは貴様の方だ。臆病で無智な者ほど、強い態度を取りたがる」

 馬鹿にしきった笑いが旅人の口に浮かんだ。

「臆病なのはお前たちだよ。俺に何も出来ないじゃないか。無智なのはお前たちだ。俺が何者か知らぬではないか。ところが俺の方はお前たちを知っている。となれば上手くやるには強く出るしかあるまい。だが全能の人間に強気も何もないだろう?」

「その全能の証だ。証を見せよ」

「お前たちを召集したのは誰だ?」旅人は質問される側からする側に回った。

「最高議会だ」

「目的もなく集まったわけじゃあるまい」旅人は議長と五代表に向かい、「スウェーデン、ロンドン、ニューヨーク、チューリヒ、マドリッド、ワルシャワからわざわざ出張ったんだ。それにお前たちも」と亡霊たちに向かい、「四大陸からこの畏れ多い聖地に集まったのは目的あってのことだろう」

「無論だ」議長が答えた。「オリエントで一大帝国を築き上げた方をお迎えにあがったのだ。その方は両半球を信仰によって一つにまとめ、友愛の双手で人類を包み込みんで下さった」

「そいつだとわかるような印はあるのか?」

「うむ。神が御使いを遣わし教えて下さった」

「知っているのはあんただけか?」

「老生だけだ」

「その印を誰にも洩らしてはいまいな?」

「何処の何者にも」

「言ってみろ」

 議長は躊躇らった。

「言え」旅人は有無を言わさず繰り返した。「言うんだ。公にする時は来た!」

「金剛の徽章を胸につけ、徽章にはその者だけが知る標語の頭文字が三つ輝いておる」

「三つの文字とは何だ?」

「L・P・D」

 旅人はすかさず外套とジレを広げた。上麻のシャツの上に見えたのは、炎立つ星の如く輝く金剛の徽章。その上には紅玉製の三つの文字が燃えていた。

「何と!」議長が息を呑んだ。「あなたが?」

「これが天下の待ち人か!」代表たちの声も震えていた。

「大コフタ!」三百の声が囁く。

「よかろう!」旅人は勝鬨をあげた。「もう一度繰り返せば信じるか? 俺は俺という人間だと」

 同意の声をあげて亡霊たちはひれ伏した。

「御言葉を、師よ」議長と五代表は地に額ずいて請うた。「何なりと。しからば従いましょう」


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Introduction II「Celui qui est」の全訳です。「Introduction I」と共に『La Presse』1846年5月31日に掲載(連載第1回)。


Ver.1 07/08/18
Ver.2 12/09/01
Ver.3 14/03/19

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[訳者あとがき]


 

[更新履歴]

08/07/19
 ▼下から28段目「いい加減に悟ったらどうだ。笑える罠ばかりじゃないか。闇のなかでも見える。何があろうと罠は動く。死んだと思ったら生きている」どうも関係代名詞を上手く訳せてなかったので(というか二節目なんか「罠」が主語になっちゃってるし)改訳。→「いい加減に悟ったらどうだ。闇の中でもものが見えて、どんな条件であろうと動き回り、死んでも生きているような人間には、笑える罠ばかりだぞ」。ところで「総代」っていう表現もどうにかならないものか。「総代表」「支部長代表」「座長」……どれもしっくり来ません。。。13/03/19追記。結局「議長」にする。

12/09/01 ▼「toi qui se crois un dieu, 」。「se croire」が代動名詞なのに「一つの神を信じる」と他動詞のように訳してしまっていたので、「自らを神だと思う」→「神様気取り」に変更。

13/03/19
 ▼「兄弟たちよ、我らの数は?」の次の段落。「- Trois cents, répondirent les fantômes d'une seule et même voix qui tonna dans la salle,」、「une seule et même voix(一つにして同一の声)」とはつまり、「声を揃えて」「同じような声で」ということなのだと思う。

 ▼「Un écho n'eût pas plus fidèlement reproduit ces paroles que ne le fit l'inconnu ; le président reprit : 」。「plus 〜 que …」の比較級なので、「旅人の繰り返す言葉が鈍く響いた。総代が続ける。」 → 「こだまには誓いの言葉を旅人ほど上手く繰り返すことは出来なかった。議長が先を続ける。」に訂正。

 ▼「何が見える?」「Un criminel ou une victime. 」を、「悪人か犠牲者」としていたが、それでは意味が通らないので、「悪人か生贄」に訂正。

 ▼装填シーン。当時の銃の仕組みを調べた結果、「baguette」とは「かるか」のことであるとわかったので、「旅人の口に笑みが浮かんだ。ロッドを引いて銃砲に滑らせ、わずかにずらして見せた。」 → 「旅人の口唇に笑みがよぎった。かるかを引き抜いて銃身に滑り込ませると、棒の先が二プスだけはみ出た。」に訂正。

 
 

[註釈]

*1[オジーヴ]
 Wikipedia 英語版 http://en.wikipedia.org/wiki/Ogive や 仏語版 http://fr.wikipedia.org/wiki/Ogive など参照。[]

*2. [おくり/かるか]
 「おくり(bourre)」とは、銃身と弾丸などの隙間を埋めるための紙や布。「かるか(baguette)」とは、先込め銃の弾丸を銃口から詰めて押し込むための棒。銃身に装着できるようになっている。「ニプス」とは約5cm。「かるか」が銃身からはみ出るということは、銃身の奥に弾丸が入っているということになる。[]
 

*3. [我は在りて在るものなり]
 出エジプト記3:14。モーセが神に名をたずねると、神は「我は在りて在る者なり(私は存在するところの者だ)」と答えた。ここの部分、原文では「Ego sum qui sum, dit-il, je suis celui qui est.」となっていて、仏語部分を英語に直訳するなら「I am that who is」となる(英語では通常「I am that I am」と訳される)。この語句には幾通りかの解釈があるが、『バルサモ』本文では文語訳聖書とは違い「私はそうであるという者である」という意味で用いられている。[]
 

*4. [スヴェーデンボリ]
 1688-1772。スウェーデンボルグとも。スウェーデン出身の神秘思想家。『バルサモ』の舞台である1770年当時は82歳。[]
 

*5. [ペラーヨ/シド]
 ペラーヨ(Pelayo,685?-737)は、西ゴート王国の貴族。718年、スペインはアストゥリアス地方にてイスラム勢力を破り、アストゥリアス王国の初代国王となる。レコンキスタの幕開けを告げる伝説的な人物。「ムーア人」とはこの場合イスラム教徒を指す。
 エル・シド(El Cid,1045?-1099)は、レコンキスタの英雄。エル・シドが用いた剣ティソナ(またはティソーン Tizona/Tizón)とともに、後に伝説化される。[]
 

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