この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第九十一章 王太子殿下の小膳式

 同日、アンドレ・ド・タヴェルネ嬢は三時に自室を出て王太子妃の許へ向かった。正餐(dîner)前の読書が王太子妃の日課だった。

 最初に王太子妃の朗読係だった神父は、今ではもう朗読をすることはなくなっていた。外交上の厳しい局面で何度かその大使としての才能を充分に発揮してからというもの、卓越した政治活動にのみ専念していたからだ。[*1]

 そういうわけでタヴェルネ嬢は務めに相応しい恰好をして自室を出た。トリアノン滞在者の例に洩れず、急な引っ越しによる不便をこうむっており、食器にしても家具の搬入にしてもまだ何の準備もされていないし、着替えをするにもノアイユ夫人の小間使いを借りなくてはならなかった。ちなみにこのノアイユ夫人、その厳しさゆえ王太子妃からエチケット夫人の名を頂戴している。

 身につけている青い絹のドレスは雀蜂のお尻のように腰回りが長くほっそりとしている。前が開いた意匠であるため、刺繍入りのフリルが三列並んだモスリンのペチコートが覗いていた。肘までの長さのモスリンの袖には同じように刺繍が入っていて、肩の部分から袖口まで花綵飾りが並んでいる。袖には刺繍入りの農婦風ショールも付随していて、アンドレ嬢の胸元を慎ましやかに隠していた。美しい髪はドレスと同じ青いリボンで結い上げているだけだった。長く豊かな巻毛となって耳許から襟元や肩まで垂れているその髪の美しさは、羽根飾りや帽子飾りやレース飾りなど及びもつかぬほど、自尊心と慎み深さの同居する顔立ちの美しさを引き立てていた。頬紅など塗ったこともないため、顔色には艶も混じり気もない。

 歩きながらアンドレは、想像も出来ぬほど細く整った指を白い絹の長手袋に滑り込ませた。滑らかな青繻子のミュールが一歩進むたびに、庭の砂上にはヒールの先端が跡をつけていた。

 トリアノンの離れまで来たところで、王太子妃は散歩をしに出かけていることが判明した。設計士と造園師も一緒だ。その一方で最上階からは旋盤の唸る音が聞こえて来る。王太子がお気に入りの大箱につける安全錠作りに勤しんでいるのだ。[*2]

 アンドレは王太子妃に追いつこうとして花壇を横切った。花の季節にはまだ早く、夜の間は覆いをかぶされていた花々が、まだ色づいていない頭をもたげて、花の色よりなお薄い陽の光を吸い込もうとしていた。この時期だと六時には陽が落ちてしまうため、日暮れを前にして庭師見習い(des garçons jardiniers)たちが、寒さに弱い草花にせっせとガラスの覆いをかぶせていた。[*3]

 緑の木々が四角く刈り込まれ庚申薔薇で縁取られている並木道を曲がり、美しい芝生の前まで来ると、庭師の姿が目に入った。庭師は鋤に足を乗せてアンドレを見つめ、使用人階級とは思えぬほど恭しく洗練されたお辞儀をした。

 見ればジルベールではないか。庭仕事をしているというのに両手とも白いままだ。タヴェルネ男爵であれば嫌味の一つでも言うことだろう。

 気づくとアンドレは赤面していた。ジルベールがこんな場所にいることに運命の悪戯めいたものを感じていた。

 ジルベールからの二度目のお辞儀に、アンドレもお辞儀を返してそのまま歩き続けた。

 だがアンドレは正直すぎるなうえに勤勉すぎた。感情の揺れに抗うことも、気がかりな疑問をそのままにしておくことも出来なかった。

 ジルベールは真っ青になってアンドレの動きを暗い目つきで追っていたのだが、アンドレが引き返してみると、途端に生き返ったようになってそばまで飛んで来た。

「此処にいらしたの、ジルベールさん?」アンドレが冷たい声でたずねた。

「そうなんです、お嬢様」

「どうして此処に?」

「背に腹は代えられませんし、真っ当に生きなきゃいけませんから」

「それにしても、幸運だという自覚はあるのかしら?」

「それはもう」

「何ですって?」[*4]

「お考えの通り、僕はたいそう幸運だと言ったんです」

「此処には誰の伝手で?」

「ジュシューさんのお世話になっています」

「何ですって! ジュシューさんと知り合いなの?」アンドレが驚いて声をあげた。

「最初にお世話してくれた僕の師(mon maître)であるルソーさんの友人だったんです」

「せいぜい頑張って頂戴」アンドレはそう言って立ち去ろうとした。

「だいぶ良くなったようですね……?」ジルベールの声は震えていた。胸の奥から洩れ出て来たその声が嗄れているせいで、心臓がばくばくと鳴っているのを気づかれてしまいそうなほどに。

「だいぶ良く? どういうこと?」アンドレの声は冷たかった。

「でも……事故に遭ったのでは……?」

「ああ、そうね……ありがとう、ジルベール。だいぶ良くなったわ。もう大丈夫」

「よかった、あれだけ危なかったのに」ジルベールは感極まっていた。「一時はどうなることかと不安でした」

 頃合いね、とアンドレは感じた。王家の庭の真ん中で庭師とお喋りするのはそろそろ切り上げるべきだ。

「それじゃあね、ジルベール」

「薔薇を受け取っていただけませんか?」汗まみれになって震えながらジルベールはたずねた。

「くれると言ったって、あなたのものでもないのに」

 打ちのめされたジルベールからは一言もなかった。うなだれたジルベールの姿をアンドレが勝ち誇ったような気分で見つめていると、ジルベールが顔を上げて一番立派な薔薇の木から枝ごと花をもぎ取り、堂々と落ち着き払って花を毟り始めたので、アンドレはたじろぎを見せた。

 アンドレは公明で善良な人間だったので、使用人からあからさまに無礼な態度で話しかけられて、訳もなく傷つけてしまったと認めないわけにはいかなかった。自尊心の強い人間が自分の過ちに気づいたらどうするか。要するにアンドレは口許まで出かかった言い訳や謝罪を飲み込み、それ以上は何も言わずにまた歩き出したのである。

 ジルベールもまた何も言わずに薔薇の枝を放り捨てて鋤を手に取った。だが自尊心が強く腹黒い性根の持ち主のこと、身体を屈めたのが作業のためなのは間違いないが、同時に歩み去って行くアンドレの姿を確かめるためでもあった。果たしてアンドレは曲がり角まで行ったところで振り返りたいという誘惑に勝てなかった。所詮アンドレも女であった。

 ジルベールは相手が弱みを見せたことに満足し、たったいま勝ちを収めたばかりの駆け引きについて独り言ちた。

 ――アンドレは僕より弱い。これならものに出来る。美しさと家柄と拓けた運命にお高くとまり、愛されていることに気づいていながら見下しているくらいの方が、見とれて震える貧乏人にとっては却って昂奮するってもんだ。糞ッ! 震えるなんて男らしくないじゃないか。アンドレといると臆病になってしまうけれど、いつか見返してやる。ともかく今日のところはやるべきことをやって、敵を圧倒できた……惚れてる弱みで負けたっておかしくなかったのに、何倍も強かったじゃないか。

 暴れ出す喜びを抑え切れぬままにこの言葉を繰り返し、震える手で理智的な額から黒髪を掻き上げると、力任せに鋤を花壇に突き刺した。そうして糸杉や櫟の生垣を麕鹿ノロジカのように突き抜け、覆いのかぶせられた草花群を風のように軽やかに通り抜けた。かなりの速さで走ったが覆いにはかすりもせず、道なりに歩いているアンドレより先回りしようとして対角線上に向こう端まで急いだ。

 案の定、アンドレが歩いているのが目に飛び込んで来た。物思わしく恥じているのかと思うほどに美しい目を伏せ、汗ばんで垂れ下がった手を揺らめくドレスの上で静かに揺らしている。生い茂った生垣の陰に隠れて耳を澄ますと、独り言でも呟いているように溜息を二度つくのが聞こえた。遂にアンドレが生垣のそばを通りかかり、腕を伸ばせば触れられそうなほど近づいた。おかしな熱に浮かされて実行してしまいそうになる。

 だがジルベールは恨みでもあるかのように眉間に皺を寄せ、引き攣る手を胸に押しつけた。

 ――また臆病風に吹かれたのか。

 と胸の中で呟いてから小さく声に出した。

「それにしても綺麗だ」

 しばらくはそのまま見つめていられるはずだった。並木道は長く、アンドレの足取りは控えめでゆっくりなものだったのだから。だがこの並木道には幾つも側道があったので、いつ何どき誰かがひょっこり姿を現すとも限らない。そして間の悪いことに、実際に邪魔者が現れてしまった。左手一本目の側道、つまりジルベールが身を潜めている生垣のほぼ正面から。

 規則正しい足取りで、胸を反らし、右手に帽子を抱え、左手は剣に置いていた。天鵞絨の礼服の上から黒貂の裏地の外套を纏い、名家の人間に相応しい形の良いふくらはぎと甲高の足先を前に伸ばして歩いている。

 それがアンドレを目にして心奪われたらしく、近道をして足を早め、アンドレの行く手を目指して一刻も早く行き会おうとした。

 ジルベールはその姿を見て思わず小さく声をあげ、漆の葉陰に逃げ込むツグミのように退散した。

 邪魔者の企ては成功した。どうやら手慣れているらしく、三分前にはかなりの距離があったにもかかわらず、三分も経たずにアンドレに先んじていた。

 足音に気づいたアンドレは脇によけ、道を譲ろうとして相手を見つめた。

 殿方の方でもアンドレをまじまじと見つめていた。あまつさえもっとよく見えるように立ち止まり、その後でアンドレに真っ直ぐ身体を向けた。

「お嬢さん、そんなに急いでどちらまで行かれるのですか?」麗しい声だった。

 その声の響きにアンドレが顔を上げると、三十歩ほど後ろを親衛隊将校(officiers des gardes)が二人ゆっくりと歩いている。声の主が貂の外套を纏い、青綬を着けていることに気づき、思いがけない出会いと気品のある問いかけに、真っ青になって震え出した。

「陛下!」アンドレは深々と身を屈めた。

「マドモワゼル……」ルイ十五世が近づいた。「済まぬが目が悪いのでお名前を伺っても構わぬかな」

「マドモワゼル・ド・タヴェルネと申します」畏まって震えながら、やっと聞こえるほどの声で囁いた。

「ああ、そうであった。トリアノンで散歩するのは気分が良いであろう」

「王太子妃殿下がお待ちしているので、これから参るところでございます」アンドレの震えがますますひどくなる。

「それでは連れて行って差し上げよう。ちょうどこれから、田園を愛する一人として娘を訪れるところなのだ。腕を取ってくれぬか、同じ道行きだ」

 アンドレの視界に雲がかかり、血潮に流され心臓にまで逆巻いて行った。それもそのはず、最高君主である国王の腕を取るような栄えある出来事など、思いもかけない信じられぬ栄誉であり、宮廷中から妬まれるほどの厚遇である。まるで夢だとしか思えなかった。

 そうしてアンドレから深々と畏まったお辞儀をされて、国王も改めて挨拶する必要を感じた。ルイ十五世がルイ十四世のことを思い出そうとするのは、決まって作法や礼儀が問題になっている時だった。もっとも、ルイ十四世の礼儀作法の伝統はさらに昔、アンリ四世にまで遡る。

 斯かる経緯を経て、国王はアンドレに手を差し出した。アンドレの火照った指先が国王の手袋に置かれると、二人揃って離れ(le pavillon)に向かって歩みを進めた。王太子妃は設計士と造園師(son architecte et son jardinier en chef)と一緒に其処にいると、国王は聞かされていたからだ。

 歩くのが嫌いなルイ十五世が、アンドレをプチ・トリアノンまで案内するためにわざわざ遠回りをしていた。後ろを歩いている将校二人は国王によるこの異例の行動に気づいて不満を洩らした。二人とも薄着だというのにそろそろ肌寒くなって来ていたからだ。

 遅すぎた。いるはずの場所に王太子妃はいなかった。王太子が六時から七時の間に夜食(souper)を摂る習慣だったため、待たせないよう立ち去った直後だった。

 つまり王太子妃の到着は時間通りだったということだ。時間に正確な王太子はすぐにでも食堂に行けるようにと、給仕長が姿を見せた時には応接室の出入口で待ち構えていたので、王太子妃は小間使いの手にケープを預けてにこやかに王太子の腕を取り、食堂まで手を引いて行った。

 食堂には王太子夫妻のために食器が並べられていた。

 二人は上座を空けて食卓の真ん中に坐ることにしていた。国王がひょっこり顔を出すことが何度かあってからというもの、招待客が多い時でも絶対に空けておいた。

 上座の大部分は食器箱に入った国王の食器で塞がっていたが、給仕長は国王が来ないものと考えて上座側で給仕していた。

 王太子妃の椅子の後ろには、給仕が通れるだけの空間があって、そこにノアイユ夫人もいた。しゃちほこばってはいるが、それでも夜食時に相応しかるべき愛想の良さをたっぷり顔に浮かべている。

 ノアイユ夫人のそばにはほかにも貴婦人たちがいた。王太子夫妻の夜食に臨席する権利を有するかもしくはそれだけの寵愛を得ている者たちである。

 週に三回、ノアイユ夫人は王太子夫妻と同じ席で夜食を摂ることになっていた。だが会食のない日でも夜食には絶対に欠席しないようにと心がけていたし、さらに言うならそれが週に四日は席を外されることに対する抵抗手段であった。

 王太子妃からエチケット夫人の名を頂戴していたこのノアイユ公爵夫人の正面には、リシュリュー公爵が同じような壇上(gradin)に鎮座ましましている。

 リシュリューとて礼儀作法にはうるさい人間である。ただしそれが万人の目に触れることはなく、大抵はこよなく洗練された態度の下に、そして時にはかすかな嘲笑の下に隠されたままだった。

 この点に於いて国王の部屋付き第一侍従と王太子妃の第一侍女は正反対だったので、ノアイユ夫人が終わらせた会話をリシュリュー公爵が再開させるということがしょっちゅう起こっていた。

 リシュリュー元帥はヨーロッパの宮廷という宮廷を渡り歩き、その先々で相手方に合わせた優雅な物腰を披露して来たので、機転と作法に秀でており、若き王子夫妻の食卓であれデュバリー夫人の小膳であれ何処で語られるのにも相応しい話題を身につけていた。

 そんなリシュリューの見るところでは、その晩の王太子妃と王太子はいずれも劣らず食べるのに余念がない。となれば二人とも話の内容に反論はするまいから、すべきことはノアイユ夫人に一時間の生き地獄を味わわせることだけだ。

 リシュリューは哲学と演劇について話し始めた。話題が二つあれば、ご立派なノアイユ夫人に二倍も嫌悪感を抱かせることが出来る。

 まずは警句を一つ話題にした。その頃には既に〈フェルネーの哲学者〉と呼ばれていた『アンリアード』作者による最新の警句である。ノアイユ夫人が苛立っているのを確認すると話題を変えて、部屋付き侍従として、その巧拙にかかわらず王立劇団の女優たちに演技させる苦労を語った。[*5]

 王太子妃は芸術を、とりわけ演劇を愛していた。クリュタイムネストラの完璧な衣装をロークール嬢に送っていたくらいなので、リシュリューの話を広い心で聞くだけではなくむしろ楽しんで耳を傾けた。

 その間ノアイユ夫人は作法も忘れて壇上で苛立ちを見せ、音を立てて鼻をかんでお堅い頭を揺らし、そのたびにさながら北風に吹かれたモン・ブラン山頂の雪のように髪粉がおでこに降り注ぐのも気にしなかった。

 だが王太子妃を楽しませるだけで終わりではなく、さらに王太子を喜ばせなくてはならない。このフランス王位継承者は演劇にはまるで興味を示さなかったので、リシュリューは演劇の話題を引っ込めて人道思想について話すことにした。ルソーがエドワード・ボムストンという人物に流水の如く注いだような熱意を英国人に対して有していたからだ。

 ところがノアイユ夫人は哲学者と同じくらい英国人が嫌いだった。

 新しい思想など苦痛でしかなく、苦痛に苛まれれば自分らしさを保てなくなる。保守派を自任していたノアイユ夫人は、ただの仮面に吠えつく犬のように、新しい思想に対してよく声をあげていた。

 リシュリューがこうした手を打つのには二つの目的があった。エチケット夫人を困らせれば王太子妃は大喜びしたし、正確な物事を愛する王太子に快く受け入れられるような高尚な警句や数学の公理は何処にでも見つかった。

 だからリシュリューは巧みに胡麻をすっていたが、その間も目だけはせわしなく動かして、此処で会えるものと思っていた人物の姿を探していた。見つけられずにいたところに、階段の下から穹窿に響き渡る声がした。踊り場で別の従者たちによって同じ言葉が繰り返され、最後に階段の上でもまた繰り返された。

「国王陛下です!」

 それは魔法の言葉だった。ノアイユ夫人はバネではじかれたように壇上で立ち上がり、リシュリューは普段と変わらずゆっくりと腰を上げ、王太子は慌てて口を拭ってその場で席を立ったまま顔を戸口に向けた。

 王太子妃は階段まで歩いて行った。少しでも早く国王を出迎えて我が家でもてなすために。


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre XCI「Le petit couvert de M. le dauphin」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年9月28日(連載第91回)。


Ver.1 11/03/19
Ver.2 19/06/13
 

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[更新履歴]

・19/06/13 ▼「à trois rangs de tuyaux brodés」。「tuyau」を辞書で調べると「丸襞」と載っているが、それではさて丸襞とは何かと調べてもわからない。「tuyautés」等で検索してみると、フリルに近いがフリルほどひらひらしておらず、文字通り管(tuyau)状の襞が連なっている。わかりやすさを優先して「フリル」と訳した。

「歩き回っていた王太子妃の姿を見つけた」 → 「王太子妃は散歩をしに出かけていることが判明した」に訂正。

▼庚申薔薇(rosiers du Bengale)は四季を通して花をつける。また、「en charmille」なので「クマシデの」ではなく「トンネル・生垣の形に」であり、要するに自然のままではなく四角く(平たく)刈り込まれているということ。「熊垂とベンガル薔薇で縁取られた並木道」 → 「四角く刈り込まれ庚申薔薇で縁取られている並木道」に訂正。

▼「elle n'en est que plus désirable pour le pauvre ouvrier qui tremble en la regardant. 」アンドレにとって望ましいのではなく、ジルベールにとって望ましいので、「見とれて震えている庭師に好意を抱かざるを得ないんだ」 → 「見とれて震える貧乏人にとっては却って昂奮するってもんだ」に訂正。

▼ここで言う「cadenas」とは「南京錠」ではなく「国王の食器入れ」を差すので、「錠のかけられた国王の食事」 → 「食器箱に入った国王の食器」に訂正。

▼「madame de Noailles se leva comme si un ressort d'acier l'eût fait saillir de son gradin ;」。「椅子から突き出したバネのように立ち上がった」のではなく、「バネではじかれたように壇上で立ち上が」ったのである。

 

[註釈]

*1. [朗読係だった神父]
 1769年、翌年の婚姻を控え、フランス語の出来なかったオーストリアのマリー=アントワネットの許にフランスからヴェルモン神父が教育係として派遣されている。フランスでも教育係を務め、政治的にも影響力を持つようになる。[]

*2. [トリアノンの離れ]
 「pavillon français(フランス館)」または「pavillon frais(涼みの館)」のことか? 「最上階(l'étage supérieur)」とは「toit-terrasse(屋上)」か。[]

*3. [この時期]
 史実であれば12月。だいぶ先の第106章には1771年9月15日という日付が出てくる。[]

*4. [何ですって?]
 汗水垂らして働くのをジルベールが「幸運」と表現するとは思わなかったので驚いたということか?[]

*5. [フェルネーの哲学者/『アンリアード』作者]
 『La Henriade』(1723)は、ヴォルテールの叙事詩。また、ヴォルテールは1758年フェルネーに移住し、1778年パリに戻るまで留まった。[]

*6. []
 []

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