この翻訳は翻訳者の許可を取ることなく好きに使ってくれてかまわない。ただし訳者はそれについてにいかなる責任も負わない。
翻訳:東 照
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ジョゼフ・バルサモ

アレクサンドル・デュマ

訳者あとがき・更新履歴
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第九十二章 王妃の髪

 国王ルイ十五世はタヴェルネ嬢に腕を添えられたまま踊り場に姿を見せた。その場でタヴェルネ嬢にしたお辞儀が礼儀正しく時間を掛けたものだったので、リシュリューはたっぷり時間を取ってそのお辞儀を観察し、その気品に見惚れ、こんな挨拶をされているのはどんな幸運なご婦人なのだろうかといぶかった。

 それがわかるのにも長くはかからなかった。国王が王太子妃の腕を取って話しかけたからだ。王太子妃の方ではすべて目にしてアンドレにもとうに気づいていた。

「夜食にお邪魔しに来たのだがね、ナニ、形式張ったものではない。庭園を渡っている途中でタヴェルネ嬢にお会いしたので、ご一緒させてもらったのだ」

 ――タヴェルネ嬢だと! リシュリューはあまりの不意打ちに眩暈を起こしそうになった。――こいつは運がいい!

「そういうことでしたら遅れたことを咎めるつもりはありませんし、むしろ陛下を連れて来て下さったことに感謝したいくらいですわ」王太子妃はにこやかに国王に応えた。

 アンドレは飾り花の中央に埋まっているさくらんぼのように真っ赤になって、何も言えずにうつむいてしまった。

 ――とにもかくにも確かに美しい娘だ。リシュリューは内心で呟いた。――タヴェルネめの言ったことは、あながち大げさでもなかったのだな。

 そうこうしているうちに国王は王太子の挨拶に応じてから席に着いていた。国王は曾祖父ルイ十四世から飽くなき食欲を受け継いでいたので、給仕長が魔法のように短時間で出した料理をたっぷり楽しんだ。

 だが国王は戸口に背を向けて食事を続けながらも、何かを、否、誰かを探しているようだった。

 なるほどタヴェルネ嬢は如何なる特権も有さぬし、まだ王太子妃のおそば仕えに決まったわけでもなかったので、国王に深々とお辞儀を返した後は食堂に入らず王太子妃の寝室に退っていたのである。これまでにも何度か、床に入った王太子妃から朗読を頼まれたことがあったからだ。

 国王の探しているのがアンドレだと王太子妃は気づいた。

「コワニー殿」王太子妃は国王の後ろに控えていた若い親衛隊将校(officier des gardes)に声をかけた。「タヴェルネ嬢をこちらに。ノアイユ夫人の許しを得て、今夜は無礼講で参りましょう」

 コワニー氏が立ち去り、すぐにアンドレが連れて来られた。一度ならず二度までも異例の厚遇を受けるような心当たりがないものだから、すっかり狼狽えてしまっている。

「そこにお坐りなさいな、公爵夫人の隣です」

 王太子妃に言われて、アンドレはおずおずと壇上に上がった。狼狽えていたあまり、ノアイユ夫人にぴったりくっついて坐るという暴挙に出た。

 当然のようにぎろりと睨まれて、感電したように四ピエは飛びすさった。

 ルイ十五世がそれを見て微笑んでいる。

 ――ははあ、そうか。とリシュリュー公爵は考えた。わしが首を突っ込むまでもない、すべてはひとりでに進んでおる。

 その時国王がリシュリューに顔を向け、リシュリューも万全の態勢でその眼差しを受け止めた。

「ご機嫌よう、元帥閣下。ノアイユ公爵夫人とは上手くやっておるかね?」

「公爵夫人からは相変わらず不調法者の称号を頂戴しております」

「シャントルーにも行ったのか?」

「シャントルーに? とんでもない。陛下が我が一族に示して下さったご厚意を喜ぶあまり、それどころではありませんでした」

 これは国王には不意打ちだった。皮肉ろうと思っていたのに、まんまと先んじられてしまった。

「余が何をしたというのだ?」

「デギヨン公爵に近衛軽騎兵聯隊の指揮権を与えて下さいました」

「ああ、そうだったな」

「そのためにはお力と手腕を残らずふるわれる必要があったはずです。さながらクーデターのように」

 食事が終わった。国王は一呼吸置いてから席を立った。

 このまま会話を続けてゆけば厄介なことになりかねないが、それでもリシュリューは獲物を放すまいと心に決めた。だから国王がノアイユ夫人や王太子妃やタヴェルネ嬢と話を始めると、リシュリューは如才なく立ち回り、望んでいた話題へと舵を取ってお喋りに花を咲かせた。

「人というのはことが上手く運んだ時には大胆になるものではありませんか?」

「そなたが大胆な態度を取るのは、言いたいことがあるからというわけか?」

「陛下にお願いしたいことがあるということです。これまでわしに賜ったご寵愛に加えて、新たにご寵愛をいただきたいのです。わしの友人に、陛下に古くから仕えている者がおって、一人息子が近衛聯隊におります。才能はあるのですが、如何せん家が貧しい。大公女殿下から中隊長(capitaine)を拝命したものの、肝心の中隊と隊員(compagnie)が存在せぬのです」

「その大公女とは余の嫁御のことか?」国王は王太子妃の方を見ながらたずねた。

「その通りです」とリシュリューは答えた。「そしてその若者の父の名はタヴェルネ男爵と申します」

「お父様……」アンドレが思わず声をあげた。「それにフィリップ……では閣下はフィリップのために中隊のお願いして下さるのですか?」

 そう言った後でアンドレは礼を失したことに気づき、恥ずかしさで真っ赤になって両手を合わせ、後ろに引っ込んだ。

 国王はアンドレに目を向け、恥じらい慌てる様子に見惚れてから、リシュリューに目を戻した。その眼差しが好意的なものだったので、先ほどのお願いのおかげでいい機会を得られて上機嫌なのがリシュリューにもわかった。

「素晴らしい方なのは請け合います」と王太子妃も言葉を挟んだ。「それにわたし、あの方に未来を与えると約束もいたしました。大公というのも困りものね! 神様と来たら、せっかく善意を授けて下さっても、記憶や理性を取り上げてしまうんですもの。あの方が貧しくて、肩章を与えるだけでは足りず、中隊も与えなければならないと考えるべきだったのに」[*1]

「そんなこと仰らないで下さい。妃殿下がご存じのはずなかったのですから」

「いいえ、知っておりました」王太子妃は即答した。その口振りからアンドレは何もなく質素ではあったが幸せだった少女時代の家庭を思い出していた。「知っておりましたのに、フィリップ・ド・タヴェルネ殿に中隊長の地位を与えただけですべてやり終えた気になっていたんです。フィリップ、というお名前でしたね?」

「はい、殿下」

 国王は気高く嘘のない二人の顔を見つめてから、続いてリシュリューの顔に目を留めると、その顔にまで王太子妃の高貴な光が反射して輝いていた。

「やれやれ、公爵のせいでリュシエンヌとは仲違いだな」と国王は独り言ちた。

 それからすぐにアンドレに向かってたずねた。

「そういうことで満足してもらえるだろうね?」

「ああ陛下、願ってもないことでございます!」アンドレは両手を合わせて懇願した。

「では承知した。公爵、その貧しい若者に立派な中隊を選んでやり給え。支払いが残っていたり空きが埋まらないというのなら、資金は出そう」

 この寛大な計らいによって誰もが幸せな気分を味わえた。国王はアンドレの天使のような微笑みを手に入れられたし、リシュリューはその美しい口から感謝の言葉を受け取った。若い頃のリシュリューであれば、その口唇をさらに貪欲に求めたことであろう。

 来訪者が次々に到着した。ロアン枢機卿もいる。王太子妃がトリアノンに居を定めてからというもの、ことあるごとに取り入っていたのである。

 だがその晩を通して国王が慇懃かつ好意的な言葉をかけた相手はリシュリューただ一人であった。王太子妃に暇乞いをしてグラン・トリアノンに引き返す時にはリシュリューを誘うことさえした。リシュリューの方も歓喜に身を震わせて国王に従った。

 こうして国王がリシュリューと将校二人を連れて、暗くなった並木道を通って宮殿に戻っている頃、アンドレは王太子妃から退出の許しを出されていた。

「パリにこの朗報を知らせなくちゃならないでしょう。退って結構よ」

 アンドレは角灯を持った従僕の後ろから、トリアノンと使用人棟を隔てている百歩ほどの空間を横切った。

 そのアンドレよりも先に植え込みから植え込みへと渡って木陰に飛び込み、アンドレの動きに合わせて目を光らせている影があった。ジルベールだ。

 玄関前に到着したアンドレが石段を登り始めると、従僕はトリアノンの控えの間に引き返した。

 それを見計らってジルベールは玄関に忍び込み、厩舎の中庭に侵入した。それから梯子のように険しい小階段を伝って屋根裏部屋まで上ると、その正面にアンドレの暮らす角部屋の窓が見えた。

 アンドレは服を脱ぐのを手伝ってもらいに、同じ階に住んでいるノアイユ夫人の小間使いに声をかけた。ところが小間使いが部屋に入ると窓のカーテンが閉められ、ジルベールの期待とその対象との間にぶ厚い帳を降ろしてしまった。[*2]

 トリアノン宮殿に一人残ったロアン枢機卿は王太子妃のご機嫌取りにますます余念がなかったが、王太子妃からは極めて冷たくあしらわれていた。

 さすがにぶしつけが過ぎるかと枢機卿も不安に思い始めた。王太子はとっくに退出していたのだからなおさらだった。そこで王太子妃に深い愛情と敬意を込めて暇乞いをした。

 枢機卿が四輪馬車に乗り込んだ直後、王太子妃の小間使いが近づいて来て車内に半身を差し入れた。

「これを」

 枢機卿は手渡された柔らかい紙包みに触れてぞくりと身体を震わせた。

「これを」枢機卿も慌てて答え、ずっしり重たい財布を小間使いに手渡した。空っぽだったとしてもかなりの報酬になったことだろう。

 枢機卿は時間を無駄にせず、馭者に向かってパリ行きを命じ、市門に着いたら改めて指示を請うよう伝えた。

 枢機卿は道中ずっと薄暗い馬車の中で、恋に溺れた人間のように紙包みの中身を撫でて口唇を押し当てていた。

 市門に着くと、「サン=クロード街に」と命じた。

 それから間もなくして、枢機卿は人知れず中庭を通り抜け、無言の案内人フリッツのいる応接室を再訪していた。

 バルサモには十五分待たされた。ようやく姿を見せた時も、遅れた言い訳として、こんな遅い時間に人が来るとは思っていなかったのだと説明された。

 なるほど夜の十一時近い。

「男爵殿、返す言葉もない。お邪魔したことはお詫びいたします。ですがあの日仰ったことをお忘れですか? 心の奥底を確かめるためには……」[*3]

「あの日は、その方の髪が必要だという話をいたしましたな」バルサモが遮った。うぶな枢機卿の持つ紙包みには先刻から気づいていた。

「如何にも」

「では髪をお持ちになったのですか、猊下? 結構です」

「此処にあります。終わった後でまた返していただけるのでしょうか?」

「火が必要にならない限りは……必要な場合には……」

「もちろんそうでしょうとも」枢機卿が言った。「その時はその時で、また改めて手に入れます。結果は出ますか?」

「今日中に?」

「とても待ってはいられないのです」

「まずはやってみましょう」

 バルサモは髪をつかんで急いで階上のロレンツァの部屋に向かった。

 ――これで王室の秘密も俺のものだ。神の隠れた御心も俺のものだ。

 バルサモは壁の向こうから、隠し扉を開きもせずにロレンツァを眠らせた。だからロレンツァからは温かい抱擁で迎え入れられた。

 バルサモは苦労して腕を剥がした。目覚めているロレンツァになじられることと、眠っているロレンツァに優しくされること、そのどちらがバルサモにとってよりつらいことなのかは誰にもわかるまい。

 首に架けられた二本の腕で出来た鎖をすっかりほどくと、ロレンツァの手に紙包みを預けてたずねた。

「さあロレンツァ、この髪が誰のものだかわかるか?」

 ロレンツァは紙包みを胸に押し当て、次いで額に押し当てた。目は開いているものの、眠りに就いている間は胸と額でものを見ているのだ。

「高貴な方の頭からくすねられたものです」

「だろうな……幸せな人間のものか? 答えろ!」

「多分そうです」

「ちゃんと確かめるんだ、ロレンツァ」

「ええ、多分そうです。その方の人生にはまだ影が見えません」

「だが結婚を……」

「あら!」ロレンツァがにっこりと微笑んだ。

「どうした? 言いたいことがあるのか?」

「その方は結婚しています、でも……」

「でも、何だ?」

「でも……」

 ロレンツァが再び微笑んだ。

「私だって結婚しています」

「もちろんだ」

「でも……」

 バルサモは心底驚いてロレンツァを見つめた。催眠状態にもかかわらず、顔にははにかんだような赤らみが広がっている。

「でも、何だ? さっさと言うんだ」

 ロレンツァがまたもやバルサモの首に手を回し、胸に顔をうずめた。

「でも、私は処女です」

「ではその女も、その大公女、その王妃も、結婚しているにもかかわらず……?」バルサモが声をあげた。

「その女、その大公女、その王妃も、私と同じく純潔、処女なのです。純潔度も処女性も上回ってさえいます。私とは違い、愛するということを知らないのですから」

「何てこった! 感謝する、ロレンツァ。知りたいことはすべてわかった」

 バルサモはロレンツァを抱きしめ、髪の房をポケットの中でしっかりと束ねると、ロレンツァの黒髪の先を切り取って蝋燭で燃やし、王太子妃の髪をくるんでいた紙切れでその灰を包んだ。

 それが済むと階段を降り、階下に戻りながらロレンツァを覚醒させた。

 枢機卿は待ちかねて、どうしたのかと不安を顔に出していた。

「どうでした、伯爵殿?」

「そうですね、猊下……」

「お告げは……?」

「ご期待通りのお告げがありました」

「お告げがそう言ったのですか?」枢機卿の声は高ぶっていた。

「お望みのように解釈して下さい、猊下。お告げによれば、その方は夫を愛していないそうです」

「そうなのですね!」ロアン枢機卿が歓喜の声をあげた。

「ところで髪の毛ですが、髄から啓示を得るため燃やさざるを得ませんでした。灰はここにあります。きちんとお返ししようと、粉の一つ一つが百万フランあるのだというつもりで残らず集めておきました」

「ありがとう、どう感謝していいものか、お礼のしようもない」

「その話はよしましょう。ただ一つ忠告がございます。その灰をワインに混ぜて飲んではなりません。そんなことをする恋人たちもたまにいるようですが。過度な思い入れは危険です。女の気持ちが離れても、あなたの愛が治まらなくなりかねません」

「気をつけよう」枢機卿は怯えたように答えた。「では、伯爵殿。失礼します」

 二十分後、枢機卿猊下の四輪馬車はプチ=シャン街の角でリシュリュー氏の馬車とすれ違い、家を建てるために掘られた大きな穴に落ちそうになった。

 二人の貴族は互いの顔を認めた。

「これは大公殿!」リシュリューが笑みを浮かべた。

「これは公爵殿!」ルイ・ド・ロアン氏は口に指を一本立てた。

 二人は反対方向に去って行った。


Alexandre Dumas『Joseph Balsamo』Chapitre XCII「Les cheveux de la reine」の全訳です。初出は『La Presse』紙、1847年9月29日(連載第92回)。


Ver.1 11/03/19
Ver.2 12/10/10
Ver.3 19/08/02

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[註釈・メモなど]

 ・メモ
▼「王妃の髪」ここで言う「王妃(reine)」とは言うまでもなく王太子妃のこと。
▼「シャントルー」ショワズールの追放先。
▼「ある秘密についてお約束」→第59章「その方の金の巻き毛」

[更新履歴]

・12/10/10 「大公の方々ったらお気の毒に! 神様と来たら、せっかく意思を授けても、記憶や理性を取り上げてしまうんですもの。あの方が貧しいですとか、肩章を与えるだけでは足りずに、中隊も与えなければならないですとか、そんなこと考えなくともいいんじゃありませんの?」 → 「大公というのも困りものね! 神様と来たら、せっかく善意を授けて下さっても、記憶や理性を取り上げてしまうんですもの。あの方が貧しくて、肩章を与えるだけでは足りず、中隊も与えなければならないと考えるべきだったのに」

・19/08/01 ▼「capitaine」を「聯隊長」と訳していたので「中隊長」に訂正した。

・19/08/02 ▼「– Eh ! madame, comment Votre Altesse l'eût-elle su ?」は、「どうやって殿下がそれを知ったというのか?(いや、知りようがない)」という反語なので、「おや、妃殿下はその若者をご存じなのかな?」 → 「そんなこと仰らないで下さい。妃殿下がご存じのはずなかったのですから」に訂正。発言者もアンドレに改めた。

・19/08/02 ▼「se retirer」を「revenir」と空目していたので、「王太子が戻って来るのを見てますますその思いを強くした」 → 「王太子はとっくに退出していたのだからなおさらだった。」に訂正。

・19/08/02 ▼「Le cardinal, sans perdre de temps, commanda au cocher de partir pour Paris, et de demander de nouveaux ordres à la barrière.」、命令の内容は「de partir」と「de demander」であって、「commanda」してから「demander」したわけではないので、「パリに向かうよう御者に命じてから、市門に向かうよう改めて指示した。」 → 「馭者に向かってパリ行きを命じ、市門に着いたら改めて指示を請うよう伝えた。」に訂正。

・19/08/02 ▼「Mais vous souvenez-vous de m'avoir dit, un jour, que pour être assuré de certains secrets… ?」。第59章の内容と併せても、「secrets」は「秘密」というより「心の奥底」であろうし、「保証する」は「assurer」であって「être assuré」とはならない。「(王妃の)心の奥底を確信するためには(金の巻毛が必要なのでは)?」のような台詞が省略されていると考えるべきか? 「ある秘密についてお約束したはずではありませんか……?」 → 「心の奥底を確かめるためには……」に訂正。

・19/08/02 ▼「Il eût été difficile de dire quelle chose était plus douloureuse au pauvre baron, ou des reproches de la belle Italienne quand elle était éveillée, ou de ses caresses quand elle dormait.」。「ou des reproches 非難か」「ou de ses caresses 愛撫か」「quelle どちらが」「plus より」つらいかはわからない、という文意であろう。「どんなことがこの哀れなバルサモ男爵を苦しませるのかをお伝えすることは難しい。ある時には覚醒しているロレンツァの非難、ある時には眠りに就いているロレンツァの愛撫。」 → 「目覚めているロレンツァになじられることと、眠っているロレンツァに優しくされること、そのどちらがバルサモにとってよりつらいことなのかは誰にもわかるまい。」に訂正。

 

[註釈]

*1. [未来を与えると約束もいたしました]
 第13章でマリー=アントワネットは「ウィーンを発った時に心に決めたことがありました。フランスの地を踏んで最初に出会ったフランス人の方に、未来を与えようと」という発言をしている。[]

*2. [服を脱ぐのを手伝ってもらいに]
 原文には何を手伝ってもらうのか目的語に当たる単語はないが、目的語がないと日本語として据わりが悪いので、夜中に自室に戻って手伝ってもらうことといえば服を脱ぐか髪を解くかだろうと解釈して補った。[]

*3. [あの日仰ったことを]
 第59章に「猊下の思っていらっしゃる方に触れるか、その方の持っている物に触れないと、私としても何も申し上げることが出来ません」「何が必要なのです?」「例えばその方の金の巻き毛、どれだけ小さくとも構いません」というやり取りがある。[]

*4. []
 []

*5. []
 []

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